ICT4Dに近道なし

ICTWorksブログで、“Technology for Development: No Shortcuts”というタイトルで行われたTED×IITのプレゼンテーションが紹介されていた。OLPCプロジェクトなどに関わってきたDr. Laura Hosman氏によるこのプレゼンは、タイトルの通り、「テクノロジーの導入が国の開発に単純に直結するわけじゃないですよ」ということをわかりやすく説明している。

「ICT=Development」ではなく、ICTを有効活用するためには、当該地域の背景にあわせて、その他多くの関連する点についても手を打つ必要がある。例えば、このプレゼンで例に使われているOLPCプロジェクトで考えると、電力などのインフラ、技術者のスキルアップ(メンテナンスのため)、使う教師の訓練(操作そのもの+PCを使った教育方法)、現地コミュニティの協力(父兄の理解と協力)etc.

しかしながら、Dr. Laura Hosman氏が途上国各国の大使を集めての場で、OLPCの成功事例(ノートPC導入だけでなく、その他諸々の手を打って成功した話)を話したら、大使達からは、「OLPCの価格はいくら?」といったOLPCに関する質問ばかりが寄せられたという。つまり、「ICT=Development」と受け取られてるということ。

ICT導入に重きを置くのではなく、その他の面(Development全体)にもっと重きを置かない限りICT4Dプロジェクトはうまくいかないというのは、このブログでも何度も触れており、ICT4D分野では王道の話だけれど、なかなかこれが難しい。Dr. Laura Hosman氏のプレゼンでは、アインシュタインは、「物理学より政治学のほうが難しい」という言葉を残しているとか、「Technologyの定義はシンプルだが、Developmentの定義はTechnologyの定義より遥に難しい」といったユニークな例を用いても説明している。

このプレゼンの最後に非常に共感できた点があった。プレゼン後半で、OLPCプロジェクトのおかげで、子供が学校を休まなくなったとか(コンピュータを使えることが嬉しいから)、父兄含めコミュニティ全体が教育に関心を持ち始めたとか、ポジティブな結果が出ている地域住民が、「このOLPCプロジェクトを止めないで下さい」といったメッセージがあったという話が出てくる。そこで、Dr. Laura Hosman氏は、それまのICT4Dプロジェクトは「ICT=Development」という勘違いが原因でうまくいかないといった話から、「もっとうまくやっていこう」と訴える。地域住民と一緒になってやっていくこと、もっと多くの人々を巻き込むことで、成功を導くことが出来ると主張する。

「上手くいかないからやらない方が良い」ということではなく、「もっとうまくやっていこう」という点、とても共感出来た。自分もエチオピアの田舎の学校で、援助で導入されたPCが使われていない様子や遠隔教育導入後の混乱を目の当たりにして、ICT分野のこういう援助はやらない方が良いのでは?と感じたことも多かった。だけど、それでも、「やり方の問題。もっと上手く出来るはず。」という思いから、ICT4Dを専門にして国際協力に携わっていこうと決めたので、この最後のDr. Laura Hosman氏の訴えは、本当に共感出来た。とはいえ、「もっと上手くやっていく」ためには、解決しなければいけない課題は山積み・・・? 頑張らねば。

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教育・人間開発
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コメント

  1. Ozaki Yuji より:

    実現可能性は予算に強く依存するので、まず予算でフィルタをかけようとするのは自然な行動かと。さらに、やることなすこと全てに物納(エビデンス)を義務づける組織(特にお役所)なら、購買・調達部署の圧力が強いでしょう。
    援助・協力を要請する方も、要請される側のフトコロ具合には敏感ですよ。

    ここから、ワークフローも前提条件も全部すっ飛ばした「ざっとおいくら万円?」という質問があっちこっちで飛び交います。商品価格と人月ベースの人件費しか積算根拠にできないため、難易度や前提条件・スケジューリングが考慮されていない「予算に敏感だが、時間に鈍感な見積もり」が一人歩きを始めます。結果的に、むちゃくちゃなスケジュールの一丁上がり、ということで。

    この話をすすめていくと、社内SEと外部システムインテグレータの業務分掌・責任分解点の話に及んで来るでしょう。

    開発援助・協力において、発展途上国の「C/Pの社内SE」の役割を演じるのは誰なんだ?ということです。そんな人のキャパシティビルディングをゼロからやるほど、のんびりしたプロジェクトは存在しませんよね。
    外部コンサルは予算を立てて契約を経ないと使えません。予算を立てる前に使える知的リソースがあったらいいですよね。ただし、そのようなリソースは、責任を丸投げする先として扱うことができないことをお忘れなく。

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