【書籍紹介】Critical ICT4D: ICT4D研究のパラダイムシフト

ブックレビュー
Source: https://www.routledge.com/Critical-ICT4D-Information-and-Communication-Technologies-for-Development/Akbari-Masiero/p/book/9781032498942?srsltid=AfmBOopedXm20gLcRKxW0n4w8rmOaEB5DiVDWYwqYlHeSP6U0SD9p9la

どもTomonaritです。年末年始の大型連休、いかがお過ごしでしょうか?私は先日、横浜でのイベントがあったのですが、直前にインフルエンザにかかってしまい参加できませんでした、残念!みなさんも体調管理にはお気をつけください。

そして、毎年この時期になると、神戸情報大学院大学でやらせてもらっている授業の課題の採点があります。学生さんには小論文を書いてもらっているので、それをひたすら読んで点数をつけるという作業が2013年から私の年末年始の恒例行事でした。しかし2024年は初めて授業をお休みさせてもらったので、今年はそれがありません。学生さんの小論文を読むのは、すごく良いインプットになっていたのですが、それがないので代わりにといってはなんですが、「Critical ICT4D」という最近出版された本を読んでみました。

この本の編者は、Azadeh Akbari氏(オランダのUniversity of Twenteの助教授)と Silvia Masiero氏(ノルウェーのオスロー大学の准教授 )であり、RoutledgeのWebサイトの情報によると、どうやら2025年1月2日に販売開始のようですが、現在、オンラインで無料ダウロードができます!買うと31.99英ポンドなのに、なんと太っ腹な!

私なりの理解と感想

まず、私なりの理解と感想を書いてみます。

初期のICT4D研究は、「デジタル・ディバイドをどう解消するか?」に焦点を当ていた。それはつまり、デジタル・ディバイドの解消=情報格差がなくなる=途上国の貧しい人たちもデジタル技術の穏健を受けられてハッピーになる、という思想が根底にあったということ。しかし、それから月日が経って今は状況が異なってきた。デジタル技術がある程度普及した(=携帯電話の普及やモバイルマネーの普及など、デジタル包摂が一定進んだ)が、それによって新たな課題が見えてきた。それは、データ保護とプライバシーの問題のようなテクノロジーがもたらす弊害だったり、潜在的な監視、統制、差別を助長する特性だったり、ビッグデータを保有する巨大テック企業のみが利益を得る構図だったり、ネット環境が整備されたことで途上国のエンジニアもシステム開発のアウトソーシングを受注できるようなったものの発注者である先進国の企業に買い叩かれ、一番美味しい思いをしているのは先進国の企業という構図、などなど。「デジタル植民地主義」といった言葉も出てきます。

ちょうど、このブログでも過去に取り上げたHeeks教授のいう「Adverse(不利な、不都合な)Incorporation(結合、合併)」という課題が、この本でも指摘されていたりします。要するに、途上国の人々もデジタル世界、デジタル経済には参加できるようになった「けれども」、新たな問題が生じているってことですね。

また、「AIと倫理」といった新たな技術とともに出てきた課題もありますね。開発における「データ活用」ひとつとっても、「誰が作成しているデータなのか?」、「どんな意図・目的で作成されたのか?」、「正しいの?恣意的なの?」など留意すべき点は多いし、選挙操作のためのソーシャルメディア活用(悪用)といった課題も思いつきます。

なので、そういった現在の課題を把握した上でICT4D研究を進めていく必要がある、というのがこの本で言われているパラダイムシフトなのだと理解しました。

(このようなデジタル特有の時代の変化に加えて、いわゆる「開発」の潮流の変化(西洋からの押し付け、従属理論、新植民地主義とか)についての説明もあり)


特に、第4章でTony Roberts氏(Computer AidというNGOをやっていたICT4D業界の古参ですね)が、ICT4Dのトレンドを3段階に分けて説明しているのですが、これがとてもしっくりきました。

  • 2000年よりも前:開発におけるICT (ICT in Development)
    主に政府や開発機関の財務・行政オフィスへのコンピュータ導入
  • 2000〜2014年:開発のためのICT (ICT for Development)
    開発目標達成のためのデジタル技術の活用
  • 2015〜2024年:デジタル化された世界における開発 (Development in a Digitalised World)
    社会的、経済的、政治的生活が急速にデジタル化されるにつれ、デジタル開発の供給サイドの強調の重要性は低下。2015年以降ICT4D研究の焦点は、ICT4Dのダークサイド(デジタル技術の導入による新たな排除、新たな形態のジェンダー不公正、市民の権利と自由の侵害など)にシフト

最後の「ICT4Dのダークサイド」の例がいくつか上がっていました。ビッグデータがいかに不平等を拡大し民主主義を脅かすか?、ハイテクツールがいかに貧困層をプロファイルし処罰するか?、検索エンジンがいかに人種差別を強化するか?、デジタルツールがいかに人種階層を複製し深化させるか?などなど。ダークサイド結構あるなぁ…。


第6〜8章では、難民へのデジタルID供与とか、スマートシティとかを事例にして上記のような新しい課題の具体例を説明している感じです。アフリカのスマートシティプロジェクトは一部のエリート層向けであり、現地の下々の市民のためのものになっておらず先進国のテック企業主導になっているといった指摘は、かつての電子政府プロジェクトが下々の市民にとって使い勝手が良いものになっておらず、先進国からのソリューションを導入しても上手くいかないという事例と重なりました。テーマが電子政府からスマートシティに変わっても根本的な課題は変わらないってことですね。


以上、私の感想でした。あ、あとは、第3章でShirin Madon氏(LESの教授でICT4D研究者の大御所の一人ですね) へのインタビューがあり、読みやすいです。


さて、以下、各章の内容をAI(Perplexity)に要約してもらいました。
あくまでもAIによる要約という前提で参考にしてくださいね。なお、第1章がないのは、第1章は「はじめに」的なイントロダクションだからです。興味を持った方はダウンロードしてみてはいかがでしょうか、無料だし。

パート1: 反省(Reflect)

第2章: デジタル開発のジレンマ – 進歩から管理へ

この章では、デジタル技術が開発にもたらす二面性を深く掘り下げています。技術は進歩と発展を促進する一方で、社会の管理と監視を強化する可能性があります。著者は、このジレンマがICT4Dにどのような影響を与えているかを分析し、以下の点を詳細に議論しています:

  • デジタル技術が権力構造をどのように変化させるか
  • 新たな形態の不平等を生み出す可能性
  • 技術導入が必ずしも純粋な進歩につながらない複雑な現実
  • デジタル監視と個人の自由のバランス
  • 技術の倫理的使用と規制の必要性

第3章: ICT4Dの進化 – 内容、文脈、プロセス

ICT4Dの歴史的発展を詳細に追跡し、その内容、適用される文脈、実施プロセスの変化を説明しています。具体的には以下の点に焦点を当てています:

  • 初期のICT4Dプロジェクトから現在の取り組みまでの変遷
  • グローバル化やデジタル格差の問題とICT4Dの関係
  • 持続可能な開発目標(SDGs)とICT4Dの関連性
  • モバイル技術の普及がICT4Dに与えた影響
  • 人工知能やビッグデータなど新技術のICT4Dへの統合

第4章: 批判的ICT4Dを周縁から中心へ

ICT4D研究における批判的アプローチの重要性を強調し、これまで周縁化されてきた視点を中心に据える必要性を論じています。著者は以下の点を詳細に議論しています:

  • ポストコロニアル理論のICT4Dへの適用
  • 参加型アプローチの重要性と実践方法
  • 地域の知識や経験を重視したICT4Dプロジェクトの設計
  • 権力関係や不平等を考慮したICT4D研究の必要性
  • 批判的ICT4Dを主流化するための具体的な戦略

第5章: ICT4D研究のインターフェース的位置づけ

ICT4D研究が様々な分野の接点に位置することの意義と課題を詳細に検討しています。特に以下の点に焦点を当てています:

  • 情報技術、開発学、社会学など異なる分野間の知識の統合方法
  • 学際的研究の評価方法と課題
  • 理論と実践の橋渡しの重要性とその方法
  • ICT4D研究者に求められる多様なスキルと知識
  • 学際的アプローチがもたらす新たな研究の可能性

パート2: 問題化(Problematise)

第6章: コロンビアの社会政策におけるアルゴリズムシステムの暴力性

コロンビアの社会政策におけるアルゴリズムシステムの使用を事例に、以下の点を詳細に分析しています:

  • アルゴリズムによる意思決定の不透明性とその影響
  • データバイアスが社会的弱者に与える影響
  • デジタル識字率の格差がもたらす新たな形態の排除
  • アルゴリズムシステムの導入が既存の権力構造をどのように強化するか
  • デジタル福祉国家におけるプライバシーと人権の問題

第7章: デジタル人道主義 – 正統性と生きられる現実

人道支援におけるデジタル技術の利用について、以下の点を中心に議論しています:

  • デジタル技術が人道支援にもたらす可能性と限界
  • プライバシーと個人情報保護の課題
  • デジタル技術へのアクセスの不平等がもたらす問題
  • 文化的な文脈を考慮したデジタル人道支援の重要性
  • デジタル技術の使用が人道支援の原則に与える影響

第8章: グローバルサウスのためのスマートシティ移植の再構想

先進国で開発されたスマートシティの概念をグローバルサウスに適用する際の問題点を指摘し、以下の点を中心に議論しています:

  • 地域コミュニティの参加を重視したスマートシティの設計
  • 伝統的な知識システムとデジタル技術の統合方法
  • 技術の適切な規模と持続可能性の考慮
  • デジタル主権と人権を尊重したスマートシティの在り方
  • グローバルサウスの文脈に即したスマートシティ評価指標の開発

パート3: 再構築(Reconstruct)

第9章: データガバナンスからデータ倫理へ

データ倫理の構築に向けて、以下の点を詳細に議論しています:

  • 先住民の知識システムを尊重したデータ収集と利用
  • ジェンダーの視点を取り入れたデータ倫理の枠組み
  • 環境倫理とデータ利用の関係性
  • データの所有権と管理に関する新たな倫理的アプローチ
  • グローバルサウスの文脈に即したデータ倫理の原則の提案

第10章: 水の正義のためのデザイン

都市における水資源の公平な分配を目指す参加型ツールの開発について、以下の点を中心に説明しています:

  • コミュニティの参加プロセスの設計と実施方法
  • 水資源に関するデータの収集と可視化の技術
  • 政策立案者との協働による成果の実装
  • ツールの使用が水資源の分配にもたらす具体的な変化
  • 参加型デザインがもたらす社会的学習と能力構築の効果

第11章: ラテンアメリカにおけるソーシャルメディアと姉妹愛

ラテンアメリカの女性たちのソーシャルメディアを通じた連帯について、以下の点を詳細に分析しています:

  • デジタル活動主義の新たな形態とその効果
  • オンラインコミュニティの形成プロセスと維持方法
  • ソーシャルメディアを通じた知識の共有と動員の戦略
  • オンラインの連帯がオフラインの活動に与える影響
  • デジタル空間におけるジェンダー平等促進の可能性と課題

Citations:
[1] https://ppl-ai-file-upload.s3.amazonaws.com/web/direct-files/31289220/b3111e56-f810-4fee-8e79-82f1c9e95cdb/Critical-ICT4D-Information-and-Communication-Technologies-for-Development-_24_12_26_16_26_10.pdf

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