2020年10月1日に、東京証券取引所がシステムトラブルで取引を終日停止した件について、過去の色んなことが蘇ってきて胃がキリキリと痛くなりましたので、当時の思い出をシェアしつつ、裏で起こったことを想像してみました。そして、東証の会見に感銘を受けたので、それも触れてみます。ちなみに、私は昔(2002年〜2004年)証券システムの株売買ホームページを設計・構築するエンジニアをしていましたので、まさにこの障害の影響をもろにうける仕事をしていました。
システム障害について
今回システムトラブルが起きた、前場が開く前の朝の時間帯というのは、注文が殺到するカオスな時間帯です。東証がトラブルでデータを配信できないとなった朝7時頃、それを受け取るために待ち構えている世界中の金融系システムで、「データが来ない」というアラームが鳴り響き、数千のITエンジニアと金融関係者が「やばい、9時に場が開くぞ、どうするんだ!!」と大騒ぎになってたんだろうなと思います。
東証が説明していた、メモリ故障時のバックアップが想定通り作動しなかったというのも、システムあるあるですね。もちろん自動切り替えする想定で重要なシステムは多重化(2つ同時に動かしておいて、一つがトラブったらもう一つに切り替える方式)しますが、実際に長期間トラブルが起きてないシステムだと、本当に作動するかわからない(というか正常稼動中は試せない)ので、さもありなんという気はしました。
といったことを色々と想像していたら、当時を思い出して胃がキリキリしました。今回は朝に起きたシステム障害だったようですが、証券システムのトラブルの多くは、市場が動いていない夜間に起きます。日中は市場を動かすことに集中し、テストや切り替えやデータ処理などが夜中に集中するためです。そのため、意地でも場が開く前に対応を終わらせる必要があり、夜中に作業する証券システム関係者のプレッシャーは、凄まじいものがあります。自分も夜中の4時とかにタクシーに乗ってオフィスに向かうことになったことも何度もありました。
障害の連絡は電話で来るため、会社携帯が鳴ったら、たとえ深夜だろうと合コン中であろうと、数秒以内に絶対に受けなければなりません。それを逃すと、自動的にサブ担当や上司の携帯が鳴って、あとで怒られます。そのため、たとえ寝ていても一瞬で起きれるように、会社携帯の着信音はキング・クリムゾンの「21世紀の精神異常者」を最大音量で設定していました。想像できますか?深夜にこれが枕元でなる瞬間を。「トラブル来たな!」とマジで飛び起きますよ。
退職時に携帯を返却した時に、ものすごく解放された感があったのを思い出します。今でもこの曲を聴くと狂気を感じるのは、当時のフラッシュバックが起きるからだと思います(笑)。
東証の会見について
と、ここまでは過去の思い出話が中心になりましたが、東証が開いた会見も通しで見ましたが、(個人的な意見ですが)全体的に東証側の対応が素晴らしく、色々と感じる・学ぶところがありました。
まず、この会見を見ていて、責任問題(運営する東証とシステム会社の富士通の関係)についてマスコミから問われた際に、東証の宮原社長は「市場運営の責任は東証にある」とキッパリと言い切ってます(26分過ぎ)。これは、納入ベンダー、そしてバックアップが動作しなかった障害を起こしたことで、責任を痛いほど痛感している富士通としてはものすごく救われる発言だと思います。まったくの外部者ですが、グッときました。(そして半沢直樹の頭取の姿と重なりました(笑))
その他の質問含め、間違った回答してはいけないプレッシャーの中で1時間半近く記者会見して、「確認して回答します」というのは一点だけ。役員クラス数人だけでここまで質問に技術的な面含めて質問に的確に答えていける体制は本当にすごいと思いました。
この辺りは、外から引っ張って来た役員(いわゆる経営のプロ)では対応できない、現場経験のある叩き上げ人材の強みを感じました。そして、昨今は、欧米を中心に、外から引っ張ってくるプロ経営者がもてはやされていますが、本当にそれがあるべき姿なのだろうか、という本質的な疑問も湧いてきました。一つ一つの質問に正確に自分ごととして経験に基づいて回答していく経営陣がとても頼もしく、日本の金融を長年現場で支えてきた自信と安心感を感じたからです。
社会を支えているITシステムの担当者のみなさま、本当にお疲れ様です。そしてありがとうございます。表には見えないところですが、多くの人が高い専門性を持って社会インフラを作っているのだなと再認識しました。まぁ証券システム屋を辞めちゃった私がいうのは説得力に欠けるのですが(笑)。
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