先日、外山健太郎氏というICT4D研究者のお話を聞く機会があった。外山氏の話で興味深かった点は、最近話題のBOPビジネスについては誤解が蔓延っているというもの。外山氏のブログにも、同様のことが書いてある。その話を自分なりに咀嚼してICT4Dに関連させて考えると以下のとおり。
1. 貧困層が欲するものが、ニーズと一致するわけではない
途上国開発の実務者達は、BOPビジネスによって貧困層の生活が向上することを期待している。例えば、石鹸や洗剤を小口に分けたパッケージで販売することで、貧困層も購入することが可能となり、企業も儲かり、且つ、貧困地域の衛生環境も改善される。といったもの。しかし、実際は、有益な情報(教育や農業技術)にアクセスするためにネットカフェを設立したり、安価なPCを学校に供与しても、結局ゲームにもっともPCが使われるといった状況になりえる。貧困層が有益な情報を得られるように安価なインターネットサービスといったBOPビジネスをやっても、有益情報よりもHな画像の方が遥かに普及するだろう。つまり、「BOPビジネス=途上国開発」と結びつけることは出来ない。
2. BOPビジネスが儲かるわけじゃない
外山氏の例え話を借りれば、銀行は、同じ1億円を貸すならば、①「10000人に1万づつ貸付ける」より、②「一人に1億貸付ける」方が銀行は儲かる。なぜならコストが圧倒的に低くすむから。しかしながら、BOPビジネスは①のビジネスモデル、しかも、先進国と比べ物にならないリスクやコストを必要とする。本当に儲かるか?一般的に期待されているほどBOPビジネスは儲からないと見るのが妥当といえる。実際、BOPビジネスの成功例は限られており、その限られた例の何倍もの回数の「BOPビジネスコンファレンス」的な会議などで講釈を述べるコンサルタントや先生と呼ばれる人達しか儲かってないんじゃないだろうか。
3. BOPビジネスで生活が向上するのは貧困層じゃない
ICT関連サービスを貧困層へ提供する場合、結局、サービスにアクセス出来るようになっても、それ以外の能力が低くてはメリットを享受できない。メールやSNSサービスが格安で提供されても、そのサービスのメリットを享受するには、文字の書き方といった基礎能力から、文書の書き方やメッセージのアピールの仕方、アイデアの見せ方といったプレゼン能力までが要求される。インターネットでは、その大量情報から真に役立つ情報を見極める情報リテラシーも必要だ。結局、識字レベルや一般教育レベルが低い貧困層は、取り残され、そういったサービスを利用・活用出来る層との格差が広がるばかりになってしまう。
上記のほかにも、外山氏の話ではもっと多くの内容があったけれど、自分の中で簡潔にまとめるとこんな感じになる。
さらに、同氏のブログ上では、このほかにも、非営利団体の事業はサステイナビリティが低いからプライベート企業の出番が期待されている点についての反論(持続性のある非営利団体もちゃんとある)や、教育や医療など絶対的に民間企業だけに任せて上手くいくことがない分野がある点などもも言及されている。
個人的には、BOPビジネスに対してポジティブな風潮があるなかで、警告を鳴らしている同氏の意見に賛同できる(特に1や3の点)。しかし、一方では、こういった課題を打破した上で成功するのがBOPビジネスなんじゃないかとも感じる。特に2の点については、既存のビジネスモデルを元に考えれば、その通りであるものの、既存のビジネスのやり方を変えるイノベーションこそがBOPビジネスであり、そこに価値があると考えられる。同氏も話のなかで、「とは言え、成功しているBOPビジネスはある」とグラミンフォン等の成功例を挙げていた。BOPビジネスは神話じゃないということを認識した上で、日本企業が参入してBOPビジネス成功モデルを作ることを期待したい。
コメント
外山氏の話はなるほどと思います。ただ、古い援助機関の中から眺めると、やはりBOPビジネスはとても魅力的です。旧来の援助におけるドナーと被援助者の関係は対等ではなく、被援助側の正確な情報がドナー側にフィードバックされることはない。Bop2.0になりえないのが援助の世界で、そして正確な現場の情報なくして事業の継続的な成功もありえない。消費者側のフィードバックをとことん追及して成功したセブンイレブンのように、ビジネスは消費者とのコミュニケーションなしでは成り立たないし、継続的な社会や経済の発展はビジネスの成功の積み重ねよってしかもたらされないと思います。
リスクは決して小さくないし、簡単に利益が出せる分野ではないことも理解した上で、より多くの起業家がBOPビジネスにチャレンジし、旧来の援助機関が効果的には成し得ていない「貧困の削減」「貧しい人々により大きな自由と選択」をもたらしてくれる事を期待します。援助機関はそうしたビジネスを支援することに自身の役割を変えていかなければならないのかもしれません。
HIROPAさん
コメントどうもありがとうございます。私もHIROPAさんが指摘するように、企業がリスキーなBOPビジネスになるべく抵抗なく参加できる環境を整えたり、適切な情報提供をしていくことが、これからの援助機関に必要なことだと思います。以前、「途上国ビジネスの鍵はパートナー」というタイトルでも同様のことを書いてみました。
http://ict4djapan.wordpress.com/2010/04/18/%E9%80%94%E4%B8%8A%E5%9B%BD%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%82%B9%E3%81%AE%E9%8D%B5%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%81%AF%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%8A%E3%83%BC/
途上国政府やNGOなどとネットワークを持つ援助機関が、企業の現地パートナー探しに一役買うことで、企業のBOPビジネス参入障壁を一つ下げることが出来るのではないかと思います。
[…] そんな思いで首都アクラに戻り、ICT4Educationってのは未だ幻想なんですかねぇ?と思いつつネットを見ていたら、Kentaro Toyama(外山健太郎)氏が最近出版された本を発見。早速Kindleで購入して読み始めました。以前、このブログでも紹介させてもらったことがありますが、Kentaro Toyama氏はインドのMicrosoft Research副所長として2004年から2010年まで途上国におけるICT利活用の可能性を探求されていた方。今はアメリカの大学院の研究員になっています。「Geek Heresy: Rescuing Social Change from the Cult of Technology」というこの本は、Technology=Salutationじゃない!という主張を軸に、書かれている(と思う。まだ読み始めたところで全部読めてないので…)。 […]