国際開発機関のイノベーション・ラボは消えていってしまうのか??(その2)

イノベーション・新技術

ども、Tomonaritです。前回のKanotの投稿「国際開発機関のイノベーション・ラボは消えていってしまうのか??」はとても興味深い内容でした。今後どうなるのか?と考えてみたので、「その2」として書いてみます。

そももそ、イノベーション・ブームの背景ってなんだろ?

と考えて見ると、以下、個人的な見解ですが、「従来の国際開発のやり方では2030年のSDGs達成は到底無理。ODAの資金だけじゃ全然足りないし。どうしよう・・・?」が始まりだと思っています。そして、この疑問への答えとして2つの方針が出来ました。

民間資金をもっと国際開発に流入させよう!科学技術の活用やイノベーションが必要じゃ!という2つ。

この背景を考慮すると、国際開発期間のイノベーション・ラボが消えていく理由が、

「『国際開発✗民間企業(特にスタートアップ)✗イノベーション』的な活動を結構実施したことで、テクノロジー民間企業や投資家が、途上国の社会課題を解決するためのビジネスに注目してくれて、企業としても投資としても今後も投資して行こうというトレンドが十分出来上がった!」

ということなら、当初の目的を達成できたので解散します〜ということで、良いんじゃないかと思います(とはいえ、なんにも裏付けとなるレポートなどを見ないままの想像なので、何かご存じの方がいたらぜひ教えて下さい)。

歴史は繰り返す?

他方、上記の理由ではなく、「テクノロジーの活用は当たり前になったので、あとは各部門でそれぞれ取り組んでもらうのが良いだろう。旗振り役としてのラボは不要」ということだと、過去同様にテクノロジーの活用は根付かずに下火になっていくのだろうと思います。以下、2010年の投稿ですが、国際開発機関でのICT4Dブームの終わりについて書かれているので引用します。

「ICTはツールである」という点に関連したトピックがちょうどHeeks教授のICT4Dブログにあったので紹介してみたい。
“Mainstreaming ICTs in Development: The Case Against”というタイトルで、ICTのメインストリーム化について以下のように書かれている。

一昔前は、開発におけるICT分野に注目が集まり、各援助機関にICTタスクフォース的なユニットが儲けられた。いわゆるICT専門家の集まりである。しかし、ICTがツールとして認識されてきた昨今、各援助機関はICTタスクフォース的ユニットを解散させ始めた(DFIDは2006年にICTユニットを解散し、Swiss SDCも2008年からICT分野から手を引き始め(ICTは各分野に統合された)、IDRCも2009~10年の組織改変でICTユニットを解散してい る)。言い換えれば、ICTが当たり前のツールになり、各セクターでの目標を実現するためのOne of toolsとして認識されたため、敢えてICT専門集団は不要になったということである。これは開発において、ICTがよそ者扱いから、メインストリーム へ昇格されたということ。

「ICTのメインストリーム化により、今後はICTを活用した開発効果の向上がより一層はかられるだろう。」

ということをHeeksは否定している。

ICT が当たり前のツールとなることは、教育や保健など各領域の専門家や援助機関のスタッフや途上国政府の人達がICTをツールとして活用しだすことであるが、 ちょっと待った!彼らはICTに関して専門的な知識・スキル・経験を必ずしも持っているとはいえない。むしろ、持っていない場合が多いのではないだろう か。そして、そういった人達によるICT4Dプロジェクトが失敗に終わる危険性が高いことは、過去の経験から明白である。特にICTに対する過度の期待に 起因する失敗例は多い。結局、過度な期待持たぬ者による支援、ICT導入や運用に関する落とし穴に落ちないための注意点を経験から熟知している者による支 援が不可欠であり、つまり、ICT4D専門家が必要であるのだ。

と、以上のようなことがHeeks教授の主張である

https://ict4d.jp/2010/11/19/ict%E3%81%AF%E3%83%84%E3%83%BC%E3%83%AB/

歴史を繰り替えさないためには?

もしもこれまでイケイケだったイノベーションの旗振り役を担う部門が解体されるなら、どのような解体なら「歴史は繰り返す」シナリオを避けることができるのだろうか?

個人的には以下3つの選択肢があるような気がしています。

その1:情報シス部門に吸収

ユーザーとしては「ChatGPTとかAI技術も使えるようになったなぁ〜」という「当たり前感」を味わうことが出来ても、開発側の仕事をするとなると話は別です。「各部門でアトヨロ〜」と言われても、テクノロジー(ここではデジタル技術を想定して話しています)を活用するのは「とても面倒臭い」です。担当者としてシステム開発を発注するなら技術面の一定の知識、要件定義や見積もりの相場観がないと不安です。さらにサイバーセキュリティーとか個人情報保護とかも考えないといけないし、そもそも一口にICTとかデジタル技術とか言っても分野が広すぎ・・・なので結局、「べつに無理にテクノロジーを使わなくても良いや・・・」となるでしょう。特に、そのテクノロジーが新しくイノベーティブなほど。

そうならないように、サポートしてくれる部隊が必要で、それを情シス部門が担うという案です。国際開発機関の求人情報などから判断するに、情シス部門はICT4D的な業務はしていないと思うのですが、折角、システム開発や運用の知見があるなら、そこがサポート部隊を兼ねるのはアリだろうなぁと思っています。

別の観点から言えば、個人的には「自分たちで使ったことないテクノロジーを途上国で導入しようとすんな」という気もしており、イノベーション・ラボを吸収することで、AIなりブロックチェーンなり、新技術をまずは自分の組織でも導入してみる、ということもある程度できるようになるメリットもあるかと思います。

その2:民間連携部門に吸収

この案は、上記に書いた以下の状態をゴールとするなら、民間企業との連携を担う部門がイノベーション・ラボを吸収するのが良いだろうというものです。

「『国際開発✗民間企業(特にスタートアップ)✗イノベーション』的な活動を結構実施したことで、テクノロジー民間企業や投資家が、途上国の社会課題を解決するためのビジネスに注目してくれて、企業としても投資としても今後も投資して行こうというトレンドが十分出来上がった!」

イノベーションの担い手は開発援助機関ではなく民間企業である、という考え方に寄せると、これはこれでアリかと思います。

その3:研究部門に吸収

最後は、これまで「イケイケ」だったイノベーションの旗振り役を、もっと地味でこじんまりした研究ユニット的にして研究部門の1つにする案です。各種のラボの設立目的は、テクノロジーを持った民間企業をもっと国際開発分野に引き込むことだけではなく、純粋に新技術がどう国際開発に活用できるのか?を考えること、も含まれていたと思います。この案は、その後者の機能を重視して持続させるのが目的。

以前の投稿「ICT4D研究の終焉」で書いたように、新しいテクノロジーの活用はこれまでにない影響を生むので(例:データサイエンスはマイノリティ支援には有効じゃない?←マジョリティに対してマイノリティに関するデータは少ないため、政策を打つ根拠データが作りにくく、データサイエンスを活用すればするほどマイノリティに不利な政策になりかねない、など)、その課題を把握するとか、対処方法を考えるとか、そういう研究の必要性はこれまで以上に高まるのだと思います。

研究としてのICT4D分野が構築された前提は時間の経過とともに変化しているが、ICT4D学術研究が終焉に向かっているわけではない。「正義としての開発」、「多理論的アプローチの可能性」、そして「ICTに対する土着的理解への回帰」という側面から、ICT4D研究は現在の状況に合致し、特にデータ化された世界を研究するために出現した新しい分野への貢献・連携が期待できる。

https://ict4d.jp/2022/08/07/ict4d-academic-research/

テクノロジーが浸透して一般化されたからと言ってICT4D研究が不要になるわけではなく、技術や背景が変わったら変わったなりに、新しい課題は出てくるので引き続きICT4D研究の必要性・価値はあるので、イノベーションの旗振り役を研究機関に吸収するのも悪くないのでは?(でも、人材のタイプが異なる可能性が高くて、あまり現実的じゃないかもなぁ・・・とも思ったり)

まとめ

以上、過去の投稿も引き合いに出しながら、ここ最近のイノベーション・ブームがどういう方向へ行くのか?(行ってほしいか?)について考えてみました。そもそもの今のトレンドの目的が何だったのか?それは達成出来たのか?って議論がこれから出てくるのかと期待しています。

個人的には、国際開発のトレンドは昔から移り変わるものなので、イノベーション・ブームが去ることには違和感は無いのですが、去ったあとも残るものがあって欲しいと思いつつ3つの案を考えて見ました。参加型開発とかマイクロファイナンスとかも一時期ブームになり、ブームが去ってからも「適材適所」で使われているように、イノベーション・ブームもある一定の領域で継続的に使われていく何かを残すのだと思います。

(余談:「イノベーション」って曖昧な言葉を示すのに「電球マーク」を考えた人、センスあるなぁ〜)

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コメント

  1. 時田浩司 より:

    個人的にはインターネットやウェブの技術に支えられると、今までユニットエコノミクスが成立させれなかった人々にもサービスが届けれるようになるというシンプルなところに大きな可能性があるように感じたものですが

    実際には多くのスタートアップなどが国際機関やVCから資金調達して、派手なお金の使い方してきた結果ユニットエコノミクス成立させれず。ブームが去るのとともに投資が冷え込み存続すら怪しい、という類の話を最近良く耳にするようになり悲しいばかりです

    ただ骨太にやってきたところは生き残るし、新たにこれからも生まれてくるであろうし、ブームが去ることにあまり悲観的になることもないのかな、とも思います

  2. tomonarit より:

    時田さん
    コメントありがとうございます!
    やっぱ、愚直にやってきた時田さんの言葉は重みがありますね。
    ブームはブームで、それとは別路線で愚直にやってきたところは淡々とやって行くって事なんでしょうね。
    自分もブレずにいきたいです!

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