「人間中心のデジタル化」研究会(JICA緒方研究所)のレポートが公開されました

イノベーション・新技術

こんにちは、Kanot(狩野)です。2025年3月までアドバイザーとして参加させていただいた、JICA 緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の「人間中心のデジタル化」研究会のレポートがまとまりましたので、シェアさせていただきます。

なお、この記事は筆者個人の視点でまとめたもので、研究所の公式見解ではありませんのであしからず。また、サムネイル画像はケーススタディレポートの表紙を利用させていただいています。

「人間中心のデジタル化」研究会とは

まず、「人間中心のデジタル化」とはなんぞや?と思う方が多いと思いますが、「人間の安全保障 × デジタル化」であり、人間の安全保障の観点から今日のデジタル化の在り方について検討を行ったものです。

以下に研究会の概要とリンクを記載します。

人工知能(Artificial Intelligence: AI)にかかる急進的な技術開発は、その応用において、人間がこれまで担ってきた労働の相当部分を代替するレベルにまで達しつつあります。2024年には、ノーベル賞の化学および物理の2部門で、それぞれAIに関する研究者が受賞し、まさにエポックメイキングな年となりました。一方で、同受賞者自身から「急速に発展するAIへの制御の必要性」が発言されるなど 、AIに代表されるICTの急速な発展と浸透は、人間社会における光と影のコントラストをこれまで以上に増幅させる可能性も指摘されています。

このようなデジタル技術の急進性は、人々の間における「デジタル不平等」を加速させ得る構造的な要因になりつつあります。さらには、膨張するAI開発競争で急増している電力ニーズが環境負荷に対して負の影響を与え得ることも指摘されており、その影響が脆弱な立場にいる人々の生活をさらに脅かす可能性も否定できません。

一方、デジタル技術の進展は、多方面に正の効果も見せています。スマートフォン、高速ブロードバンド通信網、クラウド・コンピューティングの世界的な普及と実装は、これまで困難だった社会的な課題を改善・解決するきっかけにもなっており、特に若年層が国境を超える経済圏に参加することを可能にするなど、脆弱な立場にいる人々に対しても社会参加を促す可能性を増幅する事例も急増しています。

本研究会は、以上のような問題意識、すなわちデジタル化が及ぼす脆弱な立場にある人々への影響とその内容に対し、人間の安全保障の観点から検討することを試みました。
出典:JICA緒方研究所
「人間中心のデジタル化」研究会 - JICA緒方研究所

インフォグラフィックス

まず、最初の活動としてはデジタル化の進展と国際開発の歴史を振り返ろうということで、インフォグラフィックスを作成しました。(出典:JICA緒方研究所)ここでは、デジタルの進展の中で、国際開発の観点でのイベントやレポートなど、ターニングポイントとなったものをマッピングしています。

私がITエンジニアを辞めて国際開発の世界に足を踏み入れた2008年は、iPhoneやM-PESA登場の直後で、一番ワクワクするイノベーションが起きていた時期なのだなと改めて感じます。

ケーススタディ

続いて行ったのがケーススタディです。本ケーススタディでは、デジタル化が進展する中で、社会的に脆弱な立場にある人々や環境がどのような影響を受けうるのかという観点から、すでに各国・地域で社会実装され、さまざまな方法で客観的評価が行われている複数の分野の事例を取り上げて検討しました。

分野としては研究会で議論した結果、デジタル公共基盤(Digital Public Infrastructure: DPI)、保健、教育、生活インフラの4つのセクターに着目しました。以下がそれぞれのセクターの着眼点に関する概要です。

人びとの生活に直結するサービスを支えるDPIでは、ID、決済、データ共有基盤の整備を官主導で進めたインド、民間のモバイル決済サービスの普及が先行したケニアを事例に考察しました。保健と教育は開発における重要なセクターですが、ダウンサイドリスクに目を向ける人間の安全保障の視点から危機下の対応に焦点を置き、保健では、インドとガーナにおけるデジタル技術を活用したコロナワクチン接種の取り組み、またコロナ禍のブータンとネパールにおける初中等教育を対象としたICT活用による教育継続について、それぞれ分析しました。生活インフラでは、ウガンダでのプリペイド式井戸料金回収システムとアフリカ5ヵ国の未電化地域におけるLEDランタン貸出サービスというコミュニティレベルでの画期的な取り組みを考察しました。
出典:JICA緒方研究所

レポートは以下のリンクから無料公開されています。ちなみに私は教育分野(p25-33)の著者として名前が入っています。

「人間中心のデジタル化」研究会ケーススタディ――人間の安全保障からの視座 - JICA緒方研究所
「人間中心のデジタル化」研究会ケーススタディ――人間の安全保障からの視座

文献レビュー

また、ケーススタディでは個別事例を掘り下げる形になりましたが、もっと広く人間の安全保障とデジタル化を理解するための文献レビューを行いました。以下が概要です。

20世紀末からインターネットの普及が進むにつれて、デジタル空間への接続の有無に格差を見出すデジタル・ディバイド(digital divide)が注目されるようになった。その後、社会のあらゆる機能のデジタル化が加速度的に進展するなか、人びとのデジタル技術の利活用における差異に着目した「デジタル不平等(digital inequality)」が、今日において盛んに研究されている。本稿では、デジタル化を推進する上での課題としてデジタル・ディバイドから発展したデジタル不平等を取り上げ、デジタル不平等がどのような特徴を有した脅威なのか、誰がその脅威にさらされているのか、近年の研究を人間の安全保障の視点から整理する。
出典:JICA緒方研究所

レポートは以下のリンクから無料公開されています。ちなみに私は執筆自体には関わりませんでしたが、アドバイザーとしてコメント等させていただきました。

No.21 デジタル不平等(Digital Inequality)に関する考察:人間の安全保障の視点から - JICA緒方研究所

今後のアクティビティ

このように、研究会としてのレポート執筆作業は終了しているのですが、外部向けの情報共有の機会が予定されています。

それは国際開発学会のラウンドテーブルです。2025年6月の国際開発学会 第26回春季大会(北海道)にて研究会メンバーが集まり、内容についての報告会を行います。学会に参加予定の方、ぜひお立ち寄りください。

以上が研究会の簡単な活動報告でした。

さいごに、このような形で古巣に声をかけていただき、研究会メンバーとして携われたこと、とても嬉しく思いましたし、私自身も色々と勉強できるいい機会になりました。特に「人間の安全保障」は「デジタル」とは非常に遠いところにあると思っていたので、その掛け算という視点が新鮮でした。

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