ポスト2015年におけるICT4D

MDG(ミレニアム開発目標)の目標年2015年はもう間近。ポストMDGとしてどんな開発目標が国際社会で掲げられるのか?というのは、言わずもがな開発業界ではホットな話題。

一方、ICT4D関連の大きな会議といえば、WISIS(世界情報サミット)が思いつく。でも最近ICT4Dに興味を持った方々のなかには、馴染みが薄いかもしれない。第一回WSIS2003@ジュネーブ、第二回WSIS2005@チュニスは、2000年頃からICTの途上国開発における役割に期待が高まってきて、同時にデジタル・デバイドという用語が頻発されるようになり、良くも悪くもICT4Dバブル的な風潮を象徴する国際会議だったと言える。そのWSISの第三回目が2015年にロシアのソチで行われる予定そうな。

ポストMDGにおけるICT4DおよびWSISの位置づけがどうなるか?というテーマで書かれたマンチェスター大学のワーキングペーパー「ICT4D 2016: New Priorities for ICT4D Policy, Practice and WSIS in a Post-2015 World」を読んでみた。これは、以前このブログでもポストMDGsのICT4D研究優先課題としてKnotが紹介していたワーキングペーパーの続編的なペーパーなので、重なる部分もあるもの自分なりに理解した内容(以下4点)を紹介したい。

1.POTENTIALLY WELL-COVERED ICT4D AREAS

このペーパーはICT4D関連文献とポスト2015年(ポストMDG)関連文献を対象に、どういう言葉が使われているか?を分析し、そのギャップを明確にすることで、ICT4Dアジェンダと開発アジェンダのギャップを発見するというもの。下のグラフで0より下に伸びている線は、ICT4Dアジェンダとしてはあまり議論されていないがポスト2015年開発アジェンダとしてはよく議論されているというテーマ(数字の大きさがそのギャップの差)。逆に、0より上に伸びている線は、ポスト2015年開発アジェンダとしてはあまり議論されていないがICT4Dアジェンダとしてはよく議論されているというテーマ。例えば、Infrastructureというテーマは、ICT4D分野では良く議論されるけど、ポスト2015年開発アジェンダとしてはそれほど議論はされていないということ。逆に、Environment and Sustainabilityというテーマはポスト2015年開発アジェンダとしては良く議論されているけど、ICT4D分野ではそれほど議論はされていないということ。言い換えると、このグラフで真ん中あたりのものは、ICT4Dとポスト2015年開発アジェンダの両方で同じ位議論されていてギャップはないのも。Knotの投稿にもあるように、テーマごとのギャップ大小がわかる。この詳細はKnotの投稿を参照して下さい。

ICT4D 2016: New Priorities for ICT4D Policy, Practice and WSIS in a Post-2015 Worldより

ICT4D 2016: New Priorities for ICT4D Policy, Practice and WSIS in a Post-2015 Worldより

2. INFORMATICS-CENTRED ICT4D PRIORITIES

ICT4Dという用語が示すとおり、Information and Communication “Technology”がどう開発に寄与するかという観点で議論されることが多いが、重要なのはTechnology(技術)だけじゃなくて、データと情報、コミュニケーション、社会影響等を含むより広い意味でのICTの効果、即ちInformaticsの観点でICT4Dが議論されるべき、というのが「Informatics-centred」の意味。ICT4DじゃなくてInformatics4D (I4D)にするということ。

この「Informatics-centred」の観点から面白いなと思ったのは、途上国開発にデータを有効活用するという観点がポスト2015年には重要になろうというもの。途上国での携帯電話の利用からとれるデータや途上国政府がICTの活用によってリアルタイムに取れるようになるデータ等をどう活用するか?という観点。このD4D(Data4Development)はかなり可能性がある領域と思う。民間企業の途上国進出においても、この領域への参入はとても有望なのではないかと個人的には感じる。

また、 「Informatics-centred」の観点からは、ICTの正の効果だけでなく負の影響も視野に入る。サイバー犯罪やICTの人体への悪影響、ライフ・ワークバランスへの負の影響といった、ICT4Dの負の部分にも留意が必要であるが、これまではあまり議論がされていない。ポスト2015年においては、この観点も軽視してはならないだろう。

3.NEW DEVELOPMENT-ORIENTED PRIORITIES FOR ICT4D AND WSIS

ポスト2015年において優先度の高いICT4D分野を、ICT4Dアジェンダと開発アジェンダのギャップから導き出したのが以下の16分野。ワーキングペーパーでは各分野のさらに細かい内容まで書いてある。例えば、EnvironmentならGreen IT Innovationやe-wasteなど。

ICT4D Prioprity

ICT4D 2016: New Priorities for ICT4D Policy, Practice and WSIS in a Post-2015 Worldより

4.TRANSFORMATIVE DEVELOPMENT AND DEVELOPMENT 2.0

これまでの段階的な(順序を1つずつ踏んでいくような)開発ではなく、ポスト2015年ではもっとスピードのある開発が求められるだろう。そして、途上国の開発スピードなり方法なりを、これまでとは劇的に変化させることに活用出来るのがICT。具体的に「どう変わるのか」については、まだ明確なビジョンは誰も示していないものの、変わるはずという期待感は大きい。例えば、HeeksのいうDevelopment 2.0は、ICTによって変わる(変わった)途上国開発のあり方(モデル)を示唆している。

5.THE FUTURE OF ICT4D AND WSIS: STRUCTURE, PROCESS AND VISION

ICTのメインストリーム化についての話。2000年のICT4Dバブルを過ぎたころから、ICTを開発アジェンダのメインストリームにしようという動きが続いていた。例えば、援助機関においても、ICTタスクフォース的な特別部隊や部署をもうけて、それに詳しい人達だけで議論しているのではなく、ICTをどの分野でも使える当たり前のツールとしていこうということ。

一見、「うんうん。そうだ」と思うのですが、裏を返すと、「ICTタスクフォース的な特別部隊や部署はもう解散します。あとは各部署でうまくICTを活用してね!携帯電話やパソコンは、もう当たり前に使うツールですから」ということ。これだと、ICTの専門知識がないにも関わらずICT利活用をまかされた各部署では、ICTの活用方法について良いアイデアはでない。そして、ICT利活用が廃れていく…。なので、やっぱりメインストリーム化じゃなくて、ICTのことが良くわかるタスクフォースなり部署なりを作って、そこがICTの各分野での活用を牽引していかないといけない。要するにICT4Dオタクがいないと、ICT4Dプロジェクトは上手くいかないということ。それを国連機関の体制に落としてみると以下のようになる。ICT4DオタクがUNGIS Secretariatで、ITUが技術屋さん。そして、それら2つの機関の支援を受けつつUNDP等がICT利活用を実施するようなイメージか。

Structuring ICT4D Within UN System

以上、自分自身の備忘録的な意味も含めて、長々と書いてしまいました。でも、このワーキングペーパーはとても勉強になったと思うので、興味がある方はオススメします。ポスト2015年とICT4Dがどうなるか、まずはソチでWSIS2015が本当にあるのかをウオッチングしていこうかと思います。

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3. その他
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コメント

  1. Ozaki Yuji より:

    ご提示されている「Figure1: Measure of “ICT4D Gap” Between WSIS+10 and Post-2015 Agenda Text」の項目分布、興味深いですね。右側は現実の実装段階における課題、左側はコンセプチュアルな援助機関の予算づけの根拠っぽい感覚です。
    また、「Figure 9: Structuring ICT4D Within the UN System」におけるUNGIS Secretariatは、部署や省庁を跨がったCTOやCIOを指しているようにも見えます。ITUはまさしくインフラとかプラットフォーム的な立ち位置ですね。

    近年のマンチェスター大学のICT4Dでは「Understanding ICT4D and Capabilities via User Roles」も面白いコンセプトであると感じています。ここではユーザーロールをラダーに例えていますが、このラダーを苦労してまで登ろうとするユーザーは少なそうであり、マスマーケティングのAIDMA的なファネルに転用するとすごくシンドそうなモデル(普及学で言う所のキャズムはどこにあるのかな?)だろうなー、と思いつつ眺めています。5年以内の時間軸におけるユーザー側の分析に限っては、楽天的な進化論よりも、ある程度座席が固定された創造論を適用するのが楽なのかな、とも考えるのですが、宗教的なバックグラウンドが無い私には理解が限定的になっちまう(笑)。

    理屈が現実を後追いしているという点では、ますますマーケティングっぽくなってきているなー、というのが率直なところです。

  2. おじじ より:

    このブログを面白く、拝見させていただきました。
    自分は海外営業でバングラデシュを担当していて、代理店もあります。
    ダッカの事務所へ訪問した際、JICA同窓会オフィスも同じ階にあり、驚いたのを覚えています。
    その後、お客さんと現場で会いましたが、変な関西語を話すオーナーもいて日本を身近に感じました。
    そんな国でしたが、執筆者の皆さんの経歴を拝見して、このコメントを書かせていただきました。
    今後の記事を楽しみにしております。

    • tomonarit より:

      おじじさん

      コメント、どうもありがとうございます。自分はガーナにいますが、一緒にブログを書いている同僚がバングラデッシュにいますので、機会があればお会いできるかもしれないですね。今後もよろしくお願いします。

  3. […] International Aid Transparency Initiative (IATI)というオープンデータを推進する機関を招いてガーナで地方政府職員に対するオープンデータ利活用のワークショップが行われました。以前、このブログでもポスト2015年開発アジェンダについて触れたように、ビックデータ、オープンデータといったデータ活用が今後の途上国開発の一つのキーワードになると思ってはいたものの、あまり身近に感じてなかった。でも、ガーナでもこういうワークショップが行われており、それが結構大きく新聞に載っているのを目の当たりにして、自分のなかでもっとアンテナ高くしないとなぁと感じました。 […]

  4. […] そして、この「SDG ICT Playbook」を見て感じたのが、具体的なICT技術として取り上げられているものが自分がICT4Dに関心を持ち始めた10年前とは大きく変わって来たという点。モバイル、ソーシャルメディア、クラウドコンピューティング、ビッグデータ分析、3Dプリンタ、スマートシステム、衛星技術などが各ゴールに絡む各セクターでどう活用出来るかが紹介されているのですが、ビッグデータとか3Dプリンタとか、これから途上国での活用が本格的になっていく技術として自分ももっと勉強しないといけないと感じたりしています。 […]

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