博士論文を読み直してみた(その3)

アカデミック

こんにちは、Kanotです。前回に引き続き、私の博士論文の考察の日本語訳の続き、やっていきます。小難しくマニアックな内容ですみません。以下が考察の目次で、これまでの記事では博士論文の8章の8.4までを和訳しました。今回が最後です!8.5 政策提言を訳していきます。

第8章:考察
8.1. Soft Factors for Global ICT Workers’ Development
8.2. Leap-frogging and ICT Human Resource Development
8.3. Broader Implications
8.4. Limitations and Caveats
8.5. Policy Recommendations

前回・前々回の投稿はこちらです。

さて、では、8.5、訳していきます。

8.5. 政策提言

これらの知見から、ルワンダ、バングラデシュ、日本という調査対象国特有の提言が導き出された。また、より一般論として中低所得国においてグローバルICT人材を育成するための2つのハイレベルな提言も導き出された。

8.5.1. 国別の提言

ルワンダ

本論文は、ルワンダのICT人材が母国の発展への貢献を強く望んでいる傾向があることを明らかにした(第5章と第6章)。このことは、ルワンダに「頭脳循環」の健全な可能性が存在することを示唆している。したがって、ルワンダ政府には、海外の知識やビジネス文化を効果的に吸収するために、人材の一時的な国外流出を積極的に支援することを提案する。また、ICT産業の課題として、大学での実践的なトレーニングが不十分であること、産業界からの需要と教育現場からの供給との間に人材育成のギャップが指摘されていることも忘れてはならない(第6章)。これらの課題を克服するためには、実習の強化、インターンシップの推進、産業界と教育機関の連携強化による教育制度の改革などが望まれる。

バングラデシュ

本論文では、海外移住を志すバングラデシュ人や、グローバルビジネスを通じてバングラデシュのICT産業の発展に貢献したいと考えるバングラデシュ人がいることを明らかにした(第4章、第7章)。このような人々を頭脳循環の潜在的貢献者として巻き込むために、バングラデシュ政府は、頭脳循環として彼らの帰国や海外からのバングラデシュとのビジネスを奨励する制度や政策を構築することを提案する。頭脳循環を促進する一つのアプローチは、より高度な技術を必要とするICTビジネス分野に投資することである。もう一つのアプローチは、そのようなグローバル・ビジネスを可能にする政策を構築することである。例えば、本論文に関する調査の中で行ったインタビューの中で、日本在住のバングラデシュ人起業家は「バングラデシュからの資金持ち出しが制限されていることが、海外企業への投資や国際ビジネスの展開を妨げている」とコメントしている。バングラデシュ政府は、このような国際ビジネス展開の障壁をなくし、海外経験のある人材を有効活用し、頭脳循環とICT産業への事業投資につながるような制度設計が必要である。

日本

第7章と第8章の調査から、多くのインタビュー対象者が日本での仕事や生活体験からポジティブな影響を受けている一方で、日本独特のビジネス文化に関するネガティブな点もいくつか指摘されている。例えば、何人かの参加者は日本の残業文化に不満を漏らしていた。本論文では、低中所得国のICT人材が先進国のICTビジネス文化を学ぶことの重要性を強調してきたが、先進国のICT企業や人材にとっても、他国のビジネス文化を理解することは極めて重要である。より具体的には、日本企業も、より多くの外国人ICT人材を受け入れ、ビジネスパートナーとしての関係を構築するために、他国のビジネス文化を学び、その価値観を理解する必要がある。

8.5.2. グローバルICT人材育成に向けた提言

グローバルICT人材の育成を目指す低中所得国への第一の提言は、グローバルICTビジネスコミュニティに関連する個々のソフトファクターに関する研修を提供することである。第6章と第7章における私の研究結果は、現地のICT人材が海外に行かずに国際的なICTビジネス文化について学ぶ機会を提供するために、国際的な経験を持つICT人材と交流する機会を多く持ち、没入型で経験に基づいたソフトファクター研修を提供することの重要性を示唆している。本論文は主にICTセクターの潜在的リーダーを対象としているが、この提言はICT人材の大多数を占める他のすべてのICT人材にも及ぶ。同時に、国内のICT人材は、ボトムアップの能力開発として、本論文の知見をより広い集団に適用することの有効性を検証するために、今後の研究のテーマとなりうる。

第二の提言は、将来のリーダー候補をキャリア志向に基づいてキャリア開発を支援し、頭脳循環を促すことである。頭脳循環には人材の流出と流入の両方が必要であるため、ICT人材の海外挑戦を奨励し、ICT人材の帰国を奨励することが極めて重要である。ICT人材の海外就労の促進については、キャリア志向とロールモデルの存在に相関があること、身近な背景を持つロールモデルを持つことで自己効力感を向上させること(第4章)が研究で示されたことから、海外でのロールモデル作りを支援するアプローチが考えられる。そこで、海外で働くICT人材が母国の大学を訪問し、自らの経験について講義するプログラムを奨励することが考えられる。このようなプログラムは、海外在住者が帰国するタイミングを利用すれば、安価に運営できるだろう。いったんこのようなつながりができれば、SNSを利用して、国内の学生が海外のロールモデルと連絡を取り合えるような関係を維持することができるだろう。

ICT人材の帰国を促すという点では、海外就職を希望する人は仕事の内容を最優先する傾向があること(第4章)、海外経験者の中には母国の経済発展に貢献したいという願望を持つ人も一定数いる(第6章)ことから、低中所得国の政府はICT産業が最新の技術をカバーできるよう投資を行うことを推奨する。インドがイノベーションと新産業の起業家精神に焦点を当てた産業レイヤーの追加に成功したように、低中所得国の政策立案者とICT産業も同様に、ソーシャルメディア、人工知能、情報セキュリティなど、テクノロジー界の最近のトレンドに焦点を当て、高等教育、テクノロジー研究、起業家育成により多くの投資を行うことが重要になるだろう(CompTIA, 2016)。そうすることで、海外で働く有能なICT労働者が帰国し、ICT産業に参加することで、より上位の立場でICT産業に貢献するという好循環が生まれる可能性がある。

これら2つの戦略は、大多数を占める現地のICTエンジニアと、少数の潜在的リーダーの両方にアプローチするものであり、低中所得国における国際競争力のあるICT人材の育成に貢献する。

まとめてみての感想

うーん・・・。卒業して1年半程度ですが、だいぶ忘れてますねー。「あー、そういうこと考えてたわー」と気づきが複数ありました。この考察などで考えていた研究アイディアも元に、今後の研究の発展を考えていきたいと思います。

この文を読むところまで辿り着いたマニアックな方が何名いるかわかりませんが、ここまで読んでいただきありがとうございました。関連の研究案件や実務プロジェクトありましたら、ぜひお声かけください。

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