本の紹介「リバース・イノベーション」

先日、「リバース・イノベーション」(ビジャア・ゴビンダラジャン著)という本を読んだ。途上国という新興マーケットに進出するために、重要なポイントがまとめられており、且つそのポイントを実際の事例(ロジテック、P&G、EMC、GEヘルスなど)をつかって説明を裏付けしている。とても面白い本で、しかも事例がロジテックやEMCというICT絡みの企業ということもあり、ICT4Dにも通じるところがたくさんありました。特に以下、印象的なフレーズ・ポイントなどをご紹介します。

  1. 富裕国と途上国の間には5つのギャップがある(①性能、②インフラ、③持続可能、④規制、⑤好み)(P24)
  2. 途上国の人々はむしろ、超割安なのにそこそこ良い性能を持つ画期的な新技術を待ち望んでいる。(P25)
  3. ニーズが富裕国より遅れているのではなく、実際には、ニーズが完全に異なっている(P145)
  4. 情熱が原動力となる(P336)

このような点は、ICT4Dプロジェクトにおいても重要なファクターとしても指摘されている点であり、非常に共感が持てました(例えば、富裕国と途上国のギャップについては、ICT4D分野でもDesign-Reality Gapとして指摘されているし、「情熱が原動力となる」という点については、ICT4D Championという用語でその重要性が謳われている)。

と、この本を読んで、途上国市場への進出ってのは一筋縄ではいかないものなのだと改めて感じていたら、新聞でパナソニックがソーラーランタンでケニア市場進出を行うという記事が目に留まった。その記事でパナソニックの方が語っていたのは、中国やインドがすでにアフリカでソーラーランタンを販売しているが、質が悪く2,3ヶ月ですぐ壊れてしまうものが多いが、それに対抗して、『我々の商品はに2,3年は問題ない。「高い金を払ったのに」という悪評を払拭して、「日本メーカーは違う」ということをわかってもらえたらいい。』ということでした。現地で売られている携帯電話の3000円を目標にしているとのこと。また、そこから、携帯ラジオ、携帯テレビ、携帯音楽プレイヤーなどの次のビジネスにつなげるための布石であるということや、『アフリカのBOPビジネスで(韓国メーカーの)サムソン電子やLGエレクトロニクスの姿は見えない。需要も可能性も無尽蔵。今やらないと手遅れになります。』ということも書いてありました。

現地の中国製やインド製のソーラーランタンがいくらで販売されているかは調べていませんが、『「高い金を払ったのに」という悪評を払拭して、「日本メーカーは違う」ということをわかってもらえたらいい。』という表現からこのパナソニックの商品はそれらよりもちょっと高めの価格設定なのかなぁと感じました。と、同時に上記の2つ目に記載した点「途上国の人々は超割安なのにそこそこ良い性能・・・・」をふと思い出しました。

途上国の環境といっても都会と田舎では大きく異なるし、日々変わっているので、一概には言えないけれど、本当に2~3年間も長持ちする製品が現地のニーズに合っているのか?(なんとなくですが、2~3年後も使おうと考える人ってあんまりいない気がする)、日本製品の品質の良さ(堅牢さ)をアピールして次に続けるというが、2~3年後に「日本製は頑丈だなぁ!」とその良さを分かってもらっても遅すぎるのでは?(自社の強みを活かした戦略であるが、強みを活かすことが必ずしも「勝てる」戦略とは限らない)、次を狙うための先行投資といっているけど、携帯ラジオ、携帯テレビ、携帯音楽プレイヤーなどは(都会では)既に普及しており、「次のビジネス」ってほどじゃないのでは?、アフリカBOPで韓国企業は既にかなり先行しているのでは?、といろいろと素朴な疑問が浮かんできました・・・。サンヨーのソーラーランタンは、ウガンダへの寄付でしたが、今回のケニアはビジネスとしての取り組み。上手くいくのか・・・。

最後にもう一度「リバース・イノベーション」からのポイントを引用。

途上国のニーズに対応する手っ取りばやい方法は、既存の製品にちょっと手を加えて性能を落として70%の性能の製品を70%の価格で販売することだが、そのような製品の市場はごく小さい。途上国の人々は、わずか15%の価格で50%のソリューションを望んでいる。

なるほど。こういう製品が日本企業によっても生み出されることを期待したいですね。

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コメント

  1. Ozaki Yuji より:

    「市場ニーズ」って、とりあえず製品なりサービスをリリースした後でないと掴めない、という前提に立つと、パナソニックさんの態度は十分に納得できます。
    リリースした製品やサービスに対するフィードバック(日本人からすると、あり得ない所から予想外の球が飛んでくる)をどのように受け止め、活かしていく仕組みを予め用意しておく必要がありそうですが。耳に痛いネタを無視したり、組織内で「あいつのせいだ」となすり合いになってしまわないように注意しつつ。
    とりあえず、日本では「価格競争ではなく付加価値がァ…」「いいモノを作れば自ずとその価値はァ…」「アフターサービスの手厚さがァ…」と語られることが多いですが、途上国では明確に、購入時点での価格とブランド力(国家的な広告宣伝が意外と強い)の勝負であることを認めるのがスタートラインなのでしょう。広告代理店の人から見ると、利権やコネやイメージ戦略を含め、クラシックな手法がまだ強いのかもしれないですね。

    とはいえ、日本は、外需が内需を強く牽引しているとはいえ、まだまだ表面上では内需が強い国です。数値上とはいえ輸出依存度が50%を超えようとしている韓国とは本気度が違うのかも。
    その韓国企業勢の得意な、ニーズのリバースエンジニアリング に負けてほしくないですね。

    ネタ:カシオさんもインドでがんばってますね。米国でのキアヌ・リーブスの役割を、インドではボリウッド俳優が担っているところが面白いです(両者ともにカシオが意図的に仕掛けた訳ではないところがポイントというか、分析できないところ)。
    一愛用者として、本物のG-Shockが海外でも買えるようになっていくのはありがたいです。

  2. take より:

    日系メーカーにいる人間の実感として、日本のいわゆるメーカーのスタンスは、高付加価値商材で差別化を図る戦略しか取り得ないです。「モノ」が介在する産業だと生産コストやブランドイメージ戦略を考えると、性能を落として圧倒的な低価格という初期アプローチは中国企業の方が遥かに有利ですし実績もあります。
    アフリカ市場に対する日系メーカーのアプローチはビジネスとしてはあくまで実験的なもので、高付加価値商材が成立する分野や市場を探るのがその目的となっています。
    加えて、ビジネスとして考えた場合、日系メーカーの考えるBOP市場は、「BRICsの下」ぐらいが実際のターゲットです。ブランド・付加価値を求め始める層に先行してアプローチし、ユーザを囲い込むのが目的ですが、感覚的にこの層はBOPではないですね。

    自分の今の立場とは別に、個人的な興味でICT4DをWatchしていますが(このsiteも非常に大事な情報源です。ありがとうございます)、この分野で日系メーカーが大きく寄与する可能性は残念ながら低い、というのが実感です。

  3. Kanot より:

    日本企業はおっしゃる通り、高いけど品質は高い、がアピールポイントですよね。その論法はホントによく聞きます。
    ただ、正直な話、その感覚は日本人には理解できるものの、貯金の概念すらない途上国の人に受け入れられるかというと、難しいと思います。
    受け入れられるとすれば、中所得層以上であって、BOPではなかなか難しいですね。

  4. tomonarit より:

    Ozakiさんの紹介してくれてたサムソン電子のリバースエンジニアリングの記事面白いですね。また、ボリウッドスターがGショックをつけてるってのが、インドでGショックの販促になるなんてネタもありがとうございます。
    takeさんのコメントにあるように、やはり日本企業のターゲットや戦略ってのが、そもそも所謂BOPのど真ん中を狙っているのではないというのを、「日本企業のBOPマーケット進出!」的な記事を見るときには頭に入れておかないといけないですね。BOPというときのBのことを一般的にはBottom or Baseと言っていますが、自分はBaseよりもBottomの方がしっくりくる派です。なので、やっぱり「BRICsの下」くらいよりも、もっと低所得な層を狙って欲しいと感じちゃいます(非常に勝手な思いですね・・・)。
    でも、すべての市場をターゲットにするよりも得意な層を狙うほうが得策だとも思います。
    また、BOPに対する先進国企業の取り組みに対して、途上国企業の取り組みってのがどれほどあるのかが気になるところです。途上国企業にも頑張って貰いたい。アフリカ大陸に中国製品やインド製品が出回るのではなく、made in Africa製品が出回るこは夢物語なんでしょうかね。

  5. Ozaki Yuji より:

    昨年の小ネタになりますが、世銀のLight Manufacturing in Africaを見ると、Made in Africa製品の伸びには楽観的にはなりづらいです。
    昨年来、時々仕事で行く西アフリカのガーナでは、洗顔石けんや家具ですら、輸送コストを含めても中国産が現地産より安価なケースが見られます。現地の方も、中国製品の脅威を口にしていました。

    となると、独自の付加価値やクオリティで対抗だぁ、と援助関係者の方は仰るのですが、付加価値は押し売りできるものではなく、消費者(買い手)が理解し、その対価を納得してくれることが前提になるはずです。付加価値の値付け方法やスケールを知らねばなりません。

    品質が高いから3年スパンで考えるとこれくらいお得、という理屈は、現地通貨の価値下落が激しい状況(インフレ率が金利を大きく上回る状態)では、全く通用しません。そもそも計算式が複雑になりすぎて説明する方が大変です。「今、どうなのよ」ですね。
    このようなシチュエーションでは、タンス預金・銀行預金が魅力的ではないため、換金性が高くて価値が落ちづらい商品(ゴールドや土地)や、ブランド価値でプレミアムがつく商品(スイス製高級腕時計やフランス・イタリアの装身具)、誰もが用途を理解できる商品(自動車など)の需要は高いと考えます。これではまるで華僑みたいですね。

  6. […] このニュースを見て、ぱっと頭に浮かんだのは、「リバース・イノベーション」。途上国向けの製品が、日本でも使われるようになったのかぁ・・・と。でも、おっと、別にRaspberry PiはOLPCのように途上国にだけ向けて作られたものではなく、先進国も含む全ての児童にプログラミングを学ぶ機会を与えるために作られたのだったと、自分が2年半前に書いたブログを読んで思い返した。 […]

  7. […] ただ個人的には、この副題にはちょっとガッカリ…。それは、ミャンマーという特殊な市場(たとえば、ICTWorksブログでは、「Myanmar could even be the first smartphone-only country, with its population leapfrogging landlines and feature phones.」と書かれている)ならではのサービス(つまり日本では存在しないサービス等)を実現して欲しいという期待があるから。ミャンマー市場ならではサービスを開発して、それを日本に逆輸入するようなリバース・イノベーションや、M-PESAのような他の途上国へも展開出来るようなイノベーションをKDDI&住友商事が生み出してくれないかな。ちなみに、ミャンマーはこれでで最も多く(5回)出張に行く機会があった国でした。 […]

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