ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」

ブックレビュー

ども、Tomonaritです。ICT4D Labのメンバーの方に教えてもらった本「ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」(著者:丸幸弘、尾原和啓)」を読みました。今までDeep Techという言葉は聞いたことがあるもののイマイチ理解できてなかったので、これを読んで理解を深めることが出来ました。

この本の冒頭に、

「テクノロジーは格差を広げるものではない」
「テクノロジーは世の中の格差を助長するものではない」
「テクノロジーは人と人の隔絶を作り出すものではない」

ということが書かれている点に惹かれました。
このICT4Dブログでは頻繁にICTは弱者と強者の格差を広げるリスクがある、ということを書いているのですが、それと真逆でポジティブな主張にシンプルに「良いなあ〜」と思いました。
以下、ICT4Dという観点からの気付き・学びを3点に書いてみます(この本、とても面白くて書き出すと一冊分の内容を書いてしまいそうなので、敢えて3点に絞ります)。

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Deep Techとは?

まず、そもそもDeep Techって何?という点です。ビジネスやIT系のニュースサイトなどでも取り合えげられていますが、この本ではフランスのHellow TomorrowというNPO(この団体、ボストンコンサルティンググループとも連携して色々とディープテック展開支援を行っています)が提唱する定義を紹介しています。それは以下のもの。

  1. インパクトが大きい
  2. 上市までに時間を要する
  3. 相当の資本投入が必要

そして、上記に加えて「技術面の特徴」として以下があげられています。

  1. 斬新かつ既存技術よりも大幅に進歩したもの
  2. ラボから市場に実装するまでに根本的な研究開発を要するもの
  3. 社会的もしくは環境的な地球規模の課題に着目し、その解決のあり方を変えるもの
  4. 既存の産業を破壊し新たな市場を作りうるもの
  5. 下支えする知財は複製が困難もしくは入念に保護され、参入障壁が高いもの

おそらく上記の定義が一般的なのだろうと思います。例えば、こちらのサイト)では「科学的な発見や革新的な技術に基づいて、世界に大きな影響を与える問題を解決する取り組み」と紹介しています。ただ、この本では、上記の定義をちょっと変えて以下のようにしています。

  1. 社会的インパクトが大きい
  2. ラボから市場に実装するまでに、根本的な研究開発を要する
  3. 上市までに時間を要し、相当の資本投入が必要
  4. 知財だけでなく、情熱、ストーリー性、知識の組み合わせ、チームといった観点から参入障壁が高いもの
  5. 社会的もしくは環境的な地球規模の課題に着目し、その解決のあり方を変えるもの

Hello Tomorrowの定義の中で青マーカー部分を除いたり変えたりして、赤マーカー部分を加えたと言った感じです。社会課題解決に有効ならば、必ずしも最先端の技術ではなく「枯れた技術」でも良いという点と、人の部分(情熱、ストーリー性、チーム)の重要性にフォーカスしている点がこの本独自の解釈のようです。

また、具体的な技術分野としては、AI/ビッグデータ、バイオ/マテリアル、ロボティクス、エレクトロニクス、センサー/IoT、などが例示されています。

あと、「何がDeepなの?」ということが気になっていたのですが、技術そのものが深い(=根本的な研究開発を要する)ということと、課題が深い(=地球規模の課題)ということだと理解できました。

課題の可視化が重要

この本の中で落合陽一氏が行った講演(Rakuten新春カンファレンス2019)の話が出てきます。以下、落合氏の講演内容抜粋。

以前SNS上で流れてきたのですが、MITメディアラボのラメシュ・ラスカー(Ramesh Rasker)さんのスライドに追記して、僕なりのイノベーションの5つの類型のお話をします。彼は「問題の状態(解決できる課題がわかっている / 解決できる課題がわかっていない)」と「解決策のあり方(簡単に作ることができる / 作り方&使い方がわかっている / 作り方&使い方がわからない)という2軸でイノベーションのパターンを整理しています。(中略)この2軸の掛け合わせで、ひとつ抜けている部分があります。「解決できる課題がわかっていない」が、「簡単に作れることができる」というものです。これこそがダイバーシティ(Diversity;多様性)の問題だと僕は考えています。つまり、解決策がシンプルであるが故に、誰も問題がわからないということです。例えば、僕の片腕がないとすると、グラスを持って水を飲むことができません。これは両腕がある人にとっては存在しない問題なので、大多数の人は問題自体を見つけることができないわけです。

https://www.rakuten.ne.jp/gold/_event/business-insight/093/

上記に出てくるRamesh Raskerさんのスライドを探してみました。おそらく以下のものだと思います。

この図の一番右下の何も書いてないところが、落合氏のいう「解決できる課題がわかっていない」が、「簡単に作れることができる」というもの」。途上国で必要とされているのはそういうソリューションだと感じています。勿論、それだけではないですが。以前、このブログでも紹介されたバングラデシュの携帯電話通話機能を使って、店の売り上げ等をデータを記録させるサービスなんかが、好事例ではないでしょうか。裏で動いているのはハイテクかもしれませんが、入力方法として音声でないと使われないという課題を、音声というローテクで解決している点はまさに、Simpleな方法で解決出来るUnknownな課題だったのではないかと思います。

また、ここ最近のイノベーションブームにおいても、どうテクノロジーを活用するか?よりも、どうやって解決するに値する課題を可視化するか?が重要だと感じます。テクノロジーを使う(R&Dを伴って開発するのではなくあくまでも「使う」)ハードルは下がっているので、課題を可視化することが出来れば、解決策はどんどん出てくると期待出来ると思います。

この本でも、テクノロジーを使うハードルが下がっていることを、MITメディアラボが高校生でも実施可能な遺伝子実験に必要なツールと環境を整備しており、もはや遺伝子実験には特別なプログラミングすら不要となっていること引き合いに出して説明しており、また、課題の可視化の重要性についても、オゾン層破壊を例に説明しています(南極上空にぽっかりと空いたオゾンホールの衛星画像が公表されたこと(=課題の可視化)により対策が世界中で取られるようになった)。

面白い事例が沢山

この本では多くの事例が取り上げられていました。特に東南アジアの事例については、想像以上にレベルが高く驚きました。タイやマレーシアには昨年訪問して、そこそこ現地のことを知っているつもりだったのですが、まだまだ勉強不足だと反省。以下、いくつかリストアップします。

  • Rice Seed Sowing Drone (タイ):大型トラクター利用が困難な山がちな農地に対して、ドローンで苗を植える(鉄砲で打つように、ドローンで苗を打つ)というアイデア
  • ReadRing (タイ):スマホのカメラとOCR機能を用いた携帯型点字変換機
  • KomeTech(フィリピン):稲作で出来るもみ殻(ライスハスク)を燃焼させてコメの乾燥に使える小型機械
  • エアロダイン(マレーシア):ドローンでの電線や通信鉄塔などのインフラ設備点検サービス
  • Piramal SarvajalのウォーターATM(インド):月額制での給水施設利用サービス。企業側が井戸設置の初期投資を負担するが月額制で後から回収←モバイルマネー普及によって可能となったサブスクリプションサービス(以下、動画があったので貼ってみます)
Sarvajal Water ATM Ahmedabad
  • Winnow(英国):食糧ゴミをカメラでチェックし食糧廃棄を減らす方法をAIがアドバイスする「スマートはかり」(世界40か国で展開され年間30億円のコスト削減を実現しているという)
  • インバウンドグローバリゼーション」:東京都大田区の町工場が東南アジアのディープテックベンチャーの試作開発をする取り組み

最後の日本での取り組みは、眠れる技術を持つ日本企業が社会課題解決に大いに役立つことが出来るという文脈で紹介されていました。この本では、世界を舞台にしたイノベーションに乗り遅れた感が揶揄される日本企業に対して、ものづくり大国の日本企業にはポテンシャル大いにあり!というトーンでエールを送っている感じです。

最後に

もっと多くの気付きや学びがあったのですが、とりあえず上記3点にしてみました。テクノロジーの活用について「格差が広がる」などのネガティブ面についつい目がいってしまう自分ですが、この本のポジティブなトーンがとても良かったです。関心を持った方はぜひ、読んでみて下さい。オススメです!

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コメント

  1. Ozaki Yuji より:

    書籍の中で『既存の産業を破壊し新たな市場を作りうるもの』を書かなかったのは、想定読者層への配慮(むやみに警戒されることを避ける)かもしれませんね。

    『どうやって解決するに値する課題を可視化するか?が重要だと感じます』には強く同意します。『難しい問題が容易で容易な問題が難しい』というモラベックのパラドックスみたいな感じで、それまでの課題認識がひっくり返ってしまうことも多くありそうだし、それを伝えるのも、受け入れるのにも抵抗があったりと難しそうではありますが。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/モラベックのパラドックス

    『テクノロジーの活用について「格差が広がる」などのネガティブ面』については、今まさに義務教育課程におけるオンライン授業(メディア授業)導入の中である程度議論されていると思います。先月末には、居住している区の教育委員会から、子供(生徒)が学習に利用できる端末の有無・通信容量制限なしの回線利用可否に関する簡単なアンケートが電子メールで来てました。
    現状では、義務教育は機会均等であるべき、という以前に、機会そのものが吹っ飛んでいます。このような状況で、(教育関係者がよく口にする)機会均等とか生徒一人一人の顔を見ながら、なーんてコトをいかに実現しようとするのかな、と興味はあります。

    • tomonarit より:

      OZAKIさん、遅い返信ですいません・・・。
      『既存の産業を破壊し新たな市場を作りうるもの』については、そういう配慮もあるかもですね。個人的には、途上国(特にサブサハラアフリカなど発展度合いが低い方)では、破壊の対象になる既存の産業とか既存の大企業が存在しないので、Disruptive Innovationだけど破壊のない新市場創造というイノベーション領域が多いからかな?と思ったりしています。
      「モラベックのパラドックス」、これ、知りませんでした。相変わらず博識ですね。
      私のいる地域ではまだオンライン教育についての話はあまり聞かないなぁ。始まって欲しいような、欲しくないような・・・。

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