国際開発学会にて発表 ~ GIGAスクール構想とOLPC比べてみた!~

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サムネイル:GIGAスクール構想の実現について(文部科学省)及び、About OLPC (OLPC)を加工して作成

マンチェスターから「2023年明けましておめでとうございます!」石けんです。今回は、Kanot(狩野)さんと参加した国際開発学会(12月3日)一般口頭発表のご報告です!当日は、私がマンチェスターで働き始めた関係で、Kanotさんに発表いただきました。発表内容は、私の修士論文「Is the GIGA School Prgramme in Japan on the Same Track with One Laptop Per Child in the Past?: Comparison, Analysis and Recommendations for Effective ICT Integration and Improved Learning Outcomes」をベースに要約・日本語訳した「日本のGIGAスクール構想はOne Laptop per Childと同じ道を歩むのか? 」です。
💡私の修士論文執筆までの大学院生活については、過去のブログをぜひご覧ください:ICT4D進学・留学お悩み相談Q&A(一社ICT for Development)

まずは、本ブログを最初から最後まで読む時間が無い方に向けて、要点をまとめてみました。

本研究は、日本のGIGAスクール構想と、途上国を中心に実施されたOLPCを比較し、GIGAスクール構想の改善に貢献することを目的としています。学力低下や教育とICTの統合に苦戦してきた日本は、2019年12月から子ども1人に1台のノートPC/タブレットを配布する「GIGAスクール構想」を推進しています。また、世界的に見ても、2000年代半ばからデジタル格差の解消や教育の質の向上のために、多くの国がOLPCや同様の教育へのICT介入を採用してきました。しかし、OLPCは、生徒の学習に負の効果がある、あるいは効果が無いなど、研究者の間で長期的な議論が行われてきました。そこで、本研究では、情報システムのオニオンリングモデルを用いて、GIGAスクール構想とOLPCを比較しました。研究結果から、GIGAスクール構想は、技術中心的としばしば批判されるOLPCとは異なり、現在のニーズに政治的に裏打ちされ、GIGAスクール構想の設計と実施方法は、教育用アプリケーション、ハードウェア、保守体制、インターネットや充電ロッカーの設置、外部ICTアシスタント、教師へのトレーニングなど、オニオンリングの外側と内側(=社会技術的)両方の層に考慮されていることが明らかになりました。しかし、GIGAスクール構想は、自治体や学校に共有している仕様書を生徒の実際のニーズに合わせて修正すること、現在の教員の過度な負担を減らすこと、ハードウェアのメンテナンス体制と保護者の協力を促進すること、性別、地域、学校名などの詳細なデータを収集することが必要だと考えます。そうしなければ、同構想はOLPC同様に目的を達成することができず、さらに、既存の社会経済的・学力的格差を増幅させることになりかねません。

それでは、研究の詳細に移りましょう。論文の構成は以下の通りです。110ページの英語論文を6ページの日本語論文にまとめるにあたり、重要なポイントのみを抽出しました。本ブログでは、可能な限り、元々の論文の内容を含めて、ご報告します。

1. はじめに

情報通信技術(ICT)は、世界各国の教育における諸課題(①リソース不足、②教師のレベルの低さ、③COVID-19等による物理的な通学制限)に対処する重要な役割を果たすことが求めれてきました。その例として、日本では2019年から「GIGAスクール構想」、世界では、途上国を中心に2005年から「OLPC」と呼ばれる小中学生にICT端末を1人1台配布するプロジェクトが行われています。

GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想とは?当初、ICT端末を活用して、個々のニーズに合わせた教育の実現や生徒と教員の能力最大化、主体的・対話的な授業への転換等を目的に、全国の小中学校の生徒へのノートPCやタブレットといったICT端末の配布を開始。2019~2023年での端末配布完了を目指していました。しかし、2019年末からの感染症対策による教育格差の懸念とオンライン授業の緊急性が、政府による補助金支援を促進。結果、ICT端末の普及率は、2022年3月までに、98.5%に達すると予想されています。さらに、同構想の対象は、小中学生から高校生にまで拡大しました。 
💡詳細はこちら:GIGAスクール構想の実現について(文部科学省)

OLPC(One Laptop Per Child)とは?:マサチューセッツ工科大学のネグロポンテ教授が提唱し、2005年から始まった同プロジェクトは、15年以上が経った現在も続いています。これまでに、60カ国以上の小中学生300万人以上に、安価で耐久性のあるXOと呼ばれるノートPCの配布を実施してきました。一方で、ノートPCの購入・配布方法、サポート・メンテナンス体制、教師への指導、教育用アプリケーション等は標準化されておらず、国・地域によって異なってきたことが報告されています。その結果、OLPCは、過度に技術中心的であると度々、批判されてきました。
※修士論文では、中南米、アフリカ、東南アジアにおけるOLPC又は、類似プロジェクトに関する研究をレビューしました。

OLPCに参加した生徒は、確かにコンピュータへのアクセスの増加を示す一方で、複数の研究者が、OLPCが学生の成績に効果がないまたは、低下させると報告しました。さらに、ノートPCを与えられた生徒は、ゲーム等の勉強以外の活動に時間を費やす傾向が強く見れれました。一方、OLPCが特定の学年・教科において、学力の向上をもたらしたとする報告もありました。このように、OLPCは、生徒の成績や生徒の家族の家計の改善を約束するものではなく、一定の条件下でプラスの効果が生まれる可能性があると示されています。そして、多くの学者が、OLPCを調査し、子どもたちへのノートPC提供だけで終わらない介入を推奨しています。
💡OLPCについて過去のブログでも取り上げています:OLPCは失敗例の見本なのか?(一社ICT for Development)

以上の通り、国際開発において、OLPCを筆頭としたICT端末配布が、生徒の学力やその他の望ましい効果に繋がるかは疑問視されてきました。この現状を踏まえ、本研究は、日本版OLPCと呼ばれることもあるGIGAスクール構想とOLPCに関する文献をレビューして差異を抽出し、開発途上国におけるOLPCの経験・教訓をもとに、GIGAスクール構想の現状の評価および今後の提言を行いました。

2. 研究手法

本研究は、GIGAスクール構想と技術中心的と評価されるOLPCに関する調査・研究を文献調査し、マンチェスター大学のRichard Heeks教授が提唱する情報システムのオニオンリングモデルを用いて、分類・比較しました。ICTを活用した国際開発プロジェクト成功させるには、ハード面(技術面)だけでなく、ソフト面(社会面)への考慮が必要です。オニオンリングモデルが示すハードとソフト両側面で考慮すべき項目は、ICTの核となる情報(データ、知識)に加えて、以下の通りです。

💡オニオンリングモデルについて過去のブログでも取り上げています:「デジタル技術と国際開発」第1回オンラインコース開催!オニオン・リング・モデル×遠隔教育から見えてくるものとは…?(一社ICT for Development)

GIGAスクール構想に関する定量的・定性的データは、2018年(GIGAスクール構想開始の1年前)から2022年8月末までの日本政府の調査結果や政策文書などの二次資料から収集しました。これらに加え、GIGAスクール構想が現在進行中であり、ICTは急速に発展し続けている点を考慮し、ネット上の新聞や統計も用いています。

3. 結果

本研究では、オニオンリングモデルを構成する要素の内、以下の項目でGIGAスクール構想とOLPCに関する調査・研究結果を比較しました。

比較した項目をハイライトしています。
・情報:データ、知識
・技術:ハードウェアソフトウェア、テレコム、紙媒体等
・情報システム:人、プロセス
・組織:組織内政治、組織戦略管理体制、組織文化、リソース、その他の関係者
・環境:政治、経済、社会・文化法制度技術

結果は以下の通りです。

技術:ハードウェア
 OLPCのXO(ノートPC)のデザインは、小さなキーボードやおもちゃのようであり、一部の生徒や教師が不満を持ち、魅力を感じていませんでした。また、バッテリーは数時間しか保たないケースが散見されました。さらに、CPUとメモリ不足により、生徒が複数プログラムを実行したり、複数のウェブページに同時にアクセスしたり、アプリケーションの(アン)インストールすることが困難だったと報告されています。一方で、文部科学省が2020年3月に公表したGIGAスクール構想の実現標準仕様書によると、GIGAスクール構想で推奨されるノートPCやタブレットは、過去5年以内に開発されたもので、画面の大きさやバッテリー寿命等は、大人が使うノートPCと同等でした。また、技術発展により、ストレージやメモリも増加しています。

技術:ソフトウェア
 OLPCでは、教師が、XOのオープンソースベースのOS(Linux)に不慣れであり、利点を最大限に生かすことができなかったことが報告されました。さらに、OLPC実施国・地域において、Linuxベースのコンピュータを使った高等教育や仕事の機会はほとんどなく、将来の仕事のための実践的なトレーニングツールとしての役目をXOが果たせるかどうかは、各国政府が不安視したポイントだったようです。GIGAスクール構想の実現標準仕様書では、ハードウェアと同様に、ノートPCはMicrosoft WindowsまたはGoogle Chrome OS、タブレット端末(iPad)はiOSであることが規定されています。それらの内、学校内で最も利用されていたのはChrome OS(約40%)でした。しかし、2021年の日本における各OSのシェアを見ると、パソコンはWindows(約70%)、タブレットはiOS(約70%)がシェアの多くを占めています。実際に、Chrome OSのノートPCを配布された学生は、ChromeのソフトウェアやUIがWindowsと異なることに苦労したと訴えていました。すでに自宅でWindows PCに慣れている学生にとっては、提供されたノートPC/タブレットの新しいUIや操作に慣れるには時間がかかるかもしれません。さらに、生徒が、GIGAスクール構想下で身につけた操作技術(Chrome)を、必ずしも将来(Windows)に生かせるとは限らないようです。
 さらに、OLPCの研究では、電子教科書だけでなく、各教科の特徴に合わせた、自己学習や共同作業が行えて、生徒を惹きつける教育用アプリが推奨されています。ただし、GIGAスクール構想では、デジタル教科書、ドリル、コラボレーションツールの導入はオプションとされています。

 ハード・ソフトウェアに関して、GIGAスクール構想下の生徒からは、主に、端末の機能面や画面サイズ、重さなどについて不満の声が上がっています。さらに、生徒からは、もっと楽しいアプリや、より高度な学習アプリへの要望が聞かれました。また、ある教員は、生徒がよりゲーム性の高い数学や英語、プログラミングなどのアプリを使うために、GIGAスクール構想の端末ではなく、私物のタブレットで熱心に勉強していると報告しています。

情報システム:人、プロセス
 OLPCの失敗の一要因として、教員のスキル不足や研修の不十分さを挙げられる研究が多く存在します。日本においては、GIGAスクール構想以前から、教師の「一般業務」や「生徒への安全なICT利用指導のためのICT活用能力」は比較的高い一方で、「自学自習や協働を生徒に促すためのICT活用能力」は低い状況でした。また、2018年からノートPC・タブレット導入が進む2021年にかけて、教師のICT活用能力に大きな変化は見られません。

出典:学校における教育の情報化の実態等に関する調査(平成29~令和2年度)(文部科学省)からを加工して作成


 加えて、教師と同様に、家庭では保護者が重要な役割を担っています。なぜなら、OLPCに参加した生徒は、デジタル端末を勉強以外の目的で利用する傾向が強く、親の監督と手助けが無ければ高い学習効果が得られないとされているためです。しかし、GIGAスクール構想では保護者から、ICTリテラシー不足により子どもが何をしているのかわからない、という声が聞かれました。さらに、学校がデジタル端末に関するルールや情報を共有しないことに不満を持つ保護者もいるようでした。

組織:組織戦略
 技術中心的なOLPCでは、端末提供が教師の能力改善に直結すると考え、教員研修の重要性は軽視されてきました。さらに、過去の研究では、デジタルツールの使い方に関する内容よりも、デジタルツールを使ってどのように教えるかという内容を研修では優先すべきだと主張されてきました。日本では、GIGAスクール構想の開始後、教師向けのICT研修は飛躍的に増加しています。加えて、文部科学省は、紙やビデオによる教材も提供してきました。これらは、端末の一般的な使用方法に留まらず、歴史、数学、理科、音楽、体育など、各教科において端末をどのように活用するか、より実践的な内容となっています。しかし、前項で示したように、教員のICT能力向上には繋がっていないようです。
 文部科学省は、2020年度中に研修に1回以上参加した小中学校の教員は全体の4分の3以下であり、教師1人あたりの平均参加回数は2回であると公表しています。この結果は、何度も研修を受ける余裕のある教師がいる一方で、多くの教師がICTを効果的に授業に取り入れ、その恩恵を受ける方法を知らないことを示唆しています。

組織:リソース(時間)
 日本は諸外国と比較して、教師が校務に費やす時間が非常に長いことが報告されています。OECDの報告によると、2018年の日本の中学校教員の週平均勤務時間は56.0時間、小学校は54.4時間で、調査に参加した48カ国の中で最も長い結果となりました(中学校の平均は38.3時間)。日本の中学校の場合、2013年から2018年にかけて平均勤務時間が2時間増加し、事務処理などの庶務や部活動の指導などの課外活動に関する業務が他国よりも多くの時間を消費していることがわかりました。

組織:管理体制
 OLPCでは、端末の不具合や故障の責任を教師や生徒、保護者に負わせたため、生徒の端末持ち帰りが許可されないという事例が報告されてきました。一方で、GIGAスクール構想において、文部科学省は、端末調達時に、1年以上のハードウェア保守を含めることを推奨しています。しかし、自宅での端末故障について、事故か故意かにかかわらず、保護者に責任を負わせる自治体もあるようです。

組織:リソース(資金)
 安価で高い耐久性が売りのXOでしたが、多くの途上国は、拡大するOLPC関連の支出に耐えることができませんでした。OLPCが提示したコストは、端末配布、管理、教師トレーニング、ソフトウェア、サポート、インフラ、デジタル教材等を考慮していなかったのです。GIGAスクール構想では、ノートPC/タブレットの価格は5万円程度と想定されており、日本政府から自治体に対して、1台あたり4.5万円を上限として補助金を出しています。そのため、自治体や学校の負担は軽微であると言えます。しかし、この補助金では、インフラ、有償ソフト、有償保守サポート、バックアップ用ノートPC、トレーニング費用などの関連コストはカバーされていないようです。
 インフラに関しては、LANや充電ロッカーの設置費用の半分が国から補助されます。ソフトウェアに関しては、主要なハードウェアプロバイダー3社(Microsoft、Google、Apple)が、ワープロ、表計算、プレゼンテーションなどの必須ソフトウェアを無償で提供しています。また、経済産業省がEdtech企業のサービスを教員や生徒のノートPC/タブレットに実験的に導入するための補助金を出しており、この補助金により、学校は無料で導入できる一方、教員は関連する講義を受講することができるようになっています。
 しかし、ハードウェアの維持管理が将来的な学校の負担になる可能性が危惧されます。文部科学省の標準仕様書では、保証期間は1年以上、リース期間は5年と例示されています。これは、最長で4年間の保守・修理費用が学校に課される可能性があることを示しています。さらに、調達後5年程度でノートPC/タブレット端末の買い替えや更新が想定されます。しかし、文部科学省は、初年度以降のLANや充電ロッカーのランニングコストは、GIGAスクール構想ではなく、2022年度までの教育ICT環境整備5ヵ年計画の補助金で対応する必要があると回答しており、ノートPC・タブレットのトラブルシューティングを担当するGIGAスクール運営支援センターの補助は2024年度までとしているため、それ以降の維持管理費の捻出が学校にとって喫緊の課題となりそうです。

環境:技術
 日本の技術環境は、OLPCが行われた途上国に比べて成熟しています。OLPCで問題視された電力に関しても、日本が経験した停電は年間0.23回と、他の先進国よりも少ないことが報告されています。電力に関連してOLPCでは、大量のノートPCを充電するコンセントの不足が厳しい制約となりました。この点については、GIGAスクール構想以前の日本の状況は、OLPCと似ていたと言えます。しかし、GIGAスクール構想によって、自治体が補助金を利用した充電保管庫の調達が可能になった結果、充電保管庫の数は、前年度に比べて約6~7倍に増加しました。
 電気に加え、インターネット環境は、 OLPCの研究で頻繁に述べられる障害の1つです。GIGAスクール構想以前は、小中高のほぼ9割の教室に有線LANが敷設される一方で、無線LANは約3割の教室にしか設置されていませんでした。そのため、ほとんどの学校で、生徒によるインターネットへの同時接続は難しかったと推測されます。GIGAスクール構想では、ネットワーク機器や無線LANの設置にも補助金を出しており、2021年には学校の無線LANが80%近くまで普及しました。しかし、教師や生徒からは、多くの端末がインターネットに接続した際のデータ通信の遅延が指摘されています。

出典:学校における教育の情報化の実態等に関する調査(平成29~令和2年度)(文部科学省)からを加工して作成

 加えて、GIGAスクール構想は、家庭でのインターネット接続についても考慮しているようです。標準仕様書上、ノートPCやタブレットは、学校外でインターネットにアクセスできない場合を想定し、LTE経由でも機能するように定められています。さらに、生活保護で暮らす家庭は、ICTを教育利用することで発生する通信費を請求できます。

環境:政治、法制度
 国のトップの交代・注力政策の変化によりわずか数年でOLPCを終了させた国々とは異なり、GIGAスクール構想は確固とした政治的意図に則って実施されていると言えます。日本では、教育へのICT利活用推進が2019年に法制化されており、教育の個別最適化、プログラミング学習の必修化、将来の自然災害や感染症への対策を目的・契機として、生徒1人1台のデジタル端末の配布は継続すると考えます。

環境:社会・文化 
 最後に、一部の国のOLPCでは、男女間のノートPCの使用頻度が異なり、その結果、学力格差が生じたと報告されました。しかし、GIGAスクール構想のタブレット端末に関する生徒への調査では、性別の欄はなく、ノートPCやタブレットの利用による性別による差を把握することはできませんでした。

4. 考察

前章による比較結果を踏まえ、GIGAスクール構想の改善に向けて、以下4つの提言を行いました。既に民間企業やメディアが同構想へのフィードバックを行っていますが、過去事例(今回は、OLPC)を考慮することで、改善しなかった場合の負の効果を含めて提言ができたと考えています。

標準仕様書の改訂:文部科学省が作成したハード・ソフトウェア標準仕様の改訂が必要と考えています。前章で取り上げた複数の調査において、ハードウェア(端末スペックやインターネット接続)及び、ソフトウェア(教育用アプリケーション)が、生徒のニーズを必ずしも満たしていないことが指摘されていました。GIGAスクール構想で提供される端末の不十分さは、自宅のパソコンでより高度な学習を楽しめる生徒と代替パソコンを持つことができない貧困家庭の生徒間の格差の助長する危険があると考えます。

教員の研修時間確保のための負担軽減:教員の負担を軽減し、研修に参加する時間を確保する必要がです。教師にデジタル端末を配布しても、教師たちが、効果的にそれらを授業に統合し、生徒の学習を改善する準備ができているとは限らないことは、OLPCでも明らかになっています 。GIGAスクール構想下での研修増加が示す通り、日本政府は、デジタル技術を活用するための教員の専門能力開発の重要性を認め、教員のICTスキル向上を試みてきました。しかし、教員一人当たりの研修参加者数やOECDの報告通り、日本では教員の労働時間が比較的長く、研修回数は増えても研修に割く時間がないことがわかります。政府や学校は、既存業務と支援システムといった効率的な方法の置き換えや、不要な業務の廃止を検討すべきだと考えます。

生徒の学校外での学習機会の確保:生徒の学校外での学習機会の確保も重要でです。緊急時かどうかに関わらず、デジタル端末の持ち帰りを許可することは、貧富の差による教育格差の是正や自立学習の促進、学校外で収集した教育データによる個別学習の実現が期待できます。しかし、GIGAスクール構想下では、地域や学校によっては端末の持ち帰りが許可されていないことがわかりました。OLPCでの事例を参考に、教師や保護者の代わりに政府や学校が、事故による故障等への補償を継続して行うと同時に、適切な保守体制の維持は必須だと考えます。加えて、学校と保護者、特に不利な立場にある子どもの家族との協力を強化すべきです。低所得の家庭はパソコンを以前から所有しておらず、子どもを監督・サポートできない場合が多いため、そのような家庭に対して、集中的な支援が必要でしょう。

性別や地域差などを考慮した評価及びICT活用方法の検討:今後実施されるであろうGIGAスクール構想の評価については、性別や地域差を考慮した調査を行い、浮かび上がってきた課題に個別具体的に対応すべきだと考えます。OLPCに関する研究では、性別によって、ノートPCの利用と学力向上に異なる効果が報告されました。にもかかわらず、本研究において、GIGAスクール構想が、ICT端末の使用状況の男女間の差を考慮しているような事実は確認できませんでした。さらに、各調達の具体的な仕様は都道府県ごとに異なり、ルールは学校によって異なっているようです。したがって、GIGAスクール構想は、以前からICT活用を推進してきた学校と新たに始めた学校とで、生徒の教育機会の格差を拡大させる可能性があります。直近の教育関係者や生徒を対象とした調査では、具体的な地域や学校名は収集されていません。今後は、地域や学校名など、より詳細なデータを収集して、その地域の社会経済的状況ごとの成果を分析することで、ウェブサイトでのモデルケースの共有といった支援(プル型)だけでなく、それぞれの地域や社会経済状況に合ったICT技術の活用方法を導出すること(プッシュ型)も可能になるのではないでしょうか。

5. (おまけ)発表への講評と今後

国際開発学会での一般討論発表後、座長・ディスカッサントの教授からは、開発経済学の観点にて「日本は、基本的にICTへのアクセスが非常に高い。一方で、途上国においては、OLPC以前の家庭での端末保有率は70%程度だったのが、OLPC開始後は100%に劇的に改善した。このような背景・初期条件の違いを踏まえた適切な方法で、インパクトを抽出する必要がある。」と、今後の研究で注意したいコメントをいただきました。

また、修士論文の結論では、本研究の至らなかったポイント(Limitation)を明らかにし、将来の研究に向けた提言を行う必要があります。本研究における最初のLimitationは、本研究の結果と考察が、必ずしも学生の学力向上につながるとは限らないことです。本研究は、多大な予算と労力が費やされているGIGAスクール構想が、OLPCの失敗例と同じ轍を踏まないように、提言を行いました。しかし、例えば、2022年や2025年のPISA(OECD生徒の学習到達度調査)等でGIGAスクール構想下の学生の学力向上が報告されたとしても、GIGAスクール構想のどの構成要素が学力向上に貢献したかを正当に評価することは容易ではありません。この点については、自治体毎の端末利用・運用の違いが、どのような結果(学力向上)の差に繋がったのかといった調査も一案かと考えています。

次に、本研究の知見と提言は、過去のOLPCに関する研究の範囲に限定されます。GIGAスクール構想は、OLPCとは異なる目的や技術の進歩により、より多様な課題があるはずです。本研究では、その全てを網羅することはできず、全体の一部を取り上げたに過ぎません。
※例えば、データ・セキュリティへの懸念は、GIGAスクール構想では大きな課題の1つですが、OLPCの既存研究ではほぼ触れられていないため、本研究でも取り上げませんでした。

最後に、研究データについても改善できると考えています。GIGAスクール構想に関する学校へのアンケートや学校における情報化の実態等に関する調査のデータは、調達ユニットや学校などの詳細な情報を含んでいませんでした。したがって、今後の研究では、特定のグループを対象とした調査、インタビュー、フィールドワークによる一次データを収集することも一案です。また、修士論文提出(2022年9月)後、2021年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果が公表されました。同データで 3. 結果を更新する必要がありそうです。


以上、国際開発学会の参加報告(兼、修士論文の報告)でした!私個人として、本研究の学びや発見を、論文上で終わらせず、どのように現場(日本?海外?途上国?)の改善に繋げられるかを考え中です。GIGAスクール構想に関わる民間企業に就職をして営業やカスタマー・サクセスとして関わるか?PhDに進んで研究者の立場から関わるか?などなど… ぜひみなさんからの感想・コメント・アドバイスをいただけると嬉しいです🙇‍♂️

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コメント

  1. Ozaki Yuji より:

    小学生(5年生、2年生x2)の子どもがいる、保護者の立場です。
    端末配布後の子供達を見ていると、様々な電子機器の取り扱いが明らかに丁寧になりました(笑)。不用意に衝撃を与えない、液体をブチまけない、充電に気を配るようになった、USBなど端子の抜差しが慎重になった、など。(これ、携帯電話普及後の発展途上国の人たちの振る舞い変化と似ているのが興味深い)
    学習の継続や外部リソースの活用という点では目に見えて効果を感じますが、ICTを活用した学力評価や個別進捗指導がなされていないこともあり、学力の向上という点では未知数です。このあたりは塾の方が進んでいるかも。
    従来から勉強は「やる人はやる、やらない人はやらない」でしたが、ICT活用では生徒個人の特性に加えて、家庭環境の影響がより強く可視化される印象を受けています。
    インターネット上では、現場の教員から「IT支援員がほしい」という意見を目にすることもありますが、作業時間がほぼ100%間接費用になってしまう(故に低賃金になりがちな)IT介護要員を増やしてどうすんのよ、という個人的感想を持っています。

    なお、現状の私が関与している在住外国人の日本語研修でも、コロナ禍で教室(公民館とか)での対面研修が難しくなったので仕方なくオンライン化したものが、コロナ後にも定着しそうな勢いです(交通費がいらない・家を出なくてもいい、ということが大きなメリットとされるのが何とも微妙…)。

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