Development Impact Bondを活用した雇用促進&起業家支援

アカデミック
年末に世銀のWebでDevelopment Impact Bond(以下、DIB)を活用した
 “Finance for Jobs”というパレスチナにおける起業家支援+雇用促進を目的とした
雇用開発や教育訓練などを行う事業記事があった。
前にSocial Impact Bondに触れた記事をUpしてみたが、最近個人的にこのインパクトボンドに関心ありまして、以下の二点について考えてみた。
①DIBを活用した事業スキーム
②「ICT」の雇用への影響
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まずは①について。DIBを活用した事業スキーム
その前に、、、改めてDIBとは? 以下、ちょっとくどい説明、、
「投資家がドナー/途上国政府の事業に出資し、その事業実施者が行った事業成果に基づき、ドナー/途上国政府から投資家に対して成功報酬が支払われる」
今回の世銀案件でおきかえると、
「投資家が世銀/パレスチナの事業に出資し、その事業者が雇用促進事業を行った結果、パレスチナの雇用環境において事前に定めた目標に達成した場合、ドナー/途上国政府から投資家に対して成功報酬が支払われる」
ことになる(注1)。
 つまり一般的な開発事業にビジネスの仕組みを組み込み、より投資対効果が求めるスキームということだ。もちろん成果を貨幣換算するのは難しいし、関係者間の「成果」への合意形成は大変そうだが、SDGs達成に必要な資金の多くが民間資金を充てにしていることやインパクト評価の重要性の高まりを鑑みれば、今後は他ドナーでもこうしたDIB案件の組成が増えてるんでは。そのためにもこの第1号案件がどうなるか今後注目したい。投資家の存在や成果報酬といったビジネス的なやり方だからこそ、成果を数値で見易い民間セクター開発のような案件にはフィットし易いんだろうな。
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次に②について。「ICT」と雇用
この事業において、雇用促進の為の職業訓練には、「ICTスキル」向上が含まれ、雇用促進の対象セクターの一つに「ICTセクター」が含まれている。当たり前のようだけど「ICT」と雇用について考えるとき「ICTスキル」と「ICTセクター」は分けて考えたほうが整理し易い。
ICTの普及は「ICTセクター」の直接的な雇用増加に対して正のインパクトは実はあまり大きくない。その雇用はスキルを有する少数人材に限られているからだ。例えば、ICTセクターの雇用は発展途上国の平均では全体の雇用の1%でしかない。OECD加盟国ですら、たった平均3-5%だ(P14,WDR2016)。よりインパクトが大きいのは「ICTスキル」を得ることによって可能となる雇用情報の取得や、ICT以外の他セクターでICTスキルを必要する雇用機会へのアクセスだ(下図参照, WDR2016)。
WDR Table2.2
もちろん、その地域の「ICTセクター」の発達なしには、一般人の「ICTスキル」の取得は進まないのでどちらか一方だけというわけにはいかないだろうけれども。
この世銀案件は、起業家支援も目標としているが、「ICTスキル」を身につけ、
マイクロワークを手にした人々が次に向かう目標はイノベーション&起業なんだろう。例えば、インパクトソーシングの起業家たちなんかはまさにその典型ともいえる。こう考えると、WDRにあった以下の図がしっくりとくる気がしてきた。
WDR Figure07
ICTによる雇用への影響に関しては、正のインパクト(生産効率の工場、雇用情報へのアクセス、イノベーション促進等)だけでなく、負のインパクト(ICT化による失職等)もWDRでは多く言及されている。結局、結論はケースバイケースで一概には言えない、のでWDRがあんなに分厚くなっちゃうんだろうな。
とりとめない文章ですが、、以上。
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コメント

  1. おじじ より:

    個人的な思い出ちを一つ。
    タイの工場がISOを取得するので、長期出張した。
    時は、平成9年頃で、スマホなんて在りません。
    固定電話しかない時代ですが、事務職の従業員は、電話が長い。
    私用でかけているのか、業務なのか、判然としませんが、通話料が安いせいでしょう。
    それで、スマホなんか持ったら、仕事なんかに使うのだろうか。
    多分、個人の生活の道具の延長線上になるのだろうと思う。
    ICTスキルを身につけても、個人生活の便利さの範囲で有効だったら、私用が優先するかも。
    それでも、そういった分野では、経済原則のマーケットの拡大が見込まれるのでしょう。
    そんな感じかもしれませんが、教育にICTを使うのは、最優先なんだとは思いました。

    • Maki より:

      コメントありがとうございます。
      おっしゃる通り、リンクしたWDR2016の図でもICT技術の普及によって最も影響のあるのはマーケットの拡大を支えるコンシューマーになっていますね。、次に影響があるのはワーカーの仕事効率になっています。ご経験されたタイでのシチュエーションを考えると、単純にICTの使い方を教育するのではなく、倫理観なども合わせた教育が重要ですね。

  2. Ozaki Yuji より:

    記事中の『その地域の「ICTセクター」の発達なしには、一般人の「ICTスキル」の取得は進まない』について:
    「一般人」とされる人のICTスキル(ここでは技術か技能かはっきりしないけど)って、当該地域のICTセクターの発展というよりは、個人の欲望の発展ではないか、と考えています。フーコーが言うところの「消費的な欲望」を誘う「欲望を消費する装置(話だけでなくオアズケしないって意味で)」が手元に来てしまった状態ですね。これは資本主義の重要なドライバでもあるようです。
    おじじさんがコメントで述べられている、「ICTスキルを身につけても、個人生活の便利さの範囲で有効だったら、私用が優先する」→「経済原則のマーケットの拡大が見込まれる」と一致すると勝手に考えています。

    教育はターゲットオーディエンスが新たな技能や情報を身につけることで終了するのに対し、ソーシャルマーケティングは、ターゲットオーディエンスが実際にその行動を行い、その行為が恒常的になることがゴールとされています(フィリップ・コトラー著作からの受け売り)。
    丁度、国際協力の文脈でバブルっぽくなっている「産業人材育成」が、学習結果を測定するテストで終えることができる教育の範囲を超え、教育→就業→活躍(継続的学習習慣の獲得を含む)まで含んでしまうであろうことと似てますよね。なんともリワードまでの時間が長い。
    コトラー氏の著作によると、ソーシャルマーケティングの最大競合相手は即興的な欲望を煽る業界とされています。欲望には、性産業やアルコールやタバコやギャンブルだけではなく、あらゆるエンタテイメントやコミュニケーション、見栄までを含みます。このような業界に確実に対抗できる手段は強制力を伴う立法・罰則を伴う規制(増税を含む)なのですが、民主主義を勘案するとハードル高いですね。

    欲望を煽る業界には資金力そのもので太刀打ちできそうもない、ってコト以前に、そもそも欲望からスタート・普及した事物を、ちょっとの間でも欲望から引き離すことがいかに難しいか、をしみじみと考えていたりします。だからこそ、ちょっと不便だけど即興的な欲望からの隔離環境(学校の隠された機能の一つだと思います)が欲しくなってきますね。

  3. […] 以上のように見てみると、敢えて批判的に想像してみたからというのもあるが、あまり明るい未来が見えてこないと思うのは自分だけだろうか・・・。以前の投稿「ICT4DからDigital Develpmentへ」でも言及したように、結局、途上国と先進国の格差は、新たなテクノロジーによってさらに広がって言ってしまうのか? […]

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