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バングラデシュは、インドとミャンマーと国境を接する南アジアの国であり、日本の約40%という国土に1億6千万人以上の人口を抱え、シンガポールなどの面積の小さい国を除くと世界一の人口密度を有する国である。2020年時点での平均年齢も27.6歳と若く、2015-2019年の平均経済成長率は7.4%に達するなど、高い経済成長を続けている。そして、「デジタル・バングラデシュ」を政策スローガンの一つとして掲げ、繊維産業の次の輸出産業の柱として、IT産業開発・IT人材育成に力を入れている。
本書は、そのバングラデシュを舞台に、青年海外協力隊が始めたIT人材育成のムーブメントを通じて育ったITエンジニアたちが、日本の地方創生に貢献するようになるまでの14年間(2008年〜2021年)を綴った現在進行形のストーリーである。
え?協力隊がIT人材育成?バングラデシュ人が日本の地方創生?
どこがどう繋がっているのかよくわからない・・・
おそらく多くの方がそのような感想を持つのではないだろうか。というのも、この14年間、「IT人材育成」をキーワードに、バングラデシュと日本を跨っていくつものバトンが手渡され、まるで異種混合リレーのように形を変えながら関係者の想いが引き継がれていったのが、今の形に繋がっているからである。
本書では、そのバトンリレーの軌跡を綴っている。具体的なアプローチとしては、私が当時の関係者34人に対して実施した全25回の取材をもとに、当時の活動をできる限り再現することを試みると共に、他国での、もしくは日本の他の地方自治体での類似プロジェクトの形成の際に参考になりうる教訓を得ることを試みたものである。
本書の構成は、以下の通りである。第1〜3章ではバングラデシュに赴任した青年海外協力隊たちが、現地の若者の可能性を広げるための手段としてIT人材育成のムーブメントを起こし、それを受けた日本政府が技術協力プロジェクトとしてIT国家資格試験導入への支援を行い、バングラデシュ関係者とともにIT国家資格試験を作っていくまでのストーリーを紹介する。
第4〜6章では、IT人材不足に悩んでいた日本の地方都市である宮崎県宮崎市において産官学を巻き込んだ、バングラデシュのIT産業開発と、バングラデシュ人ITエンジニアの日本での就職を同時に目指す「宮崎-バングラデシュ・モデル」が構想され、そのモデルをベースにしたJICAプロジェクトによってIT人材が育成され、日本各地への就職へとつながっていくストーリーを述べる。
第7章では、来日したバングラデシュ人IT人材が日本全土に広がっている実績や生活を、データ、来日後の様子、そして4人のバングラデシュ人へのインタビューを通じて紹介する。第8章では、この一連のプロジェクトから導かれる教訓や、新しい国際協力の形、そして日本が高度IT人材の受け入れ先であり続けるために必要なことついて、私の意見を中心に考察している。そしてエピローグでは、今後のバングラデシュIT人材育成と日本との関係について触れる。
このように、数多くの関係者がバトンを繋いで来たこの物語であるが、これらのバトンリレーを支えた根本にあるのは「共感」と「想い」であったと私は考えている。青年海外協力隊、JICA、日本政府という国際協力や外交の主体となる人たちに加え、IT企業、大学、地方自治体といった非常に多くの関係者が、それぞれの立場で組織や国の利益を考えながらもバングラデシュのIT人材育成に共感し、強い想いを持って、まさに産官学一体となってこの物語を支えてきている。
そして将来的なバングラデシュのIT産業の発展を信じ、これらのプロジェクトを推進したバングラデシュ政府の関係者、そしてなにより、実際に日本という異国の地で活躍する道を選んだバングラデシュのITエンジニアたち。これらのどのピースが欠けてもこのバトンは繋がってこなかったと思う。
それでは、2008年に遡り、青年海外協力隊が火をつけることになるIT人材育成ムーブメントからストーリーを始めよう。
(なお、本書に登場する人物の役職名は全て当時のものである。)
続きは書籍にてお楽しみください。
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