ICT4DとICTD

最近ICTと途上国開発というキーワードで調べ物をしていると、ICT4Dという言葉とICTDという言葉を見る。先日留学先でもこの言葉について話し合う機会があったので、備忘録として残しておく。

まず、ICT4DはInformation and Communication Technology (ICT) for Developmentの略である。日本語に訳すなら「途上国開発のための情報通信技術」といったところか。途上国開発という目的にICTをどのように使っていけるか、という分野になる。

一方のICTDはInformation and Communication Technology (ICT) and Developmentの略である。また日本語に無理矢理直すと、「途上国開発と情報通信技術」となる。

この違いは何かというと、(私の理解が正しければ) ICT4DはICTを使って明確に開発課題の解決を目指すものであるのに対して、ICTDではもう少しふんわりと途上国とICTの関わり合いといった程度で必ずしも開発課題の解決が第一目的でなくても良いといった考え方のようである。

例えば、パソコンなどを使って教育レベルの向上を図るようなプロジェクトがあった場合、それはICT4Dと言えると思う(ICT4E (Education)でもある)。一方、ソーシャルメディアが途上国の人にどのような変化を与えたかといった研究などの場合、途上国を研究対象としてICTを使ったことを調べてはいるが、特に開発課題の解決を目的としているというよりは純粋に学問として人間の行動変容などを調べることになる。これなどはICTDとなるのだと思われる。

これまでJICAで全てのプロジェクトは開発課題の解決を第一目標とするという文化で育ってきたため、ICTDの考え方には少々違和感を覚えたのは事実である。ただし、研究であれば確かに開発課題を目的とする必要は必ずしもなく、現状何が起きているのかを解き明かすことで、今後の後続研究や開発プロジェクト、そして企業進出などに参考になれば良いのであろう。

つまり、ICT4DとICTDはお互いを批判するものではなく、ICTDという途上国をフィールドとしたICTという大きな傘の中で、特に開発課題の解決を目指すやや狭義な分野がICT4Dということになる。

ほとんどの人にとってはどうでもいい程度の差異と思われるが、マニア向けにご参考まで・・

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Kanot
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コメント

  1. Yuji Ozaki より:

    デザインの見地から見たビジネスのネタになりますが、『ヨーロッパのビジネスパーソンが確認を求める「プロジェクトの方向性」を日本の交渉相手は「抽象性の高い議論で現実的ではない」と考える。つまり輪郭は細部の集積だと日本サイドは考えている証拠だ。』を引用してみます。
    http://www.sankeibiz.jp/econome/news/151018/ecd1510180600001-n2.htm

    この細部の集積という考え方は、予算計画(予算の積み上げ)に似ていると感じます。つまり、予算の編成や執行が目的の大きな部分を占める状況や時期では帰納的な具体性が強く要求され、演繹性を含む抽象性の高い議論は忌避されると予想できます。
    加えて、法令の領域でも、日本は抽象的違憲審査制(具体的な訴訟事件を離れて、抽象的に法令等の違憲審査ができるシステム)を採用しておらず、付随的違憲審査制(具体的な訴訟事件を前提として、その解決に必要な限りにおいて違憲審査ができるシステム)で動いています。「(空気を含む)何か起こってから」動くのが当然であれば、特定の目的に結びつきづらい抽象性の高い議論はムダに見えてしまうのでしょう。

    JICAは良くも悪くも実施機関なので具体性を求められそうなので、(将来的に具体性の証左や分母となりうる)抽象性の高い議論では、JICA研究所や外務省(の外郭団体)がその役割を担うべきなのかもしれません。なんてね。

    • Kanot Kanot より:

      確かに(日本人は?)細部があってこその輪郭という感覚があるのかもしれないですね。そういった文化の違いがこの辺りの差異に現れてくるのであれば、それはそれで面白い議論かもしれません。ただ、仮にご指摘のあったJICA研究所や外務省などがそれを行なった場合、国民目線だとよく分からないことをやっているということになり、事業仕分けなどで真っ先に否定される内容であろうということも推測できますね。

      • Yuji Ozaki より:

        仰る通り、抽象性が高い研究だと「ワケワカラン」ですね。超スローリターンである基礎科学研究分野ですら、ノーベル賞という分かりやすいネタがあるからこそお目こぼしされている、という背景もあるでしょう。でなければ、地方の町議会選挙の公約みたいに「福祉ガー」に全部喰われてしまいそうです(笑)。同様に、途上国開発というギルドでジャーゴン遣いになっちまっても、それこそ「ワケワカラン」批判を招きそうです。
        この点は、アカウンタビリティに関連し、税金を原資とする組織の限界かも。

        その一方で、今年のノーベル経済学賞を受賞したディートン教授の業績のひとつである「『Understanding Consumption』 (Oxford: Clarendon Press, 1990)」のように、目的は「開発途上国の家計消費に関する理論・実証研究」であるけども、「その理論は必ずしも途上国に限った説明をしているわけではないことから、幅広く消費の研究者に用いられることになった。」のように、幅広い研究者に用いられる→理論がブラッシュアップ→本来の目的である途上国の家計分析にもオイシク使える、みたいなサイクルが欲しいところですよねー。
        http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/101900111/

        ※個人的には、途上国開発の世界に、消費者マーケティングを本チャンに持ち込める人や機会がないかなー、と。現状では、マーケティングが広報(Promotion)に矮小化されていると感じています。

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