デジタル人材育成PJ「New B-JET」を追う(1.枠組み編)

アジア・大洋州

こんにちは、Kanot(狩野)です。拙著「バングラデシュIT人材がもたらす日本の地方創生」では、B-JET(Bangladesh-Japan ICT Engineersʼ Training Program)と呼ばれるJICAのバングラデシュ・デジタル人材向け日本語・IT研修プログラム、そしてそのプログラムと宮崎市との産官学連携モデルである「宮崎ーバングラデシュモデル」について詳しく取り上げました。

B-JETのその後を追う!

出版後は、B-JETが地方における高度外国人材受け入れの代表的なモデルの一つとして認知されてきていたこともあり、問い合わせや類似案件の相談も受けるなど、反響は大きなものがありました。

そんな中、本を読んでくださった方(ありがとうございます!)を中心に、度々「あのプログラムはその後どうなったの?」と質問される機会が多くなってきました。そこで、2021年8月のJICA技術協力という政府支援の終了という大きな節目を迎え、「その後のバングラデシュ・デジタル人材育成はどうなっているのだろうか?」という点について、関係者たちへのインタビューという形で複数回に分けて追いかけていくという自主企画を立ち上げることにしました。

まず、第1回では枠組み編として、終了したJICA技術協力プロジェクトのJICA専門家(総括)であり、現在も宮崎大学の特別教授という立場でNew B-JETにも関わっていらっしゃる田阪真之介さんに話を伺いました。田阪さんからは、JICAプロジェクトが終わるにあたり、民間ベースでB-JET本事業を引き継ぐことになった経緯などを中心に、JICAプロジェクト終了期からNew B-JET立ち上げ期について説明いただきましたので、以下の通り記事として紹介させていただきます。

「ん?New B-JET?」と思った方もおられると思いますので、先に2022年4月現在の状況について(ネタバレになりますが)紹介すると、JICAプロジェクト終了後は、宮崎大学とノースサウス大学というバングラデシュの首都ダッカにある名門私立大学、および民間企業が連携協定を結び、B-JET事業を民間ベースで継続しています。

では、これらの流れについて、もう少し詳しく見ていきましょう。

JICAプロジェクト終了期

少し時計を巻き戻して2020年から話を始めましょう。この頃、JICAのバングラデシュ・デジタル人材育成プロジェクトは終わりを迎えようとしており、今後のB-JETの取り扱いについて議論が続いていました。この頃、プロジェクト関係者たちは、どうにか今後もB-JETを続けていきたいと思ってはいたものの、研修プログラムを継続するための予算確保について頭を悩ませていたそうです。

これまではJICAのプロジェクトという形だったため、現地研修に伴う講師の給料や日本からの渡航費用などをJICAが負担していました。一方、プロジェクト終了後はその予算がごっそりなくなってしまいます。

つまり、バングラデシュにおけるデジタル人材育成・就職支援プロジェクトという形から、デジタル人材育成・就職支援ビジネスへと形を変え、ビジネスモデルを一から練り直さなくてはなりませんでした。

一般的に、B-JETのような人材育成・就職支援型のビジネスモデルは、(1) 研修参加者から受講料をもらうモデル、または(2) 就職時に紹介料を企業または本人から取るというモデルがあります。まず、本件はバングラデシュ人を対象としているため、物価差・賃金差などから、受講料での運営モデルはまず成り立他ないことは分かっていました。一方、紹介料モデルについても、そのお金が入ってくるのは人材が育って就職をした後であり、そこまでは運営側の先行投資となってしまい、それなりの元手が必要になってしまいます。

新たな連携パートナー:啓林館・BJITグループ・B&M

そこに新たな連携パートナーとして登場したのが、教科書などでお馴染みの、株式会社新興出版社啓林館(以下、啓林館)でした。「なぜここで教科書の啓林館が?」と思う方も多いと思いますが、実は啓林館は「スマートレクチャーコレクション」という英作文のオンライン添削サービスを実施しており、その講師の約半数はバングラデシュ人であり、既に彼ら・彼女らの雇用を産むビジネスを実践していました。

そういったバングラデシュでのビジネスを持つ啓林館に、バングラデシュへの社会課題解決に協力してもらえないかと相談を持ちかけたところ、B-JETの「最先端のバングラデシュICT技術者向けの日本語教育」に強い興味を持ってくれました。結果、プロジェクトの実施にかかる資金として、宮崎大学へ寄附をするということになりました。現在、B-JETは宮崎大学の寄附講座という形で運営されています。

また、B-JETでの経験があるBJITグループやB&Mも、オフィシャルパートナーとして、募集選考業務や課外講座(ビジネスマナークラスやITクラス)、就職支援を担当しています。

新たな現地パートナー:NSU

次に、現地でのパートナーとして、私立の名門校「ノースサウス大学(North South University)」と連携することになりました。なぜノースサウス大学と組むことになったのかという点については、これまでのB-JETへの参加数が多かった大学の一つであり、なおかつ日本語コースを持っていた大学、という2つの点を両方を満たすのがノースサウス大学でした。そのため、New B-JETの連携先として最適ではないかと連携を持ちかけ、パートナーシップを結ぶことになりました。

ちなみに、ノースサウス大学という名前はバングラデシュ関係者以外ではあまり聞きなれない大学名だと思いますが、この大学はバングラデシュの私立大学の中では最難関の一つです。

新旧プロジェクト比較

このような経緯もあり、ノースサウス大学と宮崎大学で連携協定(MoU)を結び、新プロジェクト実施の根幹ができあがりました。以下の2つの図は、前者がJICAプロジェクト時代の宮崎ーバングラデシュモデルの概要で、後者がNew B-JETの概要をまとめた図になります(いずれもキックオフ・シンポジウム資料から引用)。ちなみに2つ目の図のNSUはノースサウス大学、UoMは宮崎大学を指しています。

おわりに

と、ここまでは枠組みを中心に説明してきましたが、実はNew B-JETは既に動き始めていて、第1期をオンラインでの研修という形ですでに終えているそうです。応募数に関しても、引き続き好調で、倍率も80倍程度と、非常に狭き門のプログラムとなっています。

就職実績についても、参加者、関係者の努力の結果、全面オンラインでの研修であったにも関わらず、第一期の参加者の6割弱が日本での就職の切符を手に入れたそうです(すごい!)。

今後は、まだ予定ではありますが、この新しい研修形式や就職事情などを追っていきたいと思っています。次回をお楽しみに!

続編

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