国際開発分野でのオープン・イノベーションへの期待と課題(その3)

イノベーション・新技術

ども、Tomonaritです。以前、投稿した「国際開発分野でのオープン・イノベーションへの期待と課題」(その1)、(その2)の続編です。 今回は、国際開発を担うJICAのような援助機関に求められる役割について考えてみました。

1.これまでの振り返り

(その1)では、オープン・イノベーションの分類(以下の図)を紹介しました。

Source: https://www.foresight.ext.hitachi.co.jp/_ct/16986491

前回、(その2)では、以下のようにまとめました。

国際開発分野で短期的(例えば2030年まで)に求められているのは、高度な技術革新ではなく、「どうやって既存の技術を途上国コンテキストに合った形 (低価格で使い勝手良く) で社会実装出来るか?というアイデア」なんだと思います。そして、そのアイデアの実行の際には、勿論、技術が活用される訳ですが、その技術そのものがイノベーションではなく、技術はあくまでも手段という位置づけだと思います。

国際開発分野でオープン・イノベーションに期待するのは、それまで国際開発分野には疎遠であったデジタル技術の活用だと思います(勿論、それ以外の技術もありますが、ICT4Dとの関係からこのブログではデジタル技術を取り上げます)。デジタル技術を持っているステークホルダー(主に民間企業、学術・研究機関)に対して、彼らがあまり知らない途上国、新興国の「現場の開発課題」の詳細を伝えるというのが、パッと思いつく援助機関の役割でしょう。おそらくこの点は誰もが賛同出来ると思います。

2. 現場の開発課題の詳細を伝えきれるのか?

実際、JICAは開発課題の提供は随分前からやっています。JICAの民間連携事業のWebサイトには「民間企業の製品・技術の活用が期待される開発途上国の課題」 というページがあり、環境・エネルギー、廃棄物処理、水の浄化、水処理、職業訓練・産業育成、福祉、農業、教育、保健医療、防災・災害対策等、分野べつに途上国、新興国の開発課題がリストアップされています。ちなみに、ICTに絡む課題は「その他」というカテゴリに多く入っている気がします。これ以外にも、開発課題を説明するためのセミナーも定期的に開催されており、私も何度か出席したことがあります。日本からでは普段触れることが少ない途上国、新興国の課題を聞けるレアな機会だと思います。

と言いつつも(その1)で、以下のように記載しました。

課題を持つ途上国に代わって援助機関が解決策を探す役目を担っている」という根本的な構図に問題がある

例えば、私自身3年間JICAガーナ事務所に赴任しており、その前はエチオピアに4年間(協力隊で2年、大使館で2年)いましたが、ガーナやエチオピアの開発課題をどこまで分かっているか?と聞かれれば、多くの日本人よりは詳しいでしょうが、現地の人達より詳しいとは言えません。ただ、 日本のあのサービス、あの製品がもしかしたら課題解決に繋がるかも、という観点で 現地を知らない日本企業の人達に「実は現地はこんなですよ」と関心を持ってもらうこと、キッカケを提供することは出来ると思います。しかしながら、現地で高級住宅街に住み、運転手付きお手伝いさん付きの生活をしていては、やはり本当に「深~い」ところまで現地の課題、リアリティを語れるのか…?という限界は感じます。

そこで個人的な感覚ではありますが、 オープン・イノベーションの分類のなかで、JICAのような援助機関には、課題を深堀りする②の「技術探究型」ど真ん中を期待するよりも、①自由参加のコンソーシアム型と②の技術探究型の中間あたりが最も適しているのではないかと思います。以下、その理由を書いてみます。

3.強みを活かせるのは深さより広さ(その1)

一方、「深さ」よりも「広さ」に援助機関の強みがあるのではないか、というのが私の思いです。例えば、JICAは上記のようにかなり幅広い分野で事業を行っており、その国あるいはその地域の課題を包括的に見ることが出来ます。その知見を活かして、「途上国で実装可能なアイデア」を出してくれるステークホルダー(民間企業や大学等)にプラスアルファの付加価値ある情報や気付きを提供することが出来るだろうと思います。

例えば、私が良く事例に使っているエチオピアの遠隔教育で考えてみます。2003年頃に開始されたSchoolNetと呼ばれるプロジェクトで、簡単にいうと、首都アジスアベバから教育テレビ的な動画を各地の中学・高校へ配信するもの。全国の高校の教室に液晶ディスプレイが設置されて、それで生徒は授業を受けるもの。主要教科がカバーされており、実験道具などがない田舎の学校でも、画面を通じて実験の様子を見ることが出来たりするので、教材の充実度や教員の質など都市部と地方部の格差をなくすことが出来ることが期待されてました。
ただ、当時、青年海外協力隊として地方の高校でIT教師をしていた自分が目の当たりにしたのは、課題ばかり…(以下の吹き出しから容易に想像できるかと思います)。

そのなかでも、教育テレビ的な動画の中の先生が話すネイティブイングリッシュに学生がついていけないという「言語」の問題がありました。エチオピアの教育制度では、高校教育は英語で行うことが定められているので、英語の動画を使うのは当然そうあるべきことなのですが、各高校の現場では、必ずしもそれに従っておらず現地語で教えている教師が多く、特に地方ほどその傾向がありました。そこで、学生に「英語、早すぎてついていけなくない?アムハラ語(現地語)のコンテンツの方が良いと思わない?」と聞いてみると、帰ってきた答えは、以下のもの。

「これからの時代、自分たちには英語が必要なので、現地語のコンテンツよりも英語のほうが良い。問題は小中学校で英語を本格的にやってないこと。教育制度を変えて、小学校からもっと英語教育をしっかりやり、高校になったときにはネイティブイングリッシュについていけるだけの英語力を習得出来る教育システムにするべきだ。」

この事例が示唆するのは、遠隔教育というデジタル技術を活用したソリューションを、活かすも殺すも、デジタル技術以外の要素を考慮したトータルソリューションに出来るのか否か、ということ。「言語」の問題だけでなく、電力インフラを整えるとか、先生にデジタル技術を使った教授法のトレーニングをするとか(OLPCでも同じですね)、トラブルシューティングの方法をトレーニングするとか、デジタル技術以外の側面でも必要な打ちてを打てて、初めて トータルソリューションになるのだと言えます。 技術はあくまでも手段 であり、それがトータルソリューションとしてインパクトを出せたときに「あれはイノベーションだね」と後付で呼ばれるのだと思います。

事例の説明が長くなりましたが、話を戻すと、こういう幅広い視点を持って且つ、幅広い打ち手がとれる、つまりトータルソリューションをデザイン出来るというのがJICAなど援助機関に期待出来ることだと考えています。これまでの国際開発業界にはいなかったIT企業へ途上国、新興国の課題を伝えて、デジタル技術と課題をマッチングする場を設けるだけでなく、そこから法制度や人材育成を含めたトータルソリューションをデザインすることは一民間企業にはハードルが高いので、そこを援助機関が担うことが出来れば、後々「イノベーションだね」と言われるICT4Dプロジェクトが実現出来るのではないかと思います。ケニアのM-pesaの成功要因は諸説ありますが、政府が通信事業と金融事業の垣根となる法制度を作らなかったことも成功要因の1つとして語られることがあります。日本がM-pesaのようなイノベーションを生むことを目指すのならば、相手国政府機関にも協力を働きかけたり、制度設計を支援したり、ということも含めたトータルソリューションをデザインすることが重要だと思います。

4.強みを活かせるのは深さより広さ(その2)

もう一つ、JICAなど援助機関に期待出来る点として、セクターをまたいだ取組の実現があると思います。例えば、農業分野のソリューションが保健分野でも使えることに気がつける、みたいなことや、「一粒で二度美味しい」的なソリューションを見つけるといったこと。以前、神戸情報大学院大学の授業のなかで、私がよく知るエチオピアの田舎町の課題(ごみ問題、科学肥料の問題、若者の仕事がない等の複数の課題)を提示し、学生さんたちにソリューションを考えてもらったことがあります。面白い案がいくつか出たのですが、そのうちの1つにこんなのがありました。

「ごみ問題解決のために、家庭からゴミを回収する」→「ゴミから堆肥を作る」→「堆肥を農家へ提供する」→「代わりに農家から有機野菜を入手する」→「ゴミをちゃんと分別してくれる家庭には有機野菜を安く販売する」

どこかで聞いたことがあるような話ではありますが、複数の課題を同時に解決する方法を考えようとした着眼点はセンスを感じました(ちなみに、「どこにデジタル技術使うの?」という点については、ゴミ回収時に各家庭にポイントを付与して「ポイントをためたくなるゲーミフィケーション要素を入れたアプリ」を展開し、ポイントが有機野菜のディスカウントに使える、みたいな感じでした)。

このような複数の課題を同時に解決する方法を考えるのも、幅広い分野で事業を行っており、その国あるいはその地域の課題を包括的に見ることが出来る援助機関に期待出来る点じゃないかと思います。 オープン・イノベーションのプラットフォームを作ると、分野別なり地域別なりの分科会を作り、分科会単位での活動が主にならざるを得ないですが、その各分科会の活動を横串でモニタリングして、 セクターをまたいだ取組の実現可能性を見出す、という役割が求められるのだと思います。

5.まとめ

「国際開発分野でのオープン・イノベーションへの期待と課題」というテーマで(その1)から(その3)まで書いてきました。なんとなく、自分のなかでも少し整理がついた気がしています。

  • 「イノベーション」や「オープン・イノベーション」というバスワードは、定義についての共通認識を持つことがスタート地点
  • さらに分類化して、どこを見ざすのかについての共通のゴールを見据えるべき
  • デジタル技術はあくまでも手段
  • デジタル技術の活用には、トータルソリューションのデザイン・実施が必要
  • JICAなど援助機関に期待出来るのはトータルソリューションのデザイン・実施
  • 成功すれば、後からイノベーションと呼ばれる

まとめると、こんな感じでしょうか。結構当たり前のことですね(逆に「国際開発分野でのオープン・イノベーション」という取組は、良く分からない部分があるからこそ、期待感があるのかもしれない…?)。しかし、実際は言うは易く行うは難しで、ODAプロジェクトの立案~実施に要する期間が長過ぎて民間企業とはスピード感があわないとか、特定企業の特定技術の採用を前提にしたODA事業で良いのか?とか、実践にあたっては超えるべきハードルは少なくないと思います。それでも、これまでになくICT4Dが日の目を浴びているので、期待をもって動向を追っていきたい(&そこになんからの形で貢献していきた)と思います。

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コメント

  1. […] また、ここ最近のイノベーションブームにおいても、どうテクノロジーを活用するか?よりも、どうやって解決するに値する課題を可視化するか?が重要だと感じます。テクノロジーを […]

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