第1章:青年海外協力隊が火をつけたIT人材育成

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IT資格という武器を与えたい

河川が多く平坦なデルタ地帯に位置するバングラデシュの首都ダッカからは、陸路・空路に加えて、水路として各地に蒸気船が運行している。本書のキーパーソンの一人となる庄子明大さんは2008年3月、青年海外協力隊(以下、協力隊)のコンピュータ技術隊員として、ダッカから蒸気船で一晩揺られると到着する南部の地方都市ボリシャルに赴任した。協力隊に来る前は、北海道で知人の立ち上げたIT企業の経営に関わり、その経営が落ち着いてきたタイミングで、当初から憧れがあった開発途上国でのIT人材育成への貢献を目指してやってきた。協力隊としての要請内容は、バングラデシュ・コンピュータ評議会(Bangladesh Computer Council。以下、BCC)において、大学生を中心とした若者にコンピュータ技術を教えるというものであった。

庄子さんとBCCボリシャルのスタッフ(両隣)

BCCはダッカ以外に全国に6支部を構え、IT人材の育成を支援している。庄子さんが配属されたボリシャル支部は、職員わずか3名の小規模な支部であった。赴任当初はベンガル語の学習も兼ね、大学生を中心とする生徒たちにITを教えながら過ごしていたが、政治をめぐる問題に隊員活動は影響を受け始めていた。まず、当時のバングラデシュは政権をめぐって与党と野党が衝突し、非常事態宣言が発出されており、暫定政権が国を運営していた。その煽りを受け、BCCでも給与の支払い遅延等が発生するなど、スタッフも研修に集中できる状況ではなくなっていた。そして、イスラム教が国教であるバングラデシュにおいて、国連職員がキリスト教を布教したという噂から外国人の危険度が増し、ボリシャルで活動する協力隊員たちも、2008年11月頃に一時的に首都への退避が命じられ、任地での隊員活動は停止せざるを得なくなった。

首都に退避している間、地域に根差した活動ができていない状況で、庄子さんは他のIT関連の隊員(以下、IT隊員)たちと活動のアイディアを話し合っていた。バングラデシュ各地に散らばっているIT隊員たちが感じていたバングラデシュのIT人材の印象としては、「総じて英語を話し、スマートで優秀」というものであった。一方、そういった目を輝かせた若者たちであるが、客観的に見ると、IT人材として成功するのは難しい状況であった。その主な理由は、IT人材として戦う武器に乏しかった(学んだ内容が古く、産業界の即戦力向けでなかった)ためである。

当時のバングラデシュでは、若者たちが自身のIT能力を証明することは非常に難しい状況であった。一方、企業側としても募集をかければ山ほど来る応募者の中からの人材の見極めが困難だった。インターネットはようやく2Gが入った頃であり、採用する企業も、いまでは当たり前になっているオンラインでのプログラミングの試験などはできない。もちろん、IT業界に強い民間資格として、マイクロソフト、オラクル、シスコシステムズなどの資格はバングラデシュでも受験可能であるのだが、受験料が非常に高く(新卒IT人材の平均月収が5万円に満たないバングラデシュにおいて、1万円超えが大半)、まだ貧しいバングラデシュの中流階級で育った一般的な大学生が払える金額ではない。その結果、採用するIT企業も、大学名などで人材の実力を推し量るしか方法がなく、大学受験などで都市部の一流大学への進学が叶わなかった人材は、それ以降、自身の能力を証明する有効な手段がなかった。

日常的にポテンシャル溢れる若者たちに接しているIT隊員たちは、彼らに目指しやすい指標を提示し、明確な目標に向かって努力してもらうことで、彼らの才能を生かせないかと考えた。もしそのような機会さえあれば、彼らも成長著しいグローバルマーケットの中で活躍することも可能になるのではないか。そのような願望に近い感情をIT隊員たちは抱えていた。もちろん、全員が海外で活躍できるとは思ってはいなかったが、きらりと光る人材がいるのは事実であり、ちゃんと育てればグローバルマーケットで活躍できる可能性はある。むしろ英語ができる分、日本人よりアドバンテージがあるとも感じていた。「そのために国際的な物差しを与えてあげたい」。そのようなことを話し合っていたIT隊員たちの中で、一つの案が浮かんだ。日本の経済産業省傘下の独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)が運営している、ITスキル標準を元にした人材育成、そして日本でも国家資格として運用されている情報処理技術者試験をモデルにバングラデシュ人が実力を証明する資格が導入できないだろうか、というアイディアである。

日本の情報処理技術者試験 引用元:IPA

ITEE資格試験

IT資格試験という協力隊発のアイディアではあったが、追い風となる情報もいくつかあった。当時、独立行政法人国際協力機構(以下、JICA)が調査したバングラデシュの輸出セクターに関する調査では、バングラデシュ政府は基準を持って人材を育てていくべきだという提言がなされていた。そのように人材を育成していかないと、日本を始めとする先進国での活躍は難しくなるだろうといった指摘であった。そして、日本の情報処理技術者試験も既に海外展開を始めていて、アジア6か国にて初級から中級にあたる3種類の試験(レベル1:ITパスポート、レベル2:基本情報処理技術者、レベル3:応用処理技術者試験)を実施し、アジア12か国と相互認証をしていた。また、安い受験料も魅力の一つであり、日本での情報処理技術者試験の受験料は当時5,100円であった。これは、民間資格であるマイクロソフトやオラクルの資格と比べると数分の一という料金設定であった。

この情報処理技術者試験は、日本国外ではITEE (IT Engineers Examination)という名称で呼ばれている。(なお、ITEEは本書にて頻繁に登場する言葉なので、IT資格試験の略称として、ぜひ覚えておいて欲しい。)「このITEEのプラットフォームを使って日本の国家資格と相互認証したい。そしてせっかく日本からボランティアとして来ていることもあり、活動を通じて日本とバングラデシュを繋げることができるなら、ぜひその架け橋になりたい」という思いもあり、ITEEをバングラデシュで推進するための活動をするIT隊員たちによるグループ活動が始まった。

そして迎えた2009年、IT隊員たちは・・・・

続きは書籍にてお楽しみください。

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