UNCTAD(国連貿易開発会議)「Technology and Innovation Report 2018」

どもTomonaritです。妻と娘がエチオピアへ里帰りしているので、この間に何か読もうと、UNCTAD(国連貿易開発会議)が最近出した「Technology and Innovation Report 2018」という報告書を少し読んでみました。副題は、Harnessing Frontier Technologies for Sustainable Developmentというもの。Frontier Technologiesというのは、Big Data、IoT、 AI、3D Printing、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、再生可能エネルギー、ドローンといった新しいテクノロジーのこと(個人的には、Emerging technologyとう表現の方が一般的かな?と思いますが、Frontier technologyという言い方もカッコいいかな)。「テクノロジー、イノベーションをSDGs達成のために」という時流に乗った内容。

以前の「WDR2016から気になる情報まとめ」のように、とりあえずOverviewから主要なポイントを以下、抜粋していみました。和訳は自分流の理解にそったものなので、気になったら原文をチェックして下さい。なお、タイトルになっているのはOverviewの各章のタイトルです。

Features and potential of frontier technologies

  • Big Data、IoT、 AI、3D Printing、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、再生可能エネルギー、ドローンといった新しいテクノロジーはSDGs達成へ貢献出来る大きな可能性を秘めている(xi)

Economic and Societal Challenges

  • AIによって仕事が奪われるなど、テクノロジーの功罪に関する議論はあるが、基本的にテクノロジーが持続可能な開発に貢献する可能性を有している点は疑いようがない(xii)
  •  テクノロジーをSDGs達成に有効活用するために必要なのは、以下の点(xii)。
    • Local Capacities
    • Development Policy
    • Enabling environment
    • Unprecedented resource mobilization
    • Partnerships and multilateral global collaboration

The divide in technological capabilities

  • テクノロジーを使いこなす能力において、先進国と途上国の差は明白(xii)。
  • R&Dに関連するビジネスの割合が、先進国は68%であるのに対して途上国は32〜38%に留まる(xii)。
  • 途上国でもSTI領域の研究者が増えつつあるものの、未だ欧米諸国の割合には程遠い。研究者の割合は世界中では、100万人当たり1,098人に対し、サブサハラアフリカでは87.9名、最貧国(LDC)では63.4人の割合となる(xiii)。
  • 世界のSTEM(science, technology, engineering and mathematics)分野の大卒者の3分の2はアジアにおり、その大半はインド(29.2%)と中国(26%)である。ラテンアメリカは5.2%、アフリカは1%未満(xiii)。

The critical role of skills to complement frontier technologies

  •  STEMに代表されるようなスキル以外にも、オーソドックスなスキル(金融の知識、起業の知識、コーディング含むデジタルスキル)も重要。さらに、AIやロボットが苦手なヒューマンスキル(好奇心、想像力、創造性、情熱等)も重要で、そのためには教育制度の見直しが求められる(xiii)。
  • より実践的、実験的な学習をするためのカリキュラム改訂や教師へのトレーニングも必要。デジタル教材やオンライン学習の重要性も増す(xiii)。

Technology and digital gender divides

  •  世界のSTEM分野の研究者のうち女性の割合は28%(2013年)。多くの途上国では女性研究者の割合は10〜40%である(xiii)。
  • 携帯電話保有やインターネットアクセスにおいても、途上国はジェンダーギャップが生じており、2013年からそのギャップは拡大している(xiii)。
  •  ICT活用において電力不足が途上国での深刻な問題である。再生可能エネルギー領域の技術革新により電力不足が解消されることが期待される(xiii)。

Harnessing frontier technologies requires attention to the basics of STI policy

  • イノベーションエコシステムを作るためには、以下5点が重要(xiv)。
    • エコシステムを長期にわたり安定・継続させるための政策・制度
    • 短期的利益ではなくイノベーションを追求することのインセンティブを与える制度
    • 起業家が資金やその他の支援を受けられる仕組み作り
    • 技術力とマネジメントスキルを併せ持った人材を育成するための教育制度
    • 地域差、男女差、収入差を飛び越えたR&DやICT活用のためのインフラ整備
  • 著作権や特許の仕組みも重要(xiv)。

Political coherence is critical

  • STI政策と開発政策の整合性をとるべき。そのためには、外国直接投資(FDI)政策、産業政策、貿易政策、金融政策、マクロ経済政策、教育政策、といった関連政策とも連携させて考える必要がある(xv)。

Redirecting innovation towards inclusiveness and sustainability

  • イノベーションを社会課題の解決に活用するためのSTI政策が必要(xv)。
  • テクノロジーの活用で仕事が減るという課題に大しては、Lifelong learning(必要なスキルを習得し続けるための学習)とUniversal basic income(ベーシックインカム)という対策が検討されている(xv)。

Leapfrogging: Look before you leap?

  • アフリカにおけるモバイルマネーの普及は途上国が目指すべきLeapfroggingの一例と言える。つまり、テクノロジーを開発するのではなく、「使い方」の方でのイノベーションを開発するということである(xvi)。
  • テレコム分野の事例を他分野へ横展開するのは難そうだが、再生可能エネルギー分野でのイノベーションが今後期待出来る。その為には資金面、技術面、制度面でのサポートが必要であるが、これをどう実現出来るか?は途上国(特に最貧国)に課せられた課題である(xvi)。

New approach to innovation

  • これまで従来のイノベーションから疎外されていた貧困層のための草の根的イノベーションを支援することも重要(xvi)。
  • これまでの産業促進政策のであるSmart specializationもアプローチの一つ(xvi)。
  • Platforms for economic discovery (PEDs)を、テクノロジーをプロダクト、プロセス、サービスに落とし込み、販売価格やビジネスモデルを検討するためのプロセスである(xvi)。
  • 本レポートでは、国際協力は、ローカルレベルでSmart specializationにフォーカスした形のPEDsの確立を支援するべきと提案している(xvi)。
  • インキュベーター、アクセラレーター、テクノロジーパークがSmart specializationとPEDsの促進に重要な役割を果たす(xvi)。

Shaping research collaboration to address the sustainable development goals

  • STIと持続可能な開発に関して途上国が国際的なR&Dに参加する機会はこの10年で増えてきた。国際的なコラボレーションを進めるためには、自国の開発課題を国際的なR&Dのテーマとマッチさせることや、逆に既存のナレッジや研究成果をどう自国の開発に活用することが必要(xvi)。

Changing in the funding of innovation

  • 途上国ではアクティブな証券取引市場がないことがベンチャーキャピタルやエンッジェル投資家からの資金獲得を得るうえでの課題となる(xvii)。
  • インパクト投資やクラウドファンディングによる資金獲得の可能性もある。インパクト投資は現状では先進国の大企業が小規模且つ寄付的に行っているケースが多い。また、株式クラウドファンディング(equity crwowdfunding)はリスクを十分考慮しなければならない(xvii)。
  • 政府機関、国際援助機関、開発銀行、民間投資会社等によるInnovation and technology fundsを有効に活用することが出来るかがポイント。(xvii)。
  •  テクノロジーをSDGs達成に向けて有効活用するためには、国レベル、国際レベルで、その過大なまでの期待(extraordinary ambition)に見合うだけのアクションが求められる(xvii)。

以上です。いかがでしょうか?

個人的にグッときたところを青字にしています。中でも最後の一文が一番刺さりました。国際社会が「SDGs達成にはイノベーションが必要」という話を打ち出してから、日本のODA関係者からも「ICTを活用しよう、イノベーションを支援しよう」という話を良く耳にするようになりました。

本当にテクノロジーがSDGsに大きく貢献出来るのか?は、やり方次第。成功するまで止めなければ、成功するはず。過大な期待に見合うだけのアクションが必要ってことですね。

“UNCTAD(国連貿易開発会議)「Technology and Innovation Report 2018」” への7件の返信

  1. ちょっと愚痴ってもいいですか?
    いい加減、理系文系で区別(っていうかある意味「差別」)するのやめてほしい。確かにスキルとしての計算や基本的な科学知識なんかは必要だとは思いますが、大学レベルの話では文系はダメで理系が頭いいなんてとんでもない勘違いだと思う。
    そういう根拠のない「ランクづけ」みたいなものの方が社会の発展には有害です。

    1. 愚痴って良いですよ。自分としては、テクノロジーを「使う」というハードルが非常に下がってきたことで、より文系・理系の垣根は曖昧になっているような気がしますね。新しいテクノロジーが開発されても、それを社会実装しない限り、それは役に立たないわけで、「テクノロジーを「開発」するのではなく、「使い方」の方でのイノベーションを開発する」というのは、「開発」と同じくらい重要で、そして誰でも可能だと。一方で「開発」するのは、ホントに極秘と握りの人達なんじゃないかと思います。そういう人達は素直に尊敬します。一方で、今後、プログラミング教育が小学校の必修になったりしていくことを考えると、「開発」分野においても、垣根が下がって行くのかもしれないですね。

      1. うーん、私の言いたいのは文系の知識とかスキルって「誰でもできる」ってことでは決してない、ということなんです。「未来のコンセプト」を作るのは、それほど容易なことではありません。今、技術屋が実装しつつある技術(AIにしろドローンにしろiPhoneにしろ・・・)はほぼ全てそれ以前に文系の人が想像し、作品中に登場させたものです。おまけにディストピアの出現さえ、警告している。私は理系と同じくらい文系も技術開発にとって重要だと思います。文学や芸術は言うに及ばず、法学だって新しい技術に対応した法律・制度を作るのに必要不可欠だし、政治経済だってスポーツだって重要だと思います。開発にとって不必要なものなんてないし、そういう意味での平等な扱いこそが望ましい開発が起こるために不可欠だと思います。

        1. 根源的には哲学に到達するのではないか、と感じている私も、TOSHIさんの仰る『開発にとって不必要なものなんてない』は完全に同意します。

          文系とか理系の文脈では、「私、文系だから〜」という言い訳をする人たちが、結果的に「文系」の価値を落としているように見えます。
          この「文系だから〜」は、「●●なんかできなくても日常生活や通常業務で困ることなんか無い」「わけわかんない」「いみわかんない」の前提条件として絶妙に使いやすいです。
          これは「だから分かりやすく教えて」ではなく、「だから理解するのは諦めた(ハッキリ言うのは恥ずかしいから察しろ)」という意味を含んでいるものらしいです(笑)。
          また、公としてその仕事に固有の「責任」を、私である「ごめん、失敗しちゃった。私は文系だから」なんていう言い訳と同一線上に捉えるのも変だと私は感じるのですが、そういう人たちの間ではフツーの行動らしいのです(苦笑)。

          なお、中華文化圏における儒学(特に朱子学)なヒエラルキーでは、文 >>>> 武(技術などを含む)ですね。ただし、この「文」はいわゆる「文系」とイコールではないようですが。

          1. Ozakiさん>
            レスありがとうございます。「最終的には哲学に・・・」というところに同意します。

            文系理系に関しては、そうなんだ、そんな言い訳の仕方があったんだ、と目から鱗でした。

            アフリカの大学は確かに理系の学部って少なくてむしろ職業訓練系の延長みたいなエンジニアリングを教えてることが多いと感じます。そういう文脈ではこの分野の増強が必要ということは確かにその通りなんだけど、現状がそうなっている以上、「従来の形での理系」を今から増強してもその影響がでてくるのは10年後、20年後の話だし、むしろ文系理系の垣根を取り払って、従来「文系」と捉えられている人材を「理系的」な使い方をして、理系の教育やテクノロジー分野の開発に使った方が効率的だと思います。

  2. 雇用の視点からは、大学の経営学部卒の人が即戦力を求められることは少ない(即戦力で経営者→既存の経営者や管理職の自己否定に繋がる)のですが、工学部卒の人には即戦力(技能やスキル:効用を与えるものは知識ではなく技能だから)が求められがちな現実がありますね。
    日本国内外を問わず、いわゆる「理系」が職業訓練系(手に職)の延長になりがちな理由の一つだと思います。

    「技術」の観点からは、テクノロジーを愛する人にとって、知ることと学ぶことは喜びです。完了したのに技術的に何も学ぶところが無かった案件には、一抹の虚しさを感じます。それでも金銭的な市場価値が高いとされる案件は多いと感じています。

    レボリューションとかイノベーションっぽい響きをもつ「産業革命」は、長い時間をかけて発展した技能(秘伝や口伝っぽいテクネ)が、体系化(ロジー)されて流通(テクノロジー)したことによって引き起こされたんだろうな、と考える立場からはなおさら。

    おまけ:
    「私は●●の専門家ではない」は自身を否定する表現(I am not…)ですが、専門分野と深さと事績が明確な「いわゆる理系」では多用されがちです。
    「私は文系だから…」は自身を否定しない肯定的表現(I am …)なので、言った本人が傷つかないから使いやすいのでしょう。
    典型的な事例:前の経済産業省原子力安全・保安院長(東京大学経済学部卒→通産省の総務畑→原子力安全・保安院次長→保安院院長)の発言とされる、『私は文系なので、官邸内の対応は理系の次長に任せた』というやつ。

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