ここ最近、このブログでも取り上げたインパクト・ソーシング(以下、IS)についての2つのレポートを読んでみました。1つは先日の「新興市場戦略としての”インパクト・ソーシング”」でも紹介されていたMonitor社(ロックフェラー財団支援)の”Job Creation Through Building the Field of Impact Sourcing”、そしてもう一つはマンチェスター大学のWorking Paper “Towards a Taxonomy and Critique of Impact Sourcing“。
今まで知っているようで知らなかったことがちょっと整理出来た感がある。以下、それぞれのレポートについて紹介。
Towards a Taxonomy and Critique of Impact Sourcing
Taxonomy (分類という意味)という言葉とおり、ISを分類することを試みている内容。以下、5つの観点からSamaSourceやRuralshore、TATA Rural BPO Center, Wipro Rural CenterといったISSP(インパクト・ソーシング・サービス・プロバイダ)を分類している。
- 観点1. Prevailing Concept: そもそもの事業のコンセプトが何か?(社会開発が目的なのか、お金儲けが目的なのか?的な問い)
- 観点2. Primary Business Objective: Market-drivenかCommunity-drivenか?
- 観点3. Captal Investment: 資本に政府やドナーからのドネーションが入っているか?
- 観点4. Economic Sustainability: 運営資金として政府やドナーからのドネーションに依存しているか、それとも事業収入で自立しているか?
- 観点5. Return on Investment: リターンは社会開発的な効果か、それとも商業的な効果か?
この5つの観点からISを分類すると、以下の4つのカテゴリに分けられるという結果になっている。カッコ内の言葉は自分が勝手にイメージでつけてみました。
- Non-profit Social Outsourcing Organization(寄付金に頼っても社会開発が主目的)
- For-profit Social Outsourcing Organization(まずは利益を出すことが前提)
- Socially Responsible Social Outsourcing Organization(大企業を中心にCSR的な意味も含めて)
- Dual Value Social Outsourcing Organization(ビジネスで社会開発!)
下記の表がその結果をしめしたもの。なるほどなんとなく、こういうカテゴリがあるのかってなことがわかる。思わず「だから何?」というふうに思う方もいるかもしれませんが、ISのメリットやデメリットが何か?、課題が何か?、批判は何か?といったことを考えるにあたって、こういう分類は重要。一言で「インパクト・ソーシングの課題は○○だ」といったときに、上記のような様々な種類のISのうち、全てに当てはまるのか、それとも、どれかについて言っているのか?は明確にしておく必要がある。
このレポートではISについての批判についても触れられているが、その批判は次に紹介するMonitor社のレポートとかぶるので、次にMonitor社のレポートを紹介したい。
Job Creation Through Building the Field of Impact Sourcing
最初のレポートがISの組織形態(資本にドネーションが入っているか等)とか社会開発インパクトにフォーカスを当てているのに大して、このレポートでは、もっとビジネスよりの視点からISを分類している点で違いがあって面白い。具体的には、ビジネスモデルの観点から以下、5つのカテゴリに分けている。(Source: Markets, M. I. (2011). Job Creation Through Building the Field of Impact Sourcing. Working paper, Monitor Group, Mumbai.)
- Micro Model
- Intermediary Model
- Sub-contractor Model
- Partner Model
- Direct Model
以上、5つの形態に分けてあるのを見ると、先に紹介した分類とはまた違った面白さがある。ICT4D的な観点からは、いわゆるBOP層にも収入を得る機会を与えたり、携帯電話が使えれば参加できて、支払いもモバイルマネーといったMicro Modelに興味がわくが、一方で経済的インパクトや国としてのICT産業振興を考慮すると、Sub-contractor Modelの方が魅力的に見えたりもする。
最後にISの課題について。Monitor社のレポートの最後に、3つのカテゴリにわけて合計9つの課題が挙げられているたので紹介。
どれもそのとおりと納得できる課題ばかりだが、特に気になった点に黄色マーカーしてみた。
まず「本当にBPO層を採用、雇用、トレーニングできるのか?」という点。インドのように大卒でそれなりに学があるけど、田舎に住んでいるから職にありつけないというようなポテンシャルの高い人材がいる国なら、少々のトレーニングで使えるようになるかもしれないが、一方、インドとはちがって、中学校に行けなかった若者たちに対して、どれだけのトレーニングをすれば使えるようになるのか?を考えると、Micro Modelでの小遣い稼ぎレベルなら良いけど、本格的なアウトソーシング業務を実現できるISは簡単ではないと思われる。
「Race to the Bottom」というのは、どんどん低賃金で働く層に向かっていくことを示唆している。レポートでは、「does not create new class of “digital sweatshops.”」ということが言われていた。Sweatshopとは低賃金で長時間労働をさせる工場のこと。つまり、服飾産業(イギリスのプライマーク等が途上国で児童労働をさせているのが批判されていたことがあるが)の前例のように、仕事を単純化して安い賃金で働く労働力(児童労働など)を確保する方向へ、途上国のBPO産業が向かわないようにしなくてはいけないということ。
こういったリスクを回避するためにも、単なる価格競争とならないように、途上国のBPO産業はブランディングが必要だと改めて感じる(以前、このブログでも投稿してみた内容同様)。
これら2つのレポートはとても勉強になった。ISが進んでいるのはインドをはじめ、南アフリカ、ケニアという。今後、780,000人の雇用を生み出すと言われるISの波が、どうなっていくのか?ガーナにもその波は来そうなので、ウオッチングしていきたいと思います。
コメント
[…] いくらアフリカを代表とする途上国の携帯電話普及率が劇的に伸びてきているとは言え、ICT環境や法制度や個々人のスキルなど条件の善し悪しを言い出したら途上国が全体的に劣っているのは間違いないので、「そんな条件でも、そんな条件だからこそ」ICTに期待出来る何かがあるんじゃないかと、つい夢を見てしまうのです。ケニアのM-PESAやUshahidi、インパクト・ソーシング(ソーシャル・アウトソーシング)のSamasourceなど、ある一定の厳しい環境・条件のなかでも成功しているICT4D事例があるということは、環境・条件の悪い途上国でのプロジェクトや事業でも、どっかに成功させる可能性があるんじゃないかと・・・。 これまでの王道の議論では、「成否の鍵はコンテクストによりけり」というような締めくくりになってしまうのですが、そうじゃない結論、「ズバリ、こうすれば上手く行く」というもの、を探して行きたいですね。いや〜、それがわかれば苦労はないか・・・。 […]
[…] これまでこのブログでも何回かオンライン・アウトソーシング(の形態の一つとしてより途上国を対象にしているインパクト・ソーシングとかソーシャル・アウトソーシング)について取り上げて来ましたが、やっぱり課題としてあるのは、受注するエンジニアがIT単純作業レベルからどうレベルアップして行くのか?という点。レベルアップしないと結局価格でより低賃金の途上国のエンジニアに仕事が流れて行く「Race to the bottom」に陥ってしまう。そうならないためにはやはりレベルアップするための施策が必要と改めて感じます。例えば、以前の投稿で書いたような、個人としてではなく、組織としてのアウトソーシング受注を狙って、組織として受注した仕事を国内で細分化してアウトソーシングする(自国内でその組織から個人へのアウトソーシングをする)ようなこと。バングラとかまだ低賃金で仕事が取れるメリットを活かせるうちに、そういうことを戦略的にやっていかないと、そのうち国の発展とともに賃金も上がり「Race to the bottom」に負けてしまうのではないか?と感じます。 […]
[…] コメントを残す 年末に世銀のWebでDevelopment Impact Bond(以下、DIB)を活用した “Finance for Jobs”というパレスチナにおける起業家支援+雇用促進を目的とした 雇用開発や教育訓練などを行う事業の記事があった。 前にSocial Impact Bondに触れた記事をUpしてみたが、最近個人的にこのインパクトボンドに関心ありまして、以下の二点について考えてみた。 ①DIBを活用した事業スキーム ②「ICT」の雇用への影響 ———————————- まずは①について。DIBを活用した事業スキーム その前に、、、改めてDIBとは? 以下、ちょっとくどい説明、、 「投資家がドナー/途上国政府の事業に出資し、その事業実施者が行った事業成果に基づき、ドナー/途上国政府から投資家に対して成功報酬が支払われる」 今回の世銀案件でおきかえると、 「投資家が世銀/パレスチナの事業に出資し、その事業者が雇用促進事業を行った結果、パレスチナの雇用環境において事前に定めた目標に達成した場合、ドナー/途上国政府から投資家に対して成功報酬が支払われる」 ことになる(注1)。 つまり一般的な開発事業にビジネスの仕組みを組み込み、より投資対効果が求めるスキームということだ。もちろん成果を貨幣換算するのは難しいし、関係者間の「成果」への合意形成は大変そうだが、SDGs達成に必要な資金の多くが民間資金を充てにしていることやインパクト評価の重要性の高まりを鑑みれば、今後は他ドナーでもこうしたDIB案件の組成が増えてるんでは。そのためにもこの第1号案件がどうなるか今後注目したい。投資家の存在や成果報酬といったビジネス的なやり方だからこそ、成果を数値で見易い民間セクター開発のような案件にはフィットし易いんだろうな。 ———————————- 次に②について。「ICT」と雇用 この事業において、雇用促進の為の職業訓練には、「ICTスキル」向上が含まれ、雇用促進の対象セクターの一つに「ICTセクター」が含まれている。当たり前のようだけど「ICT」と雇用について考えるとき「ICTスキル」と「ICTセクター」は分けて考えたほうが整理し易い。 ICTの普及は「ICTセクター」の直接的な雇用増加に対して正のインパクトは実はあまり大きくない。その雇用はスキルを有する少数人材に限られているからだ。例えば、ICTセクターの雇用は発展途上国の平均では全体の雇用の1%でしかない。OECD加盟国ですら、たった平均3-5%だ(P14,WDR2016)。よりインパクトが大きいのは「ICTスキル」を得ることによって可能となる雇用情報の取得や、ICT以外の他セクターでICTスキルを必要する雇用機会へのアクセスだ(下図参照, WDR2016)。 もちろん、その地域の「ICTセクター」の発達なしには、一般人の「ICTスキル」の取得は進まないのでどちらか一方だけというわけにはいかないだろうけれども。 この世銀案件は、起業家支援も目標としているが、「ICTスキル」を身につけ、 マイクロワークを手にした人々が次に向かう目標はイノベーション&起業なんだろう。例えば、インパクトソーシングの起業家たちなんかはまさにその典型ともいえる。こう考えると、WDRにあった以下の図がしっくりとくる気がしてきた。 ICTによる雇用への影響に関しては、正のインパクト(生産効率の工場、雇用情報へのアクセス、イノベーション促進等)だけでなく、負のインパクト(ICT化による失職等)もWDRでは多く言及されている。結局、結論はケースバイケースで一概には言えない、のでWDRがあんなに分厚くなっちゃうんだろうな。 とりとめない文章ですが、、以上。 ———————————- (注1)DIBに関してはこちらのFASIDの資料がわかりやすい。 「途上国開発における ディベロップメント・インパクト・ボンドの可能性 ~新たな社会的投資を通じた開発課題への挑戦」 […]
[…] 続いて、クラウドソーシングの話からインパクソーシング事例を2つ。以前このブログでも紹介したSamasource以外にも上手く成功している事例があるんだなあ。3つめはおまけ。 […]
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