ICT4D ―解決すべき課題とは―

ガバナンス

先日、このブログに以下の質問がコメントで寄せられました。

「途上国でのICT支援において、当該国政府が解決すべき問題にはどのようなものがありますか?また、それに対して日本の政府機関やNGOは何が出来るでしょうか?」

なんとでも回答できそうな質問だけど、回答が難しい質問でもある。かなり大雑把な質問だけど核心を突いている質問だと思う。そして、こういう質問にきちんと返事が出来るような人って凄いなぁと思うので、以下、自分なりに回答してみたい。

「途上国でのICT支援において、当該国政府が解決すべき問題にはどのようなものがありますか?」

まず、どんな「解決すべき問題」があるかを考えてみたい。
そもそもICT支援というものの位置づけは、農業支援とか教育支援とか医療支援とかといったものと違う。農業技術を高めるとか、教育や医療レベルを上げるということは、その国の発展や貧困削減といった途上国の開発に直結していると思う。一方、ICT分野は、ICT環境の改善やシステム導入が開発に直結し難い。例えば、途上国で電子政府を進めようとシステムを導入しても、それがダイレクトに開発には繋がらない。具体的にいうと、民主化やアカウンタビリティ改善のために市民参加用Webサイトや情報公開用Webサイトを構築しても、国民がそれらを利用するのに十分なスキルやインターネット環境や料金設定などがなければ意味がない。また、一部の金持ち層だけがそういったWebサイトを通じて参加出来るという市民参加でも意味がない。情報公開にしても、情報公開をする政府が正直な情報を掲載しなければ、Webサイトで情報公開してもアカウンタビリティは向上されない。そいうった意味では、そもそも国民の信頼を得ていない政府・政党の場合は、情報公開用Webサイト構築ではアカウンタビリティ向上は不可能である。つまり、ICTの活用・導入だけでは狙った効果は期待出来ない。もっと幅広い視野で課題を捕らえ、ICTはSolutionではなく、ツールとして活用・導入するべきである。以下の図はICTプロジェクトを取り巻く要因を示したものだが、このように「解決すべき問題」は広範囲に渡るといえる。

上記の図の説明として、例えば、インターネット利用して農業、医療、教育等の情報提供の場を都会から離れた農村部に与えるためのテレセンターを考えてみる。テレセンターを設立してネット環境も整えたが、実際は以下のような問題があるかもしれない。

  • ネットから入手出来る情報がそのコミュニティには有効でない(Relevance of Information)
  • 識字率が低く、ネット上に有効な情報があっても読めない(Language)
  • ネット利用のスキルが低く、有効な情報が見つけられない(Lack of Skilled Personnel)
  • ネットから情報がとれても、人から聞く情報しか人々が信用しない(Community Acceptance, Organisational Acceptance)
  • テレセンターを運営する資金がない(Financial Sustainability)

あくまでも例だけれど、このように色々な要因がICT4Dの取り組みには関係してくるので、「解決すべき問題」は多いし、限定するのは難しい。敢えて言えば、「ICT=Solution」と思っている人達に「ICTだけで解決できる課題はない」ということを理解してもらうことが最も「解決すべき問題」ともいえる。

次に、“当該国政府”が「解決すべき問題」という質問なので、“政府が”という視点で考えてみたい。ナショナルレベルでということになると、通信インフラ整備や通信に関連する規制やセキュリティ対策といったものが政府が取り組みべき課題と言える(逆に言えば、政府でないと取り組めない課題である)。以前、このブログでも述べたが、誰もが利用できる通信インフラ環境(物理的なものだけでなく料金や規制なども含む)が整っていなければ、ICTをツールとして活用しようにも活用できない。逆に、環境さえ整っていれば政府以外のアクター(民間企業やNGOなど)が、そのインフラを利用した便利なサービスを作り出してくれると考えられる。今は「ツールとしてのICT」から「インフラとしてのICT」に変化しているので、インフラ整備が“当該国政府”が「解決すべき問題」の筆頭に来るといえる(勿論、それ以外にも政府出なければ解決出来ない問題(IT人材育成など)はあるけれど、優先度で考えたらインフラだろう)。

ここまでで、質問の半分に回答できたので、次は残りの半分、「また、それに対して日本の政府機関やNGOは何が出来るでしょうか?」について考えてみたい。

まずは“日本の政府機関”で考えてみる。教科書通りの回答になってしまうが、日本政府がICT分野では以下の方針に沿って援助をしている(JICAのWebサイトより)。

  • IT政策策定能力の向上
  • IT人材の育成
  • 通信基盤の整備
  • 各分野へのIT活用による効率・効果の向上
  • IT利用による援助における効率・効果の向上

ICT分野の支援といっても、ICTはツールであるため、ICT分野という区切りではないがICTを活用している支援は沢山ある。例えば、農村開発のため に携帯を活用して市場価格や天気の情報を得るとか、防災や井戸を掘るためにGISを利用するとか、遠隔教育や遠隔医療、etc.。それでもICT分野という切り口で見ると、上記のような方針である。つまり、政策、スキル、インフラ、ツールとしてICT利用、といった切り口での支援に、援助効率UpのためのICT利用といったものをプラスしている形。それそれで専門家派遣などを通じて何をしているかは、個別のプロジェクトに特化した話になってくるので、JICAのWebサイトなどで見てもらえればと思う。

次に、“NGO”で考えてみる。
「何が出来るか」といえば、かなり広範囲のことが出来るだろう。援助方針や国益といった観点に縛られざるを得ないODAに比べ、遥かに可能性がある。海外の例で言えば、OLPCのような機材にフォーカスしたプロジェクトから、KivaのようにツールしてICTを活用しているものまで、幅広い。日本のNGOとなると、Kiva(←もともとは日本語版Webサイトがない)を通じてのマイクロファイナンスに日本人が参加し易くなるように、Kivaの日本語版Webサイトを構築しているKiva Japanのような取り組みがあったり、ICT for Educationに特化した活動を目指すCampus Mateのような団体もある。ただ、「ICTを使って途上国支援」をしている団体は多いが、途上国の「ICT化を支援」している団体となると限られてくると思う。ここでは、多分、質問の意味も後者であると思われるので、後者の方を考えてみる。日本のNGOに期待したいのが、日本のICT関連企業がBOPであれCSRであれ、途上国に進出するときに、日本起業と途上国の“繋ぎ役”になることだと考えている。既に述べているいるように、ICTの導入・活用は非常に幅広い分野に及び、その導入・活用の際には注意しなければならない要因も多い。そういった点で、ICTに特化したNGOでなくとも、各分野や地域に特化したNGOがICT関連企業の途上国進出の際に繋ぎ役ととして関わり、現地NGOを巻き込んだりしつつ、利益だけでなくICTを通じた途上国の発展により貢献出来るようなビジネスの方向性を示すことが出来れば、とても理想的だと思う。日本政府が途上国政府のインフラ構築を支援し、そのインフラを利用したICTサービスを日本企業が提供する。その際にNGOが協力して現地ニーズにあったサービスが提供出来るように方向づける。その結果、現地の人々の生活が向上する。そんなことが出来たら良いのではないだろうか。

以上、いただいた質問の回答を書いてみました。あくまでも個人的な一意見です。質問をくれた意図にあっているかはわからないけど、ICT4Dについて考えるプラスになったら嬉しいです。

Reference

Heeks, R. B. (2007) An Overview of Information Systems, Fundamentals of Information and Information Systems course unit handout, IDPM, University of Manchester, Manchester, 25 September 2007.

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コメント

  1. greenapple より:

    繋ぎ役、とおっしゃっていましたが、
    実際に繋ぎ役がいない(連携が上手くいってない)ことで、
    支援が失敗したという具体例などはありますか??
    いろんなウェブサイトを見て探しているのですが、実際の失敗例を載せているものを見つけられないのです。そんなサイトをご存知でしたら、ぜひ教えて下さい。
    前回はとても早い回答を有難うございました。すごく丁寧で分かり易く、もっと調べたいとぐっと興味が沸きました!

    • tomonarit より:

      greenappleさん
      ご返事、ありがとうございます。NGO等の繋ぎ役がいないために失敗してしまった事例として、具体的に挙げられるものは自分も知っているわけではないですね。すいません・・・。
      ただ、一般的なICT4Dプロジェクト失敗要因として論じられているのは、ローカルニーズを把握してなかったとか、裨益者となるコミュニティにオーナーシップが欠けていたとか、要するに「対象地域のことが良くわかってない」というのがあります。この点を解決するには、地元のNGOや大学等の協力を得るといった方法もあると思います。例えば、NOKIAはインドのNGOに資金を出してM4D(Mobile for Development)関連調査を依頼してました。日本企業でも地元NGOや地元企業の複数に調査依頼などをして、その中から信頼できるパートナーを探すという方法はありだと思います。しかしながら、そもそも有力なパートナー候補がわからないととか、時間に制約がある場合などは、やはり地域のことを知っている日本のNGOが力になれる部分は大きいのではないかと感じます。逆に、日本の企業が対象地域にパートナーがすでにあるという場合は、日本のNGOを絡める必要はないでしょう。そいういう意味では、あくまで日本のNGOに「期待(WANT)」する点であり、MUSTではないです。ただ、BOPビジネスが注目を浴びつつある今は、途上国における日本NGOと日本企業の連携という新しい関係を創るチャンスでもあり、そういう意味でも「期待」したいと考えています。
      もし、面白い事例などがあれば共有していただければ幸いです。それでは、また!

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