USAIDとシティバンクによるモバイルマネー利用促進

ケニアのM-PESAに代表されるモバイルバンキングサービスは、世界でも100を超える種類があり、そのうち半数以上がアフリカでのサービスとなっている。これまで銀行口座を持たない(持てない)層(多くは貧困層)が、送金サービスなどを簡単に使えるようになった他、その送金履歴を信用にして融資を受けられるようになったり、保険に入れるようになったりと、貧困層の生活改善に役立っている。

そんな途上国開発の視点から、USAIDがモバイルマネーの利用促進を支援するために、シティバンクと官民連携パートナーシップを結んで9ヵ国(コロンビア、ハイチ、インドネシア、ケニア、フィリピンなどに特に注力)で共同の取組みを開始すると発表(U.S. AGENCY FOR INTERNATIONAL DEVELOPMENT & CITI TO ACCELERATE MOBILE MONEY ADOPTION)した。途上国を含め世界中に銀行送金のネットワークシステムを持つシティバンクは、M-PESAなどのモバイルマネーをシティバンクでも取り扱えるようにするそうな。シティバンクが取り扱うことで、これまでモバイルマネーに対応していなかった企業なども同様にモバイルマネーを扱うようになり、貧困層がより多くのサービスを利用出来たり、シティバンクのクレジットサービスが使えるようになったりする可能性がある。そして、USAIDは23百万USDの資金を投入して各国政府とともに関係政府機関や銀行や携帯事業者などに対する必要なトレーニング等を実施支援するという。この発表を読んで感じた点を以下3つ述べてみる。

1.やるなぁ、アメリカ
これまで銀行や保険のサービスにアクセス出来なかった貧困層に選択肢が増えるのは良いことだと思いつつ、中国に負けずアメリカもやることが明快だと感じた。途上国でのモバイルマネーという新たな市場が乱立しているところに、アメリカの銀行がプラットフォームを提供して一気に囲い込みに入るのを、USAIDが援助ということで支援するということか。やるなぁ、アメリカ(日本はこういう取組みが今ひとつ上手く出来ていないが・・・)。そのうち、マサイ族がスマホでGoogle Walletを利用して、シティバンクのサービスを使う日が来るのだろうか。Googleというインターネットのプラットフォームに続き、銀行サービスのプラットフォームもアメリカ企業は獲得するのに成功するか?

2.ICT4D成功事例となるか?
モバイルバンキングは途上国発のイノベーションであり、アフリカでは普及しているが、その他の国では今ひとつ浸透していない。背景として、アフリカでは関連法制度が整備されていないからこそ普及がここまで進んだとも言われる。このような独特の背景において成功したこの市場に、シティバンクのような先進国からのカッチリした大企業がどう連携していくのか興味がある。「草の根ICT4Dイノベーション」とも言えるモバイルバンキングに対して、Outsiderである先進国からの銀行が描いている絵は成功するのか?このブログでも、「法制度やユーザ志向やスキルなどが異なる先進国の背景で形成されたICT4Dプロジェクトは、途上国の背景では失敗することが多い」という指摘を紹介してきたが、今回のシティバンクの取り組みは上手くいけば、今後のICT4D分野でのグッドプクティスとなるかもしれない。

3.情報セキュリティの重要性
また、モバイルマネーの利用が進めば進むほど、情報セキュリティの重要性が増してくる。特にアフリカなどの途上国では、まだまだ情報セキュリティに対する対策や認識が低いだろう。USAIDの支援内容についての詳細は記載がなかったのでわからないが、この点もについても、手厚い支援が必要になってくるだろう。

以上3点を書いてみたが、もしかしたらUSAIDが23百万USDを使い切るころには、モバイルバンキングに代わるサービスが流行り始めたりして・・・と、テクノロジーの発展の速さも気になるところです。

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コメント

  1. M.Miyazaki より:

    CitiがUSAIDのfundを使ってアフリカのICT支援(金融支援??なんですかね)やってるんですね。
    一時期、経営危機に陥って公的資金注入まで受けていた会社が途上国支援を行っているとは少し驚きました。
    …もしかして、政府資金を使ったprojectじゃないとできないのかな?

    シスコがルーターを途上国に販売するため(市場を広げるため)
    UNDPfundを使ってsysco networking academyを展開している
    手法に似てますね。
    http://www.cisco.com/web/learning/netacad/academy/index.html
    http://www.cisco.com/web/learning/netacad/partner_connection/partners/UNDP.html

    ラオスの専門学校でこのnetworking academyを実施しているところを見学したことがあります。
    確かにベンダー資格であるCCNAが取れて、就職機会upとお互いのメリットが明確化している点はいいなと思いました。

    • tomonarit より:

      Miyazakiさん
      シスコと言えば、CSR活動としてJICAと協力してこんなこともやってました。これもラオスですね。
      http://jica-net.jica.go.jp/ja2/topics/topics_1009_raos.html

      • M.Miyazaki より:

        JICAさんもシスコアカデミーやっていらっしゃるんですね。
        これはラオス単独ですか?
        それともUNDPのように複数国を支援する大きなプロジェクトなのでしょうか。

        ラオス国立大学だと井出さんですね、というより教えて頂いたページの写真に載っているのはご本人でした笑。

        国立大のプロジェクトがスタートする際、理論重視の内容から民間に通用するような技術者育成を目指すカリキュラム内容にしたいとおっしゃっていたので、ベンダー資格を取得するなど、実践的なIT技術者育成支援の一環のような気がします。

  2. Kanot Kanot より:

    シスコやオラクルは、ビジネスの種がない地域でも、まずはファンを増やしてデファクトスタンダードを狙うべく、ご指摘のような研修や資格取得を格安で実施したりと、地域ごとにビジネスプランが明確ですよね。さすがアメリカ商売上手と感じました。
    そしてtomonaritの書いたように、MーPESAのようなサービスが先進国の法制度の中でどの程度サービスを展開できるものなのか、気になりますね。

  3. Ozaki Yuji より:

    モバイルバンキングのセキュリティについては、テレフォンバンキングの延長線上で見ているのかもしれないですね。携帯電話の通信方式(CTIシステムやSMSの利用に関連)や、使用言語(とりえあず英語)の共通性が高い環境下だと楽かも。

  4. […] ケニアのM-PESAによってモバイルバンキングが注目を浴びたのは、ご存知の方も多いと思います。実際、ケニアで2007年3月にサファリコムがM-PESAサービスを開始してから、グングンと普及していき、2010年には利用者は1千万人を突破し、人口の40%が利用していることに。さらに、2012年にはケニアのGDPの約15%にあたる金額が同サービス上でやりとりされているといった統計もある。そして、M-PESAで火がついたモバイルバンキングサービスは、他の国へも波及し現在は世界で140を超えるサービスが存在する。なかでも特にアフリカ諸国への波及効果は大きく、世界のモバイルバンキングサービスの約半数がアフリカ諸国を対象としたものである。 […]

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