ども、Tomonaritです。2023年4月号の国際開発ジャーナルを見ていたら、「アフリカ型イノベーションの基盤づくり 科学技術交流通じて研究者の「気概」を伝えよ」という記事がありました。
公益社団法人日本工学アカデミーという組織が、2022年8月に出した報告書についての話なのですが、木村亮氏(京都大学名誉教授、アフリカ地域研究資料センター特任教授、認定NPO法人道普請人理事長)の解説が、最近私が感じていることに関連する内容だったので、ちょっと書いてみます。
どんな報告書?
この報告書の冒頭の記載に以下のようにあります。
「最後のフロンティア」と認識される一方で、水・食料・エネルギー・貧困等、SDGs に掲げられている社会課題を多く抱えるアフリカが今後飛躍的な発展を遂げる上で、STI(科学技術イノベーション)の役割は何か、そして日本の科学技術イノベーションのコミュニティを代表する日本工学アカデミーとしてどういった活動を行えばそれに貢献できるのか、ということを考えて1年以上にわたり幅広い関係者の参画を得て審議・検討してきたものを取りまとめた報告書です。今般、チュニジアで開催されたTICAD8(第8回アフリカ開発会議)でも、日本政府から人材育成の重要性が打ち出されましたが、その根幹を担うものは STI であると考えられます。今般、本報告書の原案がまとめられ、政策提言委員会での査読を受け、理事会での審査を経て最終版を確定しましたので、日本工学アカデミーとしての発出を理事会で決めました。広くご活用いただくことを期待します。
Source: https://www.eaj.or.jp/eajlocal/wp-content/uploads/2022/09/eaj-report-proj-20220825.pdf
そして、合計11の「目玉政策」が提言(以下)として記載されています。タイトルだけだとピンとこないかもしれませんが、報告書では、それぞれに対して現在動いているどういった活動と絡めていくのか?どのような組織と連携していくのか?などが具体的に記載・例示(例えばアフリカにどのような研究開発機関があるかのリストや関連するJICAの取り組みなど)されており、この分野で今現在どいうった取り組みやアクターがいるのか?を把握するためにも、使える報告書だと思います。
【11(10+1)の目玉政策】
- アフリカと日本の研究・イノベーション拠点をネットワーク化する『知のバリューチェーン』を創出すること
- アフリカの国立研究機関の強化に協力すること
- アフリカの大学教育の強化に向けてのコンテンツ面での協力(放送大学コンテンツの英訳・仏訳と配信)や、若手研究者の招聘事業の拡大による人的交流の強化
- 日本の科学技術イノベーション(オンラインゲーム、工場オペレーション、産業技術、医療・福祉、生活関連インフラ等)やアフリカでのチャレンジの魅力を双方の若手に視覚的に訴求・配信する”Hot & Cool Afro-Japan” Project(仮称)の立ち上げ
- データ駆動型のアフリカ国土開発・農業開発・社会課題解決を図るための「アフリカ課題解決データ・ネットワーク(仮称)」の立ち上げ
- 民間団体が提唱している「アフリカ投資機構(仮称)」を活用したテック系スタートアップの振興
- アフリカの工業化推進政策・中長期業振興政策への支援
- 国を跨ぐエネルギーインフラや農村向けスマートグリッド、再生可能エネルギーや水素インフラの構築とそれに向けての人材育成支援
- 感染症予防に関する日本とアフリカの大学の連携促進と、アフリカの事情に合致したワクチン等の共同研究開発
- STI for SDGsに関する「拡大閣僚会合」の開催と、国際機関・学術界・産業団体を糾合した議論の「場」の設置
- STI分野の日・アフリカ間の協力事業の成果のショーケースとして2025年の大阪万博での「STI for SDGs in Africaパピリオン(仮称)」の設置と運営
この報告書の解説
冒頭に記載しように、国際開発ジャーナルでは、これまでJICAの技術協力やSATREPS案件でアフリカの研究者と向き合ってきた木村亮氏による解説が紹介されています。その中で以下のようなコメントがありました。
アフリカの研究者らは、知識は持っている。しかし、その知識を利用して社会を変えようという、「気概」や「情熱」に欠けていることが多いことを感じてきた。
国際開発ジャーナル(2023年4月号 P7)
筆者が特に考えている研究者・技術者としての3つの「気概」とは、①「新しい発想の技術」に惚れる心意気を持ち続けること、②「面白いものは面白い」という考え方を大切にすること、そして③「誰もやっていない事」をやる開拓魂を発揮する、ことである。
こうした思いや、情熱をアフリカの研究者たちも博士号を取得するまでは有している。しかし、機材や資金が限られるアフリカの厳しい研究環境の中で薄らいでいってしまうようだ。研究資金を調達しようにも、突き詰めて研究計画を考えたり、新しい発想が示されていないため、古語場だけが立派で具体性に欠ける研究プロポーザルを平気で書いてしまう。
こうした研究者たちと接する中で、筆者は自身の役割として、知識や技術を共有するだけでなく、自分の「研究者としての姿」を現地で見せることも重要だと感じるようになった。
科学技術の活用のためには、「気概」を変えることが重要、という点にとても共感できました。これまでこのブログでも似たような話を取り上げてきましたが、やっぱり人のマインドを変えるという点がテクノロジーの活用の最大の肝なのだと思います。
アフリカでアグリテックは広がるのか?
ここ最近、アグリテックの活用に関わることが多いのですが、結構色々と課題があります。でも、通信インフラやIoTセンサーの性能などは日々進化し、ユーザビリティ面の課題も技術の進歩によって解決できると思います。
となると、最大の障壁は農家さんのマインドを変えることなのではないかと感じています。「過去の営農活動記録や土壌データや気候のデータを分析した結果、この肥料の成分割合がベスト、このタイミングでこれくらいの水やりが最適、この畑にはこの野菜を植えるべき、etc.」と農家さんにすすめてみても、長年自分なりの経験や知識に基づいて農業をやってきた人たちが、簡単に「はい。そうですか。やてみます」となるはずはなく、どうやってそのソリューションの効果を説明し理解してもらうのか?
そして、理解するだけでは足りず、今までのやり方を変えるリスク(失敗したらそのシーズンの収入が激減してしまう)を農家さんが取れると踏み切るまでの納得感をどう得てもらうのか?(借金をして種や肥料を購入しているケースが多いので、収入が激減したら借金返済できなくなり、次のシーズンに必要な種や肥料も購入できなくなってしまう・・・というかなりのリスクがある)
科学的根拠のロジカルな説明をしても、きちんと理解できる農家さんは多くないだろうし、あそこの地域はこのソリューションでうまく言ったという説明をしても、「あそこはあそこ、ここはここ」と言われてしまいそう。しかも、その指摘通りで、土地が変われば効果も変わるし、場合によっては同じ畑の中でも、画一的に肥料が撒かれていない場合は、畑の真ん中と端っこで土壌の状態も異なる。
こいうリスクを取れない状況の農家さんがどうやって新しいやり方、テクノロジーの活用を試せるのか?という点にハードルを感じています。つまり、新しいことを試せるだけの余裕(金銭的な余裕と「試そう」というマインド)のある環境をどう作るか・提供するか?が重要だと感じている今日このごろです。
農業✗テクノロジーの話になると、アグリテック系スタートアップ向けの支援が脚光を浴びている感じがしますが、それ以上に「余裕のある環境」を農家さんへ提供し、安心してチャレンジできる「マインド」になってもらう、そういう取り組みの方が大事なんじゃないかと思います。
まとめ
以上、STIで進めるアフリカのSDGsという報告書の紹介をしてみましたが、技術面よりもマインドセットをどう変えるのか?が肝という話でした。
木村氏は「自身の役割として、知識や技術を共有するだけでなく、自分の「研究者としての姿」を現地で見せる」ことで、アフリカの研究者たちのマインドセットを変えることに貢献していくと言っており、身をもってそれが出来るのはすごいなと思いました。農家でもなければ、アフリカで頑張るスタートアップでもない私自身には何ができるのか・・・?と悩ましいですが、考えていこうと思います。
コメント
個々の小規模農家にイノベーティブであることを期待したり、許容できる以上のリスクを押し付けるより生産に関する企業をつくってそこで雇用して実施していくほうが現実的かもしれませんね
時田さん
コメントありがとうございます。
アグリテックって大規模農家は別にして、難しい分野だなと感じてます。