デジタル人材育成PJ「New B-JET」を追う(4.日本語教育編 Part 1)

アジア・大洋州

こんにちは、Kanot(狩野)です。拙著「バングラデシュIT人材がもたらす日本の地方創生」で採り上げたB-JETと呼ばれるバングラデシュ・IT人材向け日本語・IT研修プログラム。そのイマを追う連載の第4弾として、今回は日本語教育にフォーカスを当ててみたいと思います。

参考情報

バングラデシュIT人材って何のこと?という方は、書籍紹介記事からお読みください。
B-JETって何?New B-JETが始まったの?という方は、連載第1回からお読みください。

今回は、New B-JETの日本語教育の責任者である鵜澤威夫さんにインタビューさせていただき、その内容をもとに記事を書いていきます。

鵜澤さんについて簡単にご紹介すると、バングラデシュ人に対する日本語教育の専門家です。青年海外協力隊の日本語教師隊員として2010年から2012年まで国立ジャハンゴルノゴル大学に滞在し、その後スーダン、北方領土(国後島)やロシアを経て、旧B-JETの専門家としてバングラデシュに戻りました。その実績を評価され、New B-JETでもこの大役を担っています。

New B-JETの日本語教育

さて、これを読んでいるマニアックな皆さんであれば、B-JETがバングラデシュIT人材に対する日本語教育を行なっていることはご存知かと思いますが、どのように行なっているかについて、ご存知でしょうか?

まず、百聞は一見にしかずということで、B-JETの公式Youtubeチャンネルをご紹介します。

宮崎大学B-JET公式チャンネル | Miyazaki B-JET Official Channel
作成した動画を友だち、家族、世界中の人たちと共有

このチャンネルでは、プロジェクトの概要に加え、研修生の作成した自己紹介動画やふるさと紹介ビデオなど、研修生のアウトプット動画がたくさんアップロードされています。

例えば、以下の動画は10期生(執筆時点でNew B-JETの最新の生徒たち)によるB-JET紹介動画です。

日本語を勉強し始めて5週間とのことで、私が英語を勉強し始めて5週間の頃と比べると、比較にならないくらい流暢に話してますね。

B-JET生の採用にご興味ある方は、B-JET Career Center(https://bjet-home.studio.site/4)までご連絡を!

さて、この語学研修は、旧B-JET(JICA技プロ)では首都ダッカで対面で行なっていましたが、2020年の3月からはコロナの影響で、当時の8期生はプログラムの途中でオンラインに移行しました。その後、New B-JETが始まった2022年も継続して、オンラインで実施しています。

その講師体制は、旧B-JETでは日本人3名とベンガル人(バングラデシュ人)講師2名の5名体制で1期につき約40名を教えていましたが、New B-JETではなんと日本人1名、ベンガル人講師2名の合計3名という体制で、研修生30~40名を教えているとのことです。

鵜澤さんは旧B-JETでは講師として授業を担当していましたが、New B-JETでは研修の責任者という立場であることから、直接授業は行わず講師の育成を行っています。つまり授業は2つの(Zoomの)部屋に分かれてベンガル人講師が行い、鵜澤さんはなんと常に2つのZoomを立ち上げて、それぞれのクラスを同時にモニタリングし、いつでもサポートできるようにしているとのことでした。

確かに人間は目が2つあり、耳も2つ付いているのですが、2つの語学研修を同時に見て同時に聞くというのは、なかなかの離れ業ですね。そして、演習中などにクラスに参加したり、講師への助言を行なったりということを行なっているそうです。

研修で使用する言語は、ベンガル人の日本語教師が教えていることもあり、ベンガル語(バングラデシュの母語)と日本語をミックスして教えているとのことでした。

こういう教え方をデザインできる、またはそれをスーパーバイズできるのは、まさにバングラデシュでの日本語教育の協力隊経験があった鵜澤さんだからこその貴重なスキルだなと感じました。

こちらは鵜澤さんによる漢字教育の一例です。

新旧B-JETの日本語研修の違い

そんな鵜澤さんに、新旧B-JETの日本語教育の違いについて質問をしてみました。

まずは研修期間の違いで、旧B-JETは3ヶ月研修だったのに対し、New B-JETは5ヶ月と、より語学力アップに力を入れているようです。

そして次に挙げられたのは、対面(旧B-JET)とオンライン(New B-JET)の違いがあるとのことでした。もちろんオンラインということで様々な苦労があるようですが(詳しくは次回)、オンラインの最大のメリットとしては、ダッカ在住でなくても参加できるということだそうです。

旧B-JETは対面であったため、ダッカ在住もしくは研修期間中はダッカに滞在してもらう必要があり、結果として、ダッカ周辺の大学卒業生が大半だったのが実情でした。それに対しNew B-JETでは、これまでリーチできていなかった地方在住者も研修対象とすることで、より候補生のすそのを広げることができているそうです。

また、オンライン研修にはPCでの参加を必須にしているようなのですが、これは研修対象がITエンジニアの卵ということで、地方在住者でもさすがに皆当たり前のようにPCを持っていて問題にはなっていないとのことでした。なお、一般家庭レベルでのノートPCの普及率は5.6%と言われています(世界銀行, 2022)。

そして、もう一つ新旧B-JETの違いとして挙げられていたのは教材でした。旧B-JETで作成したオリジナルの日本語教材は漢字のレッスンなどで活用しつつ、新たに国際交流基金の「いろどり」という教材も積極活用しているとのことです。

TOP | いろどり 生活の日本語

これにはいくつか理由があるそうで、まずは無料であること、そして補助教材の豊富さが挙げられていました。また、オンラインで様々な素材がダウンロードできることに加え、定期的に教材がアップデートされるため、最新教材が追加されて助かっているとのことでした。

また、個人的に興味深かった点として、国際交流基金の教材はCEFRの考え方に基づいて開発されたJFスタンダードにのっとっているため、誰でも研修生の日本語レベルや到達目標の共通理解がしやすく、他の人が講師になった場合などにもスムーズに移行しやすいといったメリットがあるようです。これは3人という少人数で研修を回しているため、一人でも抜けた場合のダメージを最小化するための工夫だなと感じました。

次回は日本語教育の苦労・工夫です

さて、それなりのボリュームになってしまったので、今回はここまでにしましょう。

次回はもっと語学研修を深堀りし、オンラインで日本語を教えることに対する苦労や工夫についてインタビューしていきたいと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。次回もお楽しみに!

続編・前編

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コメント

  1. Ozaki Yuji より:

    基本的には間接教授法、CEFR(セファール)に対応した国際交流基金の「いろどり」を教材に採用しているんですね。オンライン研修でPCでの参加を必須としていながら、『地方在住者でもさすがに皆当たり前のようにPCを持っていて問題にはなっていない』のはすごい環境かと。流石にエンジニア志望の方々。

    現在、日本国内在住外国人対象の日本語研修事業に関与しています。コロナ禍以降はオンライン研修が(教室で行う集合型と並行して)導入されていますが、参加者のインターネット接続やメールでの連絡にまず苦労します。地域にもよりますが、スマホ一本槍なのにメールを使っていない人も結構多い。受講する側の環境やリテラシーを考慮すると完全オンラインというわけにもいかず、教科書を事前に送付するのですが、10人に1人くらいは宛先不明で返ってくるなど、研修開始以前の苦労が絶えませんね(苦笑)。

    ただ、研修の経過を見ていると、しっかりとした教材を使い、プロフェッショナルの日本語講師といっしょに(直接教授法を受け入れて)学習した人たちは急速に日本語能力が上がっているのが観測できます。特に、日本語以外でも語学を学習した経験のある研修受講者の伸び方はすごいです。逆に、言語を生活経験のみで体得してきた人はやや苦しそうな印象を受けます(語学なんて「自然に」できるようになるよ!に対する反駁)。

    願わくば、需要増が日本語講師の待遇改善につながるといいなあ、と。
    (自治体周辺では、日本語指導がボランティア頼み、つまりは予算をマトモに組んでいないところが多そう、という印象あり)

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