「ノーベル賞バナジー教授の世界を貧困から救う経済学」ウェビナー参加メモ

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世界を貧困から救う経済学」というテーマで、MITのバナジー氏へのインタビューをもとに、ADBチーフエコノミストの澤田氏が解説するというセミナーに参加しました。とても学びが多かったのでメモをシェアしたいと思います。

こんにちは、Kanot(狩野)です。2019年にノーベル経済学賞を受賞したマサチューセッツ工科大学(MIT)のアビジット・バナジー氏に対する日経ビジネスのインタビューを、アジア開発銀行(ADB)のチーフエコノミストである澤田康幸氏が解説するという豪華なセミナーに2020年10月29日に参加しました。

司会の広野氏の進行もうまく、各トピックの最初に投票機能でクイズを投げ、それにバナジー氏が回答(録画)し、それに澤田氏が解説を加えるというとてもテンポよくわかりやすい構成でした。(ほんとにポンポン進む感じで1時間があっという間でした。)

このブログでもバナジー氏については、2019年のノーベル賞受賞時に取り上げています。

以下、私の個人メモ、かつバナジー氏の発言と澤田氏の発言がごっちゃになってますが、そこはご了承ください。

開発経済学とランダム化比較試験

世界の貧困削減への実験的アプローチでバナジー氏他がノーベル経済学賞を受賞した。従来はプロジェクトに参加した人と参加してない人の平均の差を効果で測ってきたが、この方法では正確には効果がわからない。例えば、奨学金受給者と非受給者の進学後の伸びを比較して、受給者の成績が進学後に伸びたとしても、受給者がそもそも優秀なだけかもしれないので、それだけで奨学金が有効とは言えない。

そこで出てきたのがランダム化という手法。グループをランダムに分けることで(一定数のサンプル数を超えると)属性がほぼ一緒になると仮定でき、そのグループの差を測ると効果の差を検証できる。一方にだけ何かをするという点で倫理的に問題あるケースもあるが(例:地域Aでは新しい教科書、地域Bは古い教科書)、そのプロジェクトの効果を正確に図ることができる。この手法は、ランダム化比較試験(RCT)と呼ばれている。 これを開発経済学の分野に持ち込んだのが、バナジー氏他の功績。医学で標準になってるRCTを持ち込んで、開発経済学の標準を大きく塗り替えた。

(補足:ランダム化比較試験については、以下のブログ記事でも解説しています。)

トランプ政権と経済学

トランプ政権は経済学をあまり信用しておらず、経済学で議論されてることに関係なかったり、研究途上の内容が発表されたりした。トップクラスの経済学者がトランプ政権にはいないので、最新のエビデンスに基づく研究結果が政策に反映されない。

自由貿易は経済成長を阻害する?

トランプ政権は自由貿易協定を批判し、中国との貿易戦争に突入している。しかし、経済学的には自由貿易の方が良いという研究結果が出ていて、貿易赤字国も貿易黒字国にもメリットがあるとしている。貿易赤字は国にとって必要なものを輸入しているので、制限するよりも国民の生活は豊かになる。貿易黒字は国の収入が増えるので、将来的に豊かになれる。

移民は職を奪う?

移民のネガティブな影響が過剰に受け止められている。低スキルな移民の影響として、低スキルな国民の賃金を引き揚げるというエビデンスがある。なのに、「目の前の仕事を移民に奪われる」という点だけに注目してネガティブな影響があるように考えられてる。これは経済学者が研究結果の説明に失敗してるパターン。移民は仕事を奪うだけでなく生活するために買い物したり、いろいろなポジティブな経済効果ももたらす。

日本の移民に関しては、「日本の外国人の労働力」がよく書かれた学術書である。センサスデータ等のあらゆる公的統計を駆使して、外国人が日本人の職を奪う・賃金下げる等の神話は成り立たないことを説明している。サタジット・レイ(インドのベンガル系映画監督)の三部作、オプが成長していく映画でカルカッタで仕事を渡っていく様は、移民問題にも学びがあり、澤田氏の人生ベスト映画の一つである。

日本は経済成長を再加速できる?

身長が食べたものに影響せず、ほぼ遺伝子で決まるように、国が成長するかは自分たちが政策で導いているように見えて実は(統計的には)関係はない。国の成長を加速するためにできることはなく、恣意的にイノベーションを起こすことはできない。経済成長論では、戦後のアジア・日本の経済成長の源泉は、広い意味で技術振興が支えた。初期は技術模倣から始まり、後期は自らのイノベーションへの移行し、成長した。トヨタも最初はフォードの車を分解して作り直して勉強した。アメリカの国別特許、60年代は欧州がほとんどなのが、2015年にはトップ10に5つのアジア(日本、韓国、台湾、中国、インド)が入っている。

(澤田氏補足)バナジー氏の「成長を恣意的に加速させることはできない」というのは、要因が複雑に絡まりすぎてて、とるべき政策は明らかになっていないというニュアンスに近いのでは。

ベーシック・インカムは有効?

十分な財源があるなら移行すべき。ただ、最初に対処すべきは仕事がなく苦しんでいる人なので、支援対象を絞り込みやすい先進国は、まずは生活保護に注力すべき。途上国では誰が貧しいかわかりずらい。コロナのような突然で予期できない時などはベーシック・インカムは効果的。生活保護タイプの場合は、算入エラー(非貧困層が受給)と排除エラー(貧困層が受給できない)の最小化が重要。無条件でお金を配るのではなく、CCT(条件付き現金支給)やワークフェア(貧しい人の雇用になる事業の推進)も効果的。途上国ではウルトラ・ベーシック・インカムと呼ばれる少額のお金を配布することも効果的と言われている。また、生活保護やベーシックインカムで逆に働く意欲がなくなるという矛盾は実はエビデンスがないことがわかってきてる。また、前向きなリスクテイキングも後押しできる。

幸福度をGDPに変わる指標にした方がいい?

置き換えるべきとは思わない。幸福度という指標は信用できない。GDPがベストとは言えないが、幸福度も不完全。Richard Easterlyパラドックスにある通り、GDPが成長しても幸福度は伸びてないというデータはあり、これがGDPの不完全性。なので、GDPも幸福度もお互い補完する形で複合的に使えばいい。GDPで測れないケースとしては、福島県双葉町の事例がある。原発関連で避難を余儀なくされた人たちへの調査で、経済状況にかかわらず抑うつ傾向が他の自治体より遥かに高い。この辺りはGDPでは捉えられない。また、コロナで女性と若年層の自殺が増えているのも最近の調査で明らかになっている。

関連書籍と関連リンク

バナジー氏の研究に興味を持たれた方は、以下の二冊が和訳もされていて有名な本です。

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