ICT4Dの歴史に学べ:繰り返される諸行無常?

イノベーション・新技術

こんにちは、Kanotです。最近、ICT4Dの歴史を勉強する機会があったのですが、なんかとても意味深な歴史だなぁと思ったので、その理由とともにここで紹介したいと思います。

2000年頃にあったICT4Dブーム

みなさん、デジタル x 国際開発って最近のトレンドだと思っていませんか?

でも実は、2000年頃に一度、国際開発におけるICT活用ブームがあったのをご存知でしょうか?

2000年頃といえば、日本でもITバブルと呼ばれた頃(楽天が有名になってきた頃)です。この頃のICT4Dは、主にインフラの整備、Digital Divideの解消、教育への活用といった内容で、「インターネットへのアクセスはHuman Rightsか?」といった議論もなされていた頃です。つまり、ビジネスフォーカスというよりは、Basic Human Needs寄りのものであったと理解しています。

開発機関というアクターとしては、国際機関ででは世界銀行(infoDev)、ITU、UNGIS (UN Group on the Information Socity)などが牽引し、二国間援助では、カナダ(IDRC)、スイス、北欧、イギリス、アメリカなどが大きく関与していたとのことです。また、現地ではNGOもその中心的な役割をしていました。

ただし、そのトレンドは、2003年と2005年の世界情報社会サミット(WSISと呼ばれる大規模なICT4D関連イベント。数千人が参加)でピークを迎え、その後は徐々に萎んでいってしまいました。

ちなみに、私は2008年にJICAに転職したのですが、その数年前までICT4Dブームがあったとは、当時知りませんでした。

どのようにブームは収束して行ったのか?

なぜICT4Dのトレンドは収束してしまったのだろう??

Richard Heeks教授のICT4Dの教科書にそのヒントが書かれていました。

この2000年頃は、前述の通り、多くの援助機関がICT4Dを扱う部署を創設して開発事業へのICT活用を進めていたのですが、段々とICT4Dが「メインストリーム化」するという現象が起こってきました

つまり、「あらゆる分野でICTは重要なトピックだ」という認識がなされたため、専門の部署で扱うのではなく、全ての事業部署の中でICT活用を検討していこうという流れが起きたわけです。

これは、「ICTありき」といった技術中心主義を見直すのには役に立ったのですが、その弊害でICT4Dに関する経験を集め・監視し・リードしていく役割のチームがなくなってしまいました。

そのため、徐々に ICT4D が「サイドストリーム化」していき、開発機関ではイノベーションやICTを活用した戦略的展望が描けなくなっていったようです。

それによって、 ICT4D トレンドは2005年頃に自然消滅的に終わりを迎えたわけです。

歴史は繰り返す?

私はこのあたりを「ふーん」と思いながら読んでいたんですが、ふと思ったんです。

ん・・・・これって、なんか今の国際開発業界に似てないか?

この2000年頃に起きた流れって、昨今の国際開発でも同じような流れが起きていると感じています。

  • にわかにテクノロジー活用(前回はインターネット、今回はAI・ビッグデータ等)が盛り上がってきて・・
  • 各援助機関に専門部署が設立されていき・・
  • 「ICTありき」な案件が増えてきて・・・(今ココ)

そうなると、歴史は繰り返すのであれば、次に来るのは、

  • 「あらゆる分野でICT大事だよね」と ICT4D 専門部署を解体し、各事業部に吸収させる。
  • 技術中心主義の見直しに入ったのはいいものの、知見がたまらず、DXブームとともに下火になっていく・・・。

なのでしょうか・・・?

歴史に学ぶ

そうならずに歴史に学ぶために、2000年頃の ICT4D ブームと昨今の ICT4D ブームの違いについて考えてみたいと思います。

私は2000年前後の頃のブームがどのようなものであったかは知らないのですが、おそらくその頃と違うのは、「ICT4D の専門家(実務家、研究者問わず)が浮かれていない」ということは一つあるのではないかと感じています。

昨今のICT4Dブーム(DXブームとも言える・・かも?)、実はICT4Dの専門家と言われる人たちは(少なくとも私の周りでは)やや懐疑的に見ていて、「ICTありきで考えてはいけない。技術だけで解決できる問題ではない。」と警笛を鳴らしています。これはアカデミアでも同様で、ICT4D分野をリードする研究者の外山健太郎教授もRichard Heeks教授も失敗事例を多く紹介することで他山の石とすることを訴え続けています。

また、ICTを取り巻く環境の大きな違いとして、2000年前後のICT4Dトレンドの際に公的機関以外で注力していたのはNGOであったのに対し、現在のICT4Dトレンドにおいては、民間企業がリードしていると言うことが挙げられます。

これは、2000年前後の頃は、インフラの不整備やデジタルデバイドなどが中心的なトピックであり、決して収益を得られる事業ではなかったということがあります。それが現在では、アジア・アフリカは民間企業から見てもビジネスとして魅了的なマーケットになってきていて、そこは持続性という観点では大きく違う点だと感じています。

はてさて、こういった警笛を鳴らしながらDXブームが進んだ後に残るのは、アナログへの回帰なのか、それともICTが当たり前に入り込んでいく世界なのか?

そしてどちらに進むにせよ、そうなった場合のICT4D専門家と呼ばれる人たちの活躍の場と必要性はどのようになっていくのか・・・(私の食い扶持のためにも)とても興味深いです。

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コメント

  1. Ozaki Yuji より:

    2003年から2009年半ばごろまで、支援ユニット→ジュニア専門員→技術協力プロジェクト、でJICAの中から周縁部でICTに関わっていました。その節はお世話になりました。

    2000年あたりからの流れでは、九州沖縄サミット(アジアITイニシアティブ)→人間開発報告書2001(新技術と人間開発)→WSISとかMDGs→徐々にネタ切れ(後述)→2008年あたりに気候変動や環境へブームがシフト、という感じでしょうか。
    これらは、単に予算のつき方が変わっただけで、「ICT4D の専門家(実務家、研究者問わず)が浮かれていない」は今も昔も変わりません。浮かれていたのは、次々と繰り出されるキーワードや空気やブーム(人間開発報告書のタイトルを年次ごとに追うと興味深い)を予算獲得の理由づけとし、さらにそれらに群がって「(だってよくわかんないんだもん、と言いつつ)机の上で数字を作っていた人たち」でしょう。今、新しいキーワードとしてAIやDXが出現しているだけの話ですね。

    ICT関連の「ネタ切れ」は、『わからないことをわかろうとはせず、「わからないことを全て解決してからもってこい」というスタンス』に固執した出資者・ビジネスオーナーがもたらした結果であろうと考えます。リスクと責任から逃げ続けるあまり、「固まった・枯れた(見積もりが精度高く出てくる)ツールやシステム」にこだわりすぎ、前提条件や環境変化に鈍感になってしまった、とも解釈できますね。

  2. Kanot Kanot より:

    Ozakiさん、コメントありがとうございます。
    まさにその渦中におられたとのこと、大変参考になります。

    そして問題だったのは専門家たちではなく、机の数字を作っていた人たちという分析は面白いですね。例えば、e-Government も Digital Development や GovTech と呼び名を変えてきていますが、本質的には変わっておらず、予算獲得の理由付けとされているのも今もある気がします。

  3. Toshi より:

    DXが一過性のブームで終わるのは間違いないでしょう。これにはDynabookのような、コンセプトレベルでのイノベーションがない。結局はすでに前例のある、既存のプラットフォームをデジタルに移植したり、そこにちょっとだけジェンダーとか新し目のイシューをちょっとだけ(この「ちょっとだけ」というのがキーワードだと思います。)絡めて、イノベーションだと言いつのるのがメインストリームではないでしょうか?
    もっと悪いのは作為的なデータ生成と、それを盾に我田引水的な結論を引き出すのが常態化することなのかもしれません。DXによって貧富の差が広がるというのは、簡単に予想がつきます。
    2000年よりちょっと前に、Webが一般に普及し始めた時は、そこに政府や金持ちなどの既存の権力者に支配されない、一種の民主的空間を作ろうとした試みが盛んでした。
    あの頃は私も若かったし、今より自由に夢を見れたというだけなのかもしれませんが、今のDXって本当に夢がない・・・既得権を新しい時代にとにかく守ろうとする年寄りの悪あがきに見えて仕方ありません。
    一番冷めているのは、今の20代、30代なのでしょう・・・彼らがビッグな夢を語ってほしいもんだ、と思います。

  4. Kanot Kanot より:

    Toshiさん、コメントありがとうございます。
    確かにDXとか言っているのは大手や既得権益に近い人たちかもしれませんね。少なくともシニア世代が若者の足を引っ張らないことを祈るのみです・・。

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