ICTworksブログに面白い記事があったのでご紹介。“A Great Success: World Bank has a 70% failure rate with ICT4D projects to increase universal access”というタイトルで、世界銀行が公表したICT4D分野支援の評価レポートについて書かれている。
世銀のICT4D分野支援は以下の4分野。
- ICT sector reform
- access to information infrastructure
- ICT skills development
- ICT applications
2003年から2010年に世界銀行がこの分野で支援したのは約42億USD。アフリカの電話通信分における最大のマルチ援助機関である(とはいえ、42億USDは、同期間の民間投資総額約4000億USDと比べると1%ちょっとに過ぎないが)。世銀の好評した評価によると、ICTセクターリフォームが一番成果を出しているものの上記4分野全体としてのプロジェクト成功率は60%とのこと。特に、貧困層の情報へのアクセス向上といった分野においての成功率は30%程度との評価結果である。
ICT4Dプロジェクトの成功率の低さは、よく課題として取りあげられてる。例えば、マンチェスター大学のHeeks教授の調査では、途上国のe-Governmentプロジェクトの成功率は以下のような数値である。
- 35% are total failures
- 50% are partial failures
- 15% are successes
これまで、文献などを読む中で自分もICT4Dプロジェクトの成功率は「低い」と考えるようになっていた。しかしながら、ICTworksブログが今回指摘している点は新しい視点だった。それは、貧困層の情報へのアクセス向上を目指すプロジェクトの30%という世銀の成功率は「それなりに大したもんだ」という見方である。ICT分野において様々な面(インフラや制度など)で環境が整っていない途上国でのプロジェクト成功率が30%だとしても、それは本当に低いのだろうか?様々な面において環境が整っているシリコンバレーのベンチャー起業の成功率は20%だという。それに比べたら十分な成功率とも言えるのではないか?低い成功率だからこの分野の援助は縮小すべきだといった考えに陥るのはちょっと待った!という訳だ。
成功率100%を目指すべきであるのは当然だけれども、盲目的に成功率の低さを批判・悲観するのも不適切だと考えさせられた。しかしながら、個人資金で実施している起業と同じレベルで公金を使っている援助プロジェクトを論じることは出来ないという点は忘れてはならないだろう。失敗したら財産を失う起業家であれば、成功率が低くとも自己責任であり誰にも迷惑をかけないが(実際は迷惑がかかるが・・・)、公金を使っているプロジェクトは失敗しても誰も財産を失うリスクを背負ってないという点で、逆に民間事業よりも高い成功率が求められるからだ(とはいえ、民間事業の方が上手くいくというのが現実ですが・・・)。とはいえ、シリコンバレーとの比較は面白い視点だ。
また、こういう数字をきちんと公表した世銀の姿勢は評価に値するだろう。同じくICTworksブログに“How Do We Break Oscar Night Syndrome in ICT4D M&E?”というタイトルでICT4Dプロジェクトの評価をちゃんと実施して、失敗についても情報公開・共有できる雰囲気を作るべきといった内容が書かれているが、まさにそのとおりだと思う。
コメント
世銀というと、(旧JBIC系のような借款のイメージが強く)、実際にプロジェクトを計画・実施する、というよりむしろ、各国、各機関へのプロジェクトに対し、お金を支援しているというイメージがあったのですが、最近組織の実施体制は変化しているのですかね?
確かtomonaritさんがおっしゃっている1.sector reform (ITU-Dのような)、通信インフラ整備にお金を使うのだと、成功率が高くなると思います。
逆に、貧困層へのICT skill獲得のためなどすると成果が見出しにくく、この分野だと確率が低くなるのかなあ、と思いました。
ICT分野7年間で42億USD (3000億円)、年間平均6000万ドル(428億円。)
一方、外務省のODA分野別実績内訳を見ると日本のICT分野支援は、年間平均850万ドル。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/bunya/ict/statistic.html
こう考えると日本は各国の中でICT分野に力を入れていると考えるべきなのでしょうかね。
コメントどうもありがとうございます!
細かい点ですが、多分、0がひとつ足りないかな?と思います。世銀は年平均6億USDで、日本は平均8400万ドルってことじゃないでしょうか。
いずれにしてもご紹介頂いた外務省のWebサイトでみると、日本は各国のなかでICT分野に力を入れていると読めますね。面白いデータをありがとうございます。
一方、印象としてはカナダ(IDRCとかCIDA)の方がICT4D分野でリードしているように思ってましたが、これは宣伝力の違いということがわかりました。
また、純粋なICT案件じゃなく、ツールとしてICTを活用している案件もカウントしたら、ICT分野に支援額は相当になるのではとも思えますね。
すいません、数字間違ってました。
最近ぼけてきました。
途上国に行くと、日本の援助機関より、IDRC, CIDA等のname valueが重く、現地の反応が違うなあ、と感じていることはあります。
あと(人種差別ではありませんが)白人の人のいうことの方が効果ありみたいなことも感じます。
(内容にもよると思いますが….)金額でいうと日本の方が多いのですから、うまくPRするのも重要課題ですね。
シリコンバレーに限らず、「個人資金で実施している起業」で成功するには、適切なアドバイザやパートナーから、タイムリーに知恵をお借りすることも重要です。起業に対する出資者がいる場合、出資者からそのようなリソースをご紹介して頂けることも多いです。
しかし、ここにリスクを負ってないゲートキーパー的なステークホルダー(誰のことかわかりますよね)が絡み、冗長な調達・購買プロセスが介在してくると、激しく大変です。
「知恵をタイムリーかつスポット的にお借りすること」と「契約に基づいて成果物を求める物納主義」は時間軸上で噛み合いません。小スケールの起業レベルでは、ご大層な審議会や有識者会議を立ち上げるわけにもいきませんしね。
リスクに対してのスタンスは、民間企業では「4:6くらいで危ないかなー」で躊躇するような状況に対して、公的なプロジェクトで切り込んでいく、という考え方もあるでしょう。民主国家でないならば、公的セクターが独断でやっちまうのもアリでしょうね。(独裁国家なら、プロジェクト失敗に伴う説明責任を考慮せずに突っ走ることもできてしまうのですが…)
しかし、公共系事業では、ある事業を、丸ごと失敗か成功かで振り分けてしまい、個々のプロセスや要素を分析する傾向が薄いように感じています。意思決定の過程が闇の中にあるためかもしれません(熟慮の決断により生じた結果は、たとえ失敗でも責められるべきではない)。
なお、銀行屋さんは、事業におけるリスクアセスメントや、リスクに対するファイナンスのノウハウ(リスクの数値化と評価指標、担保の取り方)を持っていそうなので、期待しているんですけどね。
追記:
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110823/222216/?P=3
県庁の人にそう答えると、『補助金を出しているんだから失敗は困る!知事に恥をかかせたくない。このままで本当に大丈夫なのか』と逆ギレされました」はごもっとも。成功が1か0かで判定される世界には、成功の割合なんて存在しないようですね。
確かに、成功を0か1かで判断する慣習に問題がある気がします。もう少し多角的な視点から、「ここはよかったけど、ここは悪かった」と判断したり、失敗は失敗として認めるも、それがイコール悪すとするヒステリック感覚はどうにか変えたいものですね。
[…] 自分も例えば、「エチオピア国におけるICTの利活用可能性について」とか「アフリカにおける・・・」なんて調査があればやってみたいけど、どんだけの人から協力を貰わないと出来ないか想像すると何とも言えない。ICTの活用可能性は無限大だからこそ面白い分野だけど、手軽に簡単に考えて飛びつくと痛い目に会いそうと改めて思いました。(だからこそ、ICT4Dプロジェクトの成功率は低いのだろう) […]