アフリカ政府を停滞させている「専門家」たち

アフリカ

なんとも挑戦的なタイトルですが、興味深い記事を見つけたので紹介します。この記事は、アメリカでPhDを取り、若干31歳にしてシエラレオネ政府のChief Innovation Officerに任命されたDavid Moinina Sengeh氏が勤務開始1年経ったタイミングで書いた記事です。

タイトルは「How The ‘Expert’ Consulting Complex Keeps African Government Stagnant」。訳すなら「どのように専門家コンサルタント集団がアフリカの政府を停滞させ続けているか」といったところでしょうか。

いきなり余談ですが、海外では「白人が(主にInstagramなどにアップするような自己満足のために)黒人などを救う」ことを皮肉として「White Savior Complex」と呼んだりするのですが、それをもじって「Expert Consulting Complex」などと呼んでいるものと思われます。

さて、簡単に記事の概要を紹介します。

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私のシエラレオネ政府Chief Innovation Officerとして勤務をする中で、「専門家」「コンサルタント」「技術支援」といった名目でやってくる多くの外国人こそが、アフリカ政府が停滞している理由の主要な理由の一つなのではと思うようになった

複数の国際NGOなどと働く中で「technical experts」と呼ばれる独立コンサルやチームが、問題解決のためにプロジェクトやローンの資金を活用してやってきた。そして、彼らに質問を投げかける中で、いつも失望していた。

「5年で10個のソリューションを提供したとのことだが、そのうち幾つが今も国民に使われているのですか?」

「スライドXXで説明しているデータ分析ですが、どのようなアルゴリズムを使っているのですか?」

こういった質問に対する答えはいつも「あまり技術的な話はしたくない」や「あとで個別に話をしましょう」といったものであった。

「違うだろう!」と私はいつも思った。ホワイトボードなどで技術的な内容をきちんと説明し、それを我々が吸収できるようにして欲しいのだ。

だが、実際はほとんどの「big data analytics」 や「system architecture」や「innovation」の専門家と自称する人たちは、自分でコードを書いたこともなく、ブロックチェーンのアフリカへの活用について語っているのだ。彼らは自分でドローンを触ったこともないくせに、空間移動の政策についての意見を述べるのだ。

つまり、「専門家」と称する人の大半は「専門家」ではない。我ら政府に技術がないために、こういった専門家の意見に耳を傾けざるを得ない。実際に政府は人材育成の目標を立てているのだが、育成できていない。

じゃあどうすればいいのか?

開発パートナーたちよ、政府に本当に貢献できるような適切な専門家を雇用して欲しい。ITで言えば、公共政策の学位を持つ人だけではなく、コンピュータ科学の学位とコーディング経験などがある人のことだ。私の感覚では、多くの「専門家」は他国で使ったコードをコピペするだけで付加価値を提供している気になっているように感じる。

途上国の政府機関よ、キャパシティビルディングとは、技術力のある人を育成することへの投資だ。若く、好奇心があり、技術センスもある人を雇い、トライ&エラーを通じて育成することだ。もちろん短期的に外国人を雇うのもよいが、長期的には内部の人材を育成するべきだ。

各国の公務員たちよ、国の問題解決はあなたとあなたの子供達のための義務だ。もっと直感的にモチベーションを持って取り組むべきだ。あなたの仕事は社会にインパクトを与えられる。そのインパクト拡大のためには、ハングリー精神を忘れるべきではないし、社会問題に対する飽くなき知識吸収を続けるべきだ。

もっとテクニカルになり、課題を解決していこう。

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以上が概要でした。ちょっと極端かなと思わないこともないですが、なんとも耳が痛く、考えさせられますね。JICAなどで働いていると、職員自身はプロジェクト企画・管理・評価に徹して、専門的なところはコンサルタントなどに発注することが多いだけに、このように言われてしまうと少々しんどいなぁと感じるところもあります。

私が駐在していた時は都市開発の担当だったため、水道・廃棄物・ITを担当しており、この全てで専門的な質問に答えるのはかなり厳しいものでした。

一方で、現場からはこのように見られることがあるということは、気に留めておかなければならないと思います。こういった「開発援助はあまり役に立ってないのでは?」という意見は前からあり、以下の2つの本(ウィリアム・イースタリーとダンビサ・モヨ)などは有名ですね。(どちらも経済学者が書いた本です。)関係者は一読しておいても良いと思います。

逆に、開発援助に前向きな意見が多い代表格は、ジェフリー・サックスでしょうか。

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コメント

  1. tomonarit より:

    いやー、これは耳が痛いですね。基本的にこの主張には賛同。このポストの閲覧数がグンと高く人気記事になっていることを考慮すると、この意見に「だよねー」と思っている人が一定数いる、ということなんじゃないかと思います。

    以下、思うところです。

    1.本当の専門家を確保するのは困難

    おそらくICT分野で言えば一流選手はシリコンバレーなどで働いており、わざわざリベリアへ行こうという気は起きないような気がします。リベリアに派遣する専門家を選ぶ際のクライテリアのなかで、「専門性があること」よりも「リベリアに行ってくれること」が上位に来てしまうのは仕方がないことかも。途上国のなかでも、所謂開発度合いが低ければ低い国や地域ほど、この傾向は否めないと感じます。
    協力隊時代に、エチオピアの地方のTechnical Collegeの校長先生と要請書をドラフトしたことがるのですが、校長は「コンピュータサイエンスでのPhDが望ましい」とか「実務経験5年以上」とか、なかなかの条件を出してきました。でも、そんな日本人でエチオピアの片田舎にボランティアに来てくれる人はそうそういないのが現実。高望みするなとも言えないし、心苦しかったのを思い出しました。

    2.国際開発の仕事をすることで専門性が落ちる

    ことIT分野に関して言えば、途上国に2~3年いて仕事をすることは、経験にはなれど、ITの専門性の向上に繋がるのかは、以前から疑問に思っています。ICT4Dという専門性を磨くことにはなれど、そればっかやっていたら、ITの専門家としては専門性不足になってしまう気がしています。

    3.One fits allなソリューションはない

    「私の感覚では、多くの「専門家」は他国で使ったコードをコピペするだけで付加価値を提供している気になっているように感じる。」というところについては、ITの専門性不足という面よりも、ICT4Dの専門性不足という感じがしました。先進国のソリューションをそのまま持ってきても途上国では成功しないというのは、ICT4D失敗要因の議論では必ず出てくる話です。

    4.求められる専門性が多岐にわたる

    ここ最近のJICA案件の傾向を見ていると、求められる専門性が非常に幅広く多岐に細分化されつつあり、ITにしてもその他の分野にしても、「途上国でそんなピンポイントな経験・知見を持った人はそうそういないのでは・・・」と思うことがあります(被援助国も発展してきて、支援を望む分野とか領域が以前に比して一段も二段も深くなってきたのだとも思います)。
    そして、おそらくどの専門家もコンサルも、自分の過去の経験・知見をストレッチして新たな領域を「出来ます!」とアピールしているのだろうと思います。結局、その領域の真の専門性を持った専門家は途上国には行こうとしないので、そうでない人達(ストレッチして、その領域も専門です!と言う人達)が途上国に行くことに・・・。

    5.分野でなく国や地域の専門性で勝負している専門家もいる

    国際開発業界を見ていると、「あれ、●●さんはこの間、A分野のプロジェクトをやってたのに、今度はB分野ですか?」という人もいます。分野でなく特定国や地域にめちゃ詳しくて、その国、地域ならどんな分野のプロジェクトだろうが、その人がいてくれたら凄くありがたい、みたいな人。そういう専門性もありだと思います。

    6.どうしたら真の専門家が途上国にも行くようになるのか?

    途上国での仕事の魅力を世間一般にもっと広げる、会社の制度として一時期途上国の仕事に行ってきて良いよ、という制度を作る、JICA等の機関がより高い給料やコンサルフィーを出して真の専門家(や所属している会社)を口説く、などでしょうか・・・?あまり言い案が浮かばないなぁ。税制面で優遇して民間企業を誘致してくるみたいなことも、ある意味、専門性の高い人達を自国に集める手段ですね。

    7.専門家、コンサルタントがスキルアップの努力をする

    これは自分自身への自戒として。「コードも書けないIT専門家」、「マイクも握らないラッパー(?)」と呼ばれてしまわないように、今、勉強中です。若宮正子さんを見習って。

    • Ozaki Yuji より:

      > どうしたら真の専門家が途上国にも行くようになるのか?
      →フィーのよい仕事を生み出すプラットフォームを作る、しかないのかなあ。

      少なくとも日本国内においては、「顔の見える国際協力」が直接経費、「現地に行けないけど業務に携わる業務」は純然たるコスト(間接経費)になってしまう構造があります。コストは常に削減対象です。
      さらには、「顔の見える(現地に行ったことある)」を「共感」に結びつけるほうが、「学んだ」を「数理的モデリング」に結びつけるより圧倒的に強そうです。

      この「共感」をお金に結びつけようと努力しているのはマーケティングの世界。国際協力の世界では、要素技術を学ぶより、(広告枠を売っているだけの広告代理店ではなく、コトラーが言うところの)マーケティングを志向したほうがよいのかもしれませんね(笑)。

  2. Kanot Kanot より:

    おっしゃる通り、一つの重要な問題点は、「外国が技術力をある人を連れてこない」のではなく、「技術力のある人が行こうと思わない場所である」ことですよね。それは何も外国人に限った話ではなく、そういった国では高等教育を受けた人が海外に流出する事象が起きているはずです。つまり、デジタル・デバイドならぬテクニカル・デバイド(今作った言葉ですw)が起きている。
    ただ、技術系の民間企業で言う所の、「技術営業」的な人って意外と開発業界では少ないのかと思ったりもするので、改善できるところもあるなぁとも思いました。「技術とソリューション」を両方語れる方を思い浮かべたところ、ほとんどが非開発業界ということに気づきました。

  3. Ozaki Yuji より:

    この方(David Moinina Sengehさん)の仰ることは痛いほど理解できます。同時に、あれもこれも全部よろしく、みたいな感じでシェラレオネの政策から実装まで丸投げされて大変なんだろうなあ、とも感じています。

    公的技術協力が公共政策ベースになるのは必然でしょう。公的なコトを実装しようとすると、避けて通れないのが公共調達。調達するには予算建てが必要。予算建てには、政策的な裏付けが必要。
    つまり、この文脈での「専門家」は「対象国や出資国のルールに沿った予算が計上でき、公共調達可能な絵を描く」や「予算編成に影響を及ぼす政策を実装させる」がメインの業務となりそうですね。予算が計上できる、ってコトは他の国や地域で実装例がある(コピペを呼び込める)だろうし。

    予算編成に影響を及ぼすために、「あれもできるこれもできる」的な見せ球は必要でしょう。そこにコーディングやアーキテクチャベースの知識は求められない、というか、そんな人は(あまりに現実に立脚しすぎて)お呼びでない、になってしまいそう。(ただし、後になって、「どうにかしろ」っていう尻拭いのために「専門家」として呼びだされることになる…のかな。)

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  5. Kanot Kanot より:

    Ozakiさん、おっしゃる点もごもっともですよね。国際協力の最上流は何かと言われると、国を創る力だったり、国を動かす力、政策・・などなどですよね。受け手と担い手の意識の差が如実に表れててとても面白いなぁと思います。

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