Development 2.0

ここ最近、家の近くに図書館があることもあり、本を読んでいる。今更ながらで恥かしながら、以下のようなWebについての本を読んでみた。

どれも今から3~5年くらいまえの本で、巨大化するGoogleやアマゾン、セカンドライフといったWebサイトについて書かれている。当時、日本に居なかったこともあり、日本でGoogle等がどんな風に注目を浴びて行ったのかを知らないので、読んでみてとても面白かった。

どの本を読んでも、共通しているのはWebの世界が広がることで、それまでとは違うビジネスモデルやビジネスチャンス、新しい出会い、新たな生き方、など、それまでとは違う新たな価値観が誕生してくるということ(個別の本の内容については、ICT4Dと絡めてまた別の機会に述べてみたい)。

このWebによる「新たな価値観」とICT4Dの関係についても、重要な関係性がありそうだと感じつつも、上手く表現出来ずにモヤモヤとしていたところに、Heeks教授のICT4Dブログ「Development 2.0 New ICT-Enabled Development Models and Impacts」という投稿を読んでスッキリした。この投稿では、ICTの普及によってもたらされる3種類の開発モデルと5種類の開発インパクトについて以下のようにまとめてある。

◆ICTが可能にする新しい開発モデル

  • Direct Development: ICTが可能とする中抜き効果によるもの。例えば、KivaなどのようにWebサイトを通じて寄付する側がダイレクトに寄付される側を支援することが出来るようになる。
  • Networked Development: ICTが可能とするネットワーク化によるもの。例えば、Webサイトで国民の意見を募る掲示板のような“e-participation”。
  • Grassroots Development: 援助国が持ち込んだ開発モデルではなく、途上国の現場から発生する開発モデル。例えば、携帯電話の通話時間(airtime)を現金の代わりに使ったりするなど。

◆ICTによってもたらされるインパクト

  • Connecting the excluded: ICTによってこれまで疎外されていた人々にも情報がいきわたることでチャンスが生まれる。例えば、Webサイトや携帯電話のSMSで有益な情報(求人情報、農作物価格、天候、etc.)を得られるようにある。
  • Disintermediation: ICTによる中抜きによってもたらされる効果。例えば、電子政府による行政書類申請によって、役人に賄賂を払う必要がなくなるなど。
  • Digital production: ICTによって途上国の人々自身がコンテンツ制作者となれる。例えば、ケニアでは、携帯電話を使って、英語とローカル言語の翻訳をするサイトがある(Mobile Crowdsourcingと呼ばれる)。
  • Digital innovation: ICTの使用方法について、途上国の人々が自らイノベーションを起こすことが出来る。例えば、携帯電話を使うが通話をせず、ワンギリのみでコミュニケーションを図る方法や、通話料を通貨代わりに利用するなど。
  • Collective power: ICTによって人が集まることで集団の力が強くなる。例えば、ラジルの“e-participatory budgeting”では、Webサイト上で国民が税金の使用方法いくつかのオプション(サッカー場建設、学校建設、図書館建設、et.)から選べることが出来る。

つまり、開発援助の世界でも、これまでとは違った新しい開発モデルやインパクトがICTによって可能となる可能性が高くなりつつある。Heeksはこれを、「Development 2.0」と呼んでいるけど、これって、自分が本を読んでいて感じたWebによる「新たな価値観」と同じことだ。Googleやアマゾンが既存のビジネスモデルを壊していったように、途上国でもWebや携帯電話といったICTが普及していくことで、開発援助の世界でもこれまではなかった新しい開発モデルが出現してくるのだろう。

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コメント

  1. […] ブラックベリーは携帯通信インフラとしての公共性を有するが、一方、インターネットもインフラとして公共性がグングン高くなっている。そして、そのインフラを牛耳るのはGoogleだ。最近YahooジャパンがGoogleと提携を発表したように、Googleの勢いは止まるところを知らない。日本での検索市場はGoogleとYahooで二分している状況だったが、今後はYahooジャパンで検索しても、検索エンジンはGoogleだ。今や検索にGoogleを使わない人は居ないんじゃないだろうか。いくつかの本などでも指摘されてるが、このままGoogleが突っ走っていくと、ユーザーは「Web上にある情報」を得るのではなく、「Googleが検索結果に表示する」情報を得ることになる。実際、自分のWeb利用方法を振り返ると、Googleで検索して検索結果の最初の1~2ページに表示される情報しかチェックしないことが多い。もはや、Googleは検索結果をどう表示させるかで、情報操作が容易に出来る。しかも一国の情報でなく、対象は世界中だ。 […]

  2. […] Development2.0については、このブログでも以前取上げたことがあります。 Googleやアマゾン・ドット・コムに代表されるように、ICTの発達・普及によって、Web2.0やロングテールというような新しい概念、新しいビジネスモデルが既存のビジネスモデルを破壊しているように、国際開発の分野においてもICTによる大きな変化が起きることが予想されます。そして、既に小さな変化は断片的には起きていると言えます。例えば、アフリカでの携帯電話普及によるポジティブな影響やKivaに代表されるような新しい途上国支援の方法など。 […]

  3. […] Heeks教授のICT4Dブログから、「インドのソーシャル・アウトソーシング事例と、そこから見えるDevelopment 2.0の課題」を紹介したい。Heeks教授のブログでは、socially-responsible outsourcing(=SRO)という用語が使われているけれど、このブログではもうちょっと短くソーシャル・アウトソーシングという用語を使います(以前使ってた用語で統一するため)。 […]

  4. […] ガーナ日本人補習校へ娘を連れて行くのが土曜日の日課。ふと、日本人補習校の図書室の本棚を眺めていたら、「ウェブ進化論」で有名な梅田望夫氏の本「ウェブ時代をゆく」を発見。以前読んだことがあったが、改めて読んでみた。2007年の本ながら、今読んでもすごく面白い。日本の大学生とか社会人若手に向けての本だと思うけど、ICT4Dの観点から読んでいても、とても参考となるキーワードに出会えたので、紹介したい。 […]

  5. […] これまでの段階的な(順序を1つずつ踏んでいくような)開発ではなく、ポスト2015年ではもっとスピードのある開発が求められるだろう。そして、途上国の開発スピードなり方法なりを、これまでとは劇的に変化させることに活用出来るのがICT。具体的に「どう変わるのか」については、まだ明確なビジョンは誰も示していないものの、変わるはずという期待感は大きい。例えば、HeeksのいうDevelopment 2.0は、ICTによって変わる(変わった)途上国開発のあり方(モデル)を示唆している。 […]

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