消費者からプロデューサーになる道とは?

アフリカ

先日、ICT4D関連の本のChapter募集があったので、2〜3ページのプロポーザルを書いて応募してみた。デンマークの大学教授が編者となるこの本のタイトルは”Handbook on ICT Policy for developing countries”というもの。5Gに代表される最新テクノロジーが特にアフリカを中心とする途上国にどういう影響をもたらすのか?恩恵をうけるにはどんなICT政策が必要なのか?という結構大きなテーマの本。

ここ最近の自分の関心は、以前の投稿「IoT、ビッグデータ、AI、3Dプリンタ、ドローン、新たなテクノロジーは途上国を豊かにするのか?」で書いたように、ますます世の中を便利になる最新技術は、能力の高い個をエンパワーする一方で、相対的に能力の低い国そのものは期待ほど豊かにしないんじゃないか?という点。テクノロジーが発展し国境によるハードルや物理的な制約がなくなればなくなるほど、シンプルな競争が起きて、途上国は先進国の大企業の市場にしか成り得ず、自国の自力(技術力とか創造力とか)が発展しなくなってしまうのではないか?という懸念。

例えば、Googleは途上国での携帯電話やネット利用の普及のために、Android Oneという製品を展開している。これによって途上国の人々も手の届くスマホが販売されネットが使えるようになり、人々の生活は便利になるのだろう。そしてそれと引き換えに、途上国の携帯メーカーがAndroid Oneと組むことによって、自国でのAndroidにとって代わる製品が出て来る可能性はかなり薄くなるのかもしれない。

Amazonやアリババでネット越しに海外から何でも買えたり、データを購入すれば3Dプリンタにデータを流すだけで製品が作れるようになれば、途上国でも生活は便利になるが、消費者の立場から這い上がることはとても難しくなる。途上国でもIoTやビッグデータによって農業生産性や漁業の生産性が向上すると期待されているが、そのデータ分析ツールは先進国企業のクラウドサービスを使い、データは先進国のデータセンターに保存されるだろうか。

勿論、テクノロジーによって途上国の人達も先進国の人達と対応に競える同じ土俵には立ち易くはなった。AndroidやiPhoneが普及したからこそ、途上国の人達も簡単に自分達で作成したアプリを世界市場に向けて販売出来るようになったし、AMP Musicの取り組みのように、途上国発のプロダクトが世界市場にアクセス出来るようになった。

それでもApp Annieの調べによると、2015年に世界で売れたアプリTOP52のうち、日本・中国・韓国の企業が28社を占めており、その他は米国やヨーロッパで、いわゆる途上国の会社は入っていない。あれだけ人口の多いインドの会社もない。

Top-52-List-2016

Source: https://www.appannie.com/insights/app-annie-news/app-annie-52-top-app-publishers-2015/

自分が大学院で学んでいた当時(今から約10年前)、ICT4Dの失敗事例の多くは、先進国のソリューションを環境が全く違う途上国に持ち込んだことによって生じている、といった分析・主張をしている文献を多く読んだ。だから途上国には途上国に合ったソリューションが必要だという意見。それは正しいと思う。

でも今後は、というか既に、先進国の企業は、先進国でも途上国でも利用出来るソリューションを生み出し、それが世界中で使われるようになっている気がする。Facebook, Twitter, What’s up, などなど。ちなみにUberも2012年に南アフリカで使われ始め、その後、ラゴス、ナイロビ、カイロでも利用できるようになった。

当時の失敗事例の原因の1つに良く指摘されていた問題に識字率や現地語の問題がある。途上国のユーザは現地語を主に使っており英語があまり出来ないのに導入したICTシステムは英語にのみ対応していたとかいった問題である。しかし、今スマホを買えばかなりマイナーと思える言語まで対応しているし、FacebookでもGoogleでも相当な数の言語に対応している。動画やスタンプなど言葉がなくても通じるコミュニケーションもかなり発達してきた。そのうち途上国の環境に合うようにカスタマイズされたソリューションはそれほど重要じゃなくなるのかもしれない。そうなると途上国はますます消費者・ユーザの立場に落ち着いてしまう。さらに、得意の労働集約型のビジネスもロボットやAIに取って代わられてしまうのかもしれない。

そこで思うのが、「じゃ、どうしたら良いのか?」ということ。自国の技術力を高めるために人材育成に投資するとか、イノベーションを起こす為に産官学連携を促進するとか、そういった地味時な努力は重要だろう。そして、もう一つのアプローチとしていかに「独自の市場を確立するか?」という点じゃないかと思う。

M-PESA、Ushahidi、e-sokoなどに代表されるような途上国発のソリューションを生み出すのは簡単じゃないが、アフリカでは既になかなか個性的なアプリが誕生している。例えば、ガーナ発のmPedigreeというアプリは、偽物の薬か本物の薬かを見分けるツール。処方された薬についているシリアル番号を入力すると、製薬会社のデータベースに照会されて、それが本物かどうかがわかる。偽物が蔓延るアフリカにおいて、偽物を掴まされたくない消費者と偽物が流通することによって利益を損なう製薬会社のお互いのメリットをマッチさせた上手い仕組みだ。また、ナイジェリアのAfrinollyというアプリは、Nollywoodと称されるナイジェリア映画を見るためのアプリだ。いくらYoutube等でHollywood映画が無料で見れる時代でも、やっぱりナイジェリア人はNollywood映画も見たいってことなんでしょう。

単純にニーズといってしまうとシンプルすぎだが、文化とか嗜好とかを汲み取って、独自の市場を掘り起こし自分達にしか作れないサービスを発展させていけば、単なる消費者からプロデューサー(クリエイター、イノベーター)になる道が残されるのかもしれない。さらにECOWASとかEACなどの地域経済共同体としてそういう独自市場を発展させるというもの面白いかもしれない。

と、上記のような自分の関心をプロポーザルにして応募してみたら、嬉しい事に「じゃ、Full Chapter書いて見て。8000語!」という返事が来ました。嬉しい反面、8000語にチャレンジするのはかなり大変・・・(汗)。でも頑張ろうと思います。ということで、コメント、ツッコミ、有益情報など、何でも大歓迎ですので、こんな視点もある、あんな事例もある、というネタをお持ちの方、是非コメント下さいまし!

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コメント

  1. Ozaki Yuji より:

    “Handbook on ICT Policy for developing countries” ですか。
    この書籍のスポンサーは、WWRF(Wireless World Research Forum)なんですね。道理でモバイルとか5Gが連呼されているわけだー。
    アフリカ、南米、アジアのいくつかの途上国を舞台とし、ICT政策のインパクトについて過去を振り返ってのアセスメントと将来の予測とともに、途上国の様々なセクターにおける、移動体通信の発展に関する、強み・弱み・現在と将来の機会・脅威にフォーカスする、と。何とも野心的ですね。
    ご多忙とは存じますが、ご自愛しつつ来年の3月27日の締め切りを目指して頑張ってください。

    政策って特にアクセスレベルにはダイレクトに影響を与えますよね。政治は死人が出るほどには面倒です。

    消費者庁の移転先として名前が挙がっている徳島県。「地デジに移行したらテレビが映らなくなるわ〜(なにせ山がちなんで)」と気づき、CATV用途を理由として県内全域に光ファイバを敷設し始めたのは10年以上前。農道整備時にまで光ファイバを通したあげく、気づけば光ファイバ網整備では日本一。でも、テレビってそんなにジャカスカと税金ブチ込むほどに公共性あったっけか?
    徳島県神山町(葉っぱビジネスで有名)は、その時に補助金を含む10億円をかけて全戸に光ファイバー網を敷設。『町村レベルとしては非常に大きな予算額で、何十年かに一度の大きな施策』だったそうで。結局これがインターネット普及にも生きて、(それまでにやってたアーティスインレジデンスなどの風変わりと評された活動を土台にして)県外から企業を呼べるようになったのはつい最近の話。もし、インターネット普及の波が来ず、企業進出の話もなかったら、「どうして福祉や箱モノに予算を回さなかったのか」と遡及されてクソ扱いされて叩かれるだけだったでしょうね(この点、田舎はいつまでも忘れてくれないので怖いですよ)。

    余談ながら、私の親類も別地域で町長として、小中学校の英数教育強化とその種の基盤整備に予算を重点配分する政策を進めようとしていたようですが、議会との調整に激しく苦労してたそうです(これはずいぶん後になって複数の関係者から聞いた話)。結果的に早世してその果実を目にすることはなかったのですが。

  2. Kanot Kanot より:

    8000語!!とんでもないですね!頑張ってください!

  3. […] もう1年以上前ですが、「消費者からプロデューサーになる道とは?」というタイトルで投稿したように、”Handbook on ICT Policy for developing countries“という本(コペンハーゲンのAalborg UniversityのProf Knud Erik Skoubyなどが編者)のchapter募集に応募したら、選考にとおりまして、やっとさ5月末にその本が出版されました。そしてその第9章に自分の論文が載っています(初期段階から相談にのってくれたこのブログの共同運営者のKanotとMaki、サンキューです〜)。 […]

  4. […] 誰でも簡単にICTを使いこなせる時代になって来ているが、まだまだ途上国と先進国の差は大きい。App Annieの調べによると、2015年に世界で売れたアプリTOP52のうち、日本・中国・韓国の企業が28社を占めており、その他は米国やヨーロッパで、いわゆる途上国の会社は入っていない。あれだけ人口の多いインドの会社もない。 […]

  5. […] 先進国企業がアフリカへ進出していること自体は悪い事ではないと思うが、その中からどれくらい現地の企業や人々が裨益出来るのか?という点がポイントだろう。以前、「消費者からプロデューサーになる道とは?」でも述べたように、アフリカの人々が先進国企業のサービスの消費者(コンシューマー)になるだけでなく、自らそこから派生するビジネスを起業出来るようなプロデューサーやイノベーターになることが望ましい。日本でいうと第二次世界大戦後に松下幸之助とか本田宗一郎とかが出て来たみたいに。 […]

  6. […] […]

  7. […] […]

  8. […] もう1年以上前ですが、「消費者からプロデューサーになる道とは?」というタイトルで投稿したように、”Handbook on ICT Policy for developing countries“という本(コペンハーゲンのAalborg […]

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