エチオピア商品取引所(ECX)について

先日投稿した記事「ICT4Dに必要なのはスティーブ・ジョブズか」にエチオピア商品取引所(ECX: Ethiopian Commodity Exchange)のことも書いたが、エチオピアは自分の第二の故郷なので、もう少し詳しい情報を紹介したい。

まずは以下の動画。このECXの生みの親であるEleni Zaude Gabre-Madhin(元世銀エコノミストのエチオピア人)のTEDでのプレゼンである。このプレゼンで、ECXがあれば、エチオピアの食糧危機や農民の生活向上に貢献できると説明している。特に、食糧危機であっても北部に食糧がなくて人が餓死する一方で、南部では食糧があまっているといった話からは、道路インフラの改善や政府が農作物を一元管理することの必要性を感じる。

次にUNDPのレポート(2012年1月)等からの情報。2008年4月に設立されたECXは農民やバイヤーにコーヒーやゴマ、穀物の市場価格情報(ニューヨーク市場やシカゴ市場の価格なども)を提供している。情報提供の方法は、31箇所あるセンターの電光掲示板を通じてやWebサイト、携帯電話のテキストメッセージ、自動音声サービス(4言語でのサービス。ちなみに、エチオピアでは80を超える現地語があると言われる)が用いられている。現在、アフリカ域内での取引しか行っていないが、2011年には11億USDの取引規模を有する取引所に発展、毎日2万件以上の取引や市場情報照会の取引照会がある。

ICT4Dの観点からだと、携帯を利用して農民の収入増加に貢献するダイレクトなサービスをしている点に注目があつまるが、一方では、ECXはコーヒーなど輸出品の品質管理を行うことで、輸出品そのものの価格を上げることに取り組んでいる組織である。例えば、

「エチオピアコーヒーのECX制は、その国内生産量の約96%を占める輸出用コモディティコーヒーを9つの主要生産地(Yirgachefe、Sidama、Jimma、Harar、Limmu、Kaffa、Tepi、Bebeka、Lekempti)に分けて各10の等級に分類しようとしたもので(スペシャルティと国内用は現時点では分類が異なる)、4%にも満たないスペシャルティコーヒーを流通加速するより、コーヒー全体の価格を上げることを眼目として発足している。」

上記はECXについて書いてある珈琲系のブログからの抜粋だが、そのブログで取り上げられていたネタが興味深い。

これまでアメリカをはじめとする輸出先であるコーヒー業者は、エチオピアの農家から直接コーヒー豆を買い付けることで、その豆のブランド力をアピールしてきた。「単一産地」かつ「直接取引」のコーヒー豆です!ということをアピールしてきたわけだ。それが、ECXを通じてコーヒー豆を輸入することは、その豆が本当に特定の産地の豆なのか?と胸を張って言い切れなくなることを意味する。

希少な単一産地のコーヒー生豆の買い手にとって、生豆が栽培されたテロワール(土壌と風土)が、世界最大のコーヒー店チェーン、米スターバックス との販売競争で強みになる。専門的なコーヒー業者は、エチオピアとの関係が崩れ、同国産コーヒー生豆のブランド力が損なわれていると嘆く。カナダのディスカバリー・コーヒーのプリンシパルオーナー、ジョン・リオプカ氏は、エチオピア商品取引所の開所後、エチオピア産コーヒーを単一産地ブレンドのメニューから取り除いたと語った。(ブルームバーグの記事「専門店から消えるエチオピアコーヒーの香り-商品取引所開設の余波」(2011年9月)抜粋)

エチオピアのコーヒー価格を上げようとECXが品質管理等に取り組んでいる一で、海外におけるそのコーヒー豆のブランド力が落ちてしまうというリスクもあるという話。複雑な課題です。

最後にICT4Dの観点に話を戻したい。Eleni Zaude Gabre-MadhinのプレゼンでECXについての説明があるが、そこでは携帯電話を用いての情報提供サービスとは言っておらず、地方のテレセンター的な拠点を通じての情報提供といっている。さすがに2007年時点では携帯がエチオピアでもこれほど普及するとは思ってなかっただろうなぁ。以下のグラフ(上記と同じUNDPのレポートから)のようにエチオピアの普及率はかなり低いレベルでしたので。

アフリカの携帯普及率 in 2007

そして、ECXが軌道に乗った理由には、携帯電話の普及といううれしい誤算があったのかもと勝手に想像。参考までにアフリカのICT普及率のグラフ(上記と同じUNDPのレポートから)も載せてみます。

アフリカのICT普及率2010

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コメント

  1. Yuji Ozaki より:

    O157の騒動や一連の食品偽装事件以降、食品のトレーサビリティへの関心が高まりました。元スーパー店員なので、食品ネタにはやや敏感です(苦笑)。

    原材料の産地での計測にはじまり、その後はロジスティクス過程の責任分解点ごとに(工場あるいは調理過程、お店への納入、保管管理過程での受け渡しごと)、様々な項目が計測され、記録されます。内容物や数量のチェックだけではなく、容器が開封されていないことや、温度・衝撃などの履歴もチェックします。この場合、ロジスティクス過程・それにかかる時間が長くなるほど責任分解点も増え、不安な要素が混在する(不安定・不正確・恣意的なな等級付けなども含む)危険性を孕んでいます。
    トレーサビリティを活かすには、正確な計測機器・センサーや履歴を記録する機器による測定値の「見える化」が大事な要素ですが、測定値(正確さと安定性)と測定者の信頼性が極めて重要です。単純な流通に携わる者(ロジスティクス過程にのみ関与するもの)は、予め決められたこと以上の責任は取れません。

    バイヤーがコーヒー豆を農家から直接買い付ける行為は、責任分解点を最小化する行動(トレーサビリティのコストを最小化することが目的)だと言えるでしょう。
    収穫量以上に流通していると言われている魚沼産コシヒカリ、「魚沼の契約農家から今年収穫した米を頂いてきて私が直接運んできました。DNA検査もしています。」と「どこから仕入れたかなんて関係ない。魚沼産コシヒカリ、って袋に印刷してるし安いからエエやんけ。」では、スタート位置が違いすぎますよね。

    このトレーサビリティの問題は、輸出入(通関)におけるコンテナの扱いと非常に似ていると感じています。ここで微妙にICT4Dと関係しているかも。

  2. Yuji Ozaki より:

    ブルンジのネタですが、国連情報誌SUNブログ対応版の記事より
    「世界銀行主導で2008年にブルンジで実施されたコーヒー産業の民営化が、現地の農業従事者に負の影響を与えていると警告し、この政策の実施中止を要請した。」ってびっくり。
    *UN News Centerの元記事へのリンクは文中にあります。

    • tomonarit より:

      いつも興味深いネタを共有してもらいありがとうございます(^_^)
      こういった失敗があるんですね。エチオピアの取り組みは成功してもらいたいものです。

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