博士論文を読み直してみた(その2)

アカデミック

こんにちは、Kanotです。前回に引き続き、私の博士論文の考察の日本語訳の続き、やっていきます。小難しくマニアックな内容ですみません。以下が考察の目次で、前の記事では博士論文の概要、8章の前書き、8.1について和訳しました。

第8章:考察
8.1. Soft Factors for Global ICT Workers’ Development
8.2. Leap-frogging and ICT Human Resource Development
8.3. Broader Implications
8.4. Limitations and Caveats
8.5. Policy Recommendations

前回の投稿はこちらです。

さて、では、8.2以降、訳していきます。

8.2. リープフロッグとICT人的資源開発

ICTに基づく経済成長は、しばしば「リープ・フロッグ(飛躍的発展)」というフレーズと結び付けられる。リープ・フロッグでは、ICTの急速な導入を通じて、各国は経済発展の中間段階を跳躍し、より先進的なレベルに到達することができると信じられている(Fong, 2011; Prakash, 2005; Sauter & Watson, 2008; Steinmueller, 2001)。この言い回しは、より連続的な経済発展の形式である経済発展段階説(Rostow, 2017)と対立するものでもある。では、中低所得国はICT人材開発の面で跳躍することができるのだろうか?ICT人材の能力を急速に飛躍させることは可能なのだろうか?私の論文の結果では、人材育成におけるリープ・フロッグの可能性は低いが、ICT人材開発は加速できることを示唆している。

第5章の結果から、政府の強力なリーダーシップによって短期間で制度的な改革が可能な場合もあるが、人材育成そのものには長い時間がかかることがわかった。なぜなら、教育制度の改革だけでなく、教育者の育成や意識改革が必要であり、そのすべてを行うには一世代以上の時間がかかるからである。私のソフトファクター研修に関する研究でも、ICT人材育成の重要な要素が指摘されている(第7章)。その結果からは、研修後に海外に出た人材と母国に残った人材とでは、研修効果の定着に違いが見られた。これは、実際の異文化体験や生活に基づく学びが依然として重要であることを示唆している。このような経験は、特にICT産業で働く多くの労働者集団に、迅速に伝えることは容易ではない。

これらの結果は、ICT人材育成における飛躍的な進歩への期待は幻であるかもしれないことを示唆している。一方で、留学後に母国に戻り、自国の経済発展に貢献することに興味を示すインタビュー参加者も複数おり(第6章)、頭脳循環はICT人材育成を加速させる手段として依然として有効であると考える。うまくいけば、帰国したICT人材を通じて国内のICT人材がグローバルなICTビジネス文化に触れる機会を増やすことで、グローバル感覚を持った人材育成を加速させることができる。具体的に措定されるケースの一つは、帰国したICT人材が海外での学びを国内で再現し、国内のICT人材のロールモデルとなることである。

8.3. より広範に与えうる影響

本論文ではICT人材に焦点を絞って研究を行ったが、この学びがICT人材やICT産業以外にも適用できるかどうかを議論し、私の研究の広範な意義を考えたい。他の産業への応用を考えるにあたっては、まず、ICT産業が、高度人材(高学歴人材)、高賃金労働力、国際ビジネス、オフィスワーク、マーケットリーダーの立地(米国、西ヨーロッパ、東アジアを拠点とすることが多い)といった特徴を持っていることが考えられる。これらの条件に合致する業界があれば、本研究で得られた知見をその業界に拡大することも考えられる。

例えば、金融業界は非常によく似た特徴を持っているため、私がこの論文を通じて導き出した結論と同様のものが金融業界にも当てはまるのではないかと予想される。ICT分野のシリコンバレーと同様に、金融分野にもニューヨークやロンドンといった情報や人材が集まるハブがある。したがって、頭脳循環の影響やキャリア志向の把握の重要性についての知見は、金融セクターにも応用できるかもしれない。

8.4. 研究の限界と留意事項

本論文の第一の限界は、研究結果の一般化である。本論文はバングラデシュとルワンダのICT人材に焦点を当てたものであるため、得られた知見がすべてのタイプのICT人材に一般化できるものではないことに留意すべきである。特に、本論文全体を通じては、第4章で明らかにした二分されるキャリア志向の1つである海外留学/海外勤務を志向する潜在的リーダーに焦点を当てている。第二の限界は、国レベルのバイアスである。本論文では、ICT産業に注力する中低所得国の代表として、(1) 地域、(2) 人口規模、(3) ICT産業における注力分野を対比させ、ルワンダとバングラデシュを選んでいる。経済的、文化的状況は国によって異なるため、私の知見はいずれの地域の他の中低所得国にも一般化するものではない。また、本論文では第7章と第8章において、先進国の例として日本を取り上げた。そのため、ビジネス文化の違いに関する研究結果の一部は、世界のICTビジネス文化を網羅するものではなく、日本独自のビジネス文化に偏っている可能性がある。

最後に、本論文は特定の国のビジネス文化の優劣を論じるものではないことを再度強調しておく。しかし、グローバルなICT経済が存在する以上、中低所得国のICT人材が国際的なビジネス文化のあり方を学ぶことにはメリットがあると考えている。

「8.5 政策提言」については、次回に続きます。(次で完結予定)

<後日追加>
完結版の記事、上げました。

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