スティーブ・ジョブズの言葉から

先日、近所の図書館で借りた「スティーブ・ジョブズ 成功を導く言葉」(林 信行著)という本を読んだ。印象に残る言葉があり、開発援助にも繋がる要素があると感じたので紹介したい。

アップル社の創始者であるスティーブ・ジョブズはプレゼンがうまいという話があり、彼がプレゼンで使ったフレーズ等が紹介されている部分があった。その中で、iMac(←懐かしい!)のお披露目の場(プレゼン)でカシオのG-SHOCKをスクリーンに映して、ジョブズが語ったのが以下のものだ。

「これが世界で一番売れている腕時計だ。この時計が人気を集めるのは、他の時計よりも時間が正確だからではない。人気の理由はデザインにある」

「おもしろい統計を紹介しよう。10年前、平均的なアメリカ人は腕時計を1本しか持っていなかった。しかし、やがて腕時計市場にデザインやファッションといった要素が入ってきたことで、平均的なアメリカ人の腕時計の所有数は7本になった」

この話をした後で、ジョブズは7台のiMacをスクリーンに映し出したそうな。PCもやがて腕時計のようになることを望んでるということだ。

個人的に、こういう感覚って途上国開発にも必要かもと感じた。以前もこのブログに書いたけれど、水や食料といったBHN(Basic Human Needs)とICTのどっちが大事か?という問いには、「どっちも大事」というのが自分の考え方である。途上国の人々が「必要なもの」=「欲しいもの」とはかぎらないという思いから、ある意味、「欲しいもの」としてのICTを通じた援助があっても良いと考えている(勿論、情報が必要なものという意味もあることは付け加えておきます)。

携帯電話が急速に普及して、途上国開発にポジティブなインパクトをもたらしているけれど、これだけ携帯電話が普及した理由は、「必要だから」だけじゃないと思う。「カッコいい」とか「お洒落」だから普及したという要素は結構あるんじゃないだろうか。ケニアのM-PESAに代表されるようなサービスは、携帯が普及したから生まれたわけで、M-PESAサービスがあったから携帯が普及したのではない。極端に言ってしまえば、「カッコいい」とか「お洒落」といった要素がなければ、M-PESAなどの人々の生活を向上させるサービスは、なかなか出てこなかったとも考えられる。

PCでも、昔は職場に1台だったのが、あっという間に家庭に1台になり、個人に1台となった。価格が下がったなどの要因があり、理由は「カッコいい」からだけじゃないけれど、その要素は確実にある。モバイルPCに関しては特にそうだろう。

このように考えてみると、前回紹介した25ドルPCにも可能性を感じる。25ドルPCそのものは役に立たないかもしれないが、BOPをターゲットにしたPCのジャンルが活性化したり、それによりPCのコモディティ化が促進されれば、人々の生活に役立つサービスが誕生することが期待できるからだ。

ジョブズのG-SHOCKの話に戻ると、時を刻む「機能」(すなわち「必要なもの」)だけじゃ駄目ということだ。長い目で見たら、貧しいからといってモッサリした中古PCで十分と考えるのではなく、安くてクールなPCを開発するべきなのだ。自分もこれまで途上国を対象としたサービスや製品は、ワンランク落ちるもので仕方ないと心のどこかで思っていたふしがあるが、そうじゃないのだと改めて感じた。先進国の人が知っている製品と比べて上とか下じゃなく、「別」のものであるべきだと思う。そして、その別のカテゴリでやはり「クール」である必要がある。ICT4DやBOPに限らず、開発援助一般においても、こういう視点を持つことは重要だと感じる。

最後にもう一つジョブズの言葉を引用したい。

「多くの場合、人々は自分の欲しいものが何なのか、見せるまでわからないものだ」

なるほど。胸に刻んでおこう。

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コメント

  1. Ozaki Yuji より:

    思いっきり遅いレスですが:
    スティーブ・ジョブズの言葉はいいですね。実績が伴っている人の言葉は強いです。

    要望とか要請などの要求定義について若干のネタを以下に。

    「こんな機能が欲しい」と言ってくる人は、本当はそんな機能が欲しいのではなく、そんな機能を使いこなしている自分を想像して満足しているだけかも知れません。
    人は、必ずしも本当に必要とするもの「そのもの」ではなく、それを得るために必要だと思い込んでいるもの(アレレ?なことが多い)をリクエストしてくることがよくあります。

    「システム導入だ!」と仰る人の話(背景情報)を良く聞くと、本当に必要な物は全く別の物だったり、前提条件が全く整っていないことがよくあります。
    でも、「システム」を導入しないと「客をバカにしているのか!客の要求に応えることがお前らの責務だ!」って怒るんですよね、その種の人。
    そんな状況では「システム」を導入しても結果が出ないから、その種の人は「やっぱりお前が悪いんだ!」って言うんですよね。

    2006-2007年頃に、当時働いていた場所で、実際に見聞した話でございます(若干の脚色あり)。

    • tomonarit より:

      システム開発プロジェクトと途上国開発プロジェクトは良く似ていると思います。どちらも、真の要求を明確化することが重要だけれども、それが困難という点で共通の課題がありますね。その両領域のICT4Dは、成功に導くのが非常に困難・・・ということになりますが、逆にいえば、システム開発プロマネスキルなどが、実は途上国開発プロジェクトでも非常に役に立つのではないかとも思いますね。

  2. Ozaki Yuji より:

    余談です:

    「社会(って誰よそれ?)の要求に応えるプロジェクトを」に対して、「人々は自分の欲しいものが何なのか、見せるまでわからないものだ」「売れた物がよいものだ(事前予測は困難)」って本当に言ったらフルボッコ喰らう世の中ですから(笑)。

    「よくわからないんですけど…」で始まり、目先の予算を立てることを目的としている事務職の方との会話は、立場の上下関係も含めて気をつけなければいけない、ということで。

    AppleやGoogleが、人々のニーズを出発点にして何かを作っているか、といえばそうじゃないように思います。「俺たちの作ったモノ自体がクールだ。それを使うお前らもクールだ。それを成長させるお前らはもっとクールだ。そうだろう?」で決着がついてしまっているような気がします。
    AppleやGoogleの失敗プロジェクトって多いですよ。それでも、企業は総体的に利益を上げていればヨシです。しかし、個々のプロジェクトを形の上だけでも成功としなければならず、それだけが評価に直結してしまう環境を、奴らの行動と一緒に扱うことはできませんよね。

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