インド Ruralshores社のBPO事業

国際開発ジャーナル3月号に面白い記事が載っていたの紹介したい。「BOPビジネスと農村の雇用創出」(中村 唯 著)というタイトルで、インドのRuralshores社という企業の取り組みが紹介されていた。インドのバンガロールにあるこの企業のビジネスはITのBPO事業。欧米から受注したデータ入力等の業務を行っている。面白いのは、実際の業務を行うために、都市部から離れた農村部にBPOセンターを設立し、そこの地域住民を雇用しているいう点。欧米→インドへのオフショアに加えて、インド都市部→インド農村部へのオフショア(これが社名の意味するところなんだろうな)をやっているという点だ。Ruralshores社の紹介はYoutubeにもあった(下記映像)。

13のBPOセンターを展開しており、合計約1600人を雇用している。スタッフは英語力と基本的なPC操作がわかる層を雇って、数カ月間のトレーニングを行うことで業務に支障がないスキルを身に着けさせており、データ入力の正確性は99.9%とのこと。2025年までに事業を拡大し10万人の雇用を目指すという、農村部の雇用創出に貢献しているこの取り組みは米国エジソン賞を受賞するなど、評価されている。

この記事を読んでいて特に興味深かったのは、この取り組みが最初から農村部の雇用創出やソーシャル・ビジネスを狙ったものではなかった点だ(実際にどうだったかはわからないけど、記事を読んで個人的にはそのように思った)。創始者のムラリ氏は、当初普通に都市部でBPOビジネスを実施したが、ITバブルのインドでは手頃な大卒人材を雇うには高給料、また、雇用してもより良い職を求めて転職されてまうというリスクといった課題に直面し、その解決方法として現在の農村部でのBPOセンターというビジネスモデルに至っている。必要に迫られて、このような取り組みになっている点が、援助やNGOの取り組みとは異なる力強さを感じる。

これまでも途上国で同様の試みはあったので、このモデル自体がイノベーションかというと真新しいってわけじゃないけれど、何が凄いって「成功している」ことなんだと思う。雇用時の選考基準やトレーニングのメニューやセンターのインフラ整備やその後の従業員のケアまで含め、きっと色々な困難を乗り越えて成功することが出来たのだと思う。そこまでやり遂げたってことが、Ruralshores社が評価されるところなのだろう。

話はちょっと変わるけど、このBPOセンターのように、農村部や地方でのITプロジェクトというと、まず最初に電力インフラがネックになるのでは?と感じるが、ICTWorksに「Electrical Power is No Longer a Problem in ICT for Development」というタイトルで電力インフラ問題は以前ほど決定的なハードルでなくなりつつあるという投稿があった。PCはCRTモニターからLCDモニタになったり、タブレット端末が登場したり、といったことから、IT端末はソーラーパネルや車のバッテリーでもある程度稼働が可能なものになっている。つまり、電力インフラにかける投資は依然より減少し、電力インフラは投資対象ではなく、運営費になるだろうということを指摘している。確かに、依然と比べてノートPCのバッテリー駆動時間もずいぶん長くなったし、ICT4Dプロジェクトのハードルは技術革新によってどんどん低くなっていくのは間違いないだろう。

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コメント

  1. […] インド Ruralshores社のBPO事業 | ICT for Development.JP […]

  2. Yuji Ozaki より:

    日本でもNTTの番号案内(Wikipedia)が地方への業務委託をやっていますね。Wikipediaの同記述によると、『人件費が安く、コールセンターを積極的に誘致している地方へセンターの大部分を移すことによりコストダウンを行ったり市町村から雇用維持のための補助金が出ることでサービスの品質を高水準に保つ意味合いがある。』のだそうで。昔、地方のNTTの人にお話を聞いたときは、「東京の番号を聞くのに、いきなり関西弁バリバリで答えが返ってきたら利用者が不安がるでしょ」なので、日本語のアクセント矯正研修が必要なのだとか。コールセンターが一大産業となっているフィリピンでも、アメリカ英語やイギリス英語へのアクセント矯正研修には200時間程度を要しているそうです。
    『札幌や沖縄など比較的短時間で通勤できる圏内に居住区が集中している場所にセンターを配置することで安定的で効率よくオペレータを配置する目的もある。』は人手の確保ですね。在宅勤務で全部まかなう、ってわけにもいかないのでしょう。
    今じゃアタリマエですが、ADSLやクレジットカードの申し込み書類が沖縄から発送されてきたときはびっくりしたものです。

    その一方で、ベンダーコントロールは厳しくなっています。2009年3月当時の日経ITProの記事 でも、3次の下請けを禁じる「再々委託禁止」の導入が報じられていました。上流工程で機密事項とそうじゃないモノをうまく分離しないと、コストは下がらないと感じます(上流工程が丸投げだと委託のステップが増え、コストが高止まりするか、途中の工程で犠牲者が出ることになる)。

    • tomonarit より:

      >Ozakiさん
      NTTも同じようなことを日本でやってるんですね。日本でもフィリピンでもアクセントを矯正するための研修という共通の取り組みがなされている点も面白い。

  3. […] つまり、途上国政府としては、NTTデータがミャンマーに2種類の魅力(①低賃金のアウトソーシング先としての魅力、②手つかずの市場としての魅力)を感じ、より投資(子会社設立や人材育成)をしているといえる。このように、途上国政府としては、先進国IT企業に対して単なるアウトソーシング先だけではない魅力をアピールすることが重要であろう。そうすることで、より突っ込んだ人材育成が行われ、途上国側の技術者も育ち、細切れでない仕事も得られるようになる。そして、ある程度まとまった仕事を途上国IT企業が受注できれば、その中の単純作業を国内でアウトソーシングしたらよい。インドのRuralshores社が良い例だ。 […]

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