OLPCは失敗例の見本なのか?

OLPCから学べる教訓は?というのが、Educational Technology Debateの議題になっていました。OLPC (One Laptop Per Child)プロジェクトの進め方と、理想的なプロジェクトの進め方を比較し、OLPCは理想的なプロセスの真逆であると指摘し、“学べる点は「どうしたらいけないのか」という悪い点だけ”という痛い評価。

良いICT4Eプロジェクトにするには、PC供与だけに予算をつぎ込むのではなく、カリキュラムの見直しやインフラ整備、故障対応といった必要な要素にバランス良くお金を使うことが必要。さらに、教師や生徒の親、コミュニティリーダーを巻き込み、パイロットプロジェクトの実施・評価を通じて、段階的に規模を拡大し、パイロットプロジェクトが学んだことを考慮して、州レベルでその地域に合ったハード・ソフトを選択する。こういった方法が失敗しない正攻法。

一方OLPCはというと、どんどん100ドルPC(XO)を児童へ配布することに資金を注ぎ込み、その他のこと(パイロットプロジェクトの評価、カリキュラム見直しやインフラ整備、故障対応など)はボランティア頼りで、配慮が不十分。ハード・ソフトの選択肢はなく、どのエリア、どの国でも、同じPC。結果、(ごく稀な好事例を除いて)せっかく供与されたPCを授業で活用できない(しない)教師、家ではゲームしかしない生徒、壊れたままのPC・・・といった散々な結果が現状。

と、上記のようにかなり厳しい評価が述べられてました(まぁ、議論するための問題提起なんだと思いますが)。

それに対して多くの意見が書き込まれていて賛否両論。そのなかで、自分が賛同できるコメントがあったのでご紹介。Clayton R. Wrightという方が、こんなコメント書いてました。

「そもそも、PC配るだけじゃなくて、カリキュラム見直しやインフラ整備、故障対応といったそれ以外の要素が成功には必要だということは最初っから誰もがわかっていたことだろう。色々な要素が一緒にならなければ、教育の向上はありえない。だた、OLPCプロジェクトが全部を出来る訳じゃない。OLPCは「PC供与」をやるプロジェクトだ。それ以外のことは、政府がやったり別の団体がやればいい。現実、それをやった国とやらなかった国があるだけ。」

その通りなんだと思った。OLPCが注目され始めた頃から、「PC配るだけじゃ駄目」的な意見は色々なところで言われていた。問題は、やらなきゃいけないとわかっているのに出来ない点。
前回の投稿で、ICT4Eプロジェクトについて、「ICT導入そのものが問題解決でない!それを どう使うか、ITリテラシー、教師のスキル・モチベーション向上、インフラ環境、政府の教育ポリシー、といった諸々の諸事情を考慮して、ホリスティック (総合的・全体的)な対策を取ることで、ICTは教育の質・量の向上に大幅に貢献する」みたいなことが数年前から言われているが、それ以上の進歩がない、と書いた。

結局、技術的な課題やら組織的な課題やら、多岐にわたる課題に同時にメスを入れていかないと駄目なことはわかっているけれど、色々な関係者が、「まずは自分が出来るところ・得意なところ・やりたいところ」から始めてしまい、誰もそれを統率出来ていないのが問題なんだと思う。NGOや企業が何もしないより出来ることから支援することに対し、援助機関から「援助するな」と制御は出来ないし、「自分の金でやってんだから文句言うな」と言われればそれまで。第一、途上国の人々は、カリキュラムの見直しなんかがなしだとしてもノートPC欲しいと思うし。(実際、自分がエチオピアにいたときも、教員配置の目処がなくとも新しい学校建設を欲する地域住民や、薬や電気が確保出来ないのにクリニックに冷蔵庫を設置したがるNGOと一緒に仕事をしてました。)

理想としては、当事者である途上国のリーダー(政府の偉い人だったり、プロジェクトを牽引する担当者だったりNGOだったり)が、多岐に渡る課題(ITリテラシー、教師のスキル・モチベーション向上、インフラ環境、政府の教育ポリシーなど)にどうやって同時にメスを入れていくのか、その辺のバランスを取れるだけの能力を持てれば良いと思う。

とは言え、先進国でもITプロジェクトが上手く行く可能性は高くはないという現実を見ると、この意見も「理想はそうだが実際はね・・・」の域を出ないなぁ。。。

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コメント

  1. […] このほかにも、途上国のe-governmentプロジェクトの8割以上が「完全な失敗」もしくは「部分的な失敗」に分類されるというレポートや、教育分野でのICT利用は失敗に終わるケースが多いといったような主張は多くある(例えば、OLPCに対する議論でも同様の主張は見られる)。 […]

  2. […] ICT4D→Network4D ICT for Developmentという言葉でICTを利用した途上国開発を考えるとき、学校にPC教室を整備するといったプロジェクトよりも、携帯電話やインターネットを利用した途上国の人々が裨益するサービスの方が遥かに可能性・効果があると思う。OLPCのようにハードを整備したり、ネットワークに繋がらないスタンドアロンのIT機器を利用することにも勿論効果や意味があるけれど、M-PESAにし、Kivaにしろ、Ushahidiにしろ、ICTによって途上国開発に今までなかった方法を生み出しているのは、ICTの効果の中でも特にネットワーク機能を利用しているものである。また、Richard Heeksの言うところのDevelopment2.0は、人人が繋がることで可能となる類のものと言える。 […]

  3. […] ・One Laptop Per Child ・OLPCは失敗例の見本なのか ・エチオピアのOLPC調査結果 ・エチオピアのOLPC 評価: 共有:TwitterLike […]

  4. […] 一方、じゃあOLPCは全く不要なのか?と言われるとそこはわからないというのが正直なところです。本ブログの「OLPCは失敗例の見本なのか? (2010/4/12, tomonarit)」投稿にもある通り、OLPCはただのツールであり、他の要素が揃わないと成果は十分に発揮できないので、現状だけを見てOLPCは失敗と言い切ってしまうのは乱暴かもしれません。つまり、先に挙げた指摘の逆を返すと、電気があってネットがあって、そして教師が正しく教えられさえすれば、OLPCは協力な教育ツールになるポテンシャルを秘めているという言い方もできないこともないので・・・。 […]

  5. […] か?と言われるとそこはわからないというのが正直なところです。本ブログの「OLPCは失敗例の見本なのか? (2010/4/12, tomonarit)」投稿にもある通り、OLPCはただのツールであり、他の要素が […]

  6. […] Cを調査し、子どもたちへのノートPC提供だけで終わらない介入を推奨しています。💡OLPCについて過去のブログでも取り上げています:OLPCは失敗例の見本なのか?(一社ICT for Development) […]

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