ICT4Dプロジェクトの評価について

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先日、とあるコンサルタントの方とお話ししていたら、評価の仕事よりも技術協力の仕事の方が好きだと言っていました。途上国の特定の相手、もしくは大多数に対して何かの技術を教えることは、「途上国のためになる仕事をしている感」をダイレクトに感じられるが、評価は比較すると、そういった感じを受けにくい仕事だある、と。なるほどなぁと感じながら、ICT4Dプロジェクトの評価について調べてみた。

開発援助プロジェクトは最後に評価を行うのが常。プロジェクトの成果をきちんと把握したり、後に同様のプロジェクトを実施する際に有益となる教訓を導き出すことが評価の意味と考えられる。

ICT4Dプロジェクトの評価方法について考えるうえで非常に参考になるのが、“Compendium on Impact Assessment of ICT-for-Development Projects”というpaper。IDRCがスポンサーになってManchester Universityが実施したもの。2009年とちょっと古いけれど、ICT4Dプロジェクトの評価に使えるフレームワーク・手法として以下12種類に言及している。それぞれの特徴、短所、長所、どういったタイプのICT4Dプロジェクトに向くか(例えば、テレセンターの経済的な持続継続性を図るにはCBAが良いなど)、実施時の留意事項など、端的にまとめられていてわかりやすい。

1. Cost-Benefit Analysis (CBA)
2. Project Goals
3. Communications-for-Development
4. Capabilities (Sen) Framework
5. Livelihoods Framework
6. Information Economics
7. Information Needs/Mapping
8. Cultural-Institutional Framework
9a. Enterprise (Variables)
9b. Enterprise (Relations)
9c. Enterprise (Value Chain)
10. Gender
11. Telecentres

これについては、HeeksのICT4Dブログでも当時取上げられており、他の研究者からもコメントで参考になる文献などが紹介されています。

これに目を通して見て思うのは、結局、評価はその目的、評価結果を誰に見せるか、によって採用するべき手法や実施タイミグが大きく異なるということ。本当に意味のある評価結果を求める場合、なんにでも適用出来る評価方法はないのかもしれない。基本的にプロジェクトの最終的なインパクトに重きを置けば、調査すべき事項は膨れ、あくまでもプロジェクトが達成する限定的な成果やプロセスにフォーカスすれば、調査すべき事項は絞られる。

例えば、テレセンターで農業情報を提供することで、農作物の収穫UP、収入UPを目的とするICT4Dプロジェクトの場合、農民がインターネットの使い方をマスターして天気予報や農業専門家のアドバイス基づいて作物を育て、市場情報に基づき仲買人と交渉することが出来るようになったとしても、それがイコール収入UPにはならないケースもあろう(作りすぎてしまい逆に単価が落ちてしまうとか、国際的な市場価格に左右されるなど)。この場合、インパクトに重きを置けば、過剰生産に対する計画がなかったとか、国際市場価格のウオッチングが欠如してた、の理由でプロジェクトは失敗だということになる。一方、農民がインターネットが使えるようになったとか、仲買人とも交渉できるようになったという成果とそこに至るプロセスに重きをおけば、プロジェクトは成功とも言える。

ICT4Dプロジェクトというカテゴリーで考えると、よりICTに近いとことろに絞り込んで(例えば、農民がインターネットを使えるようになったか否か)評価するほうがやりやすいが、本当の目的は農民の収入UPである。しかし、その目的達成にはICT以外の多くの要素が絡んでおり、評価にもより時間とコストを要する。

言い換えれば、ICT4Dプロジェクトにおいてツールとして活用されているICTにフォーカスするか、4Dにフォーカスするかというのが議論になるところ。さらに、終了したプロジェクトに対してどこまで時間とコストをかけるのかという点も考慮しないといけない。

利益追求の事業ならば、黒字化したか、いくら儲かったか、という明確な指標があるが、開発援助プロジェクト全般、とりわけICTをツールとして活用するICT4Dプロジェクトについては、(評価の必要性には疑いはないものの、)何を目的にどこまでやるか、なかなか明確な指標を設けるのは難しそうである…。

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コメント

  1. Ozaki Yuji より:

    『プロジェクトが達成する限定的な成果やプロセスにフォーカスすれば、調査すべき事項は絞られる』のは確かにその通りです。
    おそらく、農業や保健医療におけるICTの利用がパイロットレベルに留まっていることが多いのはそのためでしょう。大きな目標の中に様々な活動があり、その活動の一つにICT利用がある、という構造です。様々なアイデアを制約の中で試し、測定可能かつ限定的な成果を得つつ先へ伸ばすというアプローチ。ICT利用単体で評価するのではなく、その上位の活動が評価対象ですね。

    WHOやUNICEF、ADB、USAID、Google、ゲイツ財団、GSM Allianceなどは、ベンチャー支援的な考え方での小規模投資(投入とは言わない)しているようです。結論の出ない議論を繰り返すよりは、限定的に試してみた方がノウハウも貯まるし、時間というコストの節約になる、という考え方なんでしょう。ただしアイデアの審査は無茶苦茶に厳しい…。
    これができない組織では、いろいろとアイデアや思いつきを述べて「こんなことくらい簡単にできるだろーが!」と、私のような立場の人間から言質を取りたがる人が相当数いらっしゃいます(苦笑)。
    そんな方に、「具体的にアイデアを持っていて、かつそんなに簡単と判断するならば、何で試してないんですか?」と問い返したくなるのですが、甲乙関係の中では言いづらいですね…..。

    私の認識では、日本国内のIT産業は、「顧客至上主義」を標榜しているが故に「顧客のおもいつき」に振り回される経験を多く積みすぎて(苦笑)、悪い予感が漂うところには最初っから寄ってもこないんじゃないかと。それよりは、ITの特性を生かし、アイデアを世に問い、注目を集めて資金調達にまで持って行く方がラクなんじゃないかと。そうすると、資金を出す側も「出すに相当するか、受け入れるか否か」を判断するだけなのでラクなんじゃないかと。
    私はまだまだ勉強も能力も足りませぬ。道は遠いなぁ。

    • tomonarit より:

      「顧客至上主義」になりすぎといういう点は、真にその通りなんだと思います。以前、日経コンピュータかなにかで、日本のIT企業が海外進出出来ない理由として、「顧客至上主義」が上げられていました。顧客の要望に応えるためにかなり細かな点までカスタマイズしてあげる(=標準化されたシステムではない)ことで、価値観を出してきたため、「標準化したパッケージ」で勝負することが苦手になっているということ。確かに、カスタマイズされたシステムは嬉しいけど、導入に時間がかかるという課題も。短期間で「標準化したパッケージ」をサクッと導入するビジネスの方が海外ではリスクも少なくやり易いのだろうと思いました。
      誰でも、「小さく」、「軽く」、「早く」、みたいなやり方の良さを頭では分かっていても、ついつい「あれもこれも」、「どうせやるなら」、「もう少しだけ」と欲張ってしまうんでしょうね。まぁ、自分もそうですが・・・。

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