ソーシャルインパクトボンドを活用したプログラミング教育

アカデミック
最近、日本でもソーシャル・インパクト・ボンド(以下、SIB)について耳にすることが多くなった。

そもそもSIBのわかりやすい説明は、
社会的課題の解決と行政コストの削減を同時に目指す手法で、 民間資金で優れた社会事業を実施し、事前に合意した成果が達成された場合、 行政が投資家へ成功報酬を支払います。
出所:Social Impact Bond Japan
と、ある。ついでにいうと、上記の「行政」を「ドナー」に置き換えたものが開発業界向けのDevelopment Impact Bond(以下、DIB)と考えれば良いだろう。
2010年にイギリスで、ピーターボロ刑務所の受刑者の再犯防止と社会復帰の為に世界初のSIB案件が形成されて以来、先進国を中心に30案件以上が実施されている(1)。日本も地方自治体と日本財団による SIBのパイロット事業も開始され、子供・家庭の支援、若者の就労支援などの案件が進められている(2)。
ここから、本題。昨年開始されたSIB案件で面白い案件を見つけた。ポルトガルのJunior Code Academyという案件である(3)
概要は、義務教育課程の小学生3年生に1年間のプログラミング教育を行い、学力の向上を通じて、落第や留年を減らす、というものだ。その成果の評価方法は次の2点を教育を受けた生徒と受けていない生徒のものを比較して行う。
  1. ロジカルシンキングと問題解決能力:レーヴン漸進的マトリックス(要は、知能テスト)で比較(評価ウェイト9割)
  2. ポルトガルで4年生が受ける義務のあるNational examの算数の成績(評価ウェイト1割)
first-social-impact-bond-in-portugal-2-638
出所:”Junior Code Academy First Social Impact Bond In Portgul”,Presentation at OECD, Calouste Gulbenkian Foundation
案件の関係者を整理すると、以下のようになる。
  1. 民間サービスプロバイダ:Junior Code Academy
  2. 行政:リスボン市
  3. 投資家:Calouste Gulbenkian財団
  4. 受益者:リスボンの小学生
つまりこの案件では、「Junioir Code Academy」の教育を受けた「リスボンの小学生」に期待される効果が出た場合、「リスボン市」は投資家である「Calouste Gulbenkian財団」に対して成功報酬を支払うわけだ。
プロジェクトの対象期間は2015年1月から12月なので、もうすぐ、1年間の教育を受けた3年生が4年生に上がる試験のころ?。効果がどうであれ、結果がでるので楽しみだ。
現時点では、SIBは先進国の国内案件が中心だけれども、今後、DIBの活用が拡大すれば、先進国の民間サービスプロバイダや投資家を通じて、途上国でDIB案件が形成されていくのではないか。これまで、途上国へのICT関連の民間企業の進出は自社に十分な投資余力がある比較的大手の企業が多いのだろうけれども、DIBのようなファイナンスのモデルがあれば、投資余力のない中小の企業にもこうした案件組成への参画のチャンスが増えていくのかもしれない。

参考
(1) The Potential and Limitations of Impact Bonds -LESSONS FROM THE FIRST FIVE YEARS OF EXPERIENCE WORLDWIDE-, Brookings
(2) 日本財団プレスリリース
http://www.nippon-foundation.or.jp/news/pr/2015/40.html
http://www.nippon-foundation.or.jp/news/pr/2015/61.html
http://www.nippon-foundation.or.jp/news/pr/2015/69.html
(3) (1)に同じ

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コメント

  1. おじじ より:

    おらなんか、ロボコップ思いだしちゃうんだけど、かなりジジイかな?
    オムニ社って、結構、社会支配の鮮烈なイメージがあったんだけど。

  2. […] コメントを残す 年末に世銀のWebでDevelopment Impact Bond(以下、DIB)を活用した  “Finance for Jobs”というパレスチナにおける起業家支援+雇用促進を目的とした 雇用開発や教育訓練などを行う事業の記事があった。 前にSocial Impact Bondに触れた記事をUpしてみたが、最近個人的にこのインパクトボンドに関心ありまして、以下の二点について考えてみた。 ①DIBを活用した事業スキーム ②「ICT」の雇用への影響 ———————————- まずは①について。DIBを活用した事業スキーム その前に、、、改めてDIBとは? 以下、ちょっとくどい説明、、 「投資家がドナー/途上国政府の事業に出資し、その事業実施者が行った事業成果に基づき、ドナー/途上国政府から投資家に対して成功報酬が支払われる」 今回の世銀案件でおきかえると、 「投資家が世銀/パレスチナの事業に出資し、その事業者が雇用促進事業を行った結果、パレスチナの雇用環境において事前に定めた目標に達成した場合、ドナー/途上国政府から投資家に対して成功報酬が支払われる」 ことになる(注1)。  つまり一般的な開発事業にビジネスの仕組みを組み込み、より投資対効果が求めるスキームということだ。もちろん成果を貨幣換算するのは難しいし、関係者間の「成果」への合意形成は大変そうだが、SDGs達成に必要な資金の多くが民間資金を充てにしていることやインパクト評価の重要性の高まりを鑑みれば、今後は他ドナーでもこうしたDIB案件の組成が増えてるんでは。そのためにもこの第1号案件がどうなるか今後注目したい。投資家の存在や成果報酬といったビジネス的なやり方だからこそ、成果を数値で見易い民間セクター開発のような案件にはフィットし易いんだろうな。 ———————————- 次に②について。「ICT」と雇用 この事業において、雇用促進の為の職業訓練には、「ICTスキル」向上が含まれ、雇用促進の対象セクターの一つに「ICTセクター」が含まれている。当たり前のようだけど「ICT」と雇用について考えるとき「ICTスキル」と「ICTセクター」は分けて考えたほうが整理し易い。 ICTの普及は「ICTセクター」の直接的な雇用増加に対して正のインパクトは実はあまり大きくない。その雇用はスキルを有する少数人材に限られているからだ。例えば、ICTセクターの雇用は発展途上国の平均では全体の雇用の1%でしかない。OECD加盟国ですら、たった平均3-5%だ(P14,WDR2016)。よりインパクトが大きいのは「ICTスキル」を得ることによって可能となる雇用情報の取得や、ICT以外の他セクターでICTスキルを必要する雇用機会へのアクセスだ(下図参照, WDR2016)。 もちろん、その地域の「ICTセクター」の発達なしには、一般人の「ICTスキル」の取得は進まないのでどちらか一方だけというわけにはいかないだろうけれども。 この世銀案件は、起業家支援も目標としているが、「ICTスキル」を身につけ、 マイクロワークを手にした人々が次に向かう目標はイノベーション&起業なんだろう。例えば、インパクトソーシングの起業家たちなんかはまさにその典型ともいえる。こう考えると、WDRにあった以下の図がしっくりとくる気がしてきた。 ICTによる雇用への影響に関しては、正のインパクト(生産効率の工場、雇用情報へのアクセス、イノベーション促進等)だけでなく、負のインパクト(ICT化による失職等)もWDRでは多く言及されている。結局、結論はケースバイケースで一概には言えない、のでWDRがあんなに分厚くなっちゃうんだろうな。 とりとめない文章ですが、、以上。 ———————————- (注1)DIBに関してはこちらのFASIDの資料がわかりやすい。 「途上国開発における ディベロップメント・インパクト・ボンドの可能性 ~新たな社会的投資を通じた開発課題への挑戦」 […]

  3. […] Uncategorized Twitter Facebook0 はてブ0 Pocket0 LINE コピー 2016.04.12 年末に世銀のWebでDevelopment Impact Bond(以下、DIB)を活用した  “Finance for Jobs”というパレスチナにおける起業家支援+雇用促進を目的とした 雇用開発や教育訓練などを行う事業の記事があった。 前にSocial Impact Bondに触れた記事をUpしてみたが、最近個人的にこのインパクトボンドに関心ありまして、以下の二点について考えてみた。 ①DIBを活用した事業スキーム ②「ICT」の雇用への影響 ———————————- まずは①について。DIBを活用した事業スキーム その前に、、、改めてDIBとは? 以下、ちょっとくどい説明、、 「投資家がドナー/途上国政府の事業に出資し、その事業実施者が行った事業成果に基づき、ドナー/途上国政府から投資家に対して成功報酬が支払われる」 今回の世銀案件でおきかえると、 「投資家が世銀/パレスチナの事業に出資し、その事業者が雇用促進事業を行った結果、パレスチナの雇用環境において事前に定めた目標に達成した場合、ドナー/途上国政府から投資家に対して成功報酬が支払われる」 ことになる(注1)。  つまり一般的な開発事業にビジネスの仕組みを組み込み、より投資対効果が求めるスキームということだ。もちろん成果を貨幣換算するのは難しいし、関係者間の「成果」への合意形成は大変そうだが、SDGs達成に必要な資金の多くが民間資金を充てにしていることやインパクト評価の重要性の高まりを鑑みれば、今後は他ドナーでもこうしたDIB案件の組成が増えてるんでは。そのためにもこの第1号案件がどうなるか今後注目したい。投資家の存在や成果報酬といったビジネス的なやり方だからこそ、成果を数値で見易い民間セクター開発のような案件にはフィットし易いんだろうな。 ———————————- 次に②について。「ICT」と雇用 この事業において、雇用促進の為の職業訓練には、「ICTスキル」向上が含まれ、雇用促進の対象セクターの一つに「ICTセクター」が含まれている。当たり前のようだけど「ICT」と雇用について考えるとき「ICTスキル」と「ICTセクター」は分けて考えたほうが整理し易い。 ICTの普及は「ICTセクター」の直接的な雇用増加に対して正のインパクトは実はあまり大きくない。その雇用はスキルを有する少数人材に限られているからだ。例えば、ICTセクターの雇用は発展途上国の平均では全体の雇用の1%でしかない。OECD加盟国ですら、たった平均3-5%だ(P14,WDR2016)。よりインパクトが大きいのは「ICTスキル」を得ることによって可能となる雇用情報の取得や、ICT以外の他セクターでICTスキルを必要する雇用機会へのアクセスだ(下図参照, WDR2016)。 もちろん、その地域の「ICTセクター」の発達なしには、一般人の「ICTスキル」の取得は進まないのでどちらか一方だけというわけにはいかないだろうけれども。 この世銀案件は、起業家支援も目標としているが、「ICTスキル」を身につけ、 マイクロワークを手にした人々が次に向かう目標はイノベーション&起業なんだろう。例えば、インパクトソーシングの起業家たちなんかはまさにその典型ともいえる。こう考えると、WDRにあった以下の図がしっくりとくる気がしてきた。 ICTによる雇用への影響に関しては、正のインパクト(生産効率の工場、雇用情報へのアクセス、イノベーション促進等)だけでなく、負のインパクト(ICT化による失職等)もWDRでは多く言及されている。結局、結論はケースバイケースで一概には言えない、のでWDRがあんなに分厚くなっちゃうんだろうな。 とりとめない文章ですが、、以上。 ———————————- (注1)DIBに関してはこちらのFASIDの資料がわかりやすい。 「途上国開発における ディベロップメント・インパクト・ボンドの可能性 ~新たな社会的投資を通じた開発課題への挑戦」 Maki フォローする Uncategorizedアカデミックインパクト評価 ICT4DImpact BondWorldbankインパクト評価雇用 シェアする Twitter Facebook0 はてブ0 Pocket0 LINE コピー Maki ICT for Development .JP […]

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