【書籍紹介】ラーニングレボリューション MIT発 世界を変える「100ドルPC」プロジェクト

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Source: Amazon.co.jp

ども、Tomonaritです。前回の投稿に続いて本の紹介です。こちらは、「日本語で読めるICT4D読書リスト(2024上半期)」でピックアップしたうちの1冊で、100ドルPCとして有名なOLPC(One Laptop Per Child)についての本です。

OLPCとは?

このブログを見ている人の多くは聞いたことがあるかと思いますが、一応簡単に触れておきます(以下、「国際開発学会にて発表 ~ GIGAスクール構想とOLPC比べてみた!~」からの抜粋です)。

マサチューセッツ工科大学(MIT)のネグロポンテ教授が提唱し、2005年から始まった同プロジェクトは、15年以上が経った現在も続いています。これまでに、60カ国以上の小中学生300万人以上に、安価で耐久性のあるXOと呼ばれるノートPCの配布を実施してきました。一方で、ノートPCの購入・配布方法、サポート・メンテナンス体制、教師への指導、教育用アプリケーション等は標準化されておらず、国・地域によって異なってきたことが報告されています。その結果、OLPCは、過度に技術中心的であると度々、批判されてきました。

読む前の予想

この本はOLPCを主導してきた人達が書いているので、良いこと中心に書かれているのだと思っていました。上記のように私もOLPCについては批判的な記事に触れることが多かったので、「ホントはもっと良いプロジェクトだよ〜。よく批判されているけど、そんなことないよ〜」という雰囲気の本かと思っていました。

しかし、良い意味で予想外の内容でした。2014年に出版されていたけど、なんでもっと早く読まなかったのか・・・と後悔するぐらい良い内容でした。以下、簡単に良いなと思った点などを書いていきます。

悪い点をちゃんと書いている

まず何よりも素晴らしいのが、悪い点をちゃんと書いているところです。例えば、100ドルPCを途上国の子供に一人一台届ける!という最も有名なスローガンに対しても以下のような振り返りがなされています。

  • 大胆な宣言が当初は世界中のマスコミからの好意的な注目とリソースを引き寄せたが、やがて組織の評判を損ない、活動をむしろ難しくしていった。本気でできると思わないことは、約束してはいけない。(P75)
  • ニコラスの考えた仕組みは斬新で画期的だったが、その開発手法はリスクが高くて根拠がなく、目標や成果について彼が公言した内容は控え目に言っても大胆に過ぎるものだった。(P302)

こんなにダメだししちゃって良いのかな?と思えるほどです。こんな感じで悪い点やダメだったことを凄く客観的に記載している点が凄いと思いました。

他にもこんな記載もあります。

  • パソコンの細かいところに固執しすぎて、解決しようとしていた大きな問題を見失ってしまうことがあった。(P75)
  • 2007年から2008年にかけて、OLPCはペルーとウルグアイでパソコンを売ることに没頭するあまり、エネルギーと集中力をそれに使い果たしてしまった。販売したパソコンがOLPCの最終目標である「子どもの学習に役立てる」使い方をされているかどうか確認するための、余分な人員も精神的余裕もなかったのだ。(P136)

OLPCへの批判としては、「100ドルPCを開発することに注力しすぎで、その後、PCが教室でどう使われるかへの配慮が不十分だった」とか「現場の教師にどう授業で活用するかの研修が欠けていた」といった批判が多いですが、まさにそのようなことがあったと赤裸々に書かれています。

客観的かつ冷静に振り返っている

この本の各章には「教訓と反省」というセクションがあって、そこでの振り返りが非常にためになる内容です。何がいけなかったのか?という点以外にも、どうしも途上国ではありがち&避けては通れない課題に関する記載を読むと、OLPCがいかに大変な取り組みだったのかが伝わってきます。

例えば、各国の首相や大臣がOLPCに感銘を受けて導入を宣言するような動きはたくさんあったものの、本当の契約に繋がるまでにはかなりのハードルがあった、という話を振り返って、以下のような教訓が書かれています。

  • あらゆる組織は、キャッシュフローで動いている。世界中どこであろうと、銀行に貯金がなければ、口約束と握手などなんの意味もない。(P133)

他にも色々な示唆に富んだ教訓があり(例えば以下のもの)、テクノロジーを活用して途上国の課題を解決する活動やビジネスを考える上ではどれも役に立つ内容だと思います。

  • フリーサイズはどれにも合わない(P163)
  • 成功は最終的には自分がすることだけではなく、他者がすることによっても左右される。(P164)
  • 現地の能力を開拓する(P165)

俺、勘違いしてたなぁ…と反省

「OLPCは途上国の現場のことがわかっていない、テクノロジー好きなMITのお偉いさんが作ったプロジェクトだ」という先入観があったのですが、その先入観は私の無知からくる勘違いだとわかりました。

ネグロポンテ氏は1982年頃からセネガルをはじめ、パキスタンやタイ、コロンビアなどの各国でパイロットプロジェクトを実施して成果を得ていたという話や、ネグロポンテ氏は奥さん(どっちかというと奥さん主導)とカンボジアの田舎に自ら小学校を設立していたという話が出てきます。

また、以下のようにOLPCはかなり幅広い視野を持っていたとも思いました。

  • OLPCは、物理的にパソコンをつくるところからはじめなかった。(P42)
  • OLPCを単なる「パソコンのプロジェクト」だと思っている人は少なくない。それはよくある誤解だ。(P293)

OLPCも「100ドルPCを途上国の子供に提供する」というのは手段であり、目的は子供達の教育の改善であるという点は最初からわかっていたものの、結果として手段の方に注力せざるを得なかったというのが、正しいのだろうと感じます。

「100ドルPC」という大胆なビジョンに人々は惹かれたものの、途上国政府は口約束しかしない、実際やってみると製造コストが100ドル以上かかる、大手PCメーカーはビジネスとして採算にのらないので乗ってこない、なので、ハードもソフトも自分たちで開発するしかない(正確には、ハードは大手PCメーカーに製品を卸しているOEMメーカーとのパートナーシップ)、加えて、販売やサポートもやらないといけない、途上国の田舎の小学校への流通網は誰も持ってないので、そこも自分たちで管理しないといけない、etc. かなり多くのことをやらねばならず、しかもそれを限られた人数の非営利団体がハンドルしないとならない状況下で、「教育の改善のために現場の教師へどのような研修をしないといけないのか?」といった問題に十分な時間を割くのは無理だったのだろうと思います。本書の最後の「あとがき」的なところで、筆者の一人チャールズ・ケインは以下のように述べています。

  • OLPCは販売、ハードウェアとソフトウェアの開発、製造、製品サポートのすべてを管理するという、困難かつ前例のない役割を担うこととなった。IT業界を知る者ならわかるだろうが、それらの活動ひとつひとつに特化した「フォーチュン500」企業がいくつも集まってそれぞれの業種を形成しているくらいなのに、それを単独でやろうというのだ。私が参加した時点でOLPCのフルタイム職員は20人に満たず、その大半がエンジニアやサポートスタッフなど最小限の要員だった。(P300)
  • OLPCは、パソコンを製造するつもりで動きはじめたわけではない。実際、ニコラス・ネグロポンテと私はかなりの時間をかけて、大手パソコンメーカーに製造してもらい、ブランドの力を借りようと努力してきた。だが大きな障害となったのが、非営利のベンチャー活動を彼らの営利目的のビジネスモデルに組み込むという難題だった。(P300-301)

また、途上国の田舎の小学校にパソコンを届けることの大変さは、以下の記載がものががっています。

  • OLPCのセキュリティ担当のイヴァン・クリスティッチがリマ(ペルーの首都)の倉庫から送ってきたこの報告が、当時のOLPCの直面していた状況をまとめている。「ペルーの第一出荷は4万台で、ジャングルや高山、平原などに点在する約570の学校に展開される予定。電力の有無は場所によって大きく異なり、インターネット接続はどこの学校にも存在しない。対象学校の多くは何種類もの交通手段を使わなければ到達できず、郵便さえ届かないような僻地にある。この問題に比べれば、僕がやっている技術的な仕事など遊びみたいなものだ。」(P137-138)

この本が書かれたのは2014年ですが、その時点で25ヶ国語以上に対応しており、40カ国以上に250万台以上のパソコンを配布しています。そして国や地域が異なれば、学校の状況(教師や制度の数・質、ITリテラシー、就学率、電力インフラ、インターネット環境、学校の予算、協力者の有無など)もかなり異なります。この本の最後に、ケーススタディとしていくつかの国の事例が掲載されているのですが、それを読むとよくわかります。一例として、ニカラグアのある地域では、幼い子供には名前をつけない風習があり、パソコンを配布するための独自の在庫管理・照合システムが必要だったという話も出てきます。

読んだ後の感想

正直、OLPCに対する印象がだいぶ変わりました。「まじ、すげーじゃん!」といった感じです。本当に困難なことをかなり限られたリソースでやっていたのか。

この本を読んでみると、例えば、途上国政府は口約束や握手はしてくれても発注はしてくれなく困った話、発注されても政府は信用できないので銀行保証の仕組みをシティバンクの協力を得て確立させた話、エジブトの文部大臣から「Windowsは使えないのか?」と質問され、Windows版を作ったもののそんなに売れなかったという話、シュガー(XOのOS)を他のパソコンでも使えるようにしたいというシュガー・ラボ(シュガーの開発チーム)と決別した話、アメリカでの「2台買って、1台寄付しよう」キャンペーン成功を受けて、1年後にヨーロッパでも大々的に実施したらリーマンショックに端をなす金融危機の影響で大失敗に終わった話、などなど、次から次へと無理難題がふりかかってくる当時のOLPCの様子がわかります。

その中で、新しい技術を開発したり(そして、省電力などOXの開発が後のネットブック市場に繋がった)、多くの企業や組織と連携したり、組織のマネジメントを変えていったり(0→1のイノベーションに適した体制から、1→100に適した体制へ)、などなど、批判を受けつつも頑張ってきたんだなぁと、もはや感動でした。

そして、ICT4Dや国際開発だけでなく、むしろ途上国ビジネスに関心のある方にこの本は凄くオススメしたいと思います。とても学びの多い本でした。

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