ICT4DにおけるDevelopmentとは何か?

ブルキナファソの首都ワガドゥグで見たショップ

Information Technology for Developmentというジャーナルの論文募集があった。このジャーナルICT4D分野に特化した内容であり、マンチェスター大学のHeeks教授のブログ「ICT4D Journal Ranking Table」でもトップ3に入っている。

今回募集されている論文のテーマは「ICT4DにおけるDevelopmentとは何か?」というもの。Development=開発といったときに、確かにこの言葉の意味するところは多岐に渡る。途上国開発の仕事に関わっている人の間でも、パッと思いつくDevelopmentのイメージは人によって異なっていると感じることが良くある。

例えば、ある人は経済発展をイメージするし、また別の人は教育や保健の充実といったものをイメージするかもしれない。そして、人によってDevelopmentの指標も違うわけで、ある人はGDPだし、別の人はHuman Development Index (HDI)かもしれない。自分自身も途上国開発に関わっている人間の一人だが、同じ組織のなかでも、ハードインフラ整備を優先する人と社会インフラ(教育、保健など)の改善を優先する人がいるように、Developmentの捉え方によって、そのアプローチも当然異なる。また、対象とする国や地域のおかれている状況や発展レベルによっても、Developmentが意味するところは異なるだろう。

そんな多様な解釈があるなかで、アマルティア・センのCapability Approach (潜在能力アプローチ)とか、緒方貞子の人間の安全保障とかがある一定の共通認識というかベースにはある気がします。しかし、あまりに概念的過ぎて実際にじゃ、どうやって測定するのか?となると自分のような人間では迷宮に迷い込んでしまいそうな気が…。

んで、話を元に戻して「ICT4DにおけるDevelopmentとは何か?」ですが、この論文募集のなかで、以下のようにブレイクダウンした10個の問いが提示されてました(一つずつ訳すのも大変&意味の含みがあり過ぎて上手く訳せる自身がないので、原文のままコピペでゴメンナサイ)。

  1. How do we define development in ICT4D? What assumptions underpin a particular definition of development? On which conceptual basis is a definition of development constructed?
  2. How can we assess, measure, and evaluate development in a particular context of ICT4D? This could include critical discussion of various development indexes, such as Gross Domestic Product, the Human Development Index, the Happiness Index, and so on.
  3. What should ICT-based development interventions focus on? This could be analysed in the light of which “space” of development is being addressed. For example, in relation to gender, are we seeking to promote equal access to technology between men and women, or to enhance the agency of women?
  4. Which social processes are enacted in a particular space of ICT4D? How do we understand and assess the affordances of ICTs in these processes?
  5. What are the roles of institutions and governance models in ICT4D? For example, how should responsibility and liability for development be distributed and managed?
  6. How can we understand, describe, and evaluate the relations between the use of ICTs and development? What could be the impact of technology for development, including positive as well as negative influences?
  7. What are the strengths and limitations of various conceptual devices and theoretical lenses? What do the lenses we use allow us to see? And what are the lenses we use filtering out?
  8. Which methodologies are appropriate in answering our research questions, given a particular take on development?
  9. What can we learn from other disciplines, e.g. geography, development studies, economics, political science, organisation studies, media and communication studies?
  10. What critical approaches could be employed in ICT4D, in particular considering processes and consequences of globalization and the growth of market economies?

こうやって見ると少し具体的に考えられそうな気がしてくる。でもパッと思い浮かぶのは、そもそもICTはツールであるという前提に立つと、「ICT for・・・」の・・・(教育、保健、農業等)部分が重要なのだから、その分野の開発を目標やら指標やらにするべきという点。なので、逆に言うと今回のテーマはそういうことじゃなく、「携帯電話やインターネット普及が途上国の経済や生活に与える影響」みたいな視点で考えないといけないとわかる。

その視点で考えてみると、やはりパッと思いつくのは「経済発展」。携帯電話の普及率が1%上昇するとGDPが◯%上昇するというような調査結果(例えば、インドでは”普及が10ポイント上がる毎にGDPが1.2ポイントあがる”という調査結果あり)があるように、ICT4Dにおける発展といえば、経済発展はある意味王道だろう。しかしながら、このような意見については、「そんな単純じゃない」という反論もある。例えば、外山健太郎氏はアメリカを例に偉大なイノベーションが起きた時期とアメリカの貧困層の増減の比較を行い、Microsoft社の設立、PCの出現、インターネットの出現、携帯電話の出現、Google社の設立、iPhoneの誕生、など偉大なイノベーションが起きても、貧困層の数には何ら大きな影響がなかった点を指摘している(これまでも紹介したことがありますが、このプレゼンは面白いので必見)。

そいじゃ「経済発展」の切り口の他には?ということで思いつくのは、インターネットと携帯電話の普及によってSNS等を通じた情報発信が可能になり、個人の持つパワーが強くなってきたという点。「アラブの春」に代表されるような事象をイメージすると分かり易いか。「アラブの春」的な事象に特化してしまうと、個人のパワーが強くなったのか、はたまた誰かに煽動させられ易くなったのか?という議論もあるが、Ushahidiのようなアプリケーションの誕生&普及やファブラボの活動を思い浮かべると、よりポジティブに個人のパワーが強くなったと思える気がする。

と、徒然なるままに書いてみたけど、あまりにテーマが深すぎて結論はないのです。スイマセン・・・。こういうテーマに関心がある方、論文募集にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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コメント

  1. Yuji Ozaki より:

    ICTはツールのひとつ→「ICTの利活用」という言葉になるんでしょうけど、この利活用ってかなり曲者だな、という印象を持っています。通信網拡充といったテーマでは純粋に技術的な課題と対峙していれば良かったのですが、利活用になるとボトルネックになりがちな複合的パラメータがバコバコ増えてしまいます。
    ミクロな話ではありますが、ある特定の案件でICTを利活用しようとすると、援助する側・される側の、Environment(政策、規制、ビジネス環境とか)、Readiness(インフラ、コンテンツ、お金・価格・スキル)、Usage(個人・ビジネス・政府機関)といったパラメータを全部合わせたベンチマークが立ちはだかるような状態に陥ることがあります(指標の区分けは、World Economic Forumが2014年報告で打ち出した Networked Rediness Index からの受け売り)。
    開発援助、って援助される側のキャパシティとか能力とかが課題となっていることが多いと思いますが、ICTについては、計画立案段階から援助する側の認識もかなり大きな影響を及ぼす気がしています。ICTは無償から無限に湧き出てくる類いのモノじゃないからなぁ。

    付記:
    Ushahidiといえば、彼らが提供しているサービスの一部の機能を切り出したようなAndroidアプリ(SMSSync)を提供してますね。これ、他製品と比較しても、ソリューションの一部へ組み込むならば結構使いやすいです(逆に、単体ではこれで何すんの?的なブツ)。SMSSync + GoogleAppsEngine (PHP/Python) + GoogleAppsScipt (JavaScript) + GoogleDocs (SpreadSheet) の組み合わせで、パフォーマンス面で厳しい機能制限があるとはいえ、フルクラウドでSMS応答サービスがラウンチ(試すのタダ)できてしまうあたりに時代の流れを感じます。とはいえ、これが稼働できたところで「(一ヶ月あたり数千円レベルの)継続的な費用が出ない」の一言で葬られちまうんですが…。

    • tomonarit より:

      Ozakiさん
      相変わらずの現場での経験&苦労からにじみ出るかのコメント、ありがとうございます。結局のところICTだけでは大きな開発効果は望めず、Environment, Readiness, Usageといった面が伴わないと失敗してしまうという点は同感です。
      結局、プロジェクト毎の「Context次第」という一言に落ち着いてしまうのですが、それじゃ先に進まないんですよね。先日購入して読んでいる外山健太郎氏の本でも、この点は触れられていました。そして、Context次第という現実を認めつつも、ある程度普遍的な3つの成功要因を上げていました。なんだと思います?今度、それについて投稿しようと思うので、答えは数日後。

  2. Yuji Ozaki より:

    普遍的な成功要因…. 楽しみにしておりまーす。

  3. hayakawa rieko より:

    ご無沙汰しております。時々覗かせていただきました。
    ICT4Dに関する章を書いた本が今月Springerから出ました。16章ある中で、ICTは私だけです。本はSmall Islands developmentのself determinationがテーマです。博論も書き終えました!これから審査です。http://blog.canpan.info/yashinomi/archive/1557

    • tomonarit より:

      ご無沙汰しております。執筆活動の成果が出版されるとは嬉しいですよね。ブログも拝見させて頂きました。私も今、1つ論文を書いてみようと格闘中です。またこのブログについても色々とコメントを頂ければと思います!

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