ITアウトソーシングと途上国開発

先日の投稿「IT Sourcing for Development: International Workshop@マンチェスター大学」で紹介したワークショップの論文募集にトライしてみることにした。まずは、400wordほどでの要旨を提出するというのがステップ。以前から疑問に感じていた点をまとめて、以下のような内容で作成し早速送ってみたので、自分自分の備忘録的な意味もふくめて紹介します。

【疑問点1】
ソーシャル・アウトソーシングとかインパクト・ソーシングといった言葉が結構聞かれるようになったけれど、本当にそれが途上国のしかも貧しい人々のためになっているのか?という点に疑問あり。 このブログでも紹介したことがあるSamasourceImpact hubなど、確かに途上国の貧しい人々をターゲットに、職業訓練も実施してデータ入力などの単純作業をアウトソーシングする活動は、大変素晴らしいと思う。しかし、もっと大きな流れでとらえてみると、ネット普及によって途上国でも先進国からのITアウトソーシングの仕事が個人でも取れるようになり、優秀な技術者はどんどん先進国からの仕事を取ることが出来ている。

一見、途上国での雇用創出であり、途上国開発にすごく貢献しているように思えるが、途上国のなかの優秀な人(教育を受けてて、ネットにもしょっちゅうアクセス出来て、プログラミング等の技術もある人)は、たいてい金持ちだろう。そうなると、金持ちが外国IT企業からの仕事を受注して、さらに金持ちとなる。これは貧富の差が拡大するということとも考えられる。IT Sourcing for Developmentというけれど、Developmentの部分は、実はそれほど貧困削減にインパクトがあるわけじゃないのでは?むしろ、貧富の差の拡大を助長してしまうのでは?

【疑問点2】
アウトソーシングの決め手は価格だろう。流石に高い金をだしてまで、途上国にアウトソーシングはしない。日本のIT企業のアウトソーシング先としては中国から始まり、その人件費の上昇にともなって、中国からタイやベトナムなどに移り、最近はミャンマーがブームになろうとしている。 このように価格勝負の世界では、人件費が上がれば仕事が取りにくくなる。先進国のIT企業が逃げて行ってしまう。途上国政府が人件費を売りに、アウトソーシングの受注を拡大しようとしても、ある程度経済発展すると物価が上がり、それに伴って人件費も上がると、今度は仕事が取りにくくなる。持続的な発展を実現するにはどうしたら良いのか?

【疑問3】
価格を武器に単純作業のアウトソーシングを受注するのはスタートポイントとしては良いだろう。でも、その後もずーっと単純作業を続けるのか?例えば、紙の情報をデジタル化するために、データ入力の仕事があるうちは良いが、いずれ仕事がなくなるだろう。もっと発展的な仕事をしていくためにはどうしたら良いのか?

以上が疑問点である。そして漠然とだが、途上国政府の立場にたったときに、以下の解決策がありえるのではないかと考えている。

【提案1】 個人としてではなく、組織としてのアウトソーシング受注を狙う。
【提案2】 組織として受注した仕事を国内で細分化してアウトソーシングする(都市部から地方部へのアウトソーシング、企業から個人へのアウトソーシングをする)
【提案3】 細切れの仕事ではなく、もっと大きい仕事の単位での受注を狙う。

上記3点はすべて絡み合っているので、まとめて説明すると、以下のような図になる。

キャプチャ

出来る個人が、ピンで細切れの仕事を受注するというスタイルではなく、政府なり企業なりの組織として大きな仕事を受注して国内で細切れにしてアウトソーシングするスタイル。ある程度の大きな仕事を取れれば、国内技術者のスキルUpも狙えるし、細切れにした仕事を国内で貧困層へアウトソーシングすることで、国内にICT産業クラスター的なものが出現して、産業振興に繋がる可能性が高くなる。

言うは易しなのが、「ある程度のまとまった仕事をとる」という点。これはハードルが高いけれど、そのためには途上国が単なる低賃金労働を売りにするのではなく、途上国内の市場をアピールして外国のIT企業が本格的に参入してくるようにする必要がある。

NTTデータはミャンマーに子会社を設立したが、単なるアウトソーシング先としてのみミャンマーを見ているのではなく、ミャンマーを市場としても見ている(実際、ミャンマー中央銀行のシステム構築をNTTデータは受注している)。このため、腰を据えてミャンマー人技術者を育てるために、ベトナムなど他国に研修に送ったりと、単なるアウトソーシング先よりも突っ込んだ人材育成をしている。これならば、単純労働からのステップアップがありえるだろう。

つまり、途上国政府としては、NTTデータがミャンマーに2種類の魅力(①低賃金のアウトソーシング先としての魅力、②手つかずの市場としての魅力)を感じ、より投資(子会社設立や人材育成)をしているといえる。このように、途上国政府としては、先進国IT企業に対して単なるアウトソーシング先だけではない魅力をアピールすることが重要であろう。そうすることで、より突っ込んだ人材育成が行われ、途上国側の技術者も育ち、細切れでない仕事も得られるようになる。そして、ある程度まとまった仕事を途上国IT企業が受注できれば、その中の単純作業を国内でアウトソーシングしたらよい。インドのRuralshores社が良い例だ。

このように、先進国を自国に呼び込み投資を促進させるようなICT政策が、途上国政府には重要だと考えられる。勿論、インターネットの恩恵は個人のエンパワーメントであり、出来る技術者が個人で仕事を受注したり、NGOなどがIT職業訓練を提供している女性や貧困層が、少しでも仕事にありつけるようになることも、それはそれで価値のあることだが、国として、組織としての取組で、上記の図のようなICT産業を構築することが、より発展性・持続性の高いアウトソーシング受注戦略と言えるだろう。

以上。
まだまだ粗削りで、上手く表現しきれない部分もあるのですが、「そりゃおかしい。」など、Criticalなコメントも大歓迎です。自分自身でも、古臭い中央集権的な発想で、全然イノベーティブな提案じゃないな・・・と感じてたりもします。

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コメント

  1. Ozaki Yuji より:

    提案(2)の細分化アウトソーシングは、アクセンチュアがフィリピンで事業を進めつつあり、既に4地域での核となる人材育成(38名)やってる、そうです。
    http://newsbytes.ph/2014/04/29/accenture-ph-unveils-unique-team-up-with-rural-bpos/

    フィリピンのBPOは、おおざっぱに、インドから流れてきたコールセンター業務→オムニチャネルのコンタクトセンター→専門知識の必要なアウトソース(KPO)へ変遷していますが、単純に「より高くお金を取れる」種目を増やしている、って感じがします。

  2. tomonarit より:

    早速のコメント、ありがとうございます。
    アクセンチュアのフィリピンにおけるRural BPOの取組は知りませんでした。これは良い情報貰いました。

  3. H.IDE より:

    以下、単純作業ではなく、比較的高度なアウトソーシング(例:プログラミング、システム設計、ネットワークやサーバーの遠隔メンテナンス)の受注を途上国のビジネスとすることについての私の意見です。

    先進国に留学した帰国者を中心として、地元にネットワークを作ってアウトソーシング受注をしている例を幾つかの国で見ましたが、殆どの場合、彼らは表には出てきません。私が実際に話を聞くことができた例では、恣意的に適用される規制や税制があるので、地下に潜ったほうが安定して仕事ができ、かつ利益が上がるというのが理由でした。ただ、地下に潜っている限り、ビジネスを一定以上大きくすることはできないし、国からみても税収が上がりません。
    ITに限らず、途上国でのビジネス振興は、透明性のある制度が必須で、地下に潜るよりも表に出たほうがビジネスチャンスが大きくなる(と思える)環境を作ることが一番大事なことだと思います。

    また、技術的に高度なアウトソーシングは、発注者側から見れば、単に安いことより、「品質に見合った価格」であることが重要です。バグの多い成果物を納品されたり、仕様変更に対応してもらえいない場合、結果的に国内開発より高くつくことがあるためです。発注側の国や、開発のドメイン(例:社内利用のソフト、一般ユーザーが直接使うソフト、組み込みソフト、ネットワークメンテナンス)、によって、商習慣や必要とされるサービスレベルは異なるので、アウトソーシング受注を産業の一つにしようとする国では、ターゲット市場を研究して、高付加価値のサービス・製品を生み出せる体制を官民一体で作ることが重要です。これが出来れば、単に価格だけに振り回されない、持続的な受注につながっていくと思います。
    言い換えれば、途上国側が得意分野を明確にして、アウトソーシング受注に関する「ブランディング戦略」を持つことが重要だと思います。

    最後に、高度なアウトソーシングのICT4Dにおける位置づけどう考えるか、という点ですが、残念ながら、これは、雇用創出の可能性が「感覚的に」高いという、ありふれた説明しか思いつきません。
    途上国のIT会社では、スキルの高いエンジニア一名に、ジュニアなエンジニアが数名~十数名ぶら下がって働き、さらに、掃除人、秘書、事務員、運転手など、非エンジニア職種の人々が雇用されているというのが一般的です。(ラオスで行ったITサービス会社への調査では、社員の6割が非エンジニア職種でした。)
    少数精鋭の高度エンジニア育成をドライバーとして、上述のビジネス環境やブランディング戦略などがあれば、現地での雇用創出の可能性は感覚的にかなり高いといえると思います。ただ、「感覚的」と言うのは、雇用創出に関する投資対効果に関して、IT産業が他の産業より高いと客観的に証明することが私には出来ないですし、これを研究した資料も見たことがないからです。この辺り、だれかアカデミックの人に研究して欲しいところではあります。

    • tomonarit より:

      IDEさん
      示唆に富んだコメント、どうもありがとうございます。勉強になりますね。
      自分も地下に潜っている系のエチオピア人エンジニアの話は聞いたことがありました。確かに、そういう人達が表に出てくる環境を作ることが重要ですね。この点はこれまであまり話題になってなかった事項だと思うので、自分も色々と調べてみたいです。
      また、「ブランディング戦略」って言葉が、まさに自分を含め多くの方が途上国に必要だと思っていることをズバリ的を得て表していると思います。Facebookのほうでコメントをくれた田中さん(ルワンダへのアウトソーシングを実践されているレックスバート社の社長)も、同様の指摘をしてくれていました。
      では、インドネシア生活頑張って下さい!

      • Ozaki Yuji より:

        『雇用創出に関する投資対効果に関して」というと、日本国内では県・市レベルでも公開されている産業連関表を思い浮かべました。が、2012年から公開されている世界産業連関表データベース(http://www.wiod.org/new_site/home.htm)では、対象国が限定されてました…。また、IDEさんが仰る通り、企業活動が地下に潜ると、そもそも統計に出てこなくなりますよね…。

        世界経済フォーラムが公開している「Networked Readiness Index」の評価指標には、(世銀のDoing businessと関連しつつ)Judicial IndependenceやEffectiveness of Law making bodyが含まれていましたが、なんとなく納得できました(遅いよ => 私)。
        確かに、起業は、創造的であるが故に、権力側や既得権益側にある何かを破壊する可能性を秘めた、ある種の反体制文化っぽいところがあるのでしょう。創造的であるが故に手が後ろに回る心配をしてたんじゃ、しょうがないですよね。起業を奨励するには、民主的であることが欠かせない、ってコトになってしまう?話がデカすぎる?…。

  4. tomonarit より:

    Ozakiさん
    企業を促進するには民主主義が欠かせないってのは、ある意味正しいと思います。身勝手な政府の下では、いつ何時、資産をぶんどられてしまうかもしれないリスクやいきなりの法外な増税などにビクつかざるをえないのかと。
    エチオピアで企業した現地人友人が似たようなことを言ってました。

  5. […] 「Race to the Bottom」というのは、どんどん低賃金で働く層に向かっていくことを示唆している。レポートでは、「does not create new class of “digital sweatshops.”」ということが言われていた。Sweatshopとは低賃金で長時間労働をさせる工場のこと。つまり、服飾産業(イギリスのプライマーク等が途上国で児童労働をさせているのが批判されていたことがあるが)の前例のように、仕事を単純化して安い賃金で働く労働力(児童労働など)を確保する方向へ、途上国のBPO産業が向かわないようにしなくてはいけないということ。 こういったリスクを回避するためにも、単なる価格競争とならないように、途上国のBPO産業はブランディングが必要だと改めて感じる(以前、このブログでも投稿してみた内容同様)。 […]

  6. […] 先日の投稿「IT Sourcing for Development: International Workshop@マンチェスター大学」で紹介したワークショップの論文募集にトライしてみることにしたという報告を以前しましたが、その結果がきました。残念ながら通らず…。無念な結果に終わってしまった。 ブログを通じてとても勉強になるコメントをくれた皆さん、スイマセン。 […]

  7. […] これまでこのブログでも何回かオンライン・アウトソーシング(の形態の一つとしてより途上国を対象にしているインパクト・ソーシングとかソーシャル・アウトソーシング)について取り上げて来ましたが、やっぱり課題としてあるのは、受注するエンジニアがIT単純作業レベルからどうレベルアップして行くのか?という点。レベルアップしないと結局価格でより低賃金の途上国のエンジニアに仕事が流れて行く「Race to the bottom」に陥ってしまう。そうならないためにはやはりレベルアップするための施策が必要と改めて感じます。例えば、以前の投稿で書いたような、個人としてではなく、組織としてのアウトソーシング受注を狙って、組織として受注した仕事を国内で細分化してアウトソーシングする(自国内でその組織から個人へのアウトソーシングをする)ようなこと。バングラとかまだ低賃金で仕事が取れるメリットを活かせるうちに、そういうことを戦略的にやっていかないと、そのうち国の発展とともに賃金も上がり「Race to the bottom」に負けてしまうのではないか?と感じます。 […]

  8. […] これまでこのブログでも何回かオンライン・アウトソーシング(の形態の一つとしてより途上国を対象にしているインパクト・ソーシングとかソーシャル・アウトソーシング)について取り上げて来ましたが、やっぱり課題としてあるのは、受注するエンジニアがIT単純作業レベルからどうレベルアップして行くのか?という点。レベルアップしないと結局価格でより低賃金の途上国のエンジニアに仕事が流れて行く「Race to the bottom」に陥ってしまう。そうならないためにはやはりレベルアップするための施策が必要と改めて感じます。例えば、以前の投稿で書いたような、個人としてではなく、組織としてのアウトソーシング受注を狙って、組織として受注した仕事を国内で細分化してアウトソーシングする(自国内でその組織から個人へのアウトソーシングをする)ようなこと。バングラとかまだ低賃金で仕事が取れるメリットを活かせるうちに、そういうことを戦略的にやっていかないと、そのうち国の発展とともに賃金も上がり「Race to the bottom」に負けてしまうのではないか?と感じます。 […]

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