ICT4Dの国際学会@南アフリカに参加してきた2024年5月(IFIP WG9.4)

アカデミック

南アフリカのケープタウンにて、ICT4Dをメインとした2つの学会のうちの一つであるIFIP WG9.4が開催され、論文を投稿&発表してきましたので、記憶が新しいうちに報告記事を書いておきます。(ICT4D関連学会に関する記事はこちら

今回参加した学会HPは以下です。Proceedings(学会論文集)はSpringer社から出版されます。

Home - The 18th IFIP Working Group 9.4 Conference on the Implications of Information and Communication Technologies for Development - UCT GSB Conference Centre - Breakwater Lodge

IFIP WG9.4という国際学会について

まず、IFIP WG9.4というのは、International Federation for Information Processing (IFIP)という学会のワーキンググループ(WG)の一つです。IFIPは14のTechnical committee(TC)で構成されていて、TC9が「ICT and Society」であり、さらにその配下のWG9.4が「The Implications of Information and Digital Technologies for Development」とようやくここでICT4Dにたどり着きます。

と、IFIPの構成は巨大なのですが、今回の学会自体は小中規模なもので、参加者は130人程度とこじんまりしてたので、期間中に同じ人と何回も顔を合わせる機会があり、一緒にコーヒー飲んだりランチ食べたりと仲良くなりやすい環境でした。参加国も20ヵ国を超えていて、アフリカ、欧州(特にイギリス、ノルウェー)を中心に参加がありました。日本人は自分だけでした・・・。

おそらく教員と学生の比率は1対1くらいだったでしょうか。学生はホストのケープタウン大学を除くと大半がPhD生でした。

学会プログラム・主要参加者

プログラムの詳細は以下のリンクを見てもらえればと思います。ページ内の赤字リンクから2種類ダウンロードできます(8ページの概要版と、発表論文のAbstractまで載った26ページの詳細版。私の論文は15ページに記載)。

Programme - The 18th IFIP Working Group 9.4 Conference on the Implications of Information and Communication Technologies for Development - UCT GSB Conference Centre - Breakwater Lodge

特に今後留学を考えている人は、このプログラムに出てくる大学などはICT4D関連の授業がある可能性があります。特に欧州・アフリカでPhDを考えてる人は、ここに特に名前が出てくる人は、指導教官の候補になる人たちになるのだろうと思います。

今回の私の論文・プレゼンテーション

今回の私の発表は「Lessons Learned from EdTech Integration during the COVID-19 Pandemic:Socio-technical Case Analyses of Bhutan and Nepal」というタイトルで、コロナ禍にEdTechがどのように教育継続に貢献したのかという点を、ネパールとブータンを比較することで明らかにするというものでした。(論文の公開後にはリンクを貼ります。)

プレゼン自体は20-25分時間をいただき、その後5-10分程度の質疑応答がありました。今回は当事者にあたるネパール人が発表に参加してくれていたので、変に概念・理論的な質問はなく、非常に具体的かつわかりやすい質問・助言をいただき、ストレスなく質疑応答も終えることができました。

Tea Time:重要かつ英語力・積極性が問われる楽しくもストレスフルな休憩時間

学会の構成自体は、研究発表3件で1セッション(90分)でセッション間に30分のTea Timeがありました。つまり、ランチ含めて1日3回くらい30分以上のTea Timeがあります。このTea Timeが重要で、ここでいかにネットワークを広げるために旧友との再会を喜んだり色々な人に話しかけるのが、楽しくもありストレスフルでもあります。

こういった休憩時間は、論文などで名前だけは知ってる人や、著名な研究者と対面で話をして名前を覚えてもらう貴重な機会なので、学会参加される方は「この人とは絶対話すぞ」というリストを事前に作っておくと良いと思います。当然有名な研究者は誰かと話をしてることが多いので、そこに飛び込んだり、コーヒーに並んでるところを捕まえたり、と結構なストレスがかかります。

そして英語力が必要となるのは実はここが一番です。発表は極端な話、AIを駆使すれば原稿準備やチェックなど、どうにでもなります。しかし、Tea Timeにお互いの顔と名前を覚えて今後の共同研究の可能性を話したり、現地到着後の過ごし方などのカジュアルトークをしたり・・などは翻訳ツールを使うわけにもいかないので、国際的な研究者を目指す人は、このような機会に人と人として関係を深めるために英語を勉強する必要があるといっても過言ではないと思います。

意外だったノルウェーからの参加者の多さ

また、参加者を見ていて気づいた点として、IFIPの参加者の傾向として主催国の南アフリカ関係者が非常に多かった(おそらく約半数)のは当然として、少し驚いたのはノルウェー関係者の多さでした。Oslo大学から教員・学生が少なくともそれぞれ1名、Agder大学からは教員が3名、学生も1名は少なくとも来ていました。特にOslo大学のDr. Silvia MasieroはIFIP WG9.4のチェアもしていて、今後のICT4Dをリードしていく一人であろうと思います。

ちなみにSilviaとは彼女がLSEのPhD生だった時に2013年の学会(これも偶然ケープタウン)で会っており、久々の再会となりました。これは日本でも海外でも同じですが、学生時代に知り合っておくと、ビジネス仲間というよりは友達感覚で話ができるので、学生時代に学会に積極的に行って、同世代の知り合いを作ることは財産になると思います。

Information System関係者の多さ

それ以外で気づいた点としては、多くの研究者が分野として「Information System」という言葉を多く使っていたことです。これはアメリカの学者が中心となるICTDではあまり聞かなかった言葉で、少々意外に思いつつ、(私の所属する学科もManagement Information Systemなので)親近感を持ちました。

このことは、日本よりICT4Dに取り組む研究者の多い欧州でも、ICT4D学科のようなものはなく、Information Systemを中心とした関連学科で各教員が泳いでいる(Information Systemに片足を置きながら、もう片足でICT4Dの研究をしている)ということなのだろうと思います。

マイノリティの寂しさと有利さ、そして使命

今回参加して改めて思ったことは「自分はマイノリティだ・・」ということです。マイノリティであること自体は個を立たせるためには悪いことではないのですが、まぁ寂しさを感じます。会場に日本人は自分一人でしたし、そもそもアジア人が少ない。東アジア・東南アジアからの参加者もゼロ。インド、バングラデシュ、ネパール人の参加者は数人ずついて(ただし全員他の国で研究者をしている)気分的にだいぶ癒されました。

ただし、マイノリティであること自体は、耐えられれば悪いことではなくて、黒人が大多数だった環境だったこともあり、おそらく今回話をした人たちは「Yoshiという日本人が一人いたな」と覚えてもらいやすかったとは思います。

ただ、もっとアジア、特に日本のプレゼンスを高めたいとも感じましたし、もっと日本のICT4D研究者を増やしていきたいとも思いました。そのためには、まず私が大学院生を育てていく環境を作らないといけないんだろうなと新たな使命も感じました。

若者よ、もっとICT4Dの研究分野に飛び込んできてください!!私は全力で応援・サポートしますよ。

また、一つ海外の研究者からもらったアドバイスとしては、研究室に留学生を入れることの重要性でした。研究者をしていると、フィールドを深めていくことはしやすいけど広げていくことは予算・時間的な制約からなかなか難しい状況にあります。そんな中で、留学生(特に開発途上国出身)がきてくれれば、彼らが母国を対象とした研究プロジェクトを行うことで、研究フィールドがどんどん広がっていくという助言がありました。

時代は名刺交換からLinkedInへ

また、今回参加して感じましたが、研究者たちはもはや名刺は持ち歩かない人も多く、皆がつながっていたのはLinkedInでした。学会期間中もTea Timeなどで話した人とはだいたい最後に「LinkedIn持ってる?」となり、繋がることが何度もありました。これから海外キャリア(研究者に限らず)を考えている人は、今のうちからLinkedInのアカウントを作って英語のプロフィールを書いておき、実績を蓄積しておくと良いと思います。

次回のIFIP WG9.4はネパール

このIFIP WG9.4ですが、次回の開催は2026年5月にネパールのカトマンズ大学がチェアをしてくれるようです。ネパールも久しく行っていないので、ぜひ論文書いて応募したいなと思っています。

ケープタウンという街

さて、学会の話はここまでにして、今回訪問した街、ケープタウンについても少し書いておきます。

ケープタウンという街は、日本人にはあまり馴染みがないですが、自然に恵まれていて本当に素晴らしいところです。サファリなどの動物に加えて、アフリカ最南端であることから、野生のペンギンも見れます。そして何より喜望峰(Cape of Good Hope)という大航海時代のロマンを感じさせる場所もあります。特にウォーターフロントという観光エリアは治安もよく、ディズニーシーのような港町で歩いていて非常に気分がよいところです。

その一方で、アパルトヘイトの傷跡と貧富の差が見える街でもあります。空港を少し出ると、アパルトヘイト時代に黒人たちが追いやられたことからできているスラム街が視界に入ってきたり、失業率も35%に達する状況で、多くの黒人はいまだに苦しんでいる状況でもあります。

治安も悪く(といったもヨハネスブルグなど他の主要都市よりは良い)、私はグリーンポイントというウォーターフロント近くの比較的治安のいいエリアに滞在しましたが、それでも日没後の一人歩きはしないようにと宿泊先のオーナーに言われていました。移動は主にUberで、値段交渉の必要もないため、非常に簡単かつ快適に移動ができます。

このケープタウン、実は私にとってはとても思い出深い場所で、遡ること12年、当時JICAバングラデシュ事務所で勤務していた私は、PhDに応募するために研究・論文発表実績が欲しい、そして指導教官となりうる人を見つけて自分を売り込みたい、と思っていました。そこで偶然見つけたのが、2013年のICTD学会で、ここでポスター発表したことが今のアカデミックキャリアのスタート地点となっています。その2013年のICTDが開催されたのが、ケープタウン大学で、そこで後の指導教官となる外山健太郎教授や、いつか会ってみたいと思っていたRichard Heeks教授とも初めて話をできた場所で、とても思い出深く好きな街です。

写真集

以下はおまけとして、思い出となる写真をいくつか添付します。

まずは、人です。左上はセッションのチェアをしてくれた University of Cape TownのDr. Grant Oosterwyk。右上は著書の翻訳も手伝わせていただいた University of ManchesterのDr. Richard Heeks。右真ん中は一緒にいる時間の多かった University of SussexのDr. Ayomikun Idowu。左下は共通の知人がICT4D Labにいたことから話が盛り上がった Dr. Pamera Abbott。そして右下は、バングラデシュ人の参加者ということで仲良くなった、IT University Copenhagenの Dr. Hasib AhsanとArizona State UniversityのDr. Faheem Hussain

続いてケープタウン。学会のエクスカージョン(地域を学ぶ研修)で郊外にも足を伸ばす時間を取ることができました。左上は歴史あり絶景のケープタウン大学、左下はイスラム教徒への差別の歴史でもあるカラフルハウス、中央列は地図・ケープタウン・野生ペンギン、そして右はいつか行きたいと思っていた念願の喜望峰。

これから帰路に着きますが、いかんせん非常に遠く、24時間以上移動に時間がかかるのと時差ボケが憂鬱です・・(歳のせいか時差ボケが治りにくくなりました)。

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