SMSとWhatsApp、教育ツールとして効果が高いのはどっち??

こんにちは、狩野(Kanot)です。いきなりですが、皆さんSMSは使った事ありますか?ありますよね。ではWhatsAppやLINEなどのメッセンジャーアプリはどうですか?これも大半の方は使っているのではないでしょうか。

では、皆さんが途上国で統一試験(日本でいうとセンター試験)対策として、携帯電話に予想問題を送る教育プロジェクトをやるとした場合、SMSとWhatsApp(世界シェア1位のメッセンジャーアプリ)、どちらを活用した方がより効果が大きいと思いますか?

普通に考えると、よりインタラクティブで情報量も多いWhatsAppの方が効果あるかな?と考えますよね。それが違った、という研究の紹介です。たまにはアカデミア風に書いてみます。

1. 研究概要

この研究はアメリカのコーネル大学の研究チームが行なった実験で、カメルーンにて中高校生向けの統一試験対策として、予想問題をSMSとWhatsAppそれぞれに配信し(ユーザはどちらで受け取るかを自分で選ぶ)、その返信率を統計比較したものです。

Poon, A, et al. (2019). Engaging High School Students in Cameroon with Exam Practice Quizzes via SMS and WhatsApp.

2. 結果

その結果、SMSの方がWhatsAppより高い返信率であったというものです。つまり、ローテクなSMSの方が、予想問題を返信してくれる確率が高かったということになります。

3. 考察

なぜこのような結果になったのでしょうか?その理由として論文中には、配信組織の信頼とか色々挙げられているのですが、個人的に興味深かったのは、スマートフォンは親の制御を受けやすい、という点です。

カメルーンにおいては(おそらく日本も)スマートフォンはFacebook、Youtube、ゲームなど、遊びの道具として非常に魅力的で、試験勉強には悪影響を与えるものと考えられています。そのため、親による干渉が入るケースが多く、試験期間中はスマートフォンを没収されてしまったり、ガラケーにSIMを移すことを強要されてしまったりなどといったケースがままあるようです。そういった背景もあり、WhatsAppの返信率が低くなってしまったのではと書かれていました。

4. 批評

一つこの考察を批評(critique。クリティークと読みます。)するならば、SMSとWhatsAppのどちらで受信するかはユーザが決められるということで、おそらく両グループの親の所得には有意な差があると思われます。つまり、WhatsAppを選ぶ=スマホを持っているということなので、WhatsAppを選んだグループの方が所得が高いと思われます。そのため、WhatsAppを選んだグループはこの予想問題以外にも試験対策(塾や家庭教師)を使っている可能性があり、それが返信率を下げている可能性もあるのではと思いました。

余談その1:博士課程では、論文読んだり書いたりも多いのですが、こうやって他人の論文を批評(critique)することも、研究者育成の一環として求められることが多いです。

5. 所感

一般的に携帯電話をターゲットにしたプロジェクトを企画する場合、「スマートフォンを持っていない低所得者層も多いのでSMSで」という発想はよくあると思います。一方、スマートフォンを持っているという前提があった場合、「いや、それでもスマートフォンを使えない制約があるかもしれない」とはなかなか考えられず、ついついスマートフォン向けのソリューションを開発してしまいそうですよね。そういった発想に一石を投じる研究で、もっと色々な要因を考える必要があるんだなぁと学びを得た研究でした。

こういう、ストーリーがシンプルで実務家にもメッセージがわかりやすく伝わり、かつ研究としても価値がある、こういった論文を出せるようになりたいです。

余談その2:この論文が掲載されているCHI(カイと読みます)はHCI (Human Computer Interaction)の世界最大の学会で、多くのICTとデザイン分野の研究者が数千人規模で参加する学会です。ICT4D系の研究も発表されていますので、名前だけでも覚えておくと良いかもしれません。

なお、本投稿で使っている画像は、同じ論文を解説していたICT Worksより参照しています。

“SMSとWhatsApp、教育ツールとして効果が高いのはどっち??” への3件の返信

  1. SMSとWhatsApp、両者のメタファーが大きく異なりそうなのは、配信する側はスター型(配信者が中央にあって統制し、受信者が配信者と個々に繋がり、受信者同士の繋がりは少ない。私語の少ない教室や、ここの学習進度に応じたプリントをこなす学習塾みたいな状況)を想定しており、SMSはそれに近いけど、WhatsAppなどのツールは実質的にメッシュ状になっている(受信者同士のインタラクションが多く、私語の絶えない教室とかグループワークやってるワークショップや、人通りの多い交差点みたいなもの)ことのように見えます。
    つまり、SMSがWhatsAppよりも、「多くの人に(ある程度画一的に)予想問題を配信する」という今回のモデルに暗黙的にフィットしていたんじゃないかと考えるワケです。これが、予想問題の配信ではなく、流行りのアクティブラーニングなんかがネタだったら異なる結果になったかな、とも考えます。

    なお、配信する側の考え方では、SMSのバルク送受信は、実施国内の複数の通信キャリアやゲートウェイ(twilioやclickatellなど)との契約が面倒そうだし、1通あたりで通信料がカッチリ計算されるしで、TCP/IPで全部済みそうなWhatsAppの方が事前準備や費用見積もりの手間が少ないように見えます。

    ただ、どんなツールを使おうとも共通して面倒なのは、個々の対象層に対して使い方を説明し続けるコトなのでしょうけど(笑)。

    1. Ozakiさん、素晴らしいcritiqueですね。今回の予想問題というやり方がSMSに適していたのでは、という点は思いつきませんでした。そしてお金面でもおっしゃる通りかもしれませんね。SMSは無料という国も増えてきてる印象ですが、インターネットベースで動くWhatsAppの方が安価な気はします。

  2. とはいえ、SMSのインタラクティブ配信って、お気楽に試すには結構ハードル高いんですわ。エラーチェックが入力時/送信前にはできず、一旦送信した後でないとフィードバックできない(いちいちお金がかかる)のもユーザーフレンドリーではないですね。

    スパムSMSが増えたのと過剰課金への対策のため、送信には100通/時間とか200通/日などの制限がOSやキャリアのレベルで存在し、キャリアをまたいで送信するとローミング料金が発生。大量送信していると、通告なくbanされたりもします。

    なもんで、コンセプト実証の段階では、ユーザーが送信→受信はプリペイド端末(キャリア毎に用意する)→受信した端末に導入したゲートウェイアプリでSMPPからTCP/IPヘフォワード→Google/Kintoneなどのクラウドサービスで受け取って蓄積と処理→twilioやclickatellなどのゲートウェイプロバイダのAPIを叩いてSMS送信(TCP/IP→SMPP)→ユーザーがSMSを返答として受信、という感じになります。
    本番稼働を考えると、当該国内の全てのキャリアを跨いだショートナンバーを取得したうえで、各キャリアのゲートウェイサービスを開いてもらうところがスタートライン(法的な後押しが必要)。その上で送受信数を正確に見積もったり、入念な組み合わせテストが必要となるなど、稼働の前提条件を整えるまでの敷居が激しく高くなります。これを2-3年のプロジェクトの中で要件を決めながら…というのは正直なところ無理っぽいと考えています。

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