ども、Tomonaritです。「決定版 ビットコイン&ブロックチェーン」(岡田仁志著)という本を読みました。凄い分かり易く、またビットコインやブロックチェーンが良いとか悪いと言う視点や中央集権より分散化が良いというような視点を排除し、とてもニュートラルな立場で書かれている点に好感が持てました。この本のことは、また別の機会に詳しく書きたいと思います。今回はこの本を読んでいて気づいた点から、ブロックチェーンを使った土地登記システムについて、思うところを書いて見ます。
ブロックチェーンを使った土地登記
途上国では土地登記制度が日本のようにきちんと整備されていないことが多いです。そこで、改ざんがほぼ不可能で信頼性、透明性が高いブロックチェーンを使って土地登記をする試みがいくつかの国で行われています。例えば以下。
- ガーナのBenBen:
2017年1月、ガーナで土地登記にブロックチェーン技術を活用する取り組みがありました。ガーナでは、紙ベースの土地登記の手続きに長ければ2年かかる場合もあり、手続きが完了した後も、所有権を巡ってのトラブルが相次いでいました。ガーナのスタートアップ企業であるBenBenは、ブロックチェーン技術を活用した登記証明のデジタル化の実現を目指しています。(参照元:Blockgeeks「ブロックチェーン技術を不動産分野の土地登記に活用した事例」)
- ガーナのBitland:
ガーナでは2016年より Bitland というプロジェクトが、土地登記を記録する独自のブロックチェーン Bitland ネットワークを用いて土地紛争の解決を促進している。同プロジェクトはこれまでにクマシの28地域で試行され、オーガナイザーは、ブロックチェーン技術の性質により、第3者が削除、変更することが不可能な方法で市民が土地所有権を記録できるようにすることで、同地の違法強制立ち退きと汚職を減らすことを期待している。(参照元:The Bridge「アフリカにおけるブロックチェーンの大きな可能性」)
- ウクライナ政府がマイニングプールのBitfuryと提携:
ウクライナではブロックチェーンをベースとした電子政府「eGovermentプラットフォーム」の構築計画を明らかにしており、マイニングプールのBitfuryと提携して事業を進めています。2017年6月21日、ウクライナ政府はブロックチェーンを用いた土地登記システムの実証実験について発表しました。(参照元:Blockchain Business Community「ウクライナ政府、10月にブロックチェーンによる土地登記実証実験を開始」)
- ブラジルのUbitquity:Ubitquity LLCは最近ブラジルで、不動産の所有権をブロックチェーン上に登記するという試験的なプロジェクトをローンチしました。デラウェア州を拠点とするスタートアップのUbitquity LLCは、Coluが開発したカラードコインのプロトコルを活用して、登記簿の安全性を確保するプラットフォームを運用しています。ブラジルの不動産登記局は、紙ベースの登記簿を廃止して、完全にコンピューターベースの記録管理へと移行したいと考えています。その理由としては、アクセスの容易さ、正確性の向上、スケーラビリティと透明性の高さなど様々な要素が挙げられます。(参照元:CryptoStream「ブラジルが不動産登記におけるビットコインソリューションを試験的に採用へ」)
とりあえず4つあげてみましたが、もっと色々とあります。
土地に関する課題
途上国での土地登記や売買に関する課題は比較的容易に想像がつきます。紙で煩雑に管理されているのでその信頼性とか、役人が賄賂を要求してくるとか、そもそも登記せずにその土地に住んでる人がいるとか、そのため税金が取れないとか。
また、ガーナに住んでいたとき、ガーナ人の同僚から聞いた話が印象的でした。ガーナでは伝統的な統治制度として「チーフ制」というものがあります。簡単に言えば、チーフはその地域の首長みないな存在。チーフのなかにもランクがあって上のチーフになると、移動時にはお付の人が10人位お供するほど。でも、中央政府、州政府、郡政府といった政治の体制をは別モノ。前置きが長くなりましたが、ガーナ人同僚から聞いたのは、誰か(例えば実業家等)がある土地の使用権なり所有権なりを法的手続きを経て行ったとしても、チーフからのお墨付きを得ないと実際にはその土地を利用する際には問題が起きる、というもの。また、その逆もしかりで、チーフが「あの土地に向上建設して良いよ」と言っても、法的手続きをしようと思ったら、そのチーフが所有している土地じゃない、というようなことも起こりえる。
ついでに私自身の経験を言うと、エチオピアで土地を買ったことがあります(正確には、私の奥さん(エチオピア人)が買いました)。その際、ブローカーから選択肢として提示されたのが、「登記済みの土地」か「未登記の土地」かどっちにする?ということでした。「未登記の土地」・・・? これは、登記されてないけど、長年住んでる人がいて、その人からその土地を買うということでした。さすがにハイリスク過ぎて、「登記済みの土地」にしました。
売買契約を行い、役所にも登記しました。登記の際、測量にくる役人に小遣いを渡さないといつまでたっても測量に来ないというので(小遣いをくれる依頼主のところが優先される)、小遣いを渡して測量に来てもらいました。
そして、その1年後、土地を売ったオーナー(男性)の奥さんから「あの土地を売るとは私は認めてない!」とのクレームが。「土地は夫婦のものなので配偶者の了承を得ないで行った取引は無効に出来る」との主張(なお、エチオピアではそういう商習慣なのか、それともその土地がそうだったのかは不明確です)。「そんなん、旦那さんとあんたの問題でしょ!」と思いつつも、結局、その方は小遣い稼ぎ目的だったので、小額を支払って解決しました。
と、このように色々な課題があります。
ブロックチェーンで解決出来るのか?
ブロックチェーンを使えば以下のようなメリットはあると思います。
- 登録作業がスピーディになる
- 登録された情報が改ざんされない
- 紙だと(意図的でも偶然でも)紛失されるリスクがあったり、サーバでデータを一元管理してるとデータがなくなるリスクがありますが、分散型ならそのリスクが低減する
- 誰でも参照出来るので透明性が担保できる(プライベート型のブロックチェーンでは、運用方法によってこのメリットはなくなる可能性もあり)
一方、以下の課題もあると考えられます。
- 法律でブロックチェーンへの登録がされるルールに統一する必要がある
- そもそも土地登記制度が十分に整備されない国で、最初の登録がちゃんと出来るのか?
- 登録する人の入力にミスがあったらどうするのか?
- 上記で述べたガーナやエチオピアの話に出て来る課題は解決出来ないのでは?
こうして見ると、メリットは実はブロックチェーンでなくとも実現は出来るもに思えます。ただ、それがブロックチェーンならより効率的に出来るというメリットはあるのかもしれません。また、新しいテクノロジーをどう活用するかを積極的に試行する意味では、「ブロックチェーンでなくとも実現出来るならやらない方が良い」という結論ではないと思います。
また、課題としては特に最後のポイントが一番重要だと思っています。人びとが本当に苦労しているのは、こういう点だよなあ…。
より具体的な議論が必要
「ブロックチェーン×国際協力」の情報収集をしていると、取組みの概要を説明したニュース等は豊富にあるものの、サービスや取組みの中身に深く突っ込んだ情報があまりに限られていると感じます。ブロックチェーンといったときに、パブリック型、コンソーシアム型、プライベート型のどれなのか?や承認方法はどういうものなのか?という点、また、個別具体的にどの課題を解決する狙いなのか?(上記の例で言えば、登記作業の効率化なのか、それ以上の面倒くささの解消まで狙うのか?)という点も含めて議論していかないといけないな、と感じました。(これ、この本の受け売りなんですが、本当にそう思います)
コメント
意図的な記録の改竄が特定個人の意思ではやりにくい、という点ではブロックチェーンに期待しています(これはスマートコントラクトの範疇かな?)。
小遣い稼ぎは別にしても、歴史的にモメゴトを引きずって故人が絡みまくって恩讐が込められた土地(苦笑)の場合は、その時点で生きている利害関係者による政治的な判断ではどうしようもないものがあるのでしょう。
記事中のエチオピアのような事例は、スケールこそ違え日本でも同じようなことが起こっているとも聞きます(日本では利水権や一坪地主が絡むと特にヤバい)。
地籍を全てブロックチェーンに、なんてことになると、このような登録事項確定時における解決の手段や方法を事前に作っておかないと(つまり利害関係者の納得のみを最終判断基準にしないようにしてしまう)、役所のマジメな現場の人間がマジで死ぬか、あるいはその抜け道に汚職が入り込んできそうですね。
なお、記事中の『土地登記制度が日本のようにきちんと整備されていないことが多いです』については、日本も十分ヤバいです。いまだに土地購入時には隣接世帯と一緒に(自腹で業者呼んで)境界確定しますしね。
加えて、日本の場合は、所有者不明の土地が問題化してますね。お役所の縦割り仕事の矛盾が、再開発や相続、固定資産税算定時に可視化しているのでしょうけど。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/291128/pdf/shiryou5-1.pdf
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shoyushafumei/dai1/gijiroku.pdf
意図的な記録の改竄が特定個人の意思ではやりにくい、という点ではブロックチェーンに期待しています(これはスマートコントラクトの範疇かな?)。
小遣い稼ぎは別にしても、歴史的にモメゴトを引きずって故人が絡みまくって恩讐が込められた土地(苦笑)の場合は、その時点で生きている利害関係者による政治的な判断ではどうしようもないものがあるのでしょう。
記事中のエチオピアのような事例は、スケールこそ違え日本でも同じようなことが起こっているとも聞きます(特に日本では暗黙的な利水権や一坪地主が絡むと実にヤバい)。
地籍を全てブロックチェーンに、なんてことになると、このような登録事項確定時における解決の手段や方法を事前に作っておかないと(つまり利害関係者の納得のみを最終判断基準にしないようにしてしまう)、役所のマジメな現場の人間がマジで死ぬか、あるいはその隙間に政治的な汚職が入り込んできそうですね。
なお、記事中の『土地登記制度が日本のようにきちんと整備されていないことが多いです』については、日本も十分ヤバいです。土地購入時には隣接世帯と一緒に(自腹で業者呼んで)境界確定しますしね。
加えて、日本の場合は、所有者不明の土地が問題化してます。お役所の縦割り仕事の矛盾が、再開発や相続、固定資産税算定時に可視化しているのでしょうけど。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/291128/pdf/shiryou5-1.pdf
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shoyushafumei/dai1/gijiroku.pdf
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