先日の勉強会で登壇いただいたハイパーネットワーク社会研究所の会津先生から、イベント紹介の連絡をもらいました。「ソーシャルファブ・カンファレンス2013 in Tokyo」(8月31日です。直前の紹介ですいません・・・)というもの。ソーシャルファブと途上国開発がどうつながるのか?という点について、ちょっと考えてみました。
これまでの物づくりは、基本的には工場とかある程度の施設・設備を必要としており、そのための投資を回収するには、それなりの大量生産をしないといけないということになります。なので、大量生産・大量消費ってモデル。それに対して最近は、3Dプリンターとか旋盤とかレーザーカッターといった工作機の値段が下がり、一般人でも利用できるようになってきました。そして、だれでも工作機を使える場としての工房も各地に出来つつあります(時間いくらとか1つの物を作るにいくらとかで、使用料を払えば使える)。そういった一般市民が使える工房の代表格が「ファブラボ」。日本にもあるし、世界中50カ国200カ所以上にあります(途上国も含まれます)。ファブラボの紹介として、スペインにあるDisseny Hub Barcelona (DHUB) が作成したアニメーションを以下にのっけます。
じゃ、途上国にそういった工房が出来たとして、どういう効果があるのか?
この点については、田中浩也さん(ファブラボ鎌倉)による本『FabLife – デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」』の中から以下の部分を引用させて頂きます。
“その土地に必要なものを、その土地の素材で、その土地の人が生産することができる。途上国においては、生産者となるための手段を提供することこそが、「もの」を提供することよりも大きな支援となる場合が多い。先進国では、大量生産、大量廃棄のデザインを成立させてきた文脈とは異なる新領域となってゆく。原発を稼働させるよりもソーラー発電へ、熱帯雨林の伐採から国産の間伐材の使用へ、輸入食材から地元の食材へ、といった循環型コミュニティが形成される中で、FabLabを通じた「デザイン」の地産地消も充分に考えられる。”
ただ、途上国においてモノづくりのために必要な設備(ハード)が気軽に使えるようになっても、設計とかの知識・技術(ソフト)がなければ、効果は出ないのでは?という疑問はあります。この点は上記のアニメーションにあるように、Webに公開されているオープンな図面等を引っ張ってくることが出来たり、SNSなんかでつながった先進国の技術者に依頼をするなど、「ソーシャル」なテクノロジーが補完してくれる可能性は期待できるんじゃないかと思います(というか期待したい!)。東京で設計した製品の図面がメールでエチオピアへ送られて、エチオピアで製造されて販売される、みたいな。
ちなみに、Fablab JapanのWebにガーナのFablabを訪問した様子がレポートされています。
もう一つ、「ロングテール」で有名なクリス・アンダーソン氏の本『Makers 21世紀の産業革命が始まる』もソーシャルファブをテーマにしており、そのなかで、「モノのロングテール」という言葉が使われています。この言葉、自分的には結構イイなぁと感じました。大量生産・大量消費・マス広告じゃなくて、その土地、その人に合った製品を作るというのは、途上国において彼ら自身が自国のマーケットを開拓する手段になりえる可能性を感じます。
そういえば、以前このブログでも紹介した「AMP Music」の取り組みは、「モノのロングテール」とアマゾンドットコムのような流通業のロングテールとを組み合わせているのだと思います。ケニアのスラムで若者が音楽を作る(CDを作る)のは、「モノのロングテール」的な要素を含むし(大規模な録音・編集スタジオがなくてもPCで編集もCD作成も出来るようになった)、それをiTunesで販売するというのは、流通・販売のロングテール的な要素を含んでいるのだと。
マンチェスター大学のHeeks教授が「ICT4D1.0からICT4D2.0へ」という表現で言っている「情報の発信者やシステムの作り手が先進国ではなく、途上国の人々になってきた」という現状と、上記で述べたモノづくりにおけるソーシャルファブの動きというのは、同じなんだと感じます。いずれも、「テクノロジーの力によって、途上国の人々が主役になれる機会が増えている」ということなんだと。
「ソーシャルファブ」はICT4Dって括りにはおさまらない大きなテーマですが、非常におもしろそうです。
コメント
[…] 昨日に続くエチオピア関連ネタです。以前、FabLabについて投稿しました。途上国も含めて世界中にFabLabがあります。んじゃ、エチオピアにもあるんかな?と思ってググってみたら・・・。 […]
[…] また、スペシャルゲストとしてJICA国際協力専門員、ICT系開発コンサルタント、民間ICT企業の方々などにもご参加いただき、有意義なコメントを頂くことが出来た。ゲストの皆さん、どうもありがとうございました!そして、ゲストの方々にもプレゼンをしてもらったのだが、とりわけ東大の青木さんによるFabLab活動のプレゼンは先進的でとても興味深いものだった(下の写真)。 […]
[…] これを開発している慶應義塾大学の田中浩也准教授は、以前このブログでも紹介したFabLabの日本における第一人者です。面白いことやっているんだなぁ。 […]
[…] 先日、ガーナのFablabで活躍されている青木翔平さんとお会いしました。色々と面白い話を聞かせてもらったのですが、結構インパクトがあったのがこのリュックサック。 […]
[…] そいじゃ「経済発展」の切り口の他には?ということで思いつくのは、インターネットと携帯電話の普及によってSNS等を通じた情報発信が可能になり、個人の持つパワーが強くなってきたという点。「アラブの春」に代表されるような事象をイメージすると分かり易いか。「アラブの春」的な事象に特化してしまうと、個人のパワーが強くなったのか、はたまた誰かに煽動させられ易くなったのか?という議論もあるが、Ushahidiのようなアプリケーションの誕生&普及やファブラボの活動を思い浮かべると、よりポジティブに個人のパワーが強くなったと思える気がする。 […]
[…] そして、この「SDG ICT Playbook」を見て感じたのが、具体的なICT技術として取り上げられているものが自分がICT4Dに関心を持ち始めた10年前とは大きく変わって来たという点。モバイル、ソーシャルメディア、クラウドコンピューティング、ビッグデータ分析、3Dプリンタ、スマートシステム、衛星技術などが各ゴールに絡む各セクターでどう活用出来るかが紹介されているのですが、ビッグデータとか3Dプリンタとか、これから途上国での活用が本格的になっていく技術として自分ももっと勉強しないといけないと感じたりしています。 […]
[…] 以前、自分が企画した公開勉強会「インターネットと今後の途上国開発の関係を考える」にもゲストとして来て頂いた会津先生や、FabLabの第一人者の田中先生など、自分も日本に居たら参加したいところですが、残念ながらガーナにいるので無理です・・・。 そう言えば、JICAで「開発途上国における情報通信技術の適用にあり方に関する調査」という調査が行われて2015年10月に報告書が完成され、ウェブでも公開されています。網羅的にJICAとICT4Dを捉えている報告書なので、この分野に関心のある方には一読することをオススメします。 […]
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[…] まずは、こちらの動画。3Dプリンターでマスクを作るというもの。株式会社イグアスというIT企業の取り組みです。私が一番良いなと思ったのは、設計図をHPで共有して誰でも使えるようにします、というところ。全世界のFabLabで作れる可能性も広がるなあ(勿論、材料が手に入るのか?という問題はあるものの)。こういうのは本当にSocial Fabricationの可能性だと感じました。 […]
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