ITとI「C」T

一昔前に、IT革命という言葉が流行っていたが、最近では、ITという言葉よりも、ICTという言葉が使われるようになっている。例えば、このブログのタイトルもIT4Dではなくて、ICT4Dである。ITとICTの違いはCがあるかないか。つまり、Communicationが重要視されてきたことが、ICTという言葉が使われるようになった理由だとわかる。最近、このコミュニケーションの重要性を感じるプロジェクト・事例が目についたので、まとめてみる。

世界銀行が実施するコンテスト。世銀が無料で提供する様々なデータ(World Development Indicators, Africa Development Indicators, Global Finance Indicators, and Doing Business Indicators)を利用して、途上国開発に貢献するアプリケーションを作製するアイデアを募っている。携帯アプリ、SMS、普通のPCで動くソフトウェア、Webベースのソフト等、幅広い範囲で、ソフトウェア開発者やNGOなどの途上国開発の実務者などからのアイデアを募集するようだ。詳細はこの10月に正式発表予定。ちなみに同様の似たような試みとして、Apps for Healthy KidsApps for Democracyなんていうのもある。

ソニー、国際NGO「世界自然保護基金(WWF)」、デザイン・コンサル会社「IDEO」が協力して、ソニーの技術を地球環境保護に役立てるアイデアを募集している。現代ビジネスというサイトにわかりやすい説明が載っている。Webサイト上で、お題にあげられた課題について、誰でもが自由にアイデアを出したり、他人のアイデアを評価したり(“拍手”とか)しながら、最終的に一番良いアイデアをユーザー投票で決めるというもの。不特定多数のユーザーからのアイデアを、ユーザーが評価し、最終的にスポンサー(=お題となる課題を出した会社など)が気に入れば、そのアイデアが実際に製品やサービスになる。同様な試みとしては、「GE’s Ecomagination Challenge」というのがあり、GEがスマート・グリット・テクノローの活用アイデアを募集するサイトで、こちらもユーザが応募者のアイデアを評価する仕組みがある。

このブログでも一度紹介したことがある危機管理Webサイト。ケニアの選挙に絡んだ暴動が起きたときに、どこの地区で暴動や事件等が起きているかを共有するために作られたWebサイト。ユーザーが携帯で「エリアAで暴動あり」とか、「エリアBで警官による暴力事件あり」みたいな情報をアップデートし、その情報がGoogle Maps上に反映されるというもの。オープンソース・ソフトウェアとしてアップロードされたところ、インドやメキシコでの選挙監視や中東ガザ地区の武力行為の状況把握、ハイチでの地震災害時の状況把握などにも利用された。(こちらも詳しい内容は現代ビジネスに記載されています)

以上を見てみると、コミュニケーションがキーになっていることがわかる。「情報ソースは提供するから情報の使い方のアイデアを出してね」といったApps for Development。ユーザからのアイデアのみならず、評価もユーザーに委ねるオープン・プラネット・アイデアズ。掲載するコンテンツの提供元がユーザ自信であるUshahidi。どれも、単なる情報提供ではなく、コミュニケーションである。

さらに、Ushahidiが誕生したきっかけは、まさにICTによるコミュニケーションによるものである(以下、現代ビジネスから引用)。

(ここから)・・・・・・ウシャヒディは2008年の初め、当時31歳の女性弁護士、ブロガー、活動家であるオリ・オコーラ氏のひとつの小さな行為から生まれました。前年末にケニアで実施された大統領選挙での不正疑惑に対し、国内各地で暴動が勃発、報道規制が敷かれる中、オコーラ氏は現地での状況を絶え間なくブログに掲載していたのです。どの地域でどのような暴力事件が起きたか、被害状況等に関し、更新を続けていたのです。
すぐに一人で情報更新することが追いつかなくなり、ブログに助けを求めました。
「誰かエンジニアの人で、グーグル・マップス(無料地図情報サービス)を使って暴動発生箇所と破壊状況のマッシュアップ(融合)サイト作ってくれない?」
すぐに二人のエンジニアが手を上げ、約3日間の週末作業で作られたソフトウェアが、危機災害時の情報集約ビジュアルサイト、ウシャヒディの始まりでした・・・・・・(ここまで)

ブログという情報発信ツールにより、技術を持った善意の第三者と繋がった点、また、Ushahidiがその後オープンソース・ソフトウェアとして様々な用途に様々な人達によりカスタマイズされていっている点などもICTの持つコミュニケーション機能がなくてはありえない事象である。

最近読んだ本「大人のための勉強方」(和田秀樹著)という本に、以下のようなことが書いてあった。
「情報とは知識化されていないときわめて使いづらいし、自分の知識にもなりにくい。そして、知識化された情報に出会うためには、他人のお世話になるのがいちばん。情報に出会うことは独学でも容易だが、知識に出会うには人を介するのがいちばん有効
インターネットや携帯電話といったICTがもたらしたメリットは、「情報」ではなく、知識を持った「人」と繋がることなのだと改めて感じる。つまり、コミュニケーション。これが重要だからこそ、「IT」じゃなくて「ICT」って言葉が使われるようになったのだと、いまさらながらに納得しました。

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ICT for Development .JP

コメント

  1. アベバ より:

    市民参加型のプロジェクト、おもしろいですね。この間、ICTベンダーに居ながらにしてtwitterってナンゾやがわからない当社の営業向けにtwitterとは?的なコラムを書きました。わかりやすい例として、チリの大地震をとりあげ、被災状況がtwitterによってリアルタイムに配信されたこと。大手のメディアがこぞってそのリソースを頼りに報道したということ。これによりtwitterは市民記者による第三のメディアとしての地位を確立したなどと紹介したのだけど、ケニアの選挙を世界に働きかけ続けたblogのお話しは、その先駆けですね。この頃既にtwitterが市民権を得ていたら、もっとたやすく情報を広められたのかもしれない。twitterという限定されたアリモノの活路を考えるのも楽しいけれど、自社の技術の活路を外部に求めるというのは新しい。当社には、そういうコトを考える専門家が研究所にいますが、今や専門家を抱えずとも更に斬新なアイディアが集められる時代なのですね。市民、強し・・・

  2. tomonarit より:

    >アベバさん
    Twitterがチリの大地震でも威力を発揮していたんですね。色々あって、面白いですね、この分野は。専門家を抱えなくても、専門的な知識や技術を持っている人からの知見や協力を得ることが出来る点では、本当に色んな可能性がありそう。
    一方、ひと昔から市役所などの地方行政が、市民の意見を汲み取るために掲示板や地域SNSなんかをやっているけど、あまり盛り上がっていない。この差はなんなんでしょうね?これが、イノベイティブなことに取り組む場合の、民と官の実力の差なのかなぁ・・・。

  3. アベバ より:

    今さらですが・・・チリじゃないやん、ハイチじゃん。
    ・・・ということで、こんな現象があったそうです。
    自分で書いたコラムより。
    ===
    ハイチで大地震が起きた時もtwitterは活躍した。どのテレビ局よりも早く、 現地の惨状がtwitterを介して配信されたのだ。市民記者によるリアルタイムレポートを読み上げるCNNのキャスター。twitter連動の写真共有サイトtwitpicに掲載された現地の模様を全世界に配信するAFP通信社。これよりtwitterは、市民記者による第三のメディアという確固たる地位を確立した。
    ===
    失礼しました(>_<)

  4. […] 以前Tomonariの記事にもありましたが世銀のApps for Developmentの募集の詳細がでました。(詳細は以下参照です。) […]

  5. […] なるほど、確かにありそうでなかった仕組み。凄いなぁ。 ソーシャル・ネットワーキングってことでいうと、上記2例のようなWebサイトそのものでなくても、その繋がりによって発生するムーブメントも大きな途上国開発ドライバーだと思う。以前紹介したUshahidi構築のストーリーなどがその代表。ソーシャル・ネットワーキングを通じて、途上国の人達と先進国の(技術を持った)人達が繋がることで、そこから途上国の役に立つWebサイトなりアプリなりが生まれる。 […]

  6. […] とはいえ、2.の4つ目で指摘したように、途上国にそこまでスキルのある技術者は限られているのが現状。ではどうするか?先進国の技術者と途上国の技術者が一緒になってソフトウエア開発をする仕組みを作ればよい。リナックスに代表されるFOSSプロジェクトがボランティアの技術者によって促進されていることを考えれば、途上国のニーズにあったソフトウエア作りを支援したいと思う先進国の技術者はいるだろう。その両者が一緒にソフト作りを出来るWeb上のプラットフォームがあれば良い。さらに、途上国の技術者だけでなく、ニーズを感じているテクニカルでない人達も、ニーズや要件を訴えることが出来る場となれば、技術者以外も一部producerの役割を担うことが出来る。ケニアのUshahidiが技術者ではない弁護士の方がブログで要望を書いたことがきっかけで創られたのが良い例だ。これからは、途上国の人のニーズを受けて、先進国の技術者が指導しつつ途上国の技術者と共に本当に現場のニーズにあったソフトウエアを開発していくことが出来るのではないだろうか。 […]

  7. […] 災害時にICTを活用したサービスが人命救助や復旧に役立つという話は良く耳にする。ケニア選挙に伴う暴動時に開発されたUshahidiが良い例である。そして、このUshahidiはハイチ地震でも利用され、人々の投稿によって、Webの地図上に誰がどんな支援を必要としているかや被害状況が反映されることで、援助団体がより効率的な支援が出来るようになった。 […]

  8. […] このブログでも何回か取り上げているUshahidiというケニア発のオープンソース災害マネジメントアプリケーションを利用して、3月11日に起きた東北沖地震の震災情報サイト“sinsai.info”というサイトが立ち上げられている。このサイトは、OpenStreetMap Japan および OpenStreetMap Foundation Japan という団体の有志により、運営されている。 […]

  9. […] そいじゃ「経済発展」の切り口の他には?ということで思いつくのは、インターネットと携帯電話の普及によってSNS等を通じた情報発信が可能になり、個人の持つパワーが強くなってきたという点。「アラブの春」に代表されるような事象をイメージすると分かり易いか。「アラブの春」的な事象に特化してしまうと、個人のパワーが強くなったのか、はたまた誰かに煽動させられ易くなったのか?という議論もあるが、Ushahidiのようなアプリケーションの誕生&普及やファブラボの活動を思い浮かべると、よりポジティブに個人のパワーが強くなったと思える気がする。 […]

  10. […] オープンデータ、ビッグデータの途上国開発への活用という点では、自分の知る限りでは世銀が戦陣を切っていたと思います。2010年にこのブログでも「Apps for Development」という世銀の実施したオープンデータ活用アイデアコンテストの紹介をしていました。その後、どんあアイデアが大賞を取ったのか?と思い改めてチェックしたところ、いくつかのアイデアがこのサイトに掲載されていました。 […]

  11. […] いくらアフリカを代表とする途上国の携帯電話普及率が劇的に伸びてきているとは言え、ICT環境や法制度や個々人のスキルなど条件の善し悪しを言い出したら途上国が全体的に劣っているのは間違いないので、「そんな条件でも、そんな条件だからこそ」ICTに期待出来る何かがあるんじゃないかと、つい夢を見てしまうのです。ケニアのM-PESAやUshahidi、インパクト・ソーシング(ソーシャル・アウトソーシング)のSamasourceなど、ある一定の厳しい環境・条件のなかでも成功しているICT4D事例があるということは、環境・条件の悪い途上国でのプロジェクトや事業でも、どっかに成功させる可能性があるんじゃないかと・・・。 これまでの王道の議論では、「成否の鍵はコンテクストによりけり」というような締めくくりになってしまうのですが、そうじゃない結論、「ズバリ、こうすれば上手く行く」というもの、を探して行きたいですね。いや〜、それがわかれば苦労はないか・・・。 […]

  12. […] オープンデータ、ビッグデータの途上国開発への活用という点では、自分の知る限りでは世銀が先陣を切っていたと思います。2010年にこのICT for Development.JPでも「Apps for Development」という世銀の実施したオープンデータ活用アイデアコンテストの紹介をしていました。その後、どんなアイデアが大賞を取ったのか?と思い改めてチェックしたところ、いくつかのアイデアがサイトに掲載されていました。 […]

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