世界銀行 World Development Report 2021「Data for Better Lives」Concept Note【その3】

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Source: https://blogs.worldbank.org/opendata/we-would-hear-you-launching-online-consultations-world-development-report-2021-data-better
要約

世界銀行が毎年出しているWorld Development Reportの2021年版はData for Developmentがテーマです。タイトルは、「Data for Better Lives」。そのコンセプチュアル・フレームワーク(議論の土台みたいなもの)を紹介します。

世銀WDR2021「Data for Better Lives」についての続編です。「その3」では、データを国際開発に活用する事例をまとめてみました。このコンセプトノートのリファレンスに各事例の出典元が掲載されているので、正確な情報が知りたい人はそちらをご確認ください。以下、私のまとめはザックリ&私見込みですので。

まずP6にこんな事例をレポートでは取り扱う候補として考えていますと以下の参考例が記載されています。

  • 携帯電話、携帯電話の通話詳細記録(CDR)、ソーシャルメディア(Facebook)、オンライン検索(Google)データからの地理空間的位置データを疾病発生の予測と追跡に利用する。強調すべき点は、これらのアプローチがCOVID-19の監視と蔓延の抑制にどのように利用されているかという点である。一時的な隔離やソーシャル・ディスタンスの取り方の効果を評価するために使用される。(P6)
  • 民間と公共のデータソースを組み合わせて交通安全を促進し、渋滞を緩和する。例えば、事故に関する行政記録と事故/遅延に関するデータを相互参照することで、「ホットスポット」を特定することができる。Uberなどの民間運転会社のデータを重ね合わせて、速度が事故にどのように寄与しているかを理解し、信号機や停止標識の適切な配備や交通緩和によって、交通パターンを適宜調整することができる。(P6)
  • 治水管理と食糧安全保障のために、オンラインメディアとユーザが作成したコンテンツを使用して、洪水の発生状況をリアルタイムでマッピングする。(P6)
  • 民間および公共のデータソースからの衛星画像データを組み合わせて、作物の収穫量を監視し、栄養不良を予測する。(P6)
  • 衛星画像データを従来の公的データソース(国勢調査、生活水準調査)と組み合わせることで、小面積の貧困推定技術を用いて、より頻繁に粒度の高い貧困の推定が可能となる。(P6)
  • 地震(またはその他の類似の災害)の前後数ヶ月間の匿名の通話記録を地理的に参照して、災害に起因する人口移動を調査し、サービス提供の目標をより明確にする。(P6)
  • 地震に関するソーシャルメディアの投稿を抽出して、低コストだが信頼性の高い地震被害の影響プロファイルを作成し、サービス提供の対象をより明確する。(P6)

上記はいずれも個別具体例ではなく、こういう感じの事例をレポート本番ではピックアップする想定という話です。どこの国のどんな事例が掲載されるのか楽しみです。

次にフィンテック分野での事例が紹介されています。

  • デジタル貸金業者のTalaが使用しているアプリは、クレジットスコアを計算する際に500以上のユニークなユーザー変数を処理すると報告されています。また、Lenddoはユーザのソーシャルメディアを使って信用度を評価しており、オンライン上での行動やつながりの強さで応募者をスコア化しています。(P21)
  • 電話の利用パターン、周期性、移動性に信用価値を予測する力があることが研究で明らかにされている(P21)

上記はいずれもローンの与信にデータを活用している例です。Talaはケニア、フィリピン、メキシコ、インドでマイクロファイナンスサービスを提供している会社。正式なクレジットヒストリーがない人でも、スマートフォンのアプリで瞬時に審査を行い融資を可能としている(融資額は10ドルから500ドルまで)。Lenddoはフィリピン、コロンビア、メキシコなど世界20カ国で、データに基づく与信サービスを展開。Tala同様にソーシャルメディアなどからのデータでユーザの与信審査を行い、その情報を金融機関へも提供しています。サービスの内容は以下の動画(約2分)が端的に示しています。

次に保健医療分野での事例です。

  • パキスタンでは携帯電話のデータとマッピング技術を利用して、地理的にワクチン接種状況を検証することで、ワクチン接種者数と地理的カバレージが大幅に改善され ワクチン接種率が向上した。(P22)
  • インドネシアでは現在、人工知能とビッグデータ分析を利用して病気の負担(disease burdon)を監視・予測している。(P22)

インドネシアの「disease burdon」が何を意味しているのかちょっと曖昧ですが、経済や財政への影響のことかと個人的には解釈しています。

また、民間企業が持つデータを有効活用するという事例では、Gallup社という世界的な調査会社のGallup World Pollの話が出てきます。

  • 世界銀行が2011年に、成人の貯蓄、借入、支払い、リスク管理に関する世界で最も包括的なデータベースであるグローバル・フィンデックス・データベースを立ち上げた際には、Gallup社のGallup World Poll(世界世論調査)を活用した。このデータベースは、金融包摂を促進するための世界的な取り組みの柱となり、2020年までのユニバーサル・ファイナンシャル・アクセスと国連のSDGs(目標8.10)という世界銀行の目標に向けた進捗状況を追跡するために使用されている。(P22)
  • ハイチ地震では地震発生前後数ヶ月間の携帯電話の通話記録(家計調査データを用いて検証)を用いて変位を予測し救援機関を支援した。(P24)

次に、公的統計の空間分解能(spatial resolution)が向上することで、統合データ・アプリケーションが正確な推定値を生成することが出来るようになり、それによって政策や打ち手をより精緻化することが可能となるという話が出てきます。

  • 地理情報と紐付けられた家計調査データと、降雨、標高、洪水に関する一般に入手可能な地理空間データ、および援助の流れに関する行政データを統合することで、家計福祉や農業の成果に対する洪水や干ばつの影響を推定(P24)
  • 一般公開されている低解像度の集計された国勢調査と高解像度の建物面積推定値を組み合わせることによる人口密度の推定(P24)
  • 社会経済調査や国勢調査のデータを衛星データやコールデータの記録で補完することによる貧困の推定(P24)
  • 衛星画像(Sentinel-2)と地理情報を紐付けられた農業調査データを重ね合わせて、プロットレベル(小面積レベル)での作物収量の算出(P24)

上記同様に公的データの民間利用とか公的データと民間データとの統合による効果ということで、以下の事例もあげられています。

  • 米国医療企業は、米国医療費パネル調査と企業独自のデータを組み合わせてビジネスの意思決定やロビー活動に活用している。米国企業は一般的に、米国コミュニティ調査と顧客嗜好に関する情報を組み合わせて、地域ごとに店舗の在庫をカスタマイズしている。民間部門のオープンデータの年間利用価値は数兆ドルと推定されている(P25)
  • アフリカの農業では、衛星やリモートセンシングデータが作物インデックス保険業のビジネスモデルの中核をなしている。ガーナでは、アグリテック企業が政府の気象・行政データと企業独自のデータを組み合わせて、農家にアドバイスを提供している(P25)

以上、世銀WDR2021「Data for Better Lives」コンセプトノートからの事例抜粋でした。こうして見ると、携帯電話の普及と衛星画像技術の向上でかなり色々なことが出来るようになったのだと感じます。一方で、「出来ること」を見せられるとやりたくなるのが心情ですが、「何がしたいのか?何が必要なのか?何を解決したいのか?」を先に考えることを後回しにしないよう気をつけねば、とも思いました。このコンセプトノートにも、WDR2016「DIgital Dividends」を参照する形で、デジタル技術を有効活用するには「アナログ・コンポーネントが重要」と書かれています(P35)。

さて、「その1」「その2」と続けたこのシリーズはこれでおしまいです。来年1月にWDR2021「Data for Better Lives」が出るのを楽しみに待ちましょう。

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コメント

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