子供への投資は幼少期(しかも5歳まで)が一番効果的、ってホント?

アカデミック

こんにちはKanot(狩野)です。先ほど世界銀行のTwitter投稿で以下のようなものを見ました。

この投稿は、モロッコで開催された人間開発(Human Development)に関する会議の主要テーマの一つとして、「Did you know that investments in the first years of life are 1.5 to 5 times more profitable than those made at another time in life?(人生の第一ステージでの投資は、人生の他のステージの投資に比べて1.5倍から5倍の利益があるって知ってた?) 」を取り上げたものでした。

ここでの「人生の第一ステージ」とは0歳から5歳を指すようです。みなさん、この主張、どう思いますか?なんか直感的には、確かに小さい子供への投資が効果的そうなイメージはありますが、この主張は小学校ですらなく、もっと幼少期の教育投資が最も効果的だと言っています。なんか直感的にはホントかな???物心ついてからの方が効果的なんじゃ??という感じですよね。

・・・と考えていたら、数年前に履修した教育心理学の授業で、この話、やったな・・となんとなく思い出してきたので、この主張の根拠を探してみました。

そうしたら見つけたのが、James HeckmanとDimitriy Masterovが2007年に執筆した「The Productivity Argument for Investing in Young Children」という論文です。(James Heckmanは、シカゴ大学の経済学者で、計量経済学への貢献が認められ、2000年にノーベル経済学賞を受賞しています。)

この論文は48ページもあるので、読むのには骨が折れるのですが、今回の主張に関するグラフが31ページ目にありました。

社会的に不利な状況にある子供達への投資に対する人的資源に関する利益

社会的に不利な状況にある子供への教育効果は、幼少期が一番効果的で、年を経るごとに下がっていく、というものです。

そして、このペーパーなどで主張されている幼少期教育の重要性について2枚にまとめたものが、James HeckmanのHPに上がっていました。

タイトルは、「There’s more to gain by taking a comprehensive approach to early childhood development.(幼少期教育への包括的なプローチを超えるリターンはない)」です。

この中でも以下のような表現があります。

Investing in comprehensive birth-to-five early childhood education is
a powerful and cost-effective way to mitigate its negative consequences on child development and adult opportunity
包括的な5歳までの幼少期教育への投資はパワフルでコスト効果に優れ、その後の子供の教育から大人の機会にまで、マイナスの影響を削減するものである

https://heckmanequation.org/www/assets/2017/01/F_Heckman_CBAOnePager_120516.pdf

興味ある方は、ぜひご一読ください。2枚紙の方は主張の要点を文字でまとめたもので、48ページの論文の方はもっと数字とデータを多用した議論が展開されています。

これらの主張を元にプロジェクトや研究をする際に難しいことは、「結果がすぐに見えない」ということですよね。幼少期の教育効果って、おそらく10年20年経ってようやく見えてくるものであること、そして、その因果関係を証明することは極めて難しいということです。そして、それを長期間の研究で実証しようとしたHeckman、すごいなぁと感じました。

この主張が社会的に不利な状況にない先進国の人にもどこまで当てはまるものかはわかりませんが(知ってる方いらっしゃいましたら、教えてください)、色々と考える良い機会になりました。

なお、アイキャッチ画像は、上記のHeckmanのデータを再加工した以下のサイトから引用させていただきました。(https://www.impact.upenn.edu/our-analysis/opportunities-to-achieve-impact/early-childhood-toolkit/why-invest/what-is-the-return-on-investment/

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コメント

  1. Ozaki Yuji より:

    『子供への投資は幼少期(しかも5歳まで)が一番効果的』って、『社会的に不利な状況にある子供への教育効果』が前提となるテーマなんですね。ここで言う『投資』って何よ?という疑問に前提条件なしで脊髄反射してしまうと、いわゆる「幼少期の習い事の是非」がテーマだと勘違いしそうです(笑)。

    教育において、成長により社会との関わりなどの個別条件や個性が多様化して発散する前の段階で(center-basedなテンプレ的ケアが効果的な段階?)まとめて面倒見ておいて、後々の社会的ネガ要素の芽を摘み取っておく方が政策的にコストパフォーマンスが高いんじゃね?という仮説ではないかと理解しました。

    5歳以下の子供に何を教育投資するんだろう…。
    サマリーでは、nutrition(栄養)、access to health care(ヘルスケアへのアクセス)、early learning(早期教育)なんかが挙げられていますね。栄養とかヘルスケアについては、周産期の親への教育と被るところが多そう。
    早期教育については、「集団での勉強」に対してマジに真っ白な状況でいきなり小学校に入学すると結構辛いので、若干でもゲタをはかせて早期ドロップアウトの防止効果を期待しているのかなあ、とも。このあたりは、日本の教育指導要領(幼稚園)に被るところもありそうな予感。

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