ICT4Dにおける政府の役割とは

10月1日のRichard Heeks教授による公開勉強会を通じて、「ICT4Dにおける政府の役割とは?」ということを考えてみた。個人的には、以下の点から、政府の役割はインフラ的な部分を整備することだと考えている。

ICT4D→Network4D

ICT for Developmentという言葉でICTを利用した途上国開発を考えるとき、学校にPC教室を整備するといったプロジェクトよりも、携帯電話やインターネットを利用した途上国の人々が裨益するサービスの方が遥かに可能性・効果があると思う。OLPCのようにハードを整備したり、ネットワークに繋がらないスタンドアロンのIT機器を利用することにも勿論効果や意味があるけれど、M-PESAにし、Kivaにしろ、Ushahidiにしろ、ICTによって途上国開発に今までなかった方法を生み出しているのは、ICTの効果の中でも特にネットワーク機能を利用しているものである。また、Richard Heeksの言うところのDevelopment2.0は、人人が繋がることで可能となる類のものと言える。

「ツールとしてのICT」→「インフラとしてのICT」

「ICT4D→Network4D」への変化は言い換えると、ICT4DにおけるICTの位置づけが「ツールとしてのICT」から「インフラとしてのICT」に変化したとも言えよう。そして、インフラとしてのICTが意味することは単にネットワークが繋がるインフラではなくて、みんなが使っているという点でインフラとしての機能しているということだ。例えば、携帯電話とインターネットを比較すると、明らかに携帯電話を利用したICT4Dプロジェクトや試みが注目を集めている。PCとインターネットで出来ることの方が多いにもかかわらずだ。これは、途上国でも携帯は一定数の人々が使っているけど、インターネットユーザー数はまだまだ低いからと考えられる。ネットワークで繋がることが出来るユーザー数が多くなければ、メリットはない。そして、一定数以上のユーザー数を確保し「インフラとしてのICT」化するには、みんなが使えること必要であり、その為には、安定した電力供給、通信インフラ、手頃な使用価格、などが前提条件である。

政府の役割は基盤整備

電力や通信インフラの整備、適切な価格競争を導く為の市場開放(国営独占でなく民間企業の参加など)、さらには、ユーザーが安全にインターネットや通話を利用出来るためのセキュリティ対策といったことがきちんと行われることが、ICTを活用した新しい途上国開発を実現・促進させるための基盤であり(仮に“ICT4D基盤”と呼ぶ)、これらの分野は民間では実施し難いエリアだろう。したがって、このICT4Dの基盤といえる分野を整備することが政府の役割と考えられる(以下の図)。逆に、こういった基盤部分が適切に整備されていれば、オープンソースのソフトを利用したり、Googleなどが提供するツールを利用して、個人でも様々なICT4Dアプリケーションやサービスを作り出せるし(例えば、Ushahidi)、NGOや民間企業による様々な取り組みが可能となる(例えば、P-MESAやKivaなど)。

上記の図では、ICT4D基盤の上に、色々な途上国開発に貢献するサービス(仮に“ICT4Dサービス”と呼ぶ)が成り立つという意味で、ピラミッド型で表示しているが、一方で、この基盤をきちんと整備出来れば、多くのICT4DサービスがNGOや民間企業のBOPビジネスやCSR活動によって作られると考えると、下記の図のようにも表示できる。

正確には若干異なるかもしれないが、イメージとしては、上の層に行くほど色々なアクターが様々な取り組みが出来る可能性が広がっていると考えられるんじゃないかと感じている。それため、上の層(=地域やセクターにあったICT4Dサービスを作り出すこと)は、NGOや民間企業に自由にやってもらい、下の層(ICT4D基盤)の整備を政府が力を入れてやるという住み分けが良いのではないかと考える。

また、援助機関に関しても、個別にICT4Dサービスを支援することをやるよりも、いっそのこと、ICT4D基盤の整備にもっと力を注いだら結果としてICT4Dサービスの支援になるのではないか?とも思う。勿論これでも、電力や通信インフラといった分野における支援は長年やってきているが、社会経済基盤整備の支援という視点に加えて、ICT4D基盤の整備でもあるという視点から、通信事業の民営化やセキュリティ対策といったことろまで包括的に支援することが重要だろう。

最後に付け足すと、ICT4D基盤としては言及しきれていない要素もある。それは、識字教育や情報リテラシーといったものもだ。ICT4Dサービスを利用するためには、識字能力(場合によっては英語力も)をはじめ、得た情報を知識化する能力や情報の真偽を見極める能力も必要で、つまり教育もICTを活用するには不可欠ということになる。教育を含めて、ICT4D基盤を整備することが出来れば、「インフラとしてのICT」が途上国開発の大きなトリガーになると期待できる。

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コメント

  1. tomonarit より:

    公開勉強会のときにコメント発言したものの、上手く表現出来なかったのですが、こういうことが言いたかったのです。英語で話す訓練しなければと痛感。。。

  2. Maki より:

    早速ありがとう。
    勉強会はお疲れ様でした。

  3. […] 更にHeeksのほかのコンセプトを以って説明すると、information chainというコンセプトがあります。 とても短くいうと、「”情報”は、それに(1)アクセスでき、(2)その中身を見極め、(3)適切に応用し、(4)最終的にアクションがおこせるレベルに達しなければそれは単なる”データ”でしかなく、意味がない」ということが書かれています。1つ前のTomonariのポストでも”得た情報を知識化する能力や情報の真偽を見極める能力も必要で、つまり教育もICTを活用するには不可欠”とあります。 […]

  4. […] 次に、“当該国政府”が「解決すべき問題」という質問なので、“政府が”という視点で考えてみたい。ナショナルレベルでということになると、通信インフラ整備や通信に関連する規制やセキュリティ対策といったものが政府が取り組みべき課題と言える(逆に言えば、政府でないと取り組めない課題である)。以前、このブログでも述べたが、誰もが利用できる通信インフラ環境(物理的なものだけでなく料金や規制なども含む)が整っていなければ、ICTをツールとして活用しようにも活用できない。逆に、環境さえ整っていれば政府以外のアクター(民間企業やNGOなど)が、そのインフラを利用した便利なサービスを作り出してくれると考えられる。今は「ツールとしてのICT」から「インフラとしてのICT」に変化しているので、インフラ整備が“当該国政府”が「解決すべき問題」の筆頭に来るといえる(勿論、それ以外にも政府出なければ解決出来ない問題(IT人材育成など)はあるけれど、優先度で考えたらインフラだろう)。 […]

  5. […] ICT4D分野で仕事をするとなると、JICAや国際機関など国際協力業界に身を置いてITプロジェクトに携わるか、それともIT業界に身を置いて国際協力プロジェクトに携わるか、の二択だと思います。前者は国際協力のど真ん中で政策面や案件立案に絡める反面、どうしても技術面は弱くなるリスクがあると思います。一方、後者の場合は、現場で活動出来る面白さや技術面の強みといったメリットがありますが、利益を追求しないといけないので、自社製品の売り込み等、Supply-drivenになるリスクがあると思います。27日のイベントで、参加者の方から「援助でしか出来ない領域、ビジネスでしか出来ない領域を上手く組み合わせていくのがベスト」というコメントがありましたが、正にその通りだと思います。かなり昔に同じようなことを「ICT4Dにおける政府の役割とは」として投稿したこともありました。今後、自分自身が前者から後者へ転じてみてどうなるか?はどこかのタイミングでまた投稿しますので、お楽しみに。 […]

  6. […] トがありましたが、正にその通りだと思います。かなり昔に同じようなことを「ICT4Dにおける政府の役割とは」として投稿したこともありました。今後、自分自身が前者から後者へ転じて […]

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