世界銀行「途上国がイノベーションの恩恵を受けれないイノベーション・パラドックス」

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こんばんは、Kanotです。世界銀行が発行したレポート「The Innovation Paradox」についてのセミナーに参加してきました。この投稿のイメージでも使ってますが、とても印象的な表紙のレポートです。このレポートのあらすじと著者の一人であるWIlliam Maloney氏の講演は、以下のような感じでした。

既存の技術から途上国が得られる潜在的な恩恵は非常に大きい。しかし、途上国の企業や政府はこの恩恵を享受するには不十分な投資しかしていない。これが我々が「イノベーション・パラドックス」と呼ぶ元になる現象である。

その主な原因としては、政府の問題もあるものの、企業の問題も大きい。企業のケイパビリティ(Capability)が足りないがために、先進国からの投資の対象になりにくいことが大きな課題である。政府も同様で、投資を呼び込む環境(信頼醸成や参入障壁の削除)の整備ができていない。

大事なのは、こうしたイノベーションへの投資が回ってくるように、または回ってきた際に最大限の効果を発揮するために、準備(ケイパビリティの向上)をしておくことであろう。具体的には競争環境の構築、人材育成、法整備による信頼の醸成、などが挙げられる。

以上がセミナープレゼンのさわりですが、Maloney氏は日本に詳しいようで、こうしたイノベーション・パラドックスと日本の戦後の発展や、明治維新の人材育成にも触れていて、非常に興味深かったです。

また、面白かったデータとしては、経営者の実際の能力と自己評価を国別に比較したもので、途上国ほど経営者の自己評価と実際の経営力に差があったということ。つまり、発展していない国の経営者ほど、自分たちの能力が足りていないことを認識していないということです。まさにソクラテスの「無知の知」が重要であることを示してますよね。

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(Source: Cirera, X, & Maloney, W, F. 2017. The Innovation Paradox. World Bank Group.)

また、プレゼン後の有識者コメントも興味深いものがありました。

GRIPS園田副学長は産業クラスターの話をしていて、お金も人も、特定のところに集まる。特定のところとはマネジメントがしっかりしていることであり、それが人を呼び金を呼ぶ。なのでMaloney氏のいうように、企業のマネジメントは非常に重要である。また、マネジメントのレベルが低い国を一括りにするのではなく、マネジメントを全くわかってない人たちが多い国と、マネジメントはわかってるが課題が多い国ではアプローチが全く異なるとのこと。例えば前者ではKaizenなどの考え方から伝えることが効果的とのこと。

また、静岡県立大学の島田准教授のコメントであった、「シュンペーターのinnovationはまだ生きているのか」という指摘はまさに私が「イノベーションってなに?」や「イノベーションはもはやmeaningless??」でも提起したイノベーションの定義に関わるものでした。やはりイノベーションっていうのは生き物なんだなぁ、と改めて感じました。

これを読んで興味を持った方は、是非原著を読んで見てください。レポートはこちらからダウンロードできます。

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コメント

  1. […] 意識的に「科学技術(STI)と開発」についてのセミナーを複数開催しており、今回で多分5、6回目になるだとと思います(日本で)。以前、Kanotが紹介したセミナーなんかもありますね。 […]

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