ICT4D留学・進学情報

「ICT4Dについて勉強したい!」という方達のために、留学・進学情報をまとめてみました。でも結構な主観に基づく内容なので、あくまでも参考情報ですよ。日本の大学同様に海外の大学でも年々新しいコースが設立されたり、コースの名称が変わったり、去年は募集してたのに今年は募集してない…等、日々変化があるので進路を決める際には鵜呑みにしないで自分でちゃんと調べて下さいね!(作成:2018年5月、更新:2020年5月)

また、PodcastでTomonaritとKanotの2人がICT4Dキャリアについて語りましたので、キャリアで迷っている方はこちらもご視聴ください。

178 ICT4D – キャリアとこれから(狩野剛、tomonari takeuchi) – Fairly.fm

ICT4D進学・留学お悩み相談Q&A

質問1:ICT4Dを勉強するために大学院留学・進学を考えているんですが、どんなところが良いでしょうか?

英国、米国がメジャーですがインドとか新興国・途上国も含めたら色んな選択肢があると思います。一方でICT4Dドンピシャ!というコースを設けている大学院は、結構少ないですね。ちと古いですが関連するブログポストはこちら。

ICT4D留学・進学についてこれまでに書いたブログポスト一覧

ご参考にどうぞ。これを書いているTomonaritは英国マンチェスター大学、Kanotは米国ミシガン大学なので、以下、英国ICT4D留学、米国ICT4D留学を中心に、思いつくところを書いてます。

質問2:イギリスでICT4Dを勉強できる大学院は?

以下、過去の情報なんかから思いつくところです。

  • University of Manchester: MSc in Information and Communication for Development(ICT4Dをコース名として使った修士コースの元祖的な存在。コースDirectorのRichard Heeks教授はe-Governmentが専門)
  • Royal Holloway, University of London: MSc in Practising Sustainable Development with ICT4D(学部としてはGeographyになるものの、ICT4Dを学ぶ研究者が多く、マンチェスターとならぶ二大巨頭。もう教鞭はとっていないらしいけどTim Unwin教授はUNESCOのICT4D活動を牽引する大御所)
  • Sussex: School of Business, Management and Economics (コース名でなく学部名。この学部に2012年頃は「Innovation and Sustainability for International Development」という修士コースあり。現在も「Science and Technology Policy」、「Strategic Innovation Management」、「Sustainable Development」等のコースあり)
  • Oxford Internet Institute (これもコース名じゃないですが、ここにも「Social Science of Internet」等いくつか修士コースあり)
  • University of East London: MA in Media, Communication and Global Development (2014年頃「MSc in Information and Communication for Development」という名称のコースがあったけど、今(2018年)はこの名称に)

質問3:アメリカでICT4Dを勉強できる大学院は?

ICT4D関連の教授がいる大学を挙げています。主にはInformation SchoolまたはComputer Scienceに所属している印象です。2年間留学できるならアメリカも実践的でオススメです。ICT4Dドンピシャのコースを用意してるのはコロラド大学ボルダー校くらいですが、研究としては多くの大学でされています。

質問4:日本でICT4Dを勉強できる大学院は?

日本でICT4Dを学べる学校ってかなり少ないので、「ドンピシャじゃなくても、ICT4Dが勉強できそう」という学校を含めて以下、リストアップしました。今後増えることを期待!

質問5:その他の国でICT4Dを勉強できる大学院は?

ICT4Dの現場は主に開発途上国です。ですので、日欧米以外でも勉強できるところは少しずつ増えている印象です。以下はICT4Dの国際学会などでよく名前を聞く先生がいる大学です。

質問6:イギリスとアメリカでのICT4D留学の違いは?

英国は1年で修士が取れるのが一番のメリットだと思います。一方で、修士って専門性を高めるイメージですが、1年間のコースで勉強出来ることは「浅く広く」です(「1年」といってもイースター休暇、夏休み、クリスマス休暇なんかで、実際に授業を受ける期間は更に短いです)。ICT4Dといっても教育、保健医療、農業、電子政府、BOPビジネスetc.かなり幅広いですし、テクノロジーも携帯電話からドローンや3Dプリンターまでハード、ソフト含めさらに幅広です。分野・技術・地域・アプローチなどから修論のテーマを絞り込む過程で自分自身の興味の焦点が明らかになると思いますが、そのためにも、まずは幅広い文献や事例に目を通すのが良いです。個人的には、この幅広い文献や事例を学べるのが大学院の1年の一番のメリットと思います。

米国の場合は、2年間必要ですが、やはり実践的だと思います。Information Schoolなどではプログラミングなどの技術も学べますし、最近流行りのHCI、UI、UX、データサイエンスなどもカバーできます。途上国の現場は近くないですが、シリコンバレーをはじめとするテック業界の最先端がありますので、「最新の技術に触れながら途上国などでの応用を考える」なども可能かと思います。色々と本を読んで学びながらも、実際に体を動かし、企業を訪問したり話を聞いたりしながら自分を深めていくことができると思います。一方、開発学的な要素はあまり濃くないコースが多く、技術に軸足をおいた学習になるケースが多いです。

質問7:博士過程(PhD課程)の留学に興味があるのですが?

別記事としてまとめてみました。

海外PhDに興味を持ったら最初にするべきこと
海外PhDの情報はネット上でも少ないため、現役のPhD課程留学生が、「海外PhDに興味を持った場合に最初にするべきこと」を書いてみます。
海外PhDに興味を持ったら最初にしてはいけないこと
先日「海外PhDに興味を持ったら最初にするべきこと」としてまとめたところ、反響が結構ありましたので、続編として、「もしあなたが海外PhDに興味があるなら、してはいけないこと」としてまとめてみます。100%私見です。

質問8:どうやって留学先を探せば良いのか?

ICT4D分野に限った話ではないですが、「この先生の元で勉強したい!」と思える教授なり研究者に直接メールして相談するのが一番手っ取り早いと思います。具体的な関心分野とか、こんな研究が出来るか?という普通のメールで良いので、まずはコンタクトしてみると、向こうからは結構タメになる返信が来ることが多い気がします。無視されたらされたで、その学校・先生は優先度リストで下にすれば良い訳で、大学院選びが一歩前に進みますしね。「じゃ、どうやって先生を探すのか?」ですが、コツコツ大学のWebを調べる方法の他に、ICT4D関連の国際会議情報(例えばICTDのProgram Committee)を調べて、その会議の運営者にどんな先生が名前を連ねているかをチェックしたり、ICT4D関連論文(世銀や国連の出している報告書だと無料でアクセス出来る)のリファレンス情報から面白そうな論文タイトルを書いている先生を見つけるとか、という方法も使えると思います。また、「ICT4D Guide」というサイトで、ICT4D関連ブログや団体が相当数リストアップされているので、「どっから手をつけようか…」と思っている方は、覗いて見るのも良いかも。

質問9:ICT分野に興味はあるものの、開発学か専門系か迷っている。

これに関しては正解はありません。逆に言うと、開発学や経済学を学んだからといって、ICT4Dの専門家になれないわけでは全くありません。ICTのカバーする分野は非常に広く、IoT、ドローン、データサイエンス、AIなど、この全てに精通している人などそもそもこの世にはいないですので、「技術を使う」という観点で見ることができれば、どちらの分野に進んだとしても、十分専門家になりうるのだと思います。もちろんICT4Dに力を入れているコースに進学すれば、その分事例や技術を吸収することはできます。

質問10:技術力がない状態でのICT4D留学は無謀か?

前の質問とも重なりますが、ICT4Dの専門家になるには、「現場サイド」と「技術サイド」の両方があると思います。これは両方とも立派な専門性で、お互いが補いあえるメンバーを組んでプロジェクトを進めていくことになります。ですので、技術力は必ずしも必要ではないと思います。実際、現在ICT4Dの専門家と呼ばれる人たちがプログラムのコードをゴリゴリ書けるかというと、そうでない人も多いです。

質問11:留学前に勉強したいのですが、参考になる本は?

すでに「この先生も元で勉強したい!」と決まっているなら、Google Scholarで関心のある先生の名前から検索して探すってのが良いですね。もう少し一般的に調べたいと言う場合は、米国や英国のAmazonで検索するといくつか本が出て来ます(日本のアマゾンだとあんまりなんですよね)。 このブログでもいつくかICT4D関連書籍の紹介をしているので参考までに。もっと知りたい人は、「ICT4Dの教科書10選」を是非、チェックしてみて下さい!

ICT4D留学経験者の体験談

以下、ICT4D留学経験者の体験談です。もし「私も体験談を提供したい!」という方がいれば、是非ご連絡下さい!

体験談1:マンチェスター大学ICT4D修士 2008年卒(Tomonarit)

私(Tomonrit)が卒業したのは2008年の話で、且つ、その年がコース設立初年度でした。なので、色々と変わってる思いますがあくまで当時の情報として以下お伝えします。

1.「コースの内容(何が勉強できる?)」
ICT4Dと言っても技術を学ぶコースではありません。「途上国向けアプリを実際に自分で開発するには?」的な実践的な技術を勉強するのではなく、「途上国のICT政策の在り方について」とか「ICT4Dプロジェクトの立案・マネジメント・評価」みたいなことを学術的な観点から学ぶ感じです。IT資格試験で例えるなら、CCNAやネットワークスペシャリストではなく、ITストラテジストやプロマネの試験内容といった感じかと。途上国開発系の授業(PCMとか)とシステム開発プロジェクトマネジメント関連の授業を自分で組み合わせます。開発経済とか王道の開発系科目も選択可能なので、「ICT技術でトンガリたい!」という人よりも、「途上国開発分野の基礎を抑えつつもICT分野を専門にしたい」という人向けかな、と思います。

2.「コースの状況(授業の雰囲気、教授のスタンス等)」
少数制の議論中心の授業を想像してビビッていたのですが、授業は大半が40人位での講義型でした。ガンガン意見を言い合うというのではなく、2~3人のグループでちょこちょとと話をして、その結果を代表が発言したり、発言する人は発言するという感じ。「発言しない人はいないも同然」という米国のMBAコースみたいな感じではなないです。また、5~6人でグループワークを行いプレゼンするということが多かったです。プレゼンとタームエッセイで評価される授業が多かったです。
雰囲気はかなり多国籍でした。そして、学生のレベルもまちまち。米国やカナダからわざわざ英国留学に来るような学生はレベル高かったですが、途上国からの学生のなかには、自分から見ると「そんな発言すんなよ~」と思うこともありましたが、でも先生はちゃんと丁寧に回答してたし、周りの雰囲気も和やかでした。人によっては「もっとレベル高いかと思った」と感じる人がいてもおかしくないと思いますが、個人的には、和やかな雰囲気が好きでした。
教授のスタンスはわりとみんな親切・親身に話を聞いてくれる感じでした。自宅に招いてのバーベキューみたいなことはなかったですが、個人的には満足でした例えば、今でもRichard Heeks教授とは繋がっており、日本へ来た際に会ったり、個人的に論文を書いた際に相談したり、といった関係は続いています。

3.「フィールドワークでどのようなことを実施したか」
ICT4Dコースにフィールワークってのがあります。最近は南アフリカへ行くようですが、自分のときはインドのバンガロールへ1週間ちょい行き、ICT4D活動をしているNGOやマイクロソフト・リサーチなどの企業を訪問したりでした。フィールドワークっていってもリサーチをする感じではなく、視察旅行みたいな感じです(修学旅行のもう一段レベルアップしたようなものですね)。でも、現場でいろいろな話を聞けたのはためになりましたし、何よりも同級生や教授と仲良くなれたのが良かったです。
ちなみに、自分はコースとしてのフィールドワークとは別に、修士論文のためにエチオピアへフィールドワーク(これは本当にリサーチをするため)に行きました(自腹です)。

4.「卒業後にManchesterだったから得られたメリット」
別の大学院だったらどうだったのかと比較ができないので、なんとも言い難いですが、とりあえず同窓生が結構居るので、「あ、自分もマンチェスターでした」って話が出来る機会が結構あり、メリットかもしれません。でも、開発業界ではサセックスも卒業生多いですね。

体験談2:ミシガン大学のICT4D博士課程(Kanot)

私はUniversity of Michigan(ミシガン大学)のSchool of Information(情報学大学院)のPhD課程に所属しています。(2018年時点で3年目)

アメリカのPhDコースは5年前後かかると言われていて、最初の2年でコースワークと研究・講師補助と研究、残りの3年で研究・講師補助と研究、というのが主な仕事になります。「仕事」と書いたのは、アメリカのPhD生というのは日本でいう研究助手のような立場で、大学に雇用されることが多いです。研究補助や講師補助をすることで授業料免除、そして一定の生活費をもらえます。

大学院では、最初の2年で理論と手法を叩き込まれます。私のケースだと情報学関連理論として、コンピュータ科学の古典から、ソーシャルネットワーク、そして経済学まで幅広く理論を学びました。そしてこれがPhD課程特有と思いますが、研究手法(質的・量的研究、統計、文献レビュー、等々)についてもみっちりやります。ディスカッション中心の授業が多いので、ノンネイティブには泣きたくなるほどきついですが、研究の基礎は身につくと思います。

そして、個人的にアメリカ留学の最大のメリットの一つはインターンです。アメリカは5月には授業が終わるので、6−8月は基本的に夏休みです。学生たちはこの期間に企業等で約3ヶ月のインターンをして、経験を積みます。企業も採用活動の一環として位置付けているので、有給のインターンもそれなりに多く、シリコンバレーの企業などはインターンでも月40−50万円もらえるケースも多いです。アメリカのPhD生たちは、このインターンが3−4回経験できるため、自然と研究能力と実務経験の両方を身につけていきます。

ちなみに、私は1年目の夏は大学に残って研究手法の講座を受講し、その後ベトナム・フィリピンへフィールド研究に行きました。2年目の夏は3ヶ月間ルワンダのICT商工会議所で研究インターンをし、とても貴重な経験になりました。

アメリカ政府の出した博士過程に関する統計レポートに関するブログ投稿もしてみましたので、こちらも合わせてご覧ください。

体験談3:マンチェスター大学ICT4D修士 2012年卒(takanoさん)

Tomonaritさんが書いてくれた内容で、基本的に変わっていないという印象を私も受けました。
コースダイレクターダイレクターであるRichard Heeksをはじめ、Sharon Morgan(←2018年時点では異動して不在です), Rcihard Dumncombeという先生方にも非常にアットホームな方々でお世話になりました。たしかにホームパーティーに呼んでくれるというレベルまではなかったですが、人当たりもよく、親身になって話を聞いてくれます。

あとは、選択する授業内容によって、グループワーク重視とか、エッセーのみとか、特徴が異なってきます。クラスメートは、ICT4Dコースは昨年が15名程度で、世界各国(イギリス、アメリカ、インド、インドネシア、バングラデシュ、韓国、日本、コロンビア、ホンデュラス、オマーン、ナイジェリア、エチオピア、エジプト、etc)から集まってくる比較的に社会人経験のあるだいたい30歳前後の人たちが多くて、でも中には新卒に近いこもたまにいるみたいな、ある意味ではJOCVに近いイメージでもよいかと思います。僕の印象では、欧米の人だけがレベルが高いということはなく、インド人やナイジェリア人でも非常にスマートな人たちはいますし、ただし、あまり人の意見をきかずに、非生産的な意見や質問を繰り返すような人もいます。

あと、ManchesterのIDPM配下にある開発学系統の修士コースは20以上のコースがありますが、この中でもMIS(Management Information Systems)はICT4Dと同じクラスターに属する兄弟のようなコースで、選択授業が重なることも多く、生徒同士の交流やクラスメート意識も高く、実際に2つで1つのコースみたいな感覚です。違いは、必修科目が少し異なるのと、Field Tripの行き先が異なるくらいです。ですので、クラスメートは15人というよりMISと併せて50人くらいのイメージでした。

最後に、ManchesterとSussexの簡単な比較です。ManchesterはLondon中心のEustonという駅から電車で2時間ちょっと。Manchesterの駅からもキャンパスの北の端なら徒歩5分程度(キャンパスも広いので中心までは+15-25分)というアクセス。物価は総じて安く、第3番目くらいの都市なのでお店、買い物に困ることはなく24時間買い物はできる。ただし、治安は悪くないものの、もちろん注意が必要。キャンパスが区切られていないし、街の中なので、緑は少ない。街としての魅力は、ManUとManCityの2大チームのスタディアムへのアクセスもよく、サッカー好きにはたまらない。試合を見に行くチャンスも多々ある。けれど、サッカー意外の見どころが私にはあまり見当たりません。大きなショッピングモールがあるので、小さな町からショッピングに来るにはいいかもしれません。なお、気候はまあ総じて暗くて寒いというイギリスのイメージ通りです。
一方、Sussexはちょっと遊びにいっただけですが、Lodonから電車で1時間弱でBrightonという街に着き、ここからバスで40分程度。Brightonは南部で海に面しているので気候は比較的にいいと思います。Brightonは観光地という雰囲気もあり、お洒落な感じですが、Sussexのキャンパスはけっこう郊外で森の中という感じでした。緑があるのはいいですね。でも買い物は少し不便そうで、やはりバスで30分以上かけて街へ出てまとめ買い、物価もLondonに準じて高いようです。参考までに。

体験談4:マンチェスター大学ICT4D修士 2018年卒(Chihiroさん)

(1)コースについて

・コース規模と学生の傾向

今年(2018年)は例年に比べて非常に小さく、5人のみでした。国籍はメキシコ、インドネシア、チリ、ナイジェリア、日本。対して一緒にクラスを受ける”兄弟コース”であるMIS(Management and Information Systems)は40人弱。国籍は中国(8割)+それ以外(インドネシア、ウガンダ、サウジアラビア、タイ、キプロス、韓国、アメリカ、チリ等)。傾向として、中国の学生は皆新卒ストレートで来ている人が多く、それ以外は数年働いてから勉強に来ている(この辺りは竹内さんの体験談と異なる、近年の傾向のようです!)。体験談3のTakanoさんが書かれているように、クラスによってどんな学生が集まるか変わって来ます。開発学関連の授業は比較的国籍やバックグラウンドのバラエティー豊かです。マネジメント、ビジネス、ヒューマンリソース系になると中国の学生の比率が上がるようです。

・授業内容

必修または選択の授業には、ICTと社会経済開発、リサーチスキル、情報システムの基礎、情報システムの組織への導入、開発プロジェクト計画マネジメント、などがあります。他、e-businessなどビジネスやマネジメント系、ICT in practiceといったICTの技術的な授業(確か1つだけ)、ジェンダーや貧困削減など開発系などがあります。ICTセメスター1ではセオリー重視、セメスター2ではそれを踏まえてプラクティカルな内容になります。全体的にクラスではたくさんセオリー、フレームワーク、モデルなど学びますが、繰り返し強調されるのは「実際に組織で働く際には、これまでセオリーとして学んだことと異なるケースがたくさん出てくること、コンテキストを考えることは大事」という点です。セメスター2では、ICT4Dではないですが、個人的には開発プロジェクト計画マネジメントの授業がとても実践的で楽しかったです。与えられた架空の国のケースに対して、グループでプロジェクトをデザインしてプロポーザルを執筆するのですが、開発関連のアプローチを授業で勉強し、プロポーザルに応用することを繰り返し、実践的な学びができました。履修できるコースはウェブサイトに載っています(全てがその年に開講されるわけではないので、アプライすることを考えている方は取りたい授業が、入学する年に開講されそうか確認するのもいいかもしれません)。

クラスでは、経験の有無が知識の吸収率やクラスへの貢献度に影響することを感じました。ICT関連プロジェクトのマネジメント経験、開発関連プロジェクト経験、途上国関連経験等の有無が、クラスでのディスカッションに貢献できるかどうか、エッセイに活用できるケースをすぐ選べるかどうかなどに関わってくるので、いい勉強をするには、経験はやっぱりあったほうが良いです。しかし、学部での勉強を終えてすぐに来ている学生も多いですし、教授たちもとても親身で質問などできる機会をたくさん与えてくれるので、経験がなくてもとても不利になることはないと思います。

(2)フィールドワークについて

・場所

従来は行き先はインドだったそうですが、2、3年ほど前から南アフリカのケープタウンになりました。南ア出身の先生が異動してきたことがきっかけのようです。

・内容

セメスター1で学んだことを、各種組織の訪問を通して実際に見てみるというコンセプト。フィールドワーク後には、セメスター1最後の課題であるリサーチスキルの授業のショートエッセイに、学びをまとめることになっています。1日に一つまたは二つ、企業等を訪問してプレゼンテーションを聴いたり現場を見学したりし、学んだことと実際の現場とを比較しつつ、さらにリサーチされるべき「ギャップ」を探します。

訪問先は、市役所、製鉄企業(工場)、ITコンサル企業、テレセンター、インキュベーションセンター、コワーキングスペース等。体験談3のtakanoさんの話と異なり、今年はICT4Dが少ないせいかMISと合同で行き先は全て一緒でした。そのせいか、竹内さんの体験談と異なり、開発関連機関への訪問がなく、ICT4Dとしてはもう少し開発関連組織やプロジェクトサイトの訪問があればよかったという意見が多かったです。また、治安面への対策などから開発関連コースのICT4Derとしては「守られ過ぎている感」もあり(インドに行った先輩方の体験談とは自由度が違う様子??)、もう少し途上国コンテキストならではの勉強したいという意見も・・・。フィードバックはしてあるので、来年以降反映される可能性がなくはないです。こうした意見は学校側は積極的に聞いてくれます。

飛行機での移動も含め11日間で、訪問の他に修士論文に関する説明や、アカデミックな活動の他には皆で行く山登りもあり。毎日朝から晩までクラスメイトと一緒なので、自然と仲を深められます。

(3)マンチェスターとICT4D

ロンドンと違い、ICT4Dドンピシャの集まりが多くあるわけではないですが、Tech for GoodというMeetupグループがマンチェスターにあったり、マンチェスターでカンファレンスが行われたり、英国の北半分(?)で行われるICT4Dの集まりがあったりなど(マンチェスターまたは近郊の都市で)、見つけようとすれば授業以外でICT4Dを考えられる機会はたくさんあるようです。先生に聞くと色々と教えてくれます。

体験談5:政策研究大学院大学・科学技術イノベーション政策プログラム(Chiharuさん)

私のバックグラウンドから少しお話すると、大学時代は国際関係を選考し、国際交流の活動をしていました。卒業後、将来はグローバルな社会課題をITを活用して解決したいという思いから、外資系IT企業(ITインフラのメーカー)に入社しました。営業及びCSRボランティアとして働く中で、自分の関心分野にソリューションを提案できないもどかしさや、技術的には可能でも現実には実装されていないことに疑問を感じ、テクノロジーの「活用方法」について学びたいと考えるようになりました。

1.プログラムの特徴(何が勉強できるか)

そもそも政策研究大学院大学(GRIPS)は主に社会人を対象とした国立の公共政策大学院で、修士課程と博士課程しかありません。学部からの進学者がおらず一から人間関係ができるので、誰でも入りやすいと思います。また大きな特徴として、留学生の割合が多く(約8割)、アジアやアフリカの政府から派遣されている学生が大半です。

その中でもGiSTは、日本で科学技術イノベーション(Science, Technology and Innovation; STI)政策を学べる数少ないプログラムの一つです。授業は日本語または英語で行われ、日本では珍しく1年間で修士号が取得できます。修士の学位は公共政策(Master of Public Policy)になります。STIという名前の通りですが、プログラム自体は途上国やICTの文脈に限らずSTI政策を幅広く学ぶことができます(教授陣の中にはエネルギー政策の専門家やバイオテクノロジー畑を歩んできた人もいます)。

※あくまでSTI政策を社会科学的側面からアプローチするので、技術的な内容には突っ込むことが少なく、ある特定の技術を学びたいと思っている人には物足りないと思います。

授業は、開発経済、イノベーションマネジメント、知的財産など様々です。必修のSDGsの授業では、田中明彦学長(元JICA理事長)が自ら教鞭をとられたり、科学技術とアントレプレナーシップの授業では、他校のビジネススクールと合同で実施したりしています。ミクロ経済学といった基本的な授業もありますが、政策の影響や市場の失敗などにフォーカスが当てられているので学部とはまた違って面白いです。

ICT4D関連では、STI for SDGsやDisruptive Inclusive Innovationプロジェクトをリードされている飯塚倫子先生や、途上国のイノベーション政策がご専門のINTARAKUMNERD, Patarapong先生がいます。また、他のコースの授業も一部単位となることから、開発経済学の第一人者である大野健一先生の授業も受講できます。

2.プログラムの状況(授業の雰囲気、教授のスタンス等)

全コース共通の必修授業以外はかなり少人数で、1授業だいたい5人くらいの学生がいます。途上国に関連する政策では、現地の行政官などその土地の事情を知る留学生たちと一緒に授業を受けることができるので、解決策(政策提言)をめがけて地に足の着いた議論ができると思います。

教授との距離も近く、課題や修論のことを相談すれば手厚くサポートしてくれます(個人的な体験談)。また、多くの教授陣は研究者でありながら実務的な経験を持つ方が多く、より実践的な学びができますし、自分次第でチャンスや人脈が舞い込んでくるかもしれません。

3.どんな人にオススメか

社会人経験がある人(公務員である必要はありませんが、公益の視点を持っていたり行政の役割に興味がある人がいいと思います)。学費を抑えたい人。何より、東京に拠点を置きながらグローバルスタンダードの学びの環境を得たい人。

体験談6:マンチェスター大学Digital Development修士 2022年卒業予定(石けんさん)

体験談1,3,4で紹介されている「マンチェスター大学MSc ICTs for Development(ICT4D)」が、2021/22から「MSc Digital Development」に名称変更となりました!正直、名称変更による授業内容の変化は無いと思うのですが、コロナ禍を経て、Chihiroさんの投稿(2018年)からどのような変化があったかご紹介できればと思います。

1.「コースの内容(何が勉強できる?)」

最新のコースリストは、こちらをご覧ください!以下は、私が履修したコースです。過去の体験談でもある通り、主に1)開発学(Development Studies)、2)情報システム(Management and Information System)、3)開発学×情報システム(ICT4D)の3種類に分けられます。過去の経験や将来のキャリアパスに併せて選択できると思います。

【通年】

  • Research Skills Development(必修)

兄弟学部である「MSc Management and Information System(MIS)」の学生併せて総勢100名強で、修士論文の執筆方法について勉強しました。

【1学期】

  • ICTs & Socio-Economic Development(必修)

ICT4Dの定義、セオリー・フレームワーク、事例を勉強し、テクノロジー中心ではなく、現地/利用者中心でシステムやプロジェクトを設計する重要性を再認識しました。

  • Development Practice: International Contexts and Worlds of Action

開発分野における様々なアクター(政府、NGO、企業など)について勉強しました。

  • Digital Governance

政府のデジタル化について、GtoG、GtoB、GtoCのそれぞれの観点から勉強しました。グループプレゼンテーションでは、公共セクターにおけるビックデータ活用の効果・課題を取り上げました。

  • Fundamentals of Information and Information Systems

開発分野に限定せず、組織やプロジェクトへの情報システム導入について、セオリーやフレームワークを勉強しました。

【2学期】

  • Planning and Managing Development(必修)

開発プロジェクトのデザイン手法を勉強しました。グループワークとして、「コロナ禍におけるインフォーマルワーカーに対する食糧配布プロジェクト」の計画書を作成し、現状把握、ステークホルダー分析、問題分析、プロジェクト案検討、プロジェクト詳細検討(Logframe)、リスク分析、タイムスケジュール作成、予算案作成、プロジェクト評価、モニタリング計画などを網羅的に経験しました。プロジェクトマネジメントの手法については、”開発分野”に関わらず、システム開発にも応用が効く内容となっています。 

  • Introducing Information Systems in Organisations

1学期に履修した「(5) Fundamentals of Information and Information Systems」の発展授業です。情報システムを組織に導入する際の現状把握・システムデザイン・プロトタイプ作成(Microsoft Access)・導入・チェンジマネジメント等の手法を順序立てて学習しました。

  • Teaching and Learning Online

コロナ禍以前を含めた教育のオンライン化の歴史や課題、機会を勉強しました。

グループワークとして、Edtechが、3層に別れるDigital Divide(ハードウェア、ITスキル、利益分配)にどのように対応してきたかを調査しました。

2.「コースの状況(授業の雰囲気、教授のスタンス等)」

1学期は、コロナ感染症対策で、大人数でのレクチャーはオンライン、少人数ディスカッションメインのチュートリアルは対面で行われました。2学期は、(6)(7)の授業は全て対面(又は、入国できていない生徒はオンラインで参加)、(8)は完全オンライン(数人の学生がマンチェスターの外から受講しているため)で行われました。今後の授業は、英国に入国できる生徒向けに対面で行われつつ、時にハイブリッドなどフレキシブルに行われるのかと思います。

今年のMSc Digital Developmentの学生数は…10人!国籍&人数は、中国6、日本2、ネパール1、ケニア1。併せて、兄弟学部MISは、100人強で、中国9割、タイ、インド、トルコ、チリ、ウガンダから数名という規模でした。多様性という観点では、欧州からの学生がおらず、ディスカッションできなかったのは残念でした。一方で、(6)の授業は、他の開発学コースに所属する欧州や中南米、アフリカ出身の学生も履修しており、授業中のディスカッションや質疑応答も積極的に行われていた印象です。グループワークで同じグループになることも可能です!

3.「フィールドワークでどのようなことを実施したか」

南アフリカ・ケープタウンへのフィールドワークが予定されていましたが、コロナ禍で延期→延期→中止とアナウンスが…。代替策として、1)南アフリカのスタートアップや政府機関からのオンラインプレゼンテーション(エッセイ課題あり)、2)ロンドンへのフィールドトリップ(現地のIT企業からのプレゼンと観光あり。開発分野に関する内容はほぼ無し)が提供されました。少し…かなり…残念でした。来年以降どうなるかは、アナウンスされていません。

4.「最後に…こんな人にオススメ!?」

ここからは、個人的な意見なので参考程度に!

マンチェスター大学MSc Digital Developmentは、「ICT×開発”全般”に興味がある」又は、「Digital Governance・E-business・Gig Economyに興味がある」方が向いているかと思います。っというのも、私は元々、ICT×開発全般に興味がありつつ、修士論文は、ICT×”教育”開発について執筆することに決めました。授業はもちろん参考になったのですが、修論執筆に関して、ICT×”教育”開発の知見がある教授が周りにおらず、少し苦戦しています。一方で、Digital GovernanceやGig Economyは、Richard Heeks教授が教官についてくだされば、かなり手厚くサポートしてもらえるなど。既にICT×開発×〇〇の〇〇(研究テーマ等)が決まっている場合は、HP上で、所属する教授が過去に指導した論文トピック等を調査しておくと役立つかと思います。

また、授業への貢献や課題について、システムに関する基礎知識やシステム導入経験がある方が、取り組みやすいとも感じました。私は、渡英前に、ある政府機関のIT部門にてシステム開発プロジェクトを担当し、資格も取得していたので、授業内の専門用語や課題のケーススタディ決めなどをスムーズに行うことができました。

以上、コース内容、規模、雰囲気を紹介しました!2022年(いるのかな?)又は、それ以降に進学を予定/検討中の方の役に立てれば幸いです。楽しい大学院生活が送れることを願っています。

体験談X:随時更新予定(投稿希望者の方、ご連絡下さい!)

こちらよりご連絡ください。

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