FOSS4Dって何だ?と数年前に初めてこの略語見たときは「?」だったけれど、これが、最近では、ICT4D(Information Communication Technology for Development)やM4D(Mobile for Development)に並んで結構目にするようになった。この“Free Open Source Software for Development”について、来年、国連大学が本を作るということでちょっと前に、寄稿募集“Call for Book Chapters”が出ていた。
FOSSについては、あまり調べたことがなかったもののちょっと興味があったので以下のような文脈で寄稿募集に出してみた。
1.背景
FOSSを途上国開発に利用するという話になると、FOSSはコストが安い、ベンダーロックイン(ベンダーに囲い込まれること)を避けられる、違法コピー使用を避けられる、ソフトの中身がわかるので安心、ソフト開発を通じてスキルUp出来る、といったメリットがある。
2.現状の問題点
開発援助機関などがFOSSの利用を推奨しているが、実際に途上国でFOSSがそんなに使われてはいない。何故か?それはFOSSのメリットの捉え方がズレているから。以下のように、商用ソフトとの比較でのメリットは実はそれほどないのではないか。
- FOSSはコストが安い⇔でも、私企業も導入後の運用・保守で儲ける方針でソフトをかなり低価格で供給することもある。また、そもそも違法コピーが主流の途上国でソフトのコストは関係ない。
- ベンダーロックインを避けられる⇔FOSSか商用ソフトかに関係なくベンダーはあの手この手でロックインしようとする。組織内で内製(自社開発)しない限りベンダーロックインの可能性はある。
- 違法コピー使用を避けられる⇔違法コピーを避けようとしていない人がほとんど。途上国では関係ない。
- ソフト開発を通じてスキルUp出来る⇔そこまでスキルがある技術者は限られてい
3.改善案
FOSS利用を推奨するときに、安いとかベンダーロックインを避けられるとか、商用ソフトとの比較でFOSSのメリットをアピールするのは辞めて、FOSSならではのメリットである「ソフトウエア開発に参加出来る」という点をもっと強調するべき。ICT4D1.0からICT4D2.0へのシフト(途上国の人々を受動的な情報の受け手(=consumer)として考えるのではなく、情報の作り手(=producer)として考えるという前提条件の変化)の観点から見ても、FOSSならばソフト作りにproducerとして参加出来る点がもっとクローズアップされるべきである。
とはいえ、2.の4つ目で指摘したように、途上国にそこまでスキルのある技術者は限られているのが現状。ではどうするか?先進国の技術者と途上国の技術者が一緒になってソフトウエア開発をする仕組みを作ればよい。リナックスに代表されるFOSSプロジェクトがボランティアの技術者によって促進されていることを考えれば、途上国のニーズにあったソフトウエア作りを支援したいと思う先進国の技術者はいるだろう。その両者が一緒にソフト作りを出来るWeb上のプラットフォームがあれば良い。さらに、途上国の技術者だけでなく、ニーズを感じているテクニカルでない人達も、ニーズや要件を訴えることが出来る場となれば、技術者以外も一部producerの役割を担うことが出来る。ケニアのUshahidiが技術者ではない弁護士の方がブログで要望を書いたことがきっかけで創られたのが良い例だ。これからは、途上国の人のニーズを受けて、先進国の技術者が指導しつつ途上国の技術者と共に本当に現場のニーズにあったソフトウエアを開発していくことが出来るのではないだろうか。
4.今後の展望
KivaのようにP2Pで途上国と先進国の個人が繋がる仕組みが当たり前になっている。FOSS4Dの分野でも、ニーズのあるソフト開発案件がリスト化されてて、参加したいと思う技術者(先進国、途上国問わず)が「参加する」投票をして、ある一定のリソースが確保されたらプロジェクト開始みたいな、Kivaのソフト開発プロジェクト版のようなサイトが登場して来たら面白そうだ。また、これまで途上国開発に参加していなかったアクターの参加が可能となることのインパクトは大きいし、個人レベルで途上国と先進国の人達が共同作業をする場が出来たら、それは単なるFOSS4Dという枠を超えて、途上国開発のあり方自体に変化をもたらす素晴らしいことだと考えられる。援助機関がそういう場を設ける試みをしても良いだろう。
5.まとめ
FOSS利用を途上国で進めていくためには、商用ソフトと比較してFOSSのメリットをアピールするのは程ほどにして、FOSSが先進国のこれまで途上国開発と無縁だったであろう人々を巻き込むための、新しい仕組みを提供するツールになりえるという点にもっと注目していくことが大切である。
以上が簡単なアウトライン。思いつくままに書いてみたけど、果たして自分の思っていることが正しいのかはあまり自信がないのが正直なところです。「なんとなく」的感覚で、2.で「実際に途上国でFOSSがそんなに使われてはいない」と想定してる点や、4.で述べているKivaのFOSS開発版みたいなサイトってのも、もしかしたら、既にあったりするのかもしれない。。。
で、実際に寄稿募集に応募した結果が先日届き、「Abstractは面白そうだから、Full Chapter書いて提出下さい」という返事が!おおっ、通った!!でも、Full Chapter(7000~9000 words)を書き上げて送った後にまた選考があるので、これからもっとブラッシュアップして、色々と調べなくては。。。と、いうことで、上記のアウトラインについて、改善点や駄目な点など、お気づきのことがあったら遠慮なくコメント頂ければ幸いです。
コメント
[…] This post was mentioned on Twitter by 佐々木 康裕, tomonari takeuchi. tomonari takeuchi said: ICT4Dブログ更新しました。FOSS4Developmentについて思うところを書いてみました。http://ow.ly/3kaOb […]
既に原稿提出終わられてしまったかもしれませんが、以下長文で申し訳ないのですが私見としてコメントさせて下さい。
ご指摘通り、UNDPが提唱推進されていたFOSSの動きを含め、商用・有償のソフトウェアも含める、OSS推進の動きは単体でみれば、途上国にとってメリットが少なかったかもしれません。
一方、proprietary softwareに与えた影響も含めて考えると非常に大きかったと思います。
例えば、某M社は市場が(正確な数字は過去の資料を参照しないと出てきません、すいません)
一定以下の国の言語(公用語)をサポートをしていませんでした。
しかし、OSS動きが盛り上がってくると方針を切り替え、Vistaに至っては、市場の小さい途上国(カンボジア、
ラオス、モンゴル等含む)政府が文字コードを認めているもの対しては支援するように方針を切り替え、Window7
も単年度毎の更新ではありますが、各国政府に正式にサポートすることを約束したと聞いてますので未だ続いている状況だと思います。
手前味噌で恐縮ですが前職の団体では、過去にこのような市場の小さい途上国のデータの互換性のある公用語の文字コード支援事業を行ってきました。
当初は文字コード支援が終われば、各国が自らコードに沿った製品を作れると思っていたのですができず、せっかく日本の支援で途中まで行ったので日本企業に続きを
お願いもしてみたのですが、(丁度景気が悪いこともあり)これもうまくいかず、最終的にM社さんがサポートする形となりました。
今後デジタル化が更に進み、紙に文字を書くように、PC上で識字活動を行う日が来る可能性を考えるとこの支援はbasic human needsにも対応し、言語の多様性を保持にも重要な事業だったのではと考えておりますので、このような結果となったのは、世界全体のためにも良かったのではと考えております。
他方、昨今の日本のOSS推進の動きとしては、昨年11月仕分け第3弾(再仕分け)で、整理の対象になり
http://www.cao.go.jp/sasshin/shiwake3/schedules/2010-11-18.html#B-26
12月末には来年度で、IPAOSSセンターが廃止されると閣議決定されています。
http://www.meti.go.jp/main/yosan2011/20101224001-1.pdf
過去には中国・韓国・日本のOSS推進フォーラムの事務局などされていました。
memuraさん
コメントどうもありがとうございます。お恥ずかしながら原稿はなかなか進んでいないのですが、ご指摘の点、より大きな視点から考えるための参考になります。
FOSSが商用ソフトウェアに影響を与え、商用ソフトウェアで現地語がサポートされるようになってきている現在、FOSSのメリットの1つであるLocalization(=代表的なものは現地語対応)というアドバンテージがなくなっていくとも感じます。しかしながら、FOSSを単純に商用ソフトウェアに対抗するものと考えると、「現地語対応してるなら商用ソフトウェアでも良いじゃん」となりますが、FOSSと商用ソフトウェアの関係を相互に切磋琢磨するライバルと考えると、FOSSの存在意義が明確になるとも感じます。
ちなみに、各国が自らコードに沿った製品を作れなかったのは、どういった理由からだったのでしょうか?単純な技術者不足や資金不足だったのか、それとも、重要性を理解してくれず予算がつかなかったとかなのでしょうか。差し支えなければ、教えていただければと思います。
tomonaritさん、バタバタしていてすっかりお返事遅れてすいません。
このプロジェクトはその国がofficialに認めたもの(=政府が認めたもの)を支援対象としてます。
相手側政府は普及しない要因として「資金面、技術面」の不足を2つ挙げていますが、要因(相手国政府の担当となった人の理解力の不足や普及プロセスの不足等)がもっとあったように思っております。
例えば、某国には、プロトタイプ(Font開発、Input Method開発)の開発支援も行いました。が、国内の普及までには至りませんでした。
#なおこのプロジェクトは国際標準の普及・徹底・現地化(ISO/IEC 10646に準じたもの)、更に今後普及が予測されるOpen Fontを想定してました。
ここでは政府が指名してきたプロトタイプ開発に参加した担当者の理解力不足が普及しなかった大きな要因だったと思います。
また、単なる技術力不足ではなく(文字システムを作れる技術者はどの国にもいるが、それは独自のデータ処理と表示の組み合わせでできており、またそのような技術者が政府が公認する立場にいることが少なく、国際標準準拠によるものでデータの互換性まで必要と知る機会がない)更には、プロジェクト自体への資金のみならず、途上国政府内にITの限られた問題に対処するような人員、予算が足りていない点も挙げられると思います。
memuraさん
お忙しいなか、返信どうもありがとうございます!非常に勉強になります。
資金面や技術面という単純なリソース不足のみならず、国際標準といった広い視野を含め技術的なことがわかる人材が途上国政府内に不足しているというのは、FOSSだけでなくICT4Dプロジェクトそのものが難航する大きな障害でしょうね。
ITと途上国開発というこれまであまり接点のなかった分野で、両方がわかる人材がいないという点。人材育成をしていくのか、民間企業や大学等の技術に詳しい人材を巻き込むのか。なかなか難しい問題ですね。
[…] ちなみに、このUNU-IASの募集内容は、以前このブログでも紹介した、FOSS4D関連のものなのだろうと思いました。以前のブログで紹介したようにUNU-IASは、『Free Open Source Software for Sustainable Development in Developing Countries 』という本をこの夏に出版する予定とのこと。掲載する小論文の募集があり、自分も応募してみました(現在、選考結果待ち)。 […]
[…] 以前このブログでも紹介したFOSSについて考えたことを国連大学が出版する書籍のチャプター募集に応募したのがきっかけ。その後、投稿した論文を色々と改定していき、最終的に出版される書籍“Free and Open Source Software and Technology for Sustainable Development” (S. K. Sowe, G. Parayil, and A. Sunami (Eds))に掲載されることになりました。そして、上記の会議OSS2012での書籍の紹介セッションにて、他の投稿者とともに自分の章を発表することに。 […]
[…] 以前、このブログで書いた途上国におけるFOSS(Free and Open Source Software)の活用についての論文が、本に掲載されたのでご報告。 […]
[…] 先日取り上げたFacebookのDonate now機能やLinkedInのボランティア業務検索機能といったように、途上国援助に関わるためのハードルはICTによってどんどん低くなって来たなぁ、と感じる。これは間違いなくICT4Dの大きな効果の1つだと思う。人(ボランティアのマッチング)と金(クラウドファンディング)は確保できる仕組みが出来てきたから、次はモノか? 「売ります・買います」サイトみたいのの世界版・・・、なんか違うな。さて、次はどんな新しいサービスが出てくるのか?もっともっと途上国援助に関わるためのハードルを下げられるような仕組みや、以前このブログに書いたアイデア(下記のもの)のような取組みも出てくるかな? […]